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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
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高校生活の始まり

八篠康太はただの中学生だった。過去形であることはもう知ってのとおりであるが、この過去形には今は二つの意味がある。


何故なら彼は今日この日から高校生になるからである。


四月、桜が舞い散る出会いと別れの季節のこの日、康太は無事合格した高校へと入学することになる。


康太が通うことができる範囲の高校の中では比較的レベルの高い学校である。名前は公立三鳥高校。今日から康太はこの高校の生徒になる。だからこそただの中学生ではなくなるのだ。


そしてもう一つの理由、これは彼の今の肩書に起因している。彼はすでに普通の中学生から、普通ではない高校生へとクラスチェンジしている。何故普通ではないかというと答えは実に単純。八篠康太は魔術師だからである。


魔術を行使する存在。日常とはかけ離れた非日常に生きる超常を操る者。


今までの人生を普通に生きていた者であれば一笑に付すような妄言だと思われるかもしれないが、彼は事実魔術を修得し、それを行使できるようになっていた。なってしまった。


彼が魔術師となったきっかけは中学三年の二月頭。そして高校に入学する今の今までずっと魔術師としての訓練を重ねていた。


魔術師になってまだ二カ月しか経過していないという半人前にも劣るような実力ではあるが一応魔術師として認められている。


そして彼は今日、普通の高校に普通ではない生徒として入学することになる。


とりあえずクラスはどこになるのか確認するべく校門をくぐって近くの掲示板を確認しに向かう。


この三鳥高校は康太の家から駅を五つほど移動したところにある。通勤時間の電車に乗らなければいけないがそれを除けば比較的通いやすい立地にあると言えるだろう。


敷地面積は平均的。校舎に体育館にグラウンド、そのほか運動場等々。おおよそ高校に必要である施設はそろっており、部活動もそれなり以上に盛んにおこなわれている。


康太の出身中学からも何人かこの高校に入学してきている。何人だったかまでは覚えていないが、少なくとも自分一人ではなかったのは確実だ。


張り出されているクラス分けを確認すると、どうやら康太は一年三組になるようだ。


まずはこれから一年、少しでも早く学校になじむことが必要だろう。


部活動などもやってみたいななどと高校生らしいことを考えながら康太はとりあえず自分の教室へと向かっていた。


教室に入るとすでにクラスメートになる生徒たちが何人か席に座っていた。


新しいクラスメートという事もあってまだどのように話を切り出そうか悩んでいる者もいればもとより知り合いだったような人間同士で話している者もいる。


この初々しさというかどのように対処したらいいかわからないという緊張感にも似た独特の空気、なんというかこういう場に来ると自分がただの学生なのだなと実感できる。


「あ、八篠じゃん。うっす」


「あれ青山、お前ここだったのか」


康太の視線の先にはすでにこの教室にいた一人の男子生徒がいる。彼は康太と同じ塾に通っていた男子生徒だ。


塾でも何度か話したことがある、比較的頭はよいはずなのだがなんとなく抜けている性格で、軽薄に見えるが憎めない存在というやつである。


「さすがに知り合いゼロだと寂しいのな、お前がいて助かったぜ」


「それはこっちもだな・・・さすがになんていうかどう反応したらいいかって感じだ」


全く知り合いがいない状況よりは知り合いが一人でもいたほうが楽になる。こういう状況ではより一層そのように感じてしまうのだ。


後は少しずつ慣れていくしかないだろう。今後どのように生活していくかは康太にかかっているのだ。新しく友人を作ることも必須である。


「部活とかどうするよ?とりあえず運動系か?」


「んー・・・一応陸上とか格闘系とか考えてるけど・・・どっちかといえば陸上かな。その方が性に合ってるし。」


「部活見学とかもできんだろ?適当に回ってみるか?」


「そうだな、どんなことやってるのかも気になるし。」


部活動などは新しい出会いを求める上では一番手っ取り早い方法と言えるだろう。


同じ組織に入った同級生に先輩たちというつながりが一気にできるのだ、新しい生活環境に慣れるためには部活に入っておいて損はない。


それに康太自身何か部活動をしたいという気持ちはあるのだ。


それほど何かに打ち込みたいというわけでも、運動そのもので何かを目指しているというわけでもないが、最低限の運動と人間関係を作るという意味でも部活は捨てがたい。


「ところで青山は中学の時は何やってたんだ?」


「俺か?俺は卓球。お前は?」


「俺はテニスの後陸上だったな。どうにも球技は苦手で・・・」


「途中で変えたのかよ。どんだけセンスなかったんだ。」


康太はそこまで運動神経が悪いというわけではないが、どうにも球技との相性は良くなかった。テニスで言えばボールをラケットで打ち返すことはできるのだが、コートに入らずホームランしてしまうのだ。


フォームを改善しても結果は同じ、距離感などはうまくつかめるのだがどうにもそのあたりが上手くいかないのである。


そんな雑談をしながら康太は自らの魔術の師匠の言葉を思い出していた。


席に座った状態で周囲を見渡して自分以外の生徒たちに目を向ける。


今はまだ普通の学生にしか見えない。新しい生活環境を前に戸惑っている者もいれば堂々としている者もいる。


ここはやはり人それぞれというところか。この中で康太が特別かと言われればそう言うわけでもない。康太もまた新しい生活環境に戸惑いを覚えている人間の一人である。


だが彼の師匠である藤堂小百合はこういった。


『お前の入学する学校に、お前以外にもう一人魔術師が入学する。』と









「俺以外にも魔術師が?」


時間は少し遡る。康太が高校に入学する数日前の事である。


高校に入学するという事もあって、魔術師としてどのように振る舞うべきか、そしてどのような行動を心掛けるべきかの指導を受けている時だ。


自分以外にも三鳥高校に入学する魔術師がいるということを知ったのである。


「そうだ、確認したところお前の学校には現在数人の魔術師がいる事がわかっている。まぁお前と同じ学年、つまりお前と同級生になる魔術師は一人だけだ」


「同級生にも魔術師がいるんですか・・・それってどうするべきなんでしょうか?やっぱ仲よくしたほうがよかったり・・・?」


「逆だ、叩き潰せ」


あまりにも物騒な思考回路に康太はこの人は相変わらずだなと眉をひそめてしまう。この場には兄弟子である真理はいない。自分しか師匠に反論できる人間がいないという事がこれほど心細いとは思わなかったと康太はため息をついてしまった。


こういう考え方しかできないから妙に敵が多いんじゃないかと考える中、わざわざ彼女が叩き潰せというからには何か意味があるのだろう。


「むやみやたらと喧嘩を売る趣味は無いんですけど・・・何か戦う意味はあるんですか?」


「もちろんあるぞ。魔術師はたいてい同年代同士での序列を気にするからな。たぶんだがお前が魔術師だということを知ればいの一番に戦いを挑んでくるはずだ」


「もしかして魔術師って喧嘩っ早いんですか?」


全員が全員そう言うわけではないがなと小百合は付け足すが、なんとなく言いたいことはわかった。


恐らく同学年で魔術師がいるという事は三年間その人物とはいろいろと関わることになるだろう。その時のために互いの関係を今のうちにはっきりさせておいた方がいいという考えなのだ。


同学年に上下などは存在しない。だからこそあったその日に上下を決めてしまえという事なのである。


もし意見が対立した時などにある程度優劣を決めておいた方が話もこじれずに済む。


だからと言って叩き潰せというのも妙な話だが、戦って優劣をつけるのが一番手っ取り早いという事だろう。


もちろん魔術師という存在が全員そう言うわけではないというのにも意味がある。例えば戦闘向きではなかったりすれば戦いは避けられる。


そうなった場合はまた別の形になるのだろうが、恐らくそんな魔術師でも構わずに小百合は叩き潰せというだろう。


こういう破天荒な性格だから敵が多いのだなと確信しながら康太は再度ため息をつく。

「それに何よりお前は私の弟子だ。良くも悪くも注目されている。そう言う意味では丁度いい機会かもしれんぞ」


「良くも悪くもっていうか悪い意味しかないと思いますけど」


小百合は敵が多い。性格的にもその行動的にもほぼ全自動で敵を生産していると言っても過言ではないほどに次々と敵視しているものが現れる始末だ。その小百合の弟子ともなれば康太も当然注目されている。


小百合の腕が一流であり、何より手を出せばどうなるかわかっているからこそ小百合には攻撃の手が届かないし、その庇護下にある康太にも今のところ被害はない。


注目されているが故に魔術師として行動するときにはその一挙一動を見られていると思っていいだろう。


「で、その魔術師はどうやって見分ければいいんですか?なんか印とかがあったり?」


「そんなものあるわけがないだろう。魔術は隠匿すると言ったはずだ。わかりやすい印などあってたまるか」


「じゃあどうやって見つけろと・・・一人ずつ聞いてけとでもいうんですか?」


あなたは魔術師ですかなどとバカ正直に入学初日に聞いて回るような人間がいたらそんな奴はまず間違いなく異常者扱いされるだろう。


あるいは高校入学に至っても中二病から抜けられなかった可哀想なやつという印象を植え付けるに違いない。


高校に入るというのにそんな黒歴史を作るのはまっぴらごめんだった。


「お前の場合、魔術師になって日が浅いからまだ無理だろうが・・・魔術師として練度が高まっていくと徐々にその五感も魔術師のものに切り替わっていくものだ」


「・・・ひょっとしてなんか妙な気の流れとかそう言うのが見えるようになったりするんですか?」


「微妙に違うが・・・まぁ似たようなものだ。魔力の強弱や奔流を感じられたり、魔導書に書かれていることを理解できたりと恩恵は多い。」


「それでどうやって見つけろと?俺はまだできません・・・ってまさか・・・」


魔力の強弱や奔流を感じられるという言葉から康太は嫌な予感がしていた。


いやまず間違いなくそれ以外の方法がない。自分から見つけることができないのだ、相手を確認するためには確実な手が一つある。


「自分から魔力全開で垂れ流して囮になってわざと見つかれってことですか?」


「その通りだ。相手も自分以外にもう一人の魔術師が入学してくるとわかっているんだ。わかりやすい餌を振りまいて教えてやれ」


分かりやすい餌。そんなことを言われても正直いい予感はしない。


そもそも魔術師として戦ったことすらないのだ。


この一ヶ月徹底的に小百合に魔術を仕込まれてきた。その戦い方もある程度教わり、二つの魔術を完全にものにした。


だがだからと言っていきなり実戦などできるはずもない。


「あの・・・まさかいきなり戦いになったりとかは・・・?」


「それは安心しろ。相手も恐らくお前の行動の意味を理解して別の場所におびき寄せようとするはずだ。時間と場所を変え、万が一にもばれない状況にしてからが本当の魔術師の戦いになる」


「あの・・・断ったりとかは・・・?」


「できると思っているのか?もし叩き潰せなければ私がお前を叩き潰すだけだ」


まぁ頑張ることだなと付け足され、康太は冷や汗が止まらない。もし師匠である小百合の思い通りにならなかった場合、自分はどうなるのか。


そこまで考えてかなり不安になったのである。だがやるしかない。やらなければ自分が潰される。確実に。









康太は入学式で一年生全員が体育館に集まる時を見計らって自らの体内にある魔力を放出していた。


はっきり言ってやりたい手段ではなかったが、もう一人の魔術師を見つけるにはこれが一番手っ取り早い方法だというのは十分理解している。


だがだからと言って自分自身を囮にするような真似をするというのはかなり神経をすり減らす行為だった。


もし同学年の魔術師が人目もはばからずに攻撃して来たらどうしようかと気が気ではなかったのである。


なにせ相手はこちらを知覚できるかもしれないが、こちらは相手を認識できないのだ。いつ襲われるかもわからないこの状況、何で入学早々にこんな恐ろしい状況にならなければいけないのかと康太は若干冷や汗が止まらなかった。


入学式という事もあっていろいろと長話が続く中、康太は自分の魔力を放出し続けていた。


もちろんそれと同時に補給もするのだが、生憎自分の特性上補給にかなり時間がかかってしまう。ゆっくりと少しずつ放出し、それと同時に全力で補給する。


何回も繰り返した魔力の放出と補給を今こうして行うことになるとはと、康太はため息をついてしまっていた。


もし誰かに見られているのなら、小百合ならば視線から何かを感じ取ったかもしれないが、生憎康太はまだ魔術師になってから半年も経過していない半人前以下のほぼ一般人のようなものだ。


視線がどこから向けられているとか殺気を感じるとかそう言う芸当は全くと言っていいほどできない。


もしかしたら今自分は睨まれているのかもしれないなと思いながら、康太は冷や汗を流しながら入学式を何とか乗り越える。


むしろ問題はここからだろう。


教室に戻ってからそれぞれの担任教師の挨拶と同時に、それぞれが最初の挨拶というか自己紹介をしていく。


よくある光景だ。自分は出席番号がかなり後ろの方であることから、彼らが自己紹介をする中で自分の自己紹介の内容を考えなければならないだろう。


魔術師の事もそうだが、自分が少しでも早く高校生活に慣れなければいけないのだ。むしろ自分のことを考えるのであればそっちの方が重要だ。


小百合に叩き潰されるのはごめんだが、社会的に居場所がなくなるのもまっぴらごめんである。


「えー・・・と初めまして。水見中学から来ました八篠康太です。趣味はゲームで中学の時は陸上やってました。よろしくお願いします」


可能な限り当たり障りのない自己紹介をしてから体の中に残っている魔力を一気に放出する。


今のでこのクラスに魔術師がいたのなら何かしらのアクションを起こすだろう。急にこっちを向くとか驚いた顔をしているとか。


だが軽くクラス全体を見渡してみてもそう言った反応をしている者はいない。ひとまずこのクラスには魔術師はいないのだろうかと安心してしまう。


もし同じクラスに魔術師がいたらそれこそ毎日が面倒事と厄介ごとのオンパレードだ。そう言う意味ではこの場に魔術師がいなかったのは幸運と言えるだろう。

まだ確定していないから何とも言えないが。


とりあえず空っぽになった魔力をまた補給しなければならない。他のクラスメートたちの自己紹介を聞きながらも康太は延々と魔力の補給に勤しんでいた。


こういう時に時間がかかると厄介だなと思いながら欠伸をしていると、丁度自己紹介が全員終わったらしい。


「よしそれじゃあ一年間よろしくお願いしますっと・・・この後は自由にしてくれていいぞ。部活見学なり帰るなり自由だ。明日からもしっかり登校するように」


紹介が遅れたが、自分たちの担任教師になる芦野という男子教員が全員に声をかけた後でその場は解散になる。


歳は四十くらいだろうか、白髪混じりの髪にくたびれたスーツ。それなりに歳と経験を重ねた教師であるのはわかるのだが妙ないい加減さがある。


やることはやっているのだからあれでいいのだろう。


「八篠、この後どうする?」


「そうだな・・・とりあえず校舎うろついて部活見に行くか。」


青山に誘われて康太はとりあえず帰り支度をした後にカバンを持って教室から出ていく。


この後は学校の中を見て部活見学に行くくらいだろうか。


高校生活初日という事もあってやることもできることも少ない。


できることと言えば校舎の構造を確認しておくことくらいだろうか。


万が一の際にも対応できるようにしておいた方がいい。少なくともこの高校には三年近く通うことになるのだ。どこに何があるのかを頭に入れておいて損はないはずである。


「とりあえずどこ見に行く?グラウンドか?」


「そうだな、後は学食と図書室と・・・屋上もあれば見たいな。」


「よし、んじゃ行くか。」


もしかしたらこの高校が戦いの場になるかもしれないのだ。ある程度頭に入れておかなければ話にならない。


三年間この高校が何の喧騒にも巻き込まれないことを心より願うが、そんな願いがどこまで通じるかわかったものではない。


最近になって分かったことだが、自分は妙な運があるらしい。小百合にも言われていたがそれはあまり良い意味での運ではない。


何か悪いものを引き寄せることもある。小百合を筆頭にこれからも面倒が押し寄せるのは言うまでもないことだろう。


誤字報告五件分、評価者人数40人突破で三回分投稿


今回から三話スタート。この辺りから一話の長さが前作と同じくらいになってきたような気がします


これからもお楽しみいただければ幸いです


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