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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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話の顛末

「どうです?金は多少かかるでしょうけど確実にこいつらを追い出せますよ?もしなんならサリーさんの仕事として片づけてもいいでしょう。この物件がどれくらいの価値があるかは知りませんが・・・ねえバズさん、実際この建物はサリーさんの仕事の関係上干渉できる範囲なんですか?」


康太が近づいて幸彦の目をしっかりと見つめると、彼もその意図に気付いたのだろう。小さくうなずいてみせた。


「確かにサリーの仕事ならこの建物に直接そう言ったことを手配することもできるだろうね。もちろんある程度資金は必要だろうけど・・・でもこの建物に入ってるテナントを利用すればそれなりの利益は上げられるんじゃない?」


「ん・・・まぁその気になればな」


「つまりこっちは手段を選べる立場にある。対してそちらは?何かこちらに提供できるものはあるのか?」


康太が魔術師グループたちに視線と言葉を向けると、全員が一体何をという動作をして見せた。わかりやすく言ってしまえば大きく動揺した。


「な、何で俺たちがお前らのためにそんなことをしなきゃいけないんだ・・・」


「立場が分かってないな。この人とお前達が対等な立場だとでも思ってたのか?この人は何時でもお前達を追い出せる。でもお前達はこちらに何かできるわけでもない。勝手にそっちが縄張りに入ってきて今まで殺されなかっただけましってもんだろ?」


「そ・・・それが嫌なら条件を出せよ。交渉のテーブルくらいにはつかせろ!その権利くらいあるだろ!」


「いつまで勘違いしてるんだ?これは交渉じゃない、命令・・・いや脅迫の方がいいかな?お前達に拒否権はない。文句を言う権利もない。仮にあったとしてもそんなものを聞く道理も理由もこちらにはない。そうでしょう?」


「・・・まったくだ、何度も出ていけと言っている。これ以上待つつもりはない」


奏としてはこれ以上ない程の話の流れなのだろう。先程までの殺気を収め康太に視線を向けた後魔術師たちににらみを利かせていた。


「じゃ・・・じゃあ、俺たちが何か・・・提供できるものがあれば、この場所を使ってもいいのか?」


その言葉に康太は薄く笑みを浮かべる。出ていかなくてもいい、奏に利益があり彼女自身がそれを納得できるのであればそれで十分。


奏はやり手だ。相手より立場が上の交渉なら自分よりもずっと上手く交渉できるだろう。


ただ心配なのは目障りだという風に切り捨てないかという点だ。こればかりは彼女の思考次第でどうとでも変わってしまう。


「とのことですが、サリーさん、どうですか?」


「・・・お前達程度が提供できるものなどたかが知れているだろう。そんなものを貰ってもどうしようもない。邪魔なだけだ」


「金銭の類は!?使用料くらいなら」


「生憎と金なら困っていない。今困っているのはお前達がこの場にいる事だけだ」


さすがに取り付く島もない。彼女にとって彼らがこの場にいることそのものが気に入らないらしい。とにかくここから出ていった欲しいようだった。


だが実際魔術師として長い時間を過ごしてきた彼女が、最近魔術師として活動しだしたような若輩者から得られるものなどたかが知れているだろう。そんなものをいちいち欲しがるとも思えない。


そう考えると彼女の判断は至極当然、当たり前の反応だ。


「なら出ていく方向で話をするとして・・・なんかこう他の人の縄張りを使わせてくれるような方法ってないんですか?少なくともサリーさんはそういう気はないみたいですけど」


「なぜそこで他の魔術師から縄張りを奪おうとか思わないんだ?これだけ人数がいて情けない。この辺りの魔術師は何も全員が一流というわけではない。中には縄張りを形だけ維持しているようなものもいるだろう。そう言う輩から場所を奪えばいいだけの話だ。何を迷う必要がある」


随分攻撃的な案だがそう言う手もあるのかと何人かの魔術師は感心しながら頷いている。だがグループのリーダーだけは承服しかねているようだった。


「・・・問題を起こせば協会に睨まれる・・・そのくらいあんただって・・・」


「正式な果し合いにすればいいだけだ。協会の監督の下縄張りを取り合えばいい。もちろんお前達の場合賭けるものは縄張りではなく他の何かになるだろうがな」


要するにただ問題を起こすのではなく魔術師同士の決闘という形にすればいいのだ。互いに賭けるものを持ち寄って勝利すればそれを得ることができる。


今回の場合であれば縄張り、つまりはどこかの拠点と彼らが提供できる何かがあれば戦闘は成立するだろう。


もちろん相手が了承すればの話だが。


だがその言葉を聞いたリーダーはまだ希望はあるのではないかと思えていた。この辺りには奏以外にも多くの魔術師が勢力を作っている。中には奏のように個人で縄張りを作っている者もいるのだ。そういう魔術師を相手にすればまだやりようはあると考えているようだった。


「そのあたりの細かいことは僕に聞いてくれれば答えられるよ。これでも協会の方でいろいろ仕事してるし・・・なんだか放っておけないしね」


「ほ、本当か?お、お願いします!」


「お前達はとっとと出ていけよ?話をするなら協会なり別のところでやれ。私の縄張りにもう一度足を踏み入れた瞬間お前達をひき肉にしてやる。わかったな?」


そろそろ限界だったのか、奏は殺意を放ちながら一睨みすると魔術師たちは何度も頷きながら逃げていった。約一名、グループのリーダーだけは連絡先を幸彦に渡してからその場から退散していく。蜘蛛の子を散らすようだというのはまさにこの事である。


魔術師としてまだまだ駆け出しの彼らは自分たちで拠点と縄張りを見つけなければならない。


幸いにして数はいるのだ、ある程度何とかなると思うが。


そう思いながら康太は奏の方をふと見る。


「意外でした、あいつらに助言するなんて」


「こちらとしても意外だった。まさかここまでうまく話が進むとはな・・・」


奏の言葉に康太はどういう事だろうかと首をかしげていた。


「今回私がお前達を連れてきた理由は何だと思う?」


「え?そりゃあいつらを倒すのが目的なんじゃ・・・」


「それはそうだが、倒すだけなら私でも事足りた。問題はあいつらをこの場所から出ていかせることだったんだぞ?力だけではどうしても限界がある」


「・・・あ・・・ひょっとして倒した後の交渉役として俺たちを?」


「そう言う事だ・・・思いのほかビーがしっかり者で驚いたがな」


奏の言葉に道理で話がとんとん拍子で進むわけだと康太は項垂れていた。


恐らく先程の殺気も、やたらと攻撃的だったのも交渉を上手く進めるための演技のようなものだったのだろう。


相手に交渉の方がまだましだと思わせる、そして自分たちの方が弱者の立場であるとわからせるには強い力を見せつけたほうが早い。


攻撃は交渉の手段。小百合とは恐らく根本から違う考えを持っている。これが奏なのだなと康太は感心し、同時に呆れていた。


「もしあの場で俺が話を進めなかったらどうするつもりだったんですか?」


「それはもう大変なことになっていただろうさ。まぁその前にバズの奴が止めただろうけどな」


「そりゃあね、未来ある若者を殺させるわけにはいかないし、何よりビーたちがいるのに殺傷沙汰にするわけにはいかないでしょ」


恐らく奏の行為がやりすぎになったら幸彦が止めるつもりだったのだろう。その前に康太が出て交渉を始めてしまったために出番こそなかったが、幸彦のおかげで相手がここから出ていく決心をしたのも確かだ。


「それにしても嬉しい誤算というやつだな・・・クララの弟子がここまで優秀だとは思わなかった・・・これからはちょくちょく仕事でも頼もうか迷うくらいだ」


クララというのが小百合の術師名、デブリス・クラリスの愛称であると気づくのに少しだけ時間がかかった。なにせ聞きなれない名前だっただけにどうしても反応が遅れる。


だが遅れた理由はそれだけではない。奏が自分に仕事を頼むなどという状況に驚いたからでもある。可能ならそんなことは避けたいものだと康太は顔をひきつらせて苦笑いしてしまう。


「え・・・?そ・・・それは遠慮してくれるとありがたいかなと・・・それに俺はまだまだ未熟者ですよ?魔術だって数えるほどしか・・・」


「バカ者、魔術なんてものは時間をかければ大抵誰でも覚えられる。修得の早さは個人差があるだろうし使い方も人によりけりだ。私が言っているのはそう言う事じゃない。お前自身の話だ」


「・・・俺自身の?」


「そうだ、普通やれと言われたことでも満足にこなせないようなものもいる中で、お前は状況を読んで自分でそれを実行した。それも私が思っているよりずっといいタイミングと手法だった。誰にでもできる事じゃない。お前はもう少し自分に自信を持て」


魔術師としてではなく、自分に自信を持てと言われたのは康太が今まで生きてきて初めて言われた言葉だった。


そして何より康太はある言葉が強く心の中に残っていた。


そこまで卑屈になった覚えはないし、何より自分が何もできない人間であると思ったこともない。


大抵の事はこなせる。球技に関しては苦手だがそれ以外は大抵困ることはなかった。


一番になる実力があるわけではないが、ある程度はできる。それはつまり康太ができることは大抵の人間は同じようにできるという事でもある。


誰にでもできる事じゃない。


特別な何かとでもいえばいいだろうか。康太にとって今までなかった特別な何か。


魔術だってとくに才能があるわけでもなく、これと言って特徴もなく、あるとすれば若干不運なくらいだったのに奏は康太にこの言葉を送った。


小百合に褒められるのと同じくらい、嬉しいと思うと同時に複雑な気分になってしまった。


まさかこの言葉を彼女から受け取るとは思っていなかったのである。


「へぇ・・・サリーにしては凄く高評価だね。ちょっと意外かも」


「思った通りのことを言ったまでだ。どうするか迷って動かなかったお前よりもずっと優秀だぞ。思い切りもいいし機転も利く。クララはいい弟子をとったものだ」


その言葉が自分にだけ向けられているのではないと気づくのに時間はかからなかった。何故なら奏の意識は康太だけではなく外にいる真理にも向けられていたからである。


「そう言う言葉、自分の弟子にも向けてあげたほうがいいんじゃない?あの子たちにすごく厳しくしてたでしょ?」


「何を言うか、私は褒めてのばすタイプだぞ?簡単には褒めてやらないだけの事だ」


「そう言うのがダメなんだって。たまには手放しに褒めてあげないと・・・何で他の人の弟子だと簡単に褒められるのに」


二人の会話を聞いてどうやら小百合と奏はやはり似た者同士という事がよくわかる。自分の弟子の前では恥ずかしいのか何なのか知らないがあまり褒めたがらない。


もう少し弟子たちの前でも正直になってほしいものだと、まだ見ぬ奏の弟子達に若干同情しながら康太はため息をついていた。長い一日がようやく終わる、そう実感すると康太の体を強い疲労感が襲っていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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