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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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魔術師の交渉

康太たちは一度上層階にもいた魔術師たちを一カ所に集めることにした。反撃できないように見張りながら一つの場所に魔術師たちを並べると奏の行動を見ていた魔術師たちは震え、康太たちが倒した魔術師たちはこれからどうなるのだろうかと不安そうに奏の方に視線を向けていた。


中にはまだ気絶したままの者もいる。康太たちが倒した魔術師は基本的に幸彦の蹴りを直接受けたために起きるのに時間がかかっているようだった。


とはいえ奏がその程度で躊躇するはずがなく、さっさと話し合いに持ち込みたいような素振りを見せていた。


気が早いというべきか、それともただ単にこれ以上時間をかけたくないだけか、このグループのリーダーがようやく意識を取り戻すと奏は強引に立たせ自分と幸彦の間に投げ倒す。


「さぁお目覚めのところ悪いが、とっとと私の要求を通させてもらうぞ。何度も通告した通りこの場所から出ていってもらう。異論はないな?」


「い・・・異論ならある!何で俺たちが出ていかなきゃいけないんだ!あんたに迷惑かけてるわけでも、問題を起こしてるわけでもないだろう!むしろあんたの方が問題を起こしてるじゃないか!」


戦いに負けたとはいえ彼の発言は非常に正しいように思える。むしろ正論しか言っていないだろう。


実際彼らは何か問題を起こしたわけでもない。行動に問題があるわけでもないし、実際に問題を起こしたのは奏の方だ。彼らは一方的に攻撃された立場にあるだろう。


普通の人間ならこういった交渉も問題なく行えたはずだ。相手によってはある程度譲歩してくれることも考えられただろう。


「迷惑ならかけたさ。お前達の存在そのものが目障りだ」


「な・・・!」


そう、奏が相手でなければこの言葉ももしかしたら意味を持ったかもしれない。だが彼らの不幸は今回相対しているのが他でもない奏であるという事だ。


究極的な自分勝手と言えばいいだろうか、まさか出ていってほしい理由が目障りだからという一言に集約するとは思っていなかった。


さすがは小百合の兄弟子だと康太は若干笑いかけてしまったが、そんな理由で追い出されようとしている彼らとしては笑いごとではない。


自分達の拠点は壊滅、人員の全てを倒されすでに戦意を保持している者も少ない。この状況をひっくり返すにはせめて口頭で相手を納得させるしかないが、既に奏によって一蹴された。彼らの運命はほぼ決まったようなものである。


「あんたらは何も思わないのかよ!こいつがこんな理不尽なことしてるってのに!」


とうとう本人だけではなく康太たちまで巻き込んで味方を作ろうと必死である。今さら康太たちに何か聞いたところで、そして言ったところで何が変わるわけでもないだろうに。


溺れる者は藁をもつかむとはこの事だろうか。


「こちらがどうこう言ったところでサリーは意見を変えないよ。何より僕らは彼女に協力していた立場だ。君たちがいなくなってくれたほうがはっきり言って助かるんだよね」


「右に同じく。それにこの人を本気で敵に回すよりも他の場所に移動したほうがいろいろと得だと思うぞ?はっきり言って勝負にならないだろうし」


本気で敵に回す。恐らく彼らも先程の攻防が奏にとっての本気であるとは思っていないだろう。


彼女が本気で戦えばどうなるか。それこそ今まで対等に交渉できると思っていた考えを否定したくなるほどのことが起きるというのは想像に難くなかった。


なにせ先の攻防を経験したものにとってはその片鱗を体験しているのだ。余計な挙動を一切起こさず、攻撃に対してほぼ無動作で防御魔術を発動しこちらの一挙一動を観察していた魔術師。まるで自分の方が圧倒的に格上であると見せつけているかのようだった。


だがこのグループのリーダーは幸か不幸か上層階にいたらしく、そのことを理解していないようだった。


「俺たちはここを動く気はないぞ・・・あんたとの交渉の時に何度言ったと思ってるんだ」


「そうか、ならば私も強硬手段に出よう。こちらとしても話は穏便に済ませたかったが最終手段だ。お前達の自由を奪ったうえで叩きだす」


奏は魔力をみなぎらせ明らかに殺意さえ向けて目の前の魔術師たちに眼光を向ける。


仮面の奥からでもわかるほどに鋭く光るその瞳を見て康太はまずいと感じた。このまま奏を行動させると厄介なことになる。小百合と似ていることもあってある程度の行動原理は同じだ。もしこのまま放置したら死人が出かねない。


「サリーさん、一応聞いておきますけど、何するつもりですか?」


「・・・そうだな・・・とりあえず私に逆らった代償として体の一部でも貰うか。可能な限り日常生活に支障がないようにしてやる。指か目か耳かくらいは選ばせてやる」


もはや狂気の沙汰だ。恐らく奏はかなり苛立っている。実力がこうも違う相手にコケにされて冷静さを欠いているのかもしれない。


このまま話を進めるのはまずいなと康太は幸彦に視線を送るが、幸彦はもう止められないだろうなと首を横に振っている。自分が何とかするしかないと康太は意気込んで奏の方に向き直った。


「でもサリーさん、一つ聞きたいんですけど、もしそこまでしてもこの人達が立ち退き拒否したらどうするんですか?」


「どうするも何も、立ち退くまで叩き潰すまでだ。自分の立場が分からんバカにはそれ相応の対応を強いるまで」


「明らかに非効率です。何度叩かれても立ち上がる雑草みたいなタイプだったら意味がないですよ。それこそ根本から片付けないと」


「・・・それはこいつらを殺してしまえという事か?」


奏がそれも悪くないなと視線を向けるが、康太は首を横に振る。殺しなど誰がさせるものかと仮面の奥の瞳をまっすぐに奏に向ける。どうすれば奏を言いくるめられるのか、それを考えながら。


「そもそもあんたたちは何でここから立ち退きたくないんだ?東京の他の場所に拠点を築くのじゃダメなのか?」


問題解決はまず根本から。康太は今回の件に関してほとんど話を聞いていないのだ。奏の主観の入り混じった言葉よりも相手の意見にも耳を傾けるべきだと感じたのである。


「この辺りでこの建物だけがまともに夜の間使えるんだ。他の建物は警備員やらシステムが入ってて使えない。それにここから遠くなると活動がしにくいんだよ」


「あぁなるほどね・・・そう言う事情があったのか・・・」


康太にとってははっきり言って死ぬほどどうでもいい理由だが、確かに魔術師にとっては重要な事柄かもしれない。


魔術師は基本的に一般人にはばれてはいけない。まだ警備員であれば暗示の魔術でいくらでも対応できるが、魔術による改竄の難しい機械的なセキュリティに関してはいろいろと面倒だ。


東京においてそう言ったセキュリティを施していない場所の方が圧倒的に少ないだろう。そう言う意味ではこの建物は彼らにとって希少な存在であると言える。


「活動のしやすさと自分の命。お前達にとっては前者の方が大事という事か。それならそう言え、全員この場で楽にしてやる」


「だから少し待ってください。で?逆にあんたらはどういう条件ならここから出ていくんだ?」


こんな奴に譲歩する必要などと奏は憤っているがそれを幸彦が制止する。どうやら康太の話に乗ってくれるようだった。彼としてもわざわざ死人を出す必要はないと考えているのだろう。


そしてグループのリーダーも康太の方がまだ交渉がしやすいと感じたのか、会話の相手を奏から康太に移したようだった。


「俺らが自由に活動できる場所がこの近くにあれば良い。そうすればこの場所から出ていってやるよ」


「でも勢力図を見せてもらったけど、この辺りの建物とかはほとんど誰かしらの縄張りになってる。だからどうしようもない・・・だからでていけない・・・とそう言う事か」


「そうだよ、だからこの場所にいるんだ・・・他に行くところがなきゃ仕方ないだろ」


「あとから勝手に来ておいてよくそんな言葉が吐けたものだ・・・さすがに我慢にも限界があるぞ・・・」


この物言いにはさすがの康太も若干呆れてしまうがここで奏を暴れさせては元も子もない。何とかして押さえなければならないだろう。


「サリーさん落ち着いてください。力だけで解決するといろいろと面倒ですよ?」


「お前に言われなくても分かっている。だからこそ口頭で解決しようとした。だが結果がこれだ、こいつらはなにも理解していない。なら力づくで何とかするしかないだろう」


「だから落ち着いてください。何のためにこうして話し合いの場を持ってると思ってるんですか?」


「お前こそどういうつもりだ?私は確かにお前に手伝いをしろと言ったが交渉の手伝いをしろとまでは言っていない。それによく私相手にそこまで生意気な口がきけたものだな・・・」


奏の怒りの矛先が康太に向き始めたことで魔術師のグループは若干余裕が持て始めているが、すぐにその考えを撤回することになる。


康太に向けられている殺意がほんのわずかにだが自分達にも向けられているということに気付いたからである。


いつ矛先が変わるかもわからない状況に戦々恐々と言った具合だろうか。


だが康太は引くつもりはなかった。頬には冷や汗が流れ、はっきり言って今すぐにでも土下座して前言を撤回したいところだが伊達に小百合の弟子はやっていない。殺意を向けられるのも理不尽に怒られるのも慣れているのである。


「なら生意気ついでにもう一つだけ言わせてもらいます。さっきも言いましたけどサリーさんのやり方だと非効率です。この人達をここから立ち退きさせるならもっと楽な方法だってあるでしょう」


「ほう?どんな方法だ?」


「単純です、この建物をこの人達の都合の悪いように変えればいい」


建物を変えるという言葉に奏は一瞬何を言っているのかわからなかったのか不思議そうに首を傾げた。そしてそれは魔術師グループも同様だった。


「サリーさんのコネでこの建物にセキュリティやら警備員を導入すれば荒事は必要なく、建物自体も防衛しやすくなりますよ。どうですか?」


「・・・お前・・・それをするのに一体どれくらい金がかかると思ってる?」


「さぁ?でも人が死ぬよりずっといい方法です。金ならここにいる連中からむしり取るなりなんなりすればいい。サリーさん、貴女は強者の立場にあるんですからもう少し追い詰め方をわかりやすくした方が効果的ですよ。じわじわと締め上げていったほうが相手も納得しやすいです」


そうですよねと康太が視線を向けると魔術師たちは唖然とした様子で、それ以上何も言えないという様子だった。


康太の方がまだましな交渉相手かと思っていたが実際はそうではない。むしろ康太の方がたちが悪いのではないかと思えてしまう。


魔術師たちがここを選んでいるのはこの場所が魔術師の活動において利便性があるからだ。ならばそれを失くしてしまえばいいだけの話である。


彼らにとっては首をじわじわと絞められていくような感覚だろう。ゆっくりとだが確実に追い詰められているのがわかる。そう実感できるほどに。


先程まで交渉しやすい相手として康太を見ていたグループのリーダーはその評価を改めていた。こういう人物を交渉相手にしてはいけないのだ。


自分と相手の立場をよく理解したうえで交渉を上手く進めようとする。そうでもしないと康太はこの状況を切り抜けられないと感じたのだ。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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