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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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圧倒的戦力差

「来たね・・・連絡だ。行くよビー!」


「了解です!」


攻撃開始の合図と同時に康太と幸彦は移動を開始していた。


奏が攻撃を始めたというのであれば自分たちも援護しなければ。康太はそう言うつもりでいたのだが幸彦は少し違った。


早くいかないと奏だけですべて解決しかねない。


今回の相手の魔術師が一体どれだけの実力を持っているのかは幸彦も詳しく知らないが、大抵の魔術師は奏にとって相手にすらならないほどの実力差があるのだ。


ましてや奏のことを知らない、あるいは奏の実力を知らないほど情報に疎い魔術師だ。となるとその実力差はもはや戦いとすらいえないものになる可能性がある。


もちろん奏だってそんな連中に本気を出すとは思えないし、何より周囲の目があることを考えると最低限の手加減くらいはするだろう。


問題は奏の攻撃に対し、相手の魔術師がどれだけ対応できるかにかかっている。


幸彦が目標の建物を視認すると、すでに建物の中ではわずかに発光現象が起きていた。奏が周囲に見えるような魔術の発動をするはずがない。つまりはあれはあの場にいる魔術師たちが発動している魔術だ。


すでに戦闘は始まっている。


幸彦は僅かに眉をひそめると後ろからついてきている康太の方を見る。


移動速度に関しては及第点。戦闘能力に関してはまだ完全に見れてはいないが、殲滅しかけているこの状況ならいい試金石になるだろう。


「ビー、すでに戦闘は始まっている。窓から突っ込むよ!ついてきて!」


「了解です!あとに続きます!」


康太がしっかりついてきているのを確認してから幸彦は目標のビルの最上階の窓に突貫する。


ただの窓ではない可能性も考慮して魔術を発動し窓ガラスを枠ごと外して建物内へと突入する。


そしてその体がビルの中に入り、屋内の様子を確認すると同時に幸彦は走り出した。


康太がビル内に侵入し着地する頃には、すでに入り込んだ部屋から出るところだった。


早い。一つ一つの動作を終えて次の動作に入るのが早いのだ。戦い慣れた動きだというのもそうだが何やら急いでいるようにも見える。


康太はすぐさま幸彦の後を追うと、その視線の先に一人の人物が目に入る。


黒いローブを着た誰か、少なくとも幸彦でも奏でもない。それが敵だと気づくのに時間はかからなかった。


どうやら先に出た幸彦を死角から攻撃しようとしているのだろう。そうはさせないと康太は槍を構えた状態で魔術を発動した。


発動した魔術は再現、再現するのはナイフと槍の投擲。短い呪文と共に放たれた無数のナイフと槍が魔術師に襲い掛かる中、康太は間髪入れずに急接近し無慈悲に槍を叩き込んでいく。


殺すつもりはないためにほとんどは打撃だ。槍による打撃と再現の魔術による拳や槍の打撃の連続攻撃。


威力としては低めだが急襲してきた康太の攻撃に反応できていないのか、唐突に斬撃と打撃の連続攻撃を受けたことで混乱したのか、魔術師は仮面をこちらに向けるも魔術を発動するよりも早く康太はその魔術師の頭部へと思い切り槍を叩き付ける。


ふらふらとよろめいた魔術師への追撃として、拳の乱打である『ラッシュ』の呪文を唱えるとその体にいくつもの拳打が叩き込まれていく。


魔術師は勢いよく壁に叩き付けられるとその場に勢いよく倒れてしまった。


うつぶせで勢いよく倒れた魔術師はそのまま動かなくなる。どうやら気絶したのだろうか、数秒しても動く気配はなかった。


侵入してくる幸彦に気を取られてまったくこちらに意識が向けられていなかったのが幸いした。康太はその場に倒れた魔術師を一瞥すると幸彦の後を追おうと走り出す。


康太がいるのはビルの上層階。幸彦はすでに階段を蹴って下の階へと移動しているようだった。


索敵魔術が使えなくても下の階で戦闘の音がしていればすぐにわかる。何より階段へ続く道に約二名ほど魔術師が倒れているのだ。恐らく通り抜けるついでに幸彦に倒されたのだろう。


康太もその後に続くべく階段を降りようとする。そして下の階が見えるとそこはすでに常識とはかけ離れた場所となっていた。


部屋のコンクリートが変形していたり、部屋の中にあった机や椅子、棚などが散乱していたり、発光しながら周囲を飛び回る球体があったりと、視覚的にも音的にも非常に騒がしいのがわかる。


その中に一瞬だが幸彦の姿があった。恐らくあの部屋にいる魔術師と戦闘をしているのだろう。


何人の魔術師がいるのかはわからないが、とりあえず援護だけでもしなければならないと康太は壁に隠れながら部屋の内部の様子を窺う。


中には二名ほど幸彦の他に魔術師がいるようだった。片方の魔術師が周囲のコンクリートを変換して防御などを行い、もう片方が光る球体によって幸彦への攻撃を行っているように見える。


だが幸彦の機動力の前に二人の魔術はあまり機能しているようには思えない。捕まえるにしろ攻撃を当てるにしろ動きが遅すぎる。あれなら康太でも避けられるのではないかと思えてしまう。


だが康太はあえて自分から出ていくようなことはせず、魔術の発動の準備をした。幸彦の援護と同時に魔術師への攻撃もできるように。


幸彦が倒れた机を盾代わりにして敵の魔術師の攻撃をやり過ごすのを確認すると、康太は装備の中からお手玉を二人の魔術師の直上に投げつけた。


暗闇の中一瞬何が投げられたのかもわからなかっただろう、だが反応するにはあまりにも遅すぎた。


康太が分解の魔術を発動してすぐに蓄積の魔術を解放すると、そのお手玉の中にいれられていた鉄球は部屋の中に一斉にばら撒かれていく。


いやばら撒かれていくというのは正確ではないだろう。周囲に炸裂していったと言ったほうが正しい。


壁に、天井に、床に、机に、椅子に、棚に、いろいろなところに鉄球がめり込む中、その先には二人の魔術師の姿もあった。


全てとは言えないが魔術師の体にも数発の鉄球が直撃する。そしてその痛みに二人の魔術師が苦悶の声を上げる。その隙を幸彦は見逃さなかった。


盾にしていた机から飛び出すと天井や壁を足場に跳躍し魔術師めがけて回し蹴りを繰り出す。


一人の魔術師の首を正確にとらえた蹴りは一撃でその意識を刈り取ってしまった。


相方がやられたことで焦ったのか、残された魔術師は距離を取ろうと幸彦に向けて光の球を放ちながら走り出す。そのタイミングで康太は飛び出した。


幸彦に意識が向いているのを確認したところで再現の魔術を発動、その足めがけてナイフの投擲を連続で再現していく。


ナイフの投擲は威力こそ高くないものの、相手の機動力を削ぐには十分すぎる効果を持っていた。


足にいくつもの負傷を突如抱えた魔術師はその場に転倒してしまう。それを確認するよりも早く幸彦は魔術師の元へと駆け寄り、再び蹴りを放っていた。


当然畳みかけられた魔術師は避けられるはずもなく、幸彦の蹴りの前に沈み、この場にいる魔術師はすべて掃討できた。


「すいませんバズさん、遅れました」


「いやいいタイミングだったよ、集団戦において何が重要かを理解している戦い方だったね。どうしようか迷ってたから助かったよ」


「いえ、お役に立てたなら良かったです」


地形変化と中距離射撃系の魔術。どちらも肉体強化を使う幸彦にとっては苦手な相手だったのかもしれない。


幸彦の場合、まだ使える魔術は山程あるだろうが、恐らく自分の手の内を明かすだけの価値はないと判断したのだろう。


どのようにして切り崩すかを考えていたところに康太が現れた。その為相手に隙が生まれこうして楽に倒すことができたのだ。


合計で倒した魔術師は五人。この建物内に一体何人がいるのかは未だ不明だが、五名もの魔術師をすでに戦闘不能にしたのだ。相手の戦力はだいぶ少なくなっていると考えていいだろう。


「急いだ方がいいかもね。後方にこれだけいたってことはだいぶ相手の戦力も削れたはずだ。さっさと手伝いをしに行かないと」


そして幸彦も同じことを考えているのか、やや急ぎ足で先に進もうとしていた。奏の正面突破での攻撃開始。恐らく拠点を守るために魔術師は正面に対しての対応に六割程度の人員を割いているだろう。


残りの四割は拠点防衛のための結界や周囲への対応、後方支援、そして背後からの攻撃を警戒するために控えていた。そこを康太たちが攻撃したのだ。


奏が抑えているであろう正面へ回された戦力を少しでも削るためにも康太も急いで幸彦の後に続いた。


「さっきのあれすごかったね?どうやってやったんだい?」


「大したことないですよ。蓄積魔術の応用です。ちょっと用意するのに時間が必要になりますけど」


「そうだったのか・・・あれまだ使えるかな?」


「はい、後三つほど残弾あるんで」


「よかったら貸してくれるかな?軽く走って仕込むくらいはできそうだし」


康太の持つお手玉は残り三つ。どれも適当に投擲して使おうと思っていただけに幸彦の申し出はありがたいものだった。


なにせ投擲という手段そのものがどうしても相手の気を引いてしまうのだ。


それに引き換え幸彦が肉体強化によって高速移動するのであれば相手の注意は幸彦の方に向かうだろう。


途中でどこかに康太のお手玉が仕込まれていても誰も気づけない可能性だってある。それが魔術師同士の乱戦状態ならなおさらだ。


「でもバズさん、これは全方向にまき散らされる無差別攻撃です。あんまり近くにいると巻き込まれるかもしれませんよ?」


「そのあたりは大丈夫だよ。きちんと防御するさ。そのあたりの魔術は覚えているしね」


康太のこのお手玉、というより鉄球による攻撃はタイミングさえつかめてしまえば容易に防御することができてしまう。


なにせ飛んでくるのはただの鉄球なのだ。魔術的な効果によって高速で飛んでくるものの、そこにあるのはただの物理現象。防御魔術だけではなく攻撃魔術でだって対応できるかもしれない。


この攻撃はあくまで不意打ちで使うからこそ効果を持つものなのだ。そう言う意味では幸彦の配置、そして康太の発動という二人の間での連携がきちんととれていれば何の問題もなく発動することができるだろう。


「わかりました・・・それじゃあ二つ預けます。どうか気を付けて」


「うん。それじゃあサリーの手助けに行こうか」


康太と幸彦は意気込んで下の階層へと足を進める。下では何やら戦闘音が激しくなりつつある。奏が相手を攻撃しているのだろうなというのは二人とも想像に難くなかった。













康太と幸彦が下の階へと移動し始めている頃、正面切っての戦闘を選択した奏はどうしたものかと悩んでいた。


現在交戦中の魔術師は六人。三人が徹底して防御魔術を発動し二人が攻撃、そして一人は補助的な魔術を発動しそれぞれフォローしながらこちらと戦っているのがわかる。


奏の初手の攻撃によって数人がすでに戦闘不能になり近くの壁際に転がっているため相手もこちらに対する警戒を上げたのだろう。一見すれば役割分担をしっかり決めて戦っていると褒めるところだろうが、奏にとっては全くの赤点だった。


役割分担することと連携することというのは必ずしもイコールではない。役割分担はそれぞれができることとできないことを理解して自分の立ち回りを決めることだ。それに対して連携とは各員のできることを把握したうえで周りの人間が動きやすいように、そして相手に動きにくいように攻撃、あるいは対処するものだ。


今相手にしている魔術師たちは味方の動きを阻害したり、こちらが逆に動きやすいように術を発動したりと未熟さが浮き彫りになっている。


奏が悩んでいるのはこの未熟さが原因なのだ。これなら自分が手を下さずともそのうち勝手に自滅するのではないかと思えたからである。


奏の目的はあくまでこの拠点からこの魔術師たちを追い出し、自分の勢力圏を保持することだ。この者たちに圧倒的な敗北感を与えるには何が一番最適であるか考える必要がある。


ここで自分が本気を出して一瞬で片を付けるのも悪くはないだろう。だがそれだと何が起きたのかも理解できずに同じことを繰り返す可能性もある。


現在奏が使っている魔術は片手で数えられる程度しかない。逆に言えばその程度の数の魔術で対応できる、対応できてしまう程度の実力だという事である。


ちょっと強い魔術を使って反撃すれば大げさにリアクションして慌てふためきながら再び陣形を維持しようとする。なんというか見ていて微笑ましくさえなってくる光景である。


今まで交渉のために何度か接触したが、どれも若い男の声だった。恐らく事前に予想していた通り独り立ちしたばかりの魔術師の一団なのだろう。


その総数は確認していないとはいえ、それにしたってこのお粗末さはいただけない。


個々人の実力で見れば、そこそこレベルには達しているのだろう。だが集団戦というものを理解していないように見えた。


このままただ時間を浪費しても無駄なように思えるが、だからと言ってただ叩き潰すだけでは何やら物足りない。


自分をコケにしたその報いはしっかりと受けてもらわなければならないのだ。

どうすればそれができるだろうかと考えていると、奏の視線の先に見慣れた姿が一つあるのに気付く。


敵の背後をコソコソと動く大柄の男。どうやら敵はまだその存在に気付いていないようだった。


そしてその横をさらにコソコソと動いている槍を持った魔術師。それが康太であると気づくのに時間は必要なかった。


上の制圧が終わりこちらの援護をしに来たのだろうが、正直その援護も必要ないのではないかと思えてしまう。


だが向こうからすればこちらが苦戦しているように思えたのかもしれない。何やら作業をしながら敵に気付かれないように行動している。


一体何をしているのかと思ったが、その疑問はすぐに解消されることになる。


幸彦が壁や天井を足場に跳躍し敵の背後に回ったかと思うと二つの奇妙な物体を敵の頭上に設置すると即座に離脱していた。


周囲に聞こえる魔術による破壊音のせいで相手はまだその存在に気付けず、頭上に何かしらの仕掛けをされたことも理解していない。


こんな連中を今まで相手にしていたのかと奏は悲しくなりながら、それが何らかの攻撃手段であることは理解していた。


そして視線を幸彦たちに戻すと、指で何やらカウントダウンをしているのがわかる。恐らくあのカウントがゼロになったら攻撃するつもりなのだろう。


頭上からどのような攻撃をするのかはわからないが、さすがに死なれては困る。奏はため息を吐いた後で項垂れてから魔術を発動した。


奏が魔術を発動するのと康太が仕掛けを発動するのはほぼ同時だった。


敵の真上に設置されたお手玉は炸裂し、敵の中心に鉄球の雨を降らせた。

今まで奏の方にばかり注視していた魔術師たちがその攻撃を避けられるはずもなく、ほとんどが鉄球の雨に晒されていた。


だが奏はその魔術師たちを守るように魔術を発動した。薄い障壁を張って頭部だけは守れるようにと。


そのおかげもあってか、鉄球の雨に晒されても魔術師たちは生きていた。

肩や腕、背中などから血を流すものはいても誰一人頭部へのダメージは受けていなかった。


奏はその様子を見てから魔術を発動する。軽い衝撃の魔術だ。追い打ちにはなるが止めにはならない程度に威力を調整され、魔術師たちは一斉に吹き飛ばされる。そして次に魔術を発動すると苦悶の声を上げている魔術師たちは一人ひとり宙に浮き、一つにまとめられるかのように空中で一カ所に集められてから部屋の隅に投げ捨てられた。


「お前達、もう少し加減というものをしてやれなかったのか?こっちが上手いこと加減してやっていたというのに、台無しじゃないか」


「あ、やっぱり手加減してたんだ。サリーにしては随分ぬるいことしてるなとは思ってたけど・・・」


「相手に圧倒的な力の差を見せなければいろいろと面倒になると思って手を抜いていたんだ・・・これでは私が足止めをしてお前達が急襲しに来たようじゃないか」


「いやまぁ・・・僕も見てたほうがいいかなとは思ったけど・・・」


「すいません・・・俺がフォローしたほうがいいんじゃないかなと・・・」


「・・・なるほど・・・ビーの進言か・・・まったく、これでは怒るに怒れんな・・・」


さも当然のように会話をし出した康太たちを見る中で、魔術師たちは自分たちがいかに踊らされていたのかを知る。なにせその会話は全く緊張感がなかったのだ。


合計十人以上いた魔術師たちは数分程度で戦闘不能にさせられてしまったことになる。


いや、奏が本気を出していたらもっと早く終わったかもしれない。その事実に意識を保てている魔術師たちは戦慄していた。


「さて・・・では本題に入るか・・・えっと・・・どれだったかな・・・?」


奏は一塊になって雑に転がっている魔術師たちを見て悩み始める。どの魔術師が自分と交渉していた魔術師だったのか記憶にないのだ。


「バズ、上には何人いた?」


「全部で五人、もう全員戦闘不能だよ。それがどうかしたの?」


「いや・・・誰か一人代表で交渉してもらわなければいけないんだがな・・・まぁこの辺りの奴でいいか」


奏は適当に負傷が最も少ない魔術師を掴み上げると部屋の中心に強引に投げる。

負傷自体は少ないとはいえその痛みは相当のものだろう。なにせ鉄球が体の中に埋まっているのだ。


「私がなぜここに来たのか、理解しているな?」


「あ・・・は・・・はい・・・!た・・・立ち退き・・・ですか・・・?」


「よくわかっているじゃないか。言い方が少々気に入らんがまぁいい。この近辺は私の縄張りだ。お前達は出ていけ。それを言いに来た」


何度も口頭で説明したことだ。忠告も警告もした。だから実力行使に打って出た。何も不思議なことはない。


今転がっている魔術師たちもなぜ攻撃されたのかを理解したうえで戦っていたのだ。


その結果、実にあっさりと惨敗する結果になったわけだが。


「こちらの戦力は三人・・・お前達の戦力は十人ちょっと・・・守りを崩すにはその三倍が・・・というが・・・まぁこの数ではそれはあてにならんか・・・自分たちが誰を敵に回したか、よく理解したか?」


数万単位の戦いにおいては守りを崩すのには三倍の兵力がいるというのは割と有名な話だろうが、極小人数、十人規模の戦いではその法則は成り立たない。


ゲリラ戦に近い奇襲戦法を使えば数的有利などいくらでもひっくり返せる。数の戦いではなく個々の技量の戦いになるのだ。それこそ今のような状況を作り出すのは奏一人でも十分だっただろう。


奏の言葉に魔術師は何度も首を縦に振る。なにせその言葉の節々には『今ここで殺してやってもいいんだぞ』という威圧感がある。


さすがは小百合の兄弟子だなと康太は感心しているが自分もその声音を一度聞いたことがあるだけに笑えない。


圧倒的強者による蹂躙。この状況はまさにそれだった。


「また私の下に現れたらどうなるか・・・そうだな・・・軽くひとり見せしめにでもしておくか」


奏は近くに転がっている魔術師を一人魔術で浮かび上がらせると部屋の中心に持っていく。これから何をされるのかわからず、魔術師は必死に空中でもがいているが肉体的な運動で奏の魔術から抜け出せるわけがなかった。


「二度とこんなことがないように・・・二度と私に逆らわないように、しっかりと教育してやる。ありがたく思え」


奏は空中に浮かせたまま、右手に氷の刃を作り出すと先程の康太の攻撃で傷つけられた箇所にゆっくりと突き刺していく。


苦悶と絶叫を上げる中で、それを見ていた魔術師たちは奏を止めようと、そして突き刺されている魔術師たちを助けようと体を起こし声を上げようとする。


だが動こうとした瞬間、衝撃がその体に走り壁に叩き付けられてしまう。


「黙って見ていろ。これは報いだ。せっかく私が心優しくも会話という手段を用いて平和的に解決できる機会をやったにもかかわらず、お前達はそれを無視した・・・しっかり目に焼き付けろ、私を怒らせるとこういうことになる」


氷の刃はゆっくりとその体の中に侵入していき、やがて止まると今度はねじり込むように捻りあげて見せた。


その度に魔術師は悲鳴を上げるが奏は止めるつもりはないようだった。


そして一通り苦痛を与えたと思えば今度はゆっくりと氷の刃を引き抜いて見せる。するとその先端には体の中にめり込んだはずの鉄球が付着していた。


「なるほど・・・そういうことか・・・ありがたく思え、お前の体から痛みの原因を取り除いてやったぞ。残っている奴も全部取ってやろう」


空中に浮かされている魔術師はすでに仮面をつけていても分かるほどに涙や鼻水を垂れ流し、失禁しているのだろうか股間部分から水をしたたらせていた。


「サリー、そのあたりにしてあげたほうがいいんじゃないのかな?それ以上やると別の意味で死んじゃうよ」


「ん・・・お前は甘いんだ、私を敵に回したからにはこういう目にあう、それを理解させなければまた何度も同じことをするぞこういう輩は。徹底的に刻み込む必要があるんだ」


「さすがにそれ以上は・・・あんたたちも、もうこの人を敵に回そうとは思わないだろ?」


さすがに同情した幸彦と康太の言葉に、部屋の片隅でまとめられている魔術師たちは何度も何度も首を縦に振っていた。


直接被害を被ったのであればこれだけの報復をするのも頷けるが、この場にいたというだけでこの仕打ちはあまりにも非道であるように思えてならなかった。


何よりも完全に戦意喪失してしまっている。戦い慣れしていないと言えばいいだろうか、諦めるのが妙に早いようにも思えた。


今まで戦ってきた魔術師たちは多少の負傷程度では意に介することなく行動し、むしろこちらを攻撃してきたはずだ。


なるほど、幸彦達がいっていたように戦闘経験が少ないというのはその通りかもしれない。


師匠の下から離れ、初めて魔術師として行動することになり、とりあえず多く仲間を作りたいという理由で固まっていた烏合の衆といったところだろうか。どちらにせよ初めての相手が奏だったのは不運としか言いようがないだろう。だが康太と幸彦がいなければ止める人物がいなかったのも確かだ。そう言う意味では不幸中の幸いというべきだろうか。


土曜日で二回、誤字報告五件分で一回、そして累計pvが1,000,000突破したのでお祝い含めて四回投稿


皆様のおかげで累計pvがようやく1,000,000突破しました。より一層楽しんでいただけるように努力しようと思います。


これからもお楽しみいただければ幸いです





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