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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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標的のもとへ

「・・・そろそろ行くぞ、バズ、ジョア、ビー、準備はいいな?」


雑談もそこそこに康太たちは本格的に行動を開始しようとしていた。


向かわなければいけない方向はわかっている。そして向かうべき場所も頭に入れてある。移動ルートもすでに頭に入れいつでも行動できるように手筈は整えてある。


「では私たちは正面から回るルートで行く、お前達は裏から大回りで向かってくれ。あまり急ぎすぎるなよ?バズ、ビーを頼む」


「わかってるよ、ビーしっかりついてきてね」


「了解です。姉さん、気を付けてくださいね」


「わかっています。そちらもお気をつけて」


康太と幸彦、そして奏と真理の男女別でコンビに分かれてそれぞれ移動を開始した。


相手の拠点という事もあり、ある程度の距離をとって真理が索敵及び一般人対策を。その中で奏だけが建物に急接近する。そして戦闘が開始されたあたりで康太たちが裏から侵入、敵の攪乱をするのが今回の作戦である。


康太は肉体強化と再現の魔術を駆使しながら建物から建物へと跳躍を続けていた。幸彦が先行し道案内と康太がどの程度動けるかを観察しながら移動する中、康太は幸彦についていくので精いっぱいだった。


肉体強化の練度の違いというのもある。だがそれとは違う何かが幸彦と康太の間にはあった。


動き方や体勢の整え方、力の入れ方や魔術の発動するタイミング。どれをとっても康太よりも優れている。


「大丈夫かい?もう少し速度落そうか?」


「大丈夫です!そのまま行ってください!」


幸彦が康太に気を使って減速しようとするが康太はそれを拒否した。自分は役に立ちにこの場にいるのだ。ギリギリ付いていけているのだから幸彦の足手まといになるわけにはいかない。


建物から建物へ、時には空中を蹴りながら康太たちは目的の場所へと進んでいた。


眼下には未だ眠らない街東京がそこにある。まだやるべきことがあるのか、はたまたただその場にいるだけなのか街を歩く人も少なくない。


もしタイミングよく真上を見上げれば黒い何かがビルからビルへと移動しているのを見ることができるだろう。


もっともビルの明かりがあるとはいえもう遅い時間だ。それに康太たちが移動しているのは高いビルのさらに上、暗闇の中でそれが人であると判断するのは難しいだろう。


「バズさん!目標ポイントまであと少しです!」


「わかってる!そこで一時待機するよ!戦闘準備怠らないでね!」


「了解です!」


康太たちは奏が戦闘開始するタイミングを見て攻撃を開始する。その為一旦行動を止める必要があった。


あらかじめ予測しておいた警戒区域の外に位置すると、康太たちは一度足を止めて大きく息を吐いていた。


特に康太は消費した魔力の補充に忙しかった。それほど消費していないとはいえこれから戦闘を行うというのに万全な状態を維持していないというのは問題だ。


こういう時に供給口が小さいと苦労する。ほんの少し減った程度の魔力でも数分かけての補給になってしまうのだから。


「サリーさんは上手くやってますかね?」


「あの人は問題ないだろうね・・・携帯に連絡すると同時に攻撃開始って言ってたから、そしたら僕らも突っ込むよ」


「わかりました・・・この距離じゃ微妙に見えないですね・・・」


康太の今位置している場所からでは目的の建物は見ることができなかった。もし見えたのであれば解析の魔術で内部構造をさらに鮮明に見ようと思っていたのだが、そう上手くはいかないらしい。


なにせ他にも建物が建ち並んでいるのだ。そう易々と目的のものが見える程この街は簡素ではないのである。


今この場所から目的の場所までは数百メートルもない。向かえば一分とかからずに突入することができるだろう。


完全に同時とまではいわずとも相手の注意を散漫にさせることは可能だ。


康太は槍を組み立てて軽く素振りをすると大きく息を吸い集中していた。


相手の人数は不明。だが奏曰くたいした人数ではないらしい。もっとも奏の判断でそう思っただけの事だ、実際はかなりの大人数である可能性も否定しきれない。


「バズさんは緊張とかしないんですか?これから戦闘になるぞってとき」


「んん・・・僕はそう言うのはないかな。緊張するとかえって動きが硬くなるからね、なるべく緊張しないようにしてる。それにこういうのはもう慣れっこだからさ」


「慣れっこ・・・慣れるのにどれくらいかかりますかね?」


「大体百回戦えば慣れるさ。魔術師戦に同じ戦いはないけど、百回も戦えばある程度経験も積めたことになる。百人の魔術師との戦闘経験があればそれなり以上に堂々と戦えると思うよ」


百人の魔術師と戦えば。康太はまだ数人程度の魔術師としか交戦していない。明らかに経験不足と言えるが奏も幸彦もそれを承知で康太を連れ出したのだ。


未熟なのは承知の上。そして訓練以外での初めての屋内戦。はっきり言って不安要素はかなり多い。だがそれでも引くわけにはいかない。康太にだって意地があるのだ。


師匠である小百合がいない今、自分がしっかりと戦わなければ小百合の顔に泥を塗る結果になってしまう。


小百合の顔に泥を塗ろうが正直どうでもよいという気持ちがないわけではないが、あんな師匠でもしっかりと立てておきたいという気持ちは康太の中にもあるのだ。










康太たちが待機している中、奏は真理と一緒に警戒区域ギリギリのところで待機していた。


真理は少し余裕をもって、奏はあと一歩でも進めば相手の索敵に引っかかるのではないかというほど肉薄している。


奏は集中を高め、真理はすでに周囲に対する索敵と一般人用の魔術を発動していた。


「ジョア、もういいか?」


「はい、準備はできました。いつでもいいですよ」


真理が準備していたのは万が一のための迎撃の魔術である。周囲への対応は早々に終わらせ、後は自分の身を守るための術式を構築していたのだ。


その間無防備になる真理を奏が守っていたのである。


もっとも、奏がいなくとも誰も襲ってくるようなそぶりはなかったが、可能性は限りなく潰していくのが奏の戦い方である。


小百合のそれと違い、奏の戦い方は詰将棋のそれに似ている。


相手のできることを可能な限り潰していき相手を追い詰めていく。最初から詰んでいる状態から戦いを挑むというのは卑怯ととられるかもしれないが、戦いにおいて正々堂々と言うものが適応することもあれば、卑怯というものが容認されることもある。


魔術師における戦いにおいては卑怯という言葉は意味をなさない。卑怯であり卑劣であればあるほど勝利に近づく。


暗黙の了解における西部劇のガンマンのような決闘を求める魔術師同士の戦いを基準にすれば、奏のそれは卑怯というに値するのだろう。


だが戦いにおいてそんなことを言うのはナンセンスだと思っていた。これこそ、彼女の弟弟子にあたる小百合があのような戦いを好むきっかけにもなったと言えるだろう。


勝利こそ全て。自分の目的とするもののためにそれ以外を削ぎ落した戦い方だ。


「ビーたちはすでに待機しているでしょうか・・・?」


「あいつなら問題ない。バズについていけるだけの実力はあるようだった。私が思っているよりもずっとあいつは優秀なようだな」


奏の想定では幸彦が先に到着し、しばらくしてからその後を追うように康太が待機場所に到着すると思っていた。


だが先ほど分かれて移動しだしたところを見ている限り、康太は幸彦の速度についていけているようだった。


もっともそれが幸彦がある程度康太に気を使って速度を落としているからなのか、単純に康太が幸彦についていけるだけの実力を持っているだけなのかはわからない。


だが奏の目に映る康太の姿は一見すればいっぱしの魔術師のように見えた。自分と比較するのは少々康太にとってつらいかもしれないが、自分の横に立っていても問題なく思える程度には。


「ビーは本当に今年の二月から魔術師になったのか?まったくそうとは思えんが・・・」


「間違いありませんよ。師匠もビーもそう言っていました」


「そうか・・・それにしては実戦的な魔術を随分と覚えているようだが・・・」


普通の魔術師はまず暗示や記憶操作といった一般人に対しての魔術を習う。そうすることで万が一にも魔術の存在を露呈しないようにするためだ。


だが康太はそれらを後回しにして魔術を修得している。


一応個人的に暗示の魔術を練習してはいるものの、師匠である小百合から教わった魔術は実戦的なものばかりだ。


それ故に他の魔術師に比べれば戦闘能力の上昇というところだけを見ればだいぶ早いだろう。それこそ天才的に見える程に。


「いえ・・・あの子はいろいろと修得していない魔術ばかりで・・・今覚えているのもたぶん二桁に届かないくらいだと思いますよ?」


「なんだと?・・・まぁそうか・・・まだ五カ月程度しか経っていないのだから・・・いやそれでも多いくらいだな・・・」


康太が修得し、実戦で使えるようになった魔術は分解、再現、蓄積、肉体強化、炸裂障壁の五つ。まだ実戦で使用できるレベルまで達していない魔術がいくつかある。だがそれら全てを考慮に入れても、ようやく二桁に届くかどうかといったところだ。その程度の数の魔術しか覚えていないため、康太は魔術師としては駆け出しにも劣るだろう。


「そのうち攻撃魔術はどれくらいだ?」


「えと・・・ほとんどだと思います。少なくとも師匠が教えた魔術はほとんどが攻撃に使える魔術です」


「あいつめ・・・らしいと言えばらしいが、初心者に教えるべき魔術があるだろうが・・・何故それを教えないのか・・・」


「えと・・・師匠自身使えないからだと思います・・・」


小百合は破壊以外の魔術が使えない。そのことを思い出したのか奏は小さくため息をつく。


教えないのではなく教えられないのだということを思い出し、傍らにいる真理の方を見ると再びため息を吐いた。


「そうだったな・・・お前もだいぶ苦労していたように記憶している・・・不出来な弟弟子ですまんな」


「いいえ、師匠からはいろんなことを教えていただきました。何より私は師匠のことを優秀な魔術師だと思ってます。謝られる理由はありません」


自分の師匠は優秀である。その言葉を小百合が聞いたら一体どんな顔をするだろうかと奏は薄く笑みを浮かべていた。


正面向かって褒めないのは師匠に似ているなと思いながらも奏はゆっくりと視線をある建物に移す。


「ある程度戦えるというのなら問題はない・・・攻撃を開始する。あいつらにもそう伝えろ」


奏は仮面の下に笑みを浮かべたまま建物から飛び移っていく。その先に自分の今回の標的がいるという事を見越したうえで、攻撃魔術を発動した。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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