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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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作戦会議

「へぇ・・・そんなことがあったんですか・・・」


「あぁ、今でこそ師匠は随分と穏やかになったが、昔は恐ろしい方だった。私が弟子になった頃なんて訓練でも何度も殺されかけたくらいだ」


「今の姿からは想像できませんね・・・見た目は普通にいいおばあちゃんって感じしますけど・・・」


「見た目っていうあたり康太君も師匠が普通とは違うってわかってるんだね。そのあたりはさすがさーちゃんの弟子ってところかな?」


康太たちは高級中華に舌鼓を打ちながら奏や幸彦がしてくれる昔話に耳を傾けていた。


小百合が基本的に昔のことを話したがらないのでこういった話は非常に興味があった。昨日幸彦が話してくれたような事だけではなく、修業時代のそれぞれの思い出なども話してくれたことで康太たちはより深く昔のことを知ることができている。


その中には小百合の事だけではなく三人の師匠である智代の話題も含まれた。


本人が居ないのをいいことに言いたい放題、というわけではないが目の前に本人がいるよりかはずっと話しやすいようで幸彦も軽快に口を進めていた。


「ちなみに康太、お前から見て師匠はどういう人物だと思った?第一印象で構わんからいてみろ」


「えと・・・最初見た時は本当にただのおばあさんなんじゃないかって思ったんですけど・・・なんて言うか、底の知れない人だなとは思いました・・・」


「ふむ・・・なかなかいい感性を持っているな。実際師匠はただの老婆などではない。一見するとただの気のいいおばあさんなのだがな」


「はい、最初笑ってるところとか見た限りだとそうとしか思えなかったんですけど目があった時、なんか違うって思ったんです」


目は口程に物を言うという言葉があるように、康太は智代の瞳からその異常性を感じ取った。


それは良い意味でも悪い意味でも、彼女には自分の想像しているような温和さだけではない何かがあることを悟るには十分すぎた。


小百合とともに魔術師として活動してきたからこそ生まれた勘とでもいえばいいのだろうか、この人は普通ではないと悟るのに時間はかからなかった。


あの時の感覚は今でも覚えている。どこか自分の奥底まで観察されているような深く沈んだ瞳。だが決して嫌悪感を抱くことはなかった。恐怖を抱いたのは否定しないがそれだけではなかったのも確かである。


「でも実際さ、師匠は随分丸くなったよね。昔に比べると別人みたいだよ」


「そうだな・・・まぁ年老いることで性格が変わるというのもよくあることだ。丁度小百合を弟子にした辺りからかな、少し性格が変わりだしたのは・・・」


「へぇ・・・師匠は運が良かったのか悪かったのか・・・ていうか師匠が智代さんの弟子になったきっかけって何なんですか?」


「あぁ、そう言えばそれ私も聞きたかったです。何かあったんですか?」


魔術師の弟子になるには何かしらの理由がある。文のように家系というものもあれば康太の様に突発的に弟子になることもある。


小百合がなぜ智代の弟子になったのか、それを康太たちは聞いたことがないのだ。


小百合が昔のことを話したがらないのももしかしたらそのあたりが関係しているのかもしれない。


「小百合が弟子入りした理由か・・・と言ってもたいしたことはないぞ?あいつは事件に巻き込まれて師匠の弟子になった。運よくというべきか運悪くというべきか、まぁ魔術師としての素質はあったからな」


「師匠は最初弟子にするつもりはなかったみたいだけどね、さーちゃんの様子を見て弟子にふさわしいって思ったらしいよ?一体どこに惹かれたのかはわからないけどね」


小百合が康太と同じように魔術的な事件に巻き込まれて弟子になったという事はなんとなく想像はついていた。


小百合の両親が魔術師であるという事も聞いていないし、何より小百合が素直に誰かのいうことに従うとも思えない。


恐らく何かしらの衝撃を伴って魔術師になることを選んだのだろう。その結果が良かったかどうかはさておいて、小百合は自ら魔術師になることを選んだ。


「師匠って才能はあったんですか?昔から凄かったとか?」


「いや・・・正直私から見れば才能はそこまであるとは思えなかったな・・・今の小百合は努力によってそれを手に入れた・・・あいつ自身の素質はそこまで高くないしな」


「え?そうなんですか?」


康太自身、魔術師としての素質は高くない。平均以下の素質しか持ち合わせないというのが康太の欠点でもある。


そしてどうやらその欠点は小百合にも適応されるらしい。


「昔の事だからあまり覚えていないが・・・あいつの素質自体はCランクのどれかだったように思うぞ?もっとも師匠はそのあたりを鑑みてあいつを弟子にしたわけではないようだったがな」


「・・・師匠も・・・」


康太はその時、前に小百合に言われた言葉を思い出していた。それは確か小百合が康太の素質を測定し、魔力の生成の修業をしていた時だったように思う。


それでこそ私の弟子にふさわしい。


素質的に平均以下で、なおかつポンコツだと言っておきながら小百合はふさわしいという言葉を使った。


あの時の言葉はもしかしたら昔の自分を重ねていたからこそのものだったのかもしれない。


嬉しいと思っていいのかはわからないが、康太は少し複雑な気持ちだった。少なくともいやではない。なにせ小百合と同じような素質のレベルを持っているということがわかったのだから。












食事を終え、康太たちは再び奏の会社の社長室へと戻っていた。今日はどこに泊まろうかなどと考える暇もなく、康太たちは今夜の準備を進めていた。


作戦内容はいたってシンプル。奏が正面から攻め込み、康太と幸彦は別々の場所から建物内に侵入し敵の攪乱。その間真理は周囲に結界を張り一般人の目に留まらないように警戒。


やることがはっきりしているために、変に考えることもなく事に当たれそうだった。


「でも今日その魔術師たちがこの建物にいるかなんてわからないですよね?もしいなかったらどうするんです?」


わざわざ襲撃を仕掛けるというのに相手が待ち構えているとは限らないのだ。もしかしたら別の場所に外出していることも考えられる。


「襲撃しようとしているのに相手の行動を把握していないと思ったか?特定の日時、あいつらは必ず拠点に集まる。恐らくは定時報告などを含んでいるんだろうな。そこを叩く」


「戦いにおいて重要なのは何よりもまず情報。師匠の口癖だったねぇ」


幸彦のいうように、戦いにおいて最も重要視されるのは情報だ。


それがあるかないかでその戦いが楽になるかどうかが決定する。勝率や作戦を考える上でも情報はあって困るものではない。


今康太たちがもっている建物の見取り図も、奏があらかじめ用意したものだ。


情報戦という意味では奏はすでに優位に立っていると言って良いだろう。人数的に優位かどうかは不明だが、相手よりも一手二手先をいっているのは間違いない。


「なんかこういうの見てると、魔術師同士の戦いっていうより特殊部隊の任務って感じがしますね」


「実際間違っていないさ。現代における局地戦闘っていう意味では特殊部隊も魔術師の戦いも似ているしね。何より情報が重要であり少人数ってところはそっくりだ」


「問題は相手も似たような武装・・・いや力を持っているという点だな。そして画一的な装備ではなく、個人個人が全く別物の力を持っているというところも気を付けるべき点だ。同じ装備である人間とそうでない人間とでは連携も難しくなるだろう」


特殊部隊の人間などは基本的にできることとできないことを可能な限り同じにしておくものだ。


それは行動の汎用性という意味もあるが、もし何かしら不手際があり、特定の人物がいなくなったとしても作戦を継続できるようにするためでもある。


だが魔術師というのは特殊部隊の人間のように誰もが同じ力を使えるというわけではない。


それぞれが特色を持ち得手不得手を持っている。その為連携においては慣れていないと逆に戦闘能力を落すことに繋がってしまう。


「役割分担が大事ってことですよね?前にも似たようなことがありましたし」


「ほう、さすがに実戦を経験してるだけあってそのくらいは理解できるか。その通りだ。魔術師同士で組んで行動する際は役割分担が大事になる。自らの役割を理解し、それに徹する。それが魔術師同士の連携の上で考えるべきことだな」


過去、静岡での商談の際に康太は魔術師における役割分担の重要性を実感し、そして理解していた。


康太を足止めに向かわせ、そして文を小百合と共に行動させ、真理を情報収集に向かわせる、それぞれが自分にできること自分にしかできないことを意識して行動したからこそ容易に相手を追い詰めることができたと言えるだろう。


得手不得手があるからこそ、その状況に適した人選をすることができれば当然戦闘能力は向上する。実際に康太が思っている以上にこの役割分担は重要な意味を持つのだ。


「そうだな・・・一つ聞こう。今回の役割分担、お前はどのような意味があると思っている?」


「えと・・・」


康太は先程まで聞いた役割分担を思い出していた。奏は正面突破、康太と幸彦は建物内で暴れて攪乱、真理は周囲の警戒と魔術の隠匿だった。


この配置と役割の意味、この意味を想像するのはそこまで難しくない。


「今回相手は奏さんのことは認識しています。なので知らない人間がやってくるよりも奏さんを正面に配置することで相手の意識を奏さんに向けられます。そこで伏兵として俺と幸彦さんが建物内に向かう、俺らを選んだのは近接戦をある程度こなせるから・・・ですよね?」


「ふむ・・・では何故建物内での戦闘において真理を選ばなかったのか、それはわかるか?」


「姉さんを外に起用した理由はいくつか考えたんですけど・・・この中で結界を張るのが一番うまいから・・・あるいは姉さんなら何が起こってもある程度対応できるから・・・だと思います。姉さんは近距離よりも中距離の方が得意な印象がありますし」


奏のいうようになぜ真理を建物内での戦闘に加えなかったのか、結界を張ることができる可能性があるのは康太を除く三人。


奏を正面に配置するのは半ば決定していたというのもあり、別に結界を張り周囲を警戒させるのは幸彦に任せてもよかったのだ。


だが奏は真理にその役目を任せた。その理由は単純にそっちの方が真理を活かせると思ったからに他ならないと感じたのだ。


「あとは、幸彦さんは格闘戦を得意としてると聞いてたので、どうせなら幸彦さんを攪乱役に配置して、結界の張れない俺を一緒に行動させるのかな・・・と思いました」


「ふむ・・・なかなかいい読みだ。それなりに頭もまわる・・・小百合の弟子にはもったいないな」


「奏さん、康太君を取っちゃだめですよ?私の可愛い弟弟子なんですから」


「わかっている、無理にとは言わん。何より康太も小百合の下にいたほうがいろいろと勉強になるだろう。あいつは面倒を呼び込むからな・・・」


昔から面倒事の中心にいたのだろうかと康太は小百合の妙な悪運に驚いていたが、もはやそれも今さらというべきだろう。


小百合に同情するべきなのかもしれないなと康太は僅かに眉をひそめていた。


評価者人数が125人突破したので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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