師匠と弟子の関係
「ていうか師匠の貯金ってなんであんなに多いんですか?普通に働いてないのに・・・?」
「それに関しては私も疑問をもっていたりもするが・・・あいつは取引に関してはかなり才能があるらしくてな・・・株やら為替やら・・・こっちが一年真面目に働いて得た金額を数週間で得たりもするからな・・・腹立たしいことこの上ない」
社長と言っていてもそこまで収入はないのだろうかと思ったが、実際には年収何千万、もしかしたら億に届くかもしれない金額を得ているのだろう。
そう考えると小百合はかなりの金持ちなのだろうかと疑問が浮かぶ。そんな人があんな生活をしていることに康太は驚きを隠せなかった。
「姉さん、師匠って基本あんな生活ですけど、それって昔からなんですか?」
「はい、私が弟子入りした時からあんな生活でしたよ?でもどうして?」
「いや・・・そんなに金があるならもうちょっと贅沢してもいいんじゃないかと思って・・・相当楽できる分はあるんでしょう?」
「んー・・・これは師匠が言っていた言葉なんですが、あるものは必ず使えば無くなる、だから最低限しか使わず必要なもののみに消費する。そうしないと際限なく金は無くなっていくと・・・師匠なりにいろいろ考えているんだと思いますよ?」
贅沢というのは一度味わえば当然ながら次も味わいたくなる。そしてその余裕が自分にあるというのであれば当然財布のひももゆるくなる。小百合はそれを理解しているからこそ無駄な出費を避けているのだろう。
彼女自身が恐れているのは金がなくなることというのもあるだろうが、自分自身が堕落していくことだろう。あればあるほど使いたくなり、楽をすればするほど更に楽になりたいと求めるのが人間というものだ。
「だからと言ってほとんどを貯めこんでいても仕方がないだろう・・・そもそも必要なもののみと言ってもほとんど生活費だけで何か大きなものを買ったというわけでもないのだろう?」
「はい・・・まぁ商品の追加とかで使ってはいますけど・・・それは商売で必要なことですから・・・車も今のやつを数年使ってますし・・・これと言ってほしいものもなさそうでしたし・・・」
「はっはっは、さーちゃんは節約上手なんだなぁ。もしかしたらいろいろと企んでいるのかもしれないね?」
「幸彦、笑いごとではないぞ?まともに弟子のケアもできていないなどと師匠が聞いたらなんというか・・・今度問い詰めてやらなければならんな・・・」
「い、いえいえ、この間は旅行に連れて行ってもらったりもしましたよ?静岡の別荘に行ったり」
「そうですよ、師匠はそれなりにやってくれています・・・それなりに・・・」
その静岡の別荘を持っているのはエアリスだし、その別荘に行く理由は商談が目的だったし、何よりその別荘の滞在中に面倒事が起きてリフレッシュできたとは口が裂けても言えないが、それでも弟子である康太たちに最低限気を使ってくれているのは確かだ。
もっとも、それはあくまで最低限ではあるが。
「まぁ・・・弟子にフォローしてもらえる程度には信頼関係を築いているという事で今回は矛を収めてやるか・・・だが私に顔も見せようとしない姿勢は今度追及してやるがな」
「さーちゃんは奏姉さんの事苦手だからね、仕方ないさ」
「何を言うか。昔あれだけかわいがってやったというのに・・・一体どこに苦手意識を持たれることがあるというのだ」
「いやまぁ・・・その・・・可愛がり過ぎたのが原因じゃないかな?」
康太たちは知らないことだが、奏にとって可愛がるというのはそれだけしっかりと指導を施すという事でもある。
武器の扱いに限らず魔術師として必要な戦い方、技術から知識に至るまで奏は小百合に徹底的に教え込んだ。それこそ師匠である智代と同じかそれ以上に。
奏の実力は昔から高かった。その為その技術を会得するためには当然それなり以上に厳しい鍛錬を施した。
それこそ先程の康太との槍を使った戦いではないが、あれに近いか、あれ以上に厳しく小百合に対して訓練した。
もちろんそれを強制したつもりはない。だが小百合にとってはその厳しい記憶がしっかりとこびりついているために奏に対して強い苦手意識を持ってしまっているのだ。
「お前達が普段どんな生活をしているのか・・・想像すると不憫で仕方がない・・・幸彦、お前最近仕事は忙しいか?」
「え?まぁ・・・それなりに・・・でもどうして?」
「定期的に小百合の所に向かって観察してやってくれ。さすがに話に聞いているだけでは判断できん。お前の目で確かめてこい」
「それは・・・まぁいいけど・・・そんなに気にすることかな?さーちゃんだってちゃんとお師匠様してると思うけど?」
康太と真理の実力を見れば、小百合がしっかりと二人に指導を施しているというのは理解できる。その点に関しては幸彦も奏も何も心配はしていないのだ。
奏が心配しているのは指導面ではなく、もっと別の所なのだ。
私生活というと若干語弊がありそうだったが、普段小百合が弟子たちに対してどのように接しているのか、そしてどのような生活をしているのかを知りたがっているのである。
こうして気に掛ける当たり小百合のことを本当に可愛がっていたのだなと康太と真理は目を丸くしていた。
そうこうしている間に注文した料理が徐々にテーブルの上に並び始める。それを見て奏は一旦会話を終わらせて一息ついていた。
「まぁその話は置いておこう。今は食べろ、今日はしっかり働いてもらうことになる」
奏が注文した料理の数々を見て康太たちは感動しながらもそれらを口にし始めた。
本格的な中華というのは初めて食べる康太たちはそれぞれ新鮮な食感や味わいを堪能していた。




