表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

225/1515

奏の頼みごと

「さて・・・待たせたな・・・とりあえず御苦労だった。こちらが欲しいものはすべて確認した。康太にはすまなかったな、つい大人気なく本気を出してしまった」


「い、いえ、むしろありがたいです。自分の未熟さを実感できましたから」


「そう言ってくれると助かる。それで話は変わるが、今夜ちょっと手伝ってほしいことがあってな。お前達の力を借りたい」


奏の言葉に康太は幸彦と真理の方に視線を向ける。二人は特にいうことはないとでもいうように首を傾げたり苦笑していたりと、これと言って驚いた反応ではなかった。


この反応からすでに二人には話が通っているのだろうという事を理解した康太は、後は自分だけなのだということを知る。


「それは・・・構いませんけど・・・それって魔術的な話ですよね?俺じゃ足手まといになるんじゃ・・・」


「そのあたりは問題ない。お前の実力だけで言えば戦力になることはあっても足手まといになることはないだろう。小百合に鍛えられているだけはあるという事だ」


自分の実力を評価してくれるという事は康太としては嬉しいのだが、多少過大評価なような気がしてならなかった。単純な体術でも完敗していたのだ。魔術を組み込んだ戦いとなればはっきり言ってついていくことすらできないだろう。


「まぁ不安なのはわかる。だがそこまで大した事でもない。お前でも十分に対応できるだろう」


「はぁ・・・それで一体何すればいいんですか?これを協会に運ぶとか?」


「そのくらいなら自分でやる、今回はこの辺りにうろついている魔術師を排除したくてな。ちょっとその拠点を潰すのを手伝ってもらいたい」


ちょっと買い物手伝ってほしいくらいの気安さで放たれた言葉を理解するのに康太は少しだけ時間がかかった。


魔術師を排除したい。これはまだいい、恐らくこの周辺に奏にとって不利益となる魔術師がいるのだろう。それを排除したいという事を考えるのは恐らく魔術師としては自然な考えだ。やや攻撃的なのは否めないが。


次に拠点を潰すという言葉、これは恐らくそのまんまだろう。別に隠喩や揶揄をしているわけでもない直接的な言葉。それ故に康太は理解が遅れていた。


「あの・・・えと・・・それは間違いなく戦闘になるのでは・・・?」


「当たり前だろう?まぁ問題ない。相手の人数もそこまで多くないんだ。本当は私一人でやるつもりだったんだが、お前達がいてくれれば作業が楽になる」


戦うというより拠点攻略を作業というあたり、この人が小百合の兄弟子であるというのがよくわかる。


攻撃的かつ好戦的、何より自分の都合に周囲の人間を巻き込むあたりがそっくりだ。康太が幸彦と真理の方に視線を向けると、二人はもうどうしようもないだろうという諦めた表情をしていた。


「わかりました・・・お手伝いします・・・でも詳しい話とか聞いてもいいですか?相手の特徴とか・・・その・・・事情とか」


「もちろん話すつもりだ。とりあえずこれを見てくれ」


奏はそう言って端末を取り出して地図を映し出す。そこにはこの辺り周辺の地図が載っており、自分たちがいる建物を中心にしている地図であることが見て取れた。


そしてこの建物を中心にして大きな円が作り出され、その周囲に幾つかの円が作られているのがわかる。


「これ・・・地図ですか?」


「これはこの周辺の魔術師の勢力図だ。この建物を中心とした円が私の魔術師としての勢力圏内・・・そして今回問題になっているのはこれだ」


奏が指差したのは、奏の勢力円の中に入っている一つの小さな円を指さした。

奏の勢力円の中にすっぽりと収まったそれを見て康太は眉をひそめる。


「・・・この人達が問題なんですか?」


「そうだ・・・この辺りは私が儀式で使ったり魔術師に面倒を起こさせないために結界などを張っているんだが、再三の警告を無視して居座り続けるバカどもでな・・・いい加減うんざりしていたんだ」


「それで・・・追い出すんですか?」


「追い出すというのは正確ではないな。連中は警告している時も手を出されることはないだろうと思っている。だからしっかりと思い知らせてやる必要がある」


思い知らせる。ただの言葉にしては随分と棘のある言葉だ。ここを拠点にしている魔術師がそれくらいの実力であり、どれくらいの人数なのかは知らないが、小百合だったら叩き潰すという言葉を使っていたことは想像に難くない。


「正面からは私が行く。お前達は裏から入り込んで攪乱してくれればいい。幸彦は康太と一緒に行動しろ。真理は周囲の警戒及び結界をはれ、面倒が起きても一般人に気付かれることがないようにな」


「それはいいけど、協会にはなんて報告する?さすがに奏姉さんが動くとなると最低限の報告くらいはしなきゃいけないんだけど・・・」


「若手の魔術師の教育とでも言っておけ。実際やっていることは教育とそう遠くない内容なんだ。というより教育そのものだな」


「随分と物騒な教育だね・・・まぁ一応話は通しておくけど・・・」


「もし渋るようなものがいれば私に言え、直接話を付ける。私が直接出ていけば文句を言うやつも少なくなるだろう」


「そりゃそうだ。触らぬ神に祟りなしってね」


神というのは言い過ぎだぞと言いながらも奏は悪い気はしていないようだった。実際奏の実力は確かなものだろう。魔術師として戦っているところは見たことがないが、敵にしてはいけないとまで言われた智代の正当な後継者なのだ。その実力は智代と同程度であると思っていい。そんな魔術師に逆らうものがいるかどうか、甚だ疑問である。


「ていうか、魔術師ってこんな勢力争いみたいなことしてるんですね・・・こういうの初めてみました」


康太は端末に表示されている地図とそれぞれの勢力範囲を見ながら目を丸くしていた。今まで修業している中でも勢力図のようなものは見たことがない。三鳥高校の魔術師同盟が学校を拠点にしているようなものだろうが康太はどうもイメージしにくそうにしていた。


なにせ勢力図など見せられたところで今まで自分はそんな勢力争いなんてしたことがないのだ。


そもそも魔術師たちが勢力争いをすることに対する意味を理解できないのである。


「そうか・・・康太君がいつもいるのって師匠のお店の近くだもんね・・・あのあたりなら勢力争いの必要もないか・・・」


「あぁそうか・・・あの店は小百合が継いだんだったな・・・なるほど、それでは経験したことがないのも頷ける」


「え?あの辺りってなんか特別なんですか?」


小百合が智代からあの店を引き継いだのは康太も知っているが、あの店の周囲に何かしら特別な意味があるという事は知らなかった。


そもそもあんな怪しい店にそこまで執着する何かがあるとも思えなかったのである。


「あの店の周囲は一種の中立地帯のようなものでな、魔術的な道具を置いてあるから当たり前なんだが・・・昔近くで抗争を起こそうとした魔術師たちを私達で殲滅したことがあってな・・・」


「それ以来、あの周りでもめ事を起こそうとするとただじゃすまないって話が協会中に広まってね、あのあたりで問題を起こすどころか、近くに拠点を置く魔術師すらいない状況なんだよ」


「・・・なるほど・・・そう言う事情があったんですか・・・」


何かにつけて店などは標的になりやすい。だが時として大きな店や必需品などを扱う場所は戦争などにおいても中立地帯になることがある。


そう言う店に重きを置いた事情かと思ったのだが、実際は智代をはじめとする弟子たちが周囲の魔術師を一掃したことによって生まれた安全地帯だったのだ。そう考えるとどれだけその当時の彼らの活躍が恐ろしかったかがわかる。


なにせすでに何年も経過しているにもかかわらずそう言った状況が続いているのだ。


いくら魔術的な道具を取り扱っているとはいえそこまでの環境はなかなか出来上がるものではない。


「てか・・・何でそんなに勢力争いなんてするんですか?別にそんなの気にしなくてもいいんじゃ・・・それぞれ勝手にってわけにはいかないんですか?」


康太はまだ魔術師における生活というものをよく理解していない。生活サイクルは魔術師のそれでも実質的な魔術師としての活動は全くしていないのだ。そう思うのも無理もないかもしれない。


そしてそれを理解している幸彦と奏はどう説明したものかと首をかしげていた。


「康太君、魔術師におけるもっとも忌避すべき内容は何ですか?」


「えと・・・魔術の存在の露呈ですか?」


「その通り。拠点を置いて勢力を作るというのは、同時にその個所の治安を守ると同時に魔術的な問題が起きないように監視下に置くという意味もあるんです。言い方を変えればその陣地内を統治すると言えばいいでしょうか」


「あー・・・なるほど・・・その陣地内で起こった面倒事を解決して、なおかつ他の所も監視、ついでに自分が活動できる場にもなると」


「そういうことです。まぁ私たちの拠点の場合はやや事情が異なりますが大抵の魔術師は自分の拠点を持っていますからね」


魔術師というのもいろいろ事情があるんですよという真理の説明に康太はなるほどと手を叩いて納得していた。


実際全てを納得できたわけではない。自分の陣地に他のチームが入っているのだとしてもそれを排除する意味に関しては理解しかねる。


いっそのこと同盟でも組めばいいのにと思っていると、その考えを読んだのか真理は小さくため息をついて奏の方を向く。


「今回のような場合、互いに手を取り合う以外の方法はどちらかが出ていくしかありません。奏さんの場合、件の魔術師たちと手を組むつもりはないのでしょう?」


「当たり前だ、あんな程度の低い連中と誰が組むか」


「という事なので、すでに交渉は決裂、自分の庭によそ様がいるとわかっていい顔をする人はいません。だからこそ追い出そうとしているんですよ」


「んー・・・まぁ納得できる話ですけど・・・もうちょっと穏便に済ませるとかなかったんですか?」


「穏便に済ませたいから警告した、そしてそれを無視された。なら実力行使しかないだろう。私は別にそう言う手に出ても構わないんだ」


奏の言葉に思い出す。そう言えばこの人は小百合の兄弟子だったと。


だが最初に警告を出す程度のことをするあたり小百合よりは常識的なような気がしてしまう。もっともまだ奏のことを良く知らない康太からすればこの判断が正しいかどうかも不明だが。


「ちなみにその魔術師たちはなんかやらかしたんですか?いろいろと一般人に迷惑かけたとか?」


「いやなにも?ただ目障りだから消えてほしいだけだ。しいて言えば気に食わん動きをしているくらいだ」


康太は頭の中で先程の考えを否定する。奏は小百合と同じかそれ以上に危険な考えをしている。気に食わないから排除するという端的にして単純な理由だ。これ以上ない程に。


「でも協会としてはあんまり派手なことはしてほしくないんだよなぁ・・・そのあたり分かってる?」


「当たり前だ、こちらとしても事を大げさにするつもりはない。飽くまでこちらの意志を通させるだけの事だ」


「・・・ぶっちゃけどういう風にするんですか?拠点攻撃って言ってましたけど」


「単純だ、攻撃を仕掛けて出ていけと再度勧告、それを聞かないようなら拠点ごと崩壊させる、ただそれだけだ」


要するにいう事を聞かないようであれば今まで積み重ねたものをすべて無に帰すことになるぞという事だ。


警告の段階で似たようなことはすでに告げているだろうが、恐らく相手もそこまで大げさなことはしないと思っているのだろう。


普通の魔術師なら互いに話し合いをして折り合いをつけるところなのだろうが、奏は普通とは少し違う魔術師だ。


小百合と同じか、それ以上の危険性を秘めた魔術師。少なくとも軽視していい存在ではないのは確かである。


「でも奏さんを敵に回すってすごいですよね・・・よくそんなことする気になるな・・・俺なら即退去しますよ」


「私も最近は第一線から退いていたからな・・・仕事の忙しさにかまけて魔術師としての活動が少なくなっていたからこそ、こういう舐め腐った連中が出てくる。そのあたりは私の失態だな・・・師匠がこの場にいれば情けないと言われているところだ・・・」


「・・・ってことは、相手は魔術師としてはそれほど活動していなかった連中ってことですか?少なくともここ数年の間・・・?」


「いい読みだ・・・恐らく最近本格的に活動しだした連中だろうな。私のことを知らないのも頷ける・・・学生・・・あるいは社会人になりたてか・・・どちらにしろまだ魔術師として一人前とは言い難い」


魔術師というのは修業を終えると独り立ちし、それぞれ活動を開始する。大概幼いころから修業をしていれば高校生、あるいは大学生になるころには一人前の魔術師になれるだけの修練は積めるだろう。


そしてそう言う魔術師たちは独り立ちをすると同時に今まで師匠の下で活動していたところから自分の拠点を持って活動する。


師匠から一人前であると認められるのが必須だが、逆に言えばそれさえ終えてしまえばあとは自由に行動できるという事でもある。


今までの協会内での活動も師匠を通じて行っていたことをすべて自分でやるとなると情報が足りていない可能性もある。


その為奏がどれほど危険な存在であるかを理解していないことも考えられる。


「実力的には私と同じか・・・恐らくそれ以下でしょうか?」


「真理と同じということはないだろう。恐らくもっと下だ。お前達は小百合に良く鍛えられているが、他の魔術師も同じ指導を受けているというわけではない。今回の康太の実力を見てそれがよくわかった」


「えと・・・褒められてるんですかね?」


「当然だ、特に康太、お前は自分の努力とその結果をもっと自覚するべきだ。まともな修業を始めて五カ月程度でその実力を持っているというだけで称賛に値する」


今まで真正面から褒められるという事が少なかったために、奏にそう言われて照れてしまうが、実際奏も幸彦も康太のことを高く評価していた。


もちろん魔術師として未熟であるということは否めない。まだまだ伸びしろがあるという事もあり今後に期待するという意味も含まれているが、何より修業時代にすでに実戦を数回経験しているというのは大きい。


基本的な魔術師の修業というのは魔術を覚えてそれをどれだけ扱えるかによって変わる。


言ってしまえば文のように魔術を多く使え、なおかつ応用もできても実戦経験を持っていなかったのと同じようなものだ。


それに比べると康太や真理の修業は常に実戦的、魔術を使おうと使わなかろうと、勝てばいいという至極単純な根本理論に基づいて行われる修業とは大きく異なっているのがわかる。


魔術師として卑怯であろうと、魔術師として異端であろうと、小百合のその考えの下に康太たちは指導されてきた。そしてその指導こそ正しいものであると思っている。


何事も負けては意味がない、そう言う考えなのだ。


「小百合は師匠としてはだいぶ才能があるらしいな・・・お前達を見ているとそれがよくわかる・・・弟子たちからの信頼も厚そうだ」


「えと・・・どうでしょうか・・・?」


「まぁ、それなりに信頼はしてますけど・・・っていうか奏さんのお弟子さんは・・・」


「あいつらはもう一人前だ。少なくとももう私の手からは離れている。呼び戻すことも考えたがこの程度のことでわざわざ呼ぶこともないと思ってな・・・」


この程度の事。魔術師の拠点を潰しに行くというのにそれをこの程度というあたり奏がどれだけの修羅場をくぐってきたかがわかる。


実際どれくらいの実戦経験を積んだのかもわからないのだ、康太の十倍、いや百倍近い経験があると思っていいだろう。


「奏姉さんももう少し落ち着ければ魔術師として活動できるんだけどね・・・仕事は忙しいんでしょ?」


「まぁな・・・こればかりは仕方がない。一つの会社を任されているんだ、それなりの責任もある・・・なんにせよ実行は今夜、それまでは各自準備でもしていろ。夕食くらいは奢ってやる」


「お、太っ腹だね。じゃあ高級なものでもごちそうになろうかな。二人は何が食べたい?」


「なんでもいいのであれば・・・私は中華などがいいですね、康太君は?」


「俺はがっつり肉でお願いします!動くならなおさら燃料入れておかないと」


「わかりやすい連中だ・・・まぁいい、私の知っている店でよければ連れて行ってやる」


奏としても食事の機会を作れるのは悪い気はしていないのか、薄く笑みを浮かべながらその場にいた全員を見渡していた。


日曜日、誤字報告を五件分受けたので合計三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ