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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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奏の提案

「あぁあとそれと、お前の弟子二人をこの後借りてもいいか?」


『は?何かするんですか?』


「あぁ、丁度一つ問題を抱えていてな。それに同行させるつもりだ」


『真理はともかく、康太では足手まといになるのでは?奏姉さんが思っているほどあいつは実力があるというわけでは・・・』


「実際に手合わせをしてみて実力的に問題ないと判断した。それとも不服か?」


その言い方は卑怯ですよと小百合は小さくため息をついてからわかりましたと了承してみせた。


兄弟子には逆らえない。特に智代の一番弟子である奏は実力的にも立場的にも三人の弟子の中で最も上に位置する魔術師なのだ。


「奏姉さん、康太君を寝かせてきましたよ・・・って電話中か」


「構わん、相手は小百合だ、幸彦、丁度いいお前も付き合え。今日はどうせ暇なんだろう?」


「え・・・?」


話の流れは全く見えていなようだったが、幸彦の表情はあまり良いものとは言えなかった。そして対照的に奏の表情はとても楽しそうである。


明らかに面倒事に巻き込むつもりなのだなという事が理解できたからである。奏がこういう表情をしている時は大抵が面倒なことをするつもりなのだ。長い付き合いだ、それくらいはわかる。


「あの・・・一応聞いておくけどまさか真理ちゃんや康太君も巻き込むつもりかい?」


「問題でもあるか?真理は実力的に十分、康太は多少荒削りではあるものの足手まといにはならん。経験を積ませる意味でも連れて行ってやるべきだ」


「いやいやいやいや・・・康太君はまだ時期尚早じゃないかい?何度か実戦は経験してるらしいけど・・・それでもまだ」


「実戦を経験しているのであれば問題はない。小百合、康太は何回実戦を経験した?」


『・・・四回ほどです。まだそこまで経験豊富というわけでは』


「四回か・・・思ったよりいろいろやっているのだな。それなら十分だ、お前の弟子達を借りるぞ」


奏はそれ以上の返答は聞かないというかのように通話を一方的に切って見せる。その様子を見て幸彦は額に手を当てて項垂れてしまっていた。


「奏姉さん、いろいろ強引過ぎるよ・・・康太君や真理ちゃんに何も説明していないんでしょう?」


「もちろんだ。まぁ話して拒否したところで連れていくがな・・・お前はどうなんだ?ついてくるか?」


「・・・姉さんとあの二人だけにはしておけないよ・・・僕もご一緒させていただきます。ただくれぐれもいうけど、無茶はしないでよ?こっちだっていろいろ都合があるんだから」


「あぁそうだったな・・・まぁ安心しろ、今回は協会との面倒事ではない。むしろ協会に協力してやっていると言っていい」


若干不穏な言葉が聞こえたが、幸彦はとりあえず聞き流すことにした。康太の様子を見ている真理にもこのことを伝えておくべきかもしれない。


何より気絶している康太にもある程度状況を教えてやりたいところだ。


だが脳震盪で倒れている以上派手に動かしたりはしたくない。自然に目覚めるのを待つしかないだろう。


「ところで一応聞いておくけどさ・・・今回は何するの?まさか組織の殲滅とか言わないよね?」


「私をなんだと思っているんだ・・・今回はそう言うのではない、ただの教育だ。私の活動範囲内でうろちょろしている魔術師が何人かいてな。何度も警告しているのに一向にやめようとしないから、少しお灸をすえてやろうと思ってな」


それを聞いた瞬間、幸彦はただ事にはならないなと言う事を理解してため息をつく。


もっとしっかり術師としての道具を持ってくるんだったと後悔しながら康太たちのいる部屋の方を見る。


小百合に言われていたことで二人ともそれなりの装備を持ってきているようだが、それがどこまで通用するかはわかったものではない。


「さーちゃんや師匠もそれなりに喧嘩っ早いけどさ・・・奏姉さんも結構なもんだよね・・・警告無視したら即攻撃って」


「何を言うか、警告してやっただけありがたいと思え。昔の師匠なら警告などせずに即座に殲滅しただろう。小百合だって相手のことをどうこう言う前に手を出すだろうが。あいつの場合は先に手を出されることの方が多いかもしれんが・・・」


自分はまだましだと思っている時点で始末に負えないが、確かに若いころの智代に比べれば穏やかな方だ。


智代は昔は本当に恐ろしい人物だった。今でこそあのようになっているが昔は気に入らないことがあれば即殲滅が当たり前だったのだ。


自分達弟子に対してはそれなりに優しくも厳しい魔術師だったが、敵に対しては一切の容赦なく叩きのめしたものである。


そんなところまで似なくてもよいのだがなと幸彦はため息をつく。


康太や真理は比較的まともな部類だが、それもこれからどうなるかわかったものではない。


少なくとも二人にはまともでいてほしいものだと幸彦は小さくため息をつく。


「なんにせよ動くのは夜だ。お前も少し休んでおけ。私はその間仕事と、こいつらの中身のチェックをしている。康太が起きたらお前からいろいろ話してやれ」


「・・・自分で話した方がいいんじゃないかい?特に事件と槍の扱いに関しては」


「・・・気が向いたらそうする・・・あいつがいつ起きるのかにもよるな」


気絶したままの康太では話すこともできない。奏はとりあえず幸彦が運んできた荷物の中身をチェックする作業に移っていた。


その視線が時折部屋の向こう側にいる康太の方に向かっていたのに気付いた幸彦は小さくため息をつく。











康太が目を覚ましたのは十五時を回った頃だった。


未だ体に残る運動後独特の倦怠感と頭に鈍痛を感じながら体を起こすと同時に先程までの戦闘を思い出し目を見開いて周囲の状況を確認しようとする。


先程まで自分がいた部屋とは違う場所にいるという事はすぐに理解できた。そして自分がソファに寝かされていたということに気付くと、自分は気絶させられていたのだという事を理解し小さくため息を吐いた。


奏と槍を交え、ギリギリのところで防ぐことができていたところまでは覚えている。だが最後の一瞬、奏の構えが急変した辺りからの記憶が非常にあいまいだった。


奏が攻撃してきてそれが自分に直撃したという事はわかる。特に康太の顎が痛みによってその事実を物語っていた。


どんな攻撃だったのかはわからない。魔術ではない、肉体的な攻撃だったのにもかかわらず、視界の外、いや意識の外から襲ってきたと言ったほうが正確だろうか。


本当に、いつの間にかやられていたというほかない。これほどまでにあっさりと気絶させられるという事は相当な実力差がないとあり得ない。わかっていたことだがその事実を突き付けられるとなかなかに悔しいものがあった。


「おや康太君、目が覚めましたか」


聞きなれた声に康太は声のする方向に視線を向けると、そこには濡れたタオルを持った真理がいた。恐らく先程まで康太の額にはあのタオルが乗っていたのだろう。


「あ・・・姉さん・・・ども・・・どれくらい寝てましたか・・・?」


「そんなに長くありませんよ。奏さん相手に良くもったというべきでしょう。これで顔を拭いてください。まだ万全ではありませんから」


「ありがとうございます・・・傷治してくれたんですか?」


「傷と言っても大したことはありません。小さな痣や打撲程度のものです。頭はどうやら若干毛細血管に傷が入っているようですが、この程度であればゆっくりとしていれば治せますよ」


今回康太が受けたのは基本的に打撃ばかりだ。刃での攻撃には特に注意していたために一撃も斬撃は受けていないがその分打撃を数ダース近く受けてしまった。


全身にまんべんなく打撃の痕、そして強い一撃を頭部に受けたことで若干脳の血管に傷が入っている程度だ。


このくらいなら激しい運動をしている際などはよくあること、康太が気にするほどの重症ではないらしい。何よりこれくらいの傷は小百合との訓練の時にもよく受けているのだ。


「あ・・・てか荷物は全部運んだんですか?」


「えぇ、今奏さんが荷物のチェックをしているところですよ。あとは残りの仕事を片付けるとかなんとか」


「あー・・・そうですか・・・一応顔だけでもみせとかないと・・・」


一人勝手に気絶したままではさすがにばつが悪い、康太は濡れたタオルを額に当てながらゆっくりと立ち上がりふらふらしながらも奏と幸彦のいる部屋へと向かっていった。


「あ、康太君。よかった起きたんだね」


「幸彦さん・・・心配させたようですいません・・・」


「気にしなくていいよ、奏姉さん相手じゃしょうがない。奏姉さん、康太君が目を覚ましたよ。一応元気そうだ」


「ん・・・起きたか・・・すまんが少し待っていろ。もう少しで全部片が付く」


奏はパソコンを操りながら何かの作業をしている。恐らくは仕事なのだろう、画面から目が離れることはなく高い集中を維持しているのはわかる。


康太は奏から一度視線を逸らすと、周囲に置かれた段ボールやその中身だったのだろう物品の数々を目にすることができる。


それらがすべて魔術的な意味を持った何かであるのかは不明だが、今回自分たちが運んできたものであるのは間違いなさそうだった。


「体の調子はどうだい?そこまでひどくないという話だったけれど」


「はい、ちょっと痛みがあるくらいで全然大丈夫です。やばそうな攻撃だけは防いでましたから・・・」


「うんうん・・・奏姉さん相手にそれだけできれば十分立派だよ。さーちゃんもなかなか鍛えに鍛えてるみたいだね」


実際に手合わせをしている幸彦としても康太の実力がそれなりにあるというのは嬉しいのだろう、笑みを浮かべながら近くにあったダンボールを部屋の端へと移動させていた。


「あ、幸彦さん、俺も手伝いますよ?」


「ダメだよ、康太君はまだ休んでたほうがいい。ダメージ抜けきってないだろう?」


「そうですよ、適当に座っててください。まだ完全に治ったわけじゃないんですから」


体のダメージというのは負傷箇所を治しただけで抜けるものではない。肉体的、あるいは精神的な疲労まですべてが回復しないと全快とは言い難い。


特に康太の場合高い集中を維持し続けたうえに攻撃を受け続けた、その為肉体的にも精神的にも疲弊しているのだ。


「あれ・・・?そう言えば俺の槍は?」


「それならそこに立てかけてありますよ。分解しておこうとも思ったんですけど康太君が自分でやったほうがいいと思いまして」


「あぁ・・・そうですね。確かにそうかも」


自分の武器は自分で始末をつける。それは小百合が良く言っていることだ。武器に関わらず自分が使ったものは自分で片付けるという至極当たり前の事なのだが。


康太はとりあえず槍を手に取って分解の魔術を発動する。


節で接合されていた槍は一人でに分解されていきその部品はバラバラに床に落ちていった。


その部品を自分の腰についているホルスターにしまうと、康太は一度腰を下ろすことにした。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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