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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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やっちまった感

「お待たせ、これで全部だよ、真理ちゃんも一緒に・・・ってあーあ・・・やっちゃったの?」


幸彦がすべての荷物を持って、一度車をどこかの駐車場に止めてから来たのだろう、真理と一緒にやってきてその部屋の状況を見ると同時にため息をつく。


そこには白目をむいて倒れている康太と、その康太の傍らで額に手を当てて項垂れている奏の姿があった。


その時点で幸彦もその後ろに続いてきた真理も『あぁやってしまったのだな』とこの状況を察することができていた。


「来たか・・・あと数十秒早ければこいつの奮闘を見ることができたんだがな・・・タイミングの悪い」


「あちゃー・・・完全に伸びちゃってるね・・・加減とかしてあげなかったの?」


「もちろんした・・・が、なかなかどうしてきちんと対応してくれるのが嬉しくてな・・・ちょっとだけ本気を出したら・・・」


「この様と・・・真理ちゃん、軽く見てあげてくれる?」


「はい。打撲はそこまでひどくはないですね・・・軽い脳震盪の様ですが・・・」


「なかなかいいのが入ってしまったからな・・・私としたことが熱くなりすぎたか・・・」


奏としても久しぶりに槍での訓練をしたというのもあっただろう、小百合の弟子が自分と同じく槍を使うというのも理由の一つかもしれない。予想以上に興が乗ってしまい、少しだけ本気を見せてやるかと思い軽く動いたところ、最初の数瞬は康太もその対応に驚きはしたものの対応できていたのだ。


もちろん熟練者のような完璧な防御とは程遠い、どちらかというと無様な回避だったがそれでも致命打に対しての回避はできていたのだ。


なかなかしっかりと対応してくれる康太に徐々に楽しさが上回り、なおかつ康太が反撃までしてくるという事もあってほんの少しではなく一瞬本気で蹴りを放ってしまった。


その一撃が的確に康太の顎を捉えたのである。


脳が揺らされ、康太はその場に倒れこんでしまった。そこに丁度幸彦たちが現れたのである。


「少しの間安静にしていれば大丈夫でしょう・・・全身にあざができていますがそこまで大げさなことではありません。この程度なら師匠との訓練でもよく作っていますよ」


「そうか・・・それなら安心した・・・私としたことが加減を誤るとは・・・」


「それだけ康太君が実力を付けたという事でしょう。教えてあげたらきっと喜びますよ」


完全に気絶してしまっている康太を見ながら奏は複雑そうな表情をしていた。実力を見るだけといいながら自分の楽しさを優先してつい倒してしまったのだから。情けなさと不甲斐なさで奏は自己嫌悪に陥っていた。


後で詫びでもしなければと思いながら康太の槍に目をやる。


先程まで特に気にしていなかったが、康太の槍は竹をモチーフにして作られたデザインをしている。


節の部分を取り外せるようになっているのだろう、その槍を握って軽く振るってみるとその槍がなかなか上等なものであることがわかる。


小百合の親心のようなものだろうか、弟子にはいいものを使わせてやりたいと思っているのだろう。


奏は小百合の一面を理解して僅かに微笑むとその槍を康太の近くにおいてやる。


「幸彦、康太を隣の部屋に寝かせてやれ。水道もあるから濡れたタオルでもかけてやるといいだろう」


「了解です。にしても結構頑張ったんだなぁ。奏姉さんが本気になるだなんて」


「私もまだまだ若いという事だろうな・・・つい力を入れてしまった・・・訓練というもの自体久しぶりだったからな、仕方がないか・・・」


最近は仕事と魔術の訓練で精いっぱいで近接戦闘の訓練などほとんどできていなかった。だがそれでも体は槍の扱いはしっかりと覚えているだけあってだいぶ戦えた。康太との戦いで懐かしい槍の扱いに少しだけ熱が入ってしまったのは否定しきれない。


「そうしてると昔に戻ったみたいだよ?なかなか悪くないんじゃない?たまには運動をするのも」


「ふむ・・・そうだな・・・定期的に相手でもしてやるか・・・」


奏は携帯を取り出してどこかへと電話をし始める。その相手は自分の弟弟子である小百合だった。


『はい・・・なんでしょうか?』


「久しぶりだな小百合、今お前の所の弟子を気絶させてしまったところだ」


『・・・そうですか、まぁそうなるとは思っていましたが・・・どうですか康太は?』


「なかなかだ、久しぶりに楽しかったよ。そこで頼みがあるんだが、週一くらいでこいつを私の所に預けてくれんか?」


『・・・は?それはなぜ・・・?』


「なかなかいい運動になったからな、私が手ほどきでもしてやろうかと思ってな」


小百合としてもこの提案は予想外だったのか、電話の向こうでどうしたものかと項垂れているのが見えるようである。


だが兄弟子のいう言葉に逆らえるはずもなく、何より康太の為を思うのであればその方がいいというのは理解している。


槍の扱い、いや武器の扱いに関しては奏は小百合よりも何倍も上手なのだ。そう言った人間の下での指導は何よりも良い経験になるだろう。


『構いませんが・・・さすがに週に一度だと康太にも奏姉さんにも負担になるのでは?それにそこまで移動するのも・・・』


「問題ない、協会に門を使わせてもらうように手続きはしておく。お前の住んでいるところからなら問題なく使えるだろう」


何より私の頼みだからなと言いながら奏は薄く笑う。奏は小百合と違ってむやみやたらと敵は作らない。むしろ味方の方が多いくらいだ。協会にもそれなりにコネがあるため多少の我儘も問題なく通るのである。


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