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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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康太への評価

槍の振りを完全に避け、懐に向けて突進し体を預けようとした康太に対して奏の動きは非常に冷静だった。


康太の動きを読んでいたのか、それとも想定のうちの一つだったのか、奏は体を反転させるついでに康太に槍で攻撃すると同時に回し蹴りの態勢に入っていた。


槍の攻撃より間違いなく回し蹴りの方がダメージが大きいだろう。康太は即座に判断し槍同士をぶつけて奏の体の捻りを止めようとするが槍の攻撃が妙に軽いことに気が付いた。


そしてしまったと思った瞬間にはもう遅い、康太に向けて放った槍は布石、そして回し蹴りの挙動も槍を介して体の回転を止めようとさせるためのフェイント。

康太が回転を止めようと構えたところに、奏はとびかかっていた。


回転しながら康太の腕と肩に手を置き、その首に両足をかけて全体重をかけることで首投げを仕掛けてくる。


当然康太はこの攻撃を避けることができなかった。足で首と顔を捕まえられ、簡単に倒されてしまう。


「なかなか動きは悪くない。着眼点もいいし判断も悪くない。だがもう一歩足りんな。実戦経験の少なさか・・・いや対戦相手の少なさというべきか・・・相手との駆け引きがまだまだできていないな」


「んぐぐぐ・・・!ぐぅひいっす・・・!」


足で完全に顔と首を抑えられているために康太は満足に息をすることもできずにいた。


人によってはこの状況に歓喜するのだろうが、康太にとっては苦痛でしかなかった。


「素直なんだか狡猾なんだかよくわからん攻め方をする時もある。防御に関してはギリギリのところで踏ん張れるだけの力があるのに、攻撃の方はお粗末ときた・・・さてこれはどうしたものかな・・・」


「ふぁなふぇさん・・・!くぅひっす・・・!」


「ん・・・あぁすまんすまん・・・少しは役得だっただろう?」


「そ・・・そんな余裕ないですよ・・・!」


女性の足に顔を擦り付けるチャンスという意味では確かに役得だったかもしれないが窒息する寸前ともなればそんな余裕ははっきり言ってない。


何より康太は締め付けられたりすることに興味はないのだ。そう言った性癖を持ち合わせているのであればよかったのだろうが、生憎康太にそんな趣味はない。


「とにかくまぁまぁだ。とりあえず及第点だけはやっておこう。槍を扱って数か月にしては上出来すぎる動きだ」


「あ・・・ありがとうございます・・・ちなみに何点くらいなんですか?」


「そうだな・・・百点満点中十五点といったところか」


「・・・それって思い切り落第点なんじゃ・・・」


百点満点中十五点でははっきり言って赤点もいいところである。合格点、つまり及第点を六十点としてもその半分にすら届いていない。


それでは及第点とは言えないのではないかと思う中奏は呆れながら首を横に振っていた。


「何を言うか。お前はまだまだ槍を扱い始めて数か月のほぼ初心者。そのお前が百点中十五点取れただけでも十分すぎる。私だってまだまだ百点どころか八十台後半をうろついているんだぞ?それに比べれば十分すぎる」


自分が百点ではなく、八十代後半の点にいるというのは康太は少しだけ驚いていた。


まだまだ彼女に上達の余地があるという事なのだろうが、だからこそ康太はその事実に驚き、同時に驚愕していた。

まだ上達するつもりでいるのかと。


「ちなみに、お前は槍を扱いながら魔術の発動はできるのか?」


「は・・・はい・・・慣れてる魔術なら・・・」


「たとえばどんな魔術だ?」


「えっと・・・分解と再現、後蓄積です・・・他のはまだ槍を扱いながらだと難しいですね」


「・・・あぁそうか・・・小百合が覚えている魔術をそのまま覚えているのか・・・なるほど、それではなかなか使い勝手が悪いだろう・・・お前は確か二月から魔術を学び出したんだったな?」


「はい・・・そうですけど」


「そうか・・・よし、背中を向けろ」


「え・・・?どうして?」


「いいから向けろ。いいものをやる」


康太が背中を向けると奏は康太の背中に手を当てて短く集中すると康太の体の中に術式を注ぎ込んでいった。


「あ・・・あの・・・これって?」


「私が知っている中でなかなか汎用性の高い魔術をお前に教えた。扱いはそこまで難しい部類ではない。ものにして見せろ」


一体どのような魔術であるかを教えるつもりはないらしく、術式だけ渡すと奏は槍を持ったままふたたび距離をおいて見せた。


その姿からはまだまだやるぞという気迫が見え隠れしていた。


「まだ幸彦が荷物すべてを運び終えるまでには時間がある。それまでは付き合ってもらうぞ?」


「・・・よろしくお願いします」


むしろ頼みたいのはこちらの方なのだと言わんばかりに康太は跳ね起き、槍を構えて奏に矛先を向ける。


一度や二度の敗北では全く物怖じもしない康太の姿を見て奏は薄く笑みを浮かべる。


こういったタイプは嫌いではないのだろう、康太が槍を構えながら突進してくるのを見ながら幼き日の小百合を思いだし、奏は僅かに感慨深くなっていた。


だがそれはそれこれはこれ、しっかりと康太を叩きのめすことには変わりないらしく、その槍の冴えは今まで以上のものになっていた。


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