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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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オリジナル

動いた、康太がそう思った次の瞬間、康太の眼前に槍の矛先が突き立てられていた。


とっさに首を横に曲げて回避しようとすると、今度は脇腹に柄部分がめり込んでいた。


見ているのに、その体を見て反応しようとしているのに、まったく体がついていかない。


先程の木刀のそれと速度が違いすぎる。


先程までの加減した木刀の振りに目が慣れてしまったというのもあるかもしれないが、急激な速度上昇に体も全くついていくことができなかった。


唯一できるのは相手の刃を防御することだけ。それ以外の柄の部分での打撃系攻撃はほとんど体で受け止めるしかない状況になっていた。


「どうしたどうした、先程までの防御が全くできていないぞ!」


「わかって・・・ます!」


相手の槍の振りが速いというのもあるが、木刀などと違い槍は刃と柄による二種類の攻撃ができるというのも康太の防御を遅らせる原因になっていた。


木刀はただその刀身に意識を向けて対処すればよかった。だが槍は刃にも柄にも意識を向けなければならない。


槍だけの扱いでは攻撃に対処しきれないのである。


時には槍をぶつけ合い、うまく受け流したり対処することができるのだが、それが終わった後の反応速度が大きく違っている。


康太は一度対応を終えた後相手の位置と状況を見ようとするのだが、奏はそれをする間もなく攻撃を仕掛けてくる。


逆にこちらが攻撃をしている時はこちらを見ることなく防御して見せる。まるで背中に目があるかのようだった。


康太が全力で対応しようとしても奏はその速度を大きく上回り、何もかも無に帰すほどの勢いで攻撃してくる。


康太にできるのは刃部分だけでも防いで少しでも状況を膠着させることだけだった。


膠着させると言っても康太は延々と打撃を受けているのだ。幸いにして痛いだけでそこまで強烈な一撃は受けていない。速度を高める代わりに全力で康太の体に叩き付けるような重い攻撃をしてきていないのだ。


多少体で攻撃を受けるとはいえ戦闘不能になるほどではない。康太は攻撃を受けながら奏の動きを観察し続けていた。


防いでばかりではどうしようもない。せめて決定的な癖でもあればそれを機に状況を打開できそうなものなのだが、視界に入れ続けてもはっきりとした癖など見当たらなかった。


それどころかその技術の高さに目を奪われるばかりだ。


基礎的な動きは康太とそう変わらない。だがその基礎のレベルが高すぎる。


それこそ今まで積み重ねた修練の違いというものなのだろう。同じことを康太がやるのと奏がやるのとでは何もかもが違うのだ。


元々奏の槍術を模倣したのが小百合の槍術だ。そして康太の槍術は小百合の槍術を模倣したものである。


互いが使う動きや技が似ているのは至極当然。いわば康太は今自分が使っている槍術のオリジナルと戦っているのと同じなのである。


実体験で味わうその技術の高さと自らの未熟さ。どれだけ自分が槍を扱うものとして不足しているものが多いかくらいは理解できている。


だがだからこそ、この状況でも簡単に負けるわけにはいかない。


何年も研鑽してきたオリジナルに勝てないのは当たり前かもしれないが、それでも簡単にやられては康太の今までの努力が簡単に否定されてしまうようで嫌だった。


「なかなか粘るな・・・簡単にやられるのは癪か?」


「・・・そうですよ!・・・っつ・・・!あぁもう!」


反応しようと口を開いた瞬間に額に突きを貰い、若干体勢を崩しながらも康太は槍を操り奏と一定の距離を取ろうとしていた。


相手もリーチは同じはずなのに、なぜか自分が後退しつづけながら防御しなければ対応できなかった。


接近するよりも引いて物を見たほうが対処しやすいかもしれないというのもあっただろう。もしかしたら奏の気迫に押されただけだったかもしれない。あるいは奏が常に接近しながら攻撃をしてきているからという理由かもわからない。


だがどのような理由にせよ、康太は常に下がらなければこの状態を維持できないのだ。


今前進しようものなら、恐らく奏の刃を体のどこかしらにつきたてられてしまう。


だがここまで考えて、康太は一つ疑問に思った。


使っている武器は同じ、違うのは使い手の技術だけ。なのになぜ自分は距離を取ろうとして、奏は距離をつめようとしているのか。


体に打撃を受けながら康太はそれの理由を見つけた。


康太は基本的に持つところを一定にして、振りやすいようにして槍を扱っている。


その方が上手く扱えるし、何より回転も速くなる。


だが奏は常に持ち手を変えながら、持つ場所とその槍の長さを調節しながら戦っているのだ。


距離をいつでも変えられるように、そしてどのような距離でも対応できるように。


もちろん槍という形をしている以上限度はある。だがその素早い距離への対応こそ奏にできて康太にできない技術の一つでもあった。


ならばどうするか。


相手は距離の調節ができる。同じ武器を扱っていながらにして対応できる距離の違いが出てきている時点で優劣ができていると言っても過言ではない。


後ろに下がってばかりでは勝てない。当然だ、逃げている状態では現状維持でしかないのだ。勝てないことは最初から分かりきったことではあるがこのまま続けていてもただダメージを重ねるだけ。少しでも突破口と何かしら得るものがなければただ黙って殴られているのと変わりない。


自分は今、自分の実力を見せに来たのだ。サンドバックになりに来たのでは断じてない。


康太は意を決して槍の持ち手を変え、奏が振り切った瞬間に懐に潜り込んだ。


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