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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」
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康太と幸彦

康太は夕食を終え片づけを終えた後、縁側に座り集中していた。いつも通りとは言えないが、日課の魔術の修業である。


普段使用している魔術もそうだが、今力を入れているのは属性魔術と先程智代に教わった新魔術だった。


解析と構築。両方とも康太にとってはかなり有用な魔術であると言えるだけに早いうちにこの二つの魔術を自分のものにしたいと考えていた。


術式を作り出して発動。大まかにではあるがこの流れは変わらない。解析の場合は術を発動すると自動的に視界が暗転するため特に設定することもない。


構築の魔術の場合、何を構築するのかという事、そしてどのように構築するのかをイメージする必要があるが分解と同じでそこまで苦労することはなかった。もっともそれは今構築の魔術の対象にしているのが康太の槍だからだろう。


構築対象の完成形やその構造を正しく、そして詳しく理解しているからこそ比較的容易に発動ができているのだ。そうでなければ教わってすぐにここまで高い発動率は望めない。


康太が魔術師になってすでに半年近く。康太としてもだいぶ魔術の訓練のコツを掴んできたつもりではあるが、やはりまだまだ新しい魔術を覚えるというのには時間がかかってしまう。


高い集中を維持すれば問題なく発動できるこの魔術。今はまだ他に何かをやっている状態で発動できるような類ではないことは明白だ。


構築は今修得している分解の魔術と対になり、解析は分解の魔術の発動をより容易に、そして効率的にできる魔術だ。


それぞれの魔術は繋がっている。魔術を助長したり、時には対照的な効果を表すこともある。


いくつもの魔術を同時に発動することで最大の威力を有する魔術もあるだろう。文が何度もそうしているように複数の魔術を同時に使う事が康太の新たな目的になりつつあった。


康太はまだ別種類の魔術を同時に発動するということができずにいる。同じ魔術であれば複数同時発動というのもできるようになっているが、別の種類、そして別の属性となるとその難易度は跳ね上がる。


文が当たり前のようにやっていることを康太はできていない。当然だ、康太と文ではそもそも魔術師として過ごした年月が違いすぎるのだから。


「精が出るね。今日あんなにしごかれたのに」


「あ・・・幸彦さん・・・まぁ自分が未熟なのはわかりきってますから、少しでもやることはやらないと」


「ふぅん・・・横いいかな?」


幸彦が座ろうとするのを、康太は頷いて少しスペースを空けることで返した。


康太が集中を解いたのを確認すると幸彦はその横に座り込む。一体なんだろうかと疑問符を浮かべていると幸彦は小さく息を吐いて見せた。


「なんていうか・・・君にはすまないことをしたようだね」


「え?何がです?」


「何がって・・・さーちゃんの事だよ。さっき聞いたんだけどほぼ偶然というか成り行きで魔術師になったらしいじゃないか」


康太は何だそのことかと別段気にした様子もなくしていたが、どうやらその話を聞いた幸彦、そして智代は康太に対して強い同情の視線を送っているようだった。


そして同時に小さくない謝罪の気持ちを持っているらしい。弟子が、そして兄弟弟子が迷惑をかけてしまったと思っているのだろう。


「そんなに気にすることじゃないですよ。そりゃ最初は何だこりゃって思いましたけど・・・今は比較的楽しいですし」


魔術を学ぶという事は康太にとって苦痛にはなりえないものだった。康太が男だからというのもあるかもしれないが超常的な力を身に着けることができるというのは非常に嬉しくもあり楽しくもあるのだ。


子供のころからそれを日課とし義務としてきた生粋の魔術師たちはあまりそう言う考えを持たないのかもしれないが、今までそう言ったものにあこがれはあっても嫌悪感を持ったことのない康太にとって魔術というのは特別な存在のように感じられた。


「でも、さーちゃんと出会わなければ少なくとも君は普通の生活ができたんだし・・・そう言う意味で後悔とかはないのかい?」


「んー・・・後悔がないっていうと嘘になると思いますけど・・・でも今のままでよかったっていう気持ちの方が大きいですね。なにせいろいろできるようになりましたし、仲のいい奴もできましたし」


康太にとって過去を変える力があったとしても、魔術師となったという事を否定するということは最初から選択肢の中にはなかった。


あったかもしれないイフの事を考えるのも嫌いではないが、仮に魔術など全く知らない人生を歩んだとして、その人生がどのような結果をもたらすのか、そしてどんなものになるのかも全く想像できない。


何より今の生活に比べて、どうしても色あせてしまうように思えたのだ。


知らなければいけないことだったかと聞かれるとそれは違うが、康太は魔術の存在を知ることができてよかったと心の底から思えるのだ。それだけは嘘ではない。


「それでもなぁ・・・今さーちゃんもお説教されてるけど申し訳なくてね・・・なんていうか・・・どういったらいいのかわからないけど・・・」


「アハハ・・・まぁそれも何度か聞かれましたけどね。気にしすぎないことにしてます。それに今の生活結構気に入ってますし」


命の危険がなければですけどと付け足しながら康太は笑って見せる。実際魔術を学べたのは非常にありがたいのだが、それによって命の危険があるのは正直勘弁してほしいところである。


当たり前かもしれないが康太はまだ死にたくない。面倒事に巻き込まれて死ぬなんてことはまっぴらごめんなのである。


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