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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二話「魔術師としての第一歩」
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認定試験と術師名

小百合の後についていくと、たくさんの本棚といくつかの机、そして数人の人間が作業を行っていた。何やら机仕事をしているようなのだがそれらが一体なんなのかは康太は見ても分からなかった。


そしてその中の数人が小百合を見て「げ・・・」と声をあげる。本当にこの人嫌われてるんだなと思う中、小百合を押しのけてジョアが話をし始めた。


なるほど、小百合がいると話が進まない可能性があるから進行役として彼女が駆り出されたという事だ。この判断は正しかったかもしれない。


いちいちこんな反応をされたら小百合が一体どんなことをするかわかったものではない。まともに話ができる進行役が必要だというのがよくわかる。


「すいません、支部長と人事部長はいますか?新しい魔術師の登録を行いたいんですが」


「あ、あぁ・・・奥にいるよ、ちょっと待っててくれ、呼んでくるから」


作業をしていた男性が奥の部屋に小走りで走っていくと、数秒してこちらに二人の人物がやってくる。


一人は長身の男性、もう一人は髪の長い女性だ。あの二人が支部長と人事部長であるという事を察した康太は少しだけ姿勢を正した。


「・・・君が何も起こさずにここまで来たことを喜ぶべきかな?クラリス?」


「今日は機嫌が良くてな。お望みとあれば今すぐにでも起こしてやろうか?」


目の前にいる男性と小百合がにらみ合う中、康太はあぁまたかとため息をついてしまう。


この人は何でこうも敵が多いのか。というより何でこんなに敵対心丸出しなのか。


互いに殺気を振りまいている中、他の人間はその圧力に圧倒されてしまっている。だがジョアと康太だけはこの状況に呆れしか覚えていなかった。


もしかしたら最初から話し合うつもりとかがないのかもしれないなと思いながら康太は小百合の服の裾を引っ張る。


「師匠・・・早く事を済ませるんじゃなかったんですか?」


「・・・おっとそうだった・・・今日の本命はこいつだ。こいつを魔術師として登録する」


二人のにらみ合いを止めた康太にその場にいた全員の視線が集まる中、特に強い視線を向けていたのは先程やってきた男性と女性だ。


仮面越しでもわかるほどに目を見開いて康太を見ている。純粋に驚いているという事がよくわかる反応だった。


支部長は小百合に近づいて伺いを立てるかのように小声で話しかける。まるで内緒話をしているかのようだ。


「え・・・クラリス・・・まさか君がまた弟子を・・・?」


「何か文句があるか?魔術の試験なら早くしろ。こいつなら問題はない」


その言葉に近くの女性が支部長・・・大丈夫ですかと声をかけている。やはりこの男性が支部長で間違いないのだろう。


明らかに動揺しているのが見て取れる、そしてジョアがその動揺はごもっともですと何度も頷いているのが印象的だった。


支部長は小百合を押しのけて康太の前に立つと、その顔をよく見ようと真っ直ぐと視線を向けていた。


いや顔をよく見ようとしたというのは正しくないだろう。仮面をつけているため目をよく見ようとしたという方がより正確かもしれない。


「君が・・・彼女の二番目の弟子なのかい?」


「は・・・はい・・・そうです・・・けど」


康太の返答に、支部長はその肩をやさしくつかむ。その手がわずかに震えているのに康太は気が付くことができた。


一体何をするつもりなのかと思っていると、支部長は小さく息をついた後腹から絞り出すような声を出した。


「大変だろうけど・・・頑張るんだよ・・・?私でよければいくらでも力になるからね。いつでも頼ってくれていい」


「あ・・・ありがとうございます・・・」


この反応にはさすがの康太もドン引きだった。一体どれだけ小百合は危険視されているのかわからない。


僅かに震えている声、さらにその仮面の奥の瞳は僅かに潤んでいるのがわかる。そして周囲からの圧倒的なまでの同情の瞳。さすがの康太もこれには本気で動揺していた。


もしかしたら自分は相当やばい人間に弟子入りしてしまったのかもしれない。


「と・・・とにかく登録を済ませよう・・・クラリス・・・ジョア、君たちは書類を作ってくれ。私達で彼の審査をするから」


「・・・わかった・・・妙なことはするなよ?」


「君の弟子に妙なことはしないさ・・・いや・・・できないさ。」


本当に気の毒だからねと小さく付け足す中康太は内心焦ってしまっていた。


何でこうも小百合の弟子だとわかった瞬間にみんなが自分のことを憐れむのかが理解できないのだ。


今からでも師匠を変えることはできないだろうかと康太は本気で思っていた。


小百合とジョアが書類を作っている間、康太は支部長と人事部長の前に立たされる。


「では何でもいい、魔術を一つ使ってみてくれ。それができれば我々は君を魔術師として認めよう」


支部長の言葉に康太は一瞬小百合の方を見る。彼女は最初から心配などしていないというかのようにこちらを向きすらしなかった。


信頼の証なのだろうが、それはそれで少し寂しい気もしてしまう。


逆にジョアは心配なのかこちらをちらちらと見ている。兄弟子として康太のことを気にかけているのだろう。この心遣いは本当にありがたかった。


康太はとりあえずカバンの中からプラモを取り出すと机の上において見せ、少し離れた場所に立ってから魔術を発動する。


分解


康太が覚えた魔術は問題なく発動し、プラモデルの五体をバラバラにして見せた。


「・・・分解の魔術ですね・・・確認しました・・・他からの干渉も確認できず。間違いなく彼が発動した魔術です。支部長、いかがですか?」


「うん。問題ないね。オッケーだ。魔術協会日本支部支部長として、君を魔術師として認めよう」


あっさりと認められたその決定に、康太は小さくため息をついていた。ここまで長かった。ようやく魔術師として認められることができた。


これで当初の目的、魔術を一つ修得して魔術師として認められるというのは完了したと言えるだろう。


これで万が一にも小百合に殺されるようなことは無くなったと言える。


「こっちも終わったぞ。書類だ、確認しろ」


「仕事が早くて助かるよ・・・へぇ・・・『ブライトビー』それが彼の術師名か」


ブライトビー


一体どういう意味なのだと思う反面、まともなのかそうでないのか判断に困る名前だった。


そして書類を眺めている中で支部長は書類と康太を何度か見比べながら小さくため息をつく。


「なるほど・・・了解した・・・このあとはリッケルに会いに行くつもりかい?」


「あぁ、とにもかくにもこいつのタイプを把握しなければいけないからな。鍛えるのはそれからだ」


書類を渡している間にジョアが康太の下に近寄ってくる。そしていくつかの書類を渡してくれた。


「これが君が魔術師であるっていう証明。これからはここに来る時はこれを名乗るようにね」


渡されたのは先程告げられた自分の術師名『ブライトビー』


英単語で描かれているそれは色を表すbrightと蜂を意味する単語であることが覗えた。


ブライトイエローなどの色が存在することを考えると、色としてはオレンジ色の蜂という意味だろうか。


一体どういう理由でその名前を付けたのかあとで問いただす必要があるだろう。


「とりあえず完了だ。ブライトビー・・・君のこれからが幸運に満ちていることを祈っているよ」


支部長の言葉を受けながら康太はさっさとその場を去ろうとする小百合の後に続いて歩き始めた。


ジョアもそれに続いて一緒にその部屋を出ていきながら次の場所に急いで移動を始めている。


何とも性急なことだ。ひょっとしたらあの支部長のことが苦手なのかもしれない。あるいはただ単にこの場所が嫌いなだけだろうか。


「あの師匠・・・俺の名前ってどういう意味なんですか?オレンジ色の蜂・・・?」


「直訳としては間違っていない・・・お前の名字から八を貰って蜂に、そしてもう一つ意味をつけてある」


一体どんな意味なんだと不思議になる中、小百合は薄く笑っているようだった。


「幸せの青い蜂という言葉を知っているか?ブルービーというやつだ」


「青い鳥じゃないんですか?それなら知ってますけど・・・」


幸せの青い鳥というと流石の康太も知っているが、青い蜂というのは聞いたことがなかった。


青い鳥のパクリか何かだろうかと思っている中、小百合はくっくっくと笑って見せる。


「そうか知らんか・・・ブルービーというのは幸福を運ぶ蜂とされていてな。私としてはお前にはその対義語を付けたつもりだ」


色だけならイエロービーかオレンジビーなんだが語呂が悪くてなと小百合は小さくため息をつきながら康太の方に視線を移す。


ブライトイエローのブライトの部分だけをとってブライトビーという名前にしたのだろう。なんというかちゃんと考えているのか適当なのかよくわからないネーミングセンスだ。


「・・・それってつまり・・・不幸を運ぶ蜂ってことですか?」


「察しがいいな、その通りだ。」


幸福を運ぶのではなく不幸を運ぶ蜂。何とも不吉な名前を付けられたものだと康太は額に手を当ててしまう。


自分の名字八篠というところから思いついたのだろうが、八を蜂にするなんて子供でも思いつきそうな言い換えだ。これでしっかり考えたというのだから始末に負えない。


「ところで・・・さっきの支部長が師匠のことをクラリスって呼んでましたけど・・・」


「あぁ・・・それは私の術師名だ・・・私の術師名は『デブリス・クラリス』と言ってな。あいつはいつも私のことをクラリスと呼ぶ・・・」


デブリス・クラリス


デブリスというのは確か瓦礫や屑といった意味だったはずだ。そこに人名のクラリスをつけるというのはどういう事だろう。


「それって・・・ひょっとして蔑称ですか?」


「いや、私の師匠がつけた名でな・・・『瓦礫の上に立つ女』という意味だそうだ。」


だからカウンターの男性は小百合のことを『瓦礫の』と呼んでいたのかという事は理解したのだが、一体なんでその名前でその意味がつくのかと疑問に思ってしまうが、これ以上小百合とその話をすることはできなかった。


小百合は一つの扉の前に立つとノックをした後で返事も聞かずに部屋の中に入っていく。


ノックをした意味は果たしてあったのだろうかと思いながら康太とジョアはその後に続いていった。


その中は妙に煙が充満していた。そしてその煙がただの煙ではないという事を康太はすぐに気が付くことができた。


煙草や火事などで出る煙とは全く違う。白く漂っているという点では違いはないのだが康太たちが中に入るとまるでその形を確認するかのように煙自体がゆっくりと動いて康太たちの体にまとわりついてくるのだ。


これも一種の魔術だろうかと思いながら周囲を見渡すと、そこには数々の本棚に加え科学の実験などで使うビーカーや何に使うのかもわからない薬品の類が大量におかれているのがわかる。


ここは一体なんだろうか、その疑問を持つよりも早く小百合はズカズカとその部屋の奥へと歩いて行ってしまう。


「あ・・・あの・・・姉さん・・・ここって何なんですか?」


「ここにはある魔術師がいます。日本支部の中でもかなり古株の人で、新しく魔術師になった人の鑑定をしてくれるんです」


鑑定、一体どういう意味だろうかと考えていると康太は小百合に引っ張られて部屋の奥へと引きずられていく。


有無を言わさずに煙を引きちぎり自分を引きずる小百合に抗議するよりも早く、康太はその人物を目にした。


それは康太の言葉で表現するなら『占い師』というのが一番適切だろう。球体の水晶のような透明な物体を小さな座布団のようなものの上に置き、その向こう側に座っている白髪の老婆。


占い師というものをそのまま視覚化したらこんな風なのだろうかと思いながら康太は小百合に引きずられるがままにその水晶の前に突き出されていた。


「婆さん、こいつの起源を覗いてくれ。何が向いているか知りたい」


「ふふふ・・・相変わらずのお転婆だの・・・どれ・・・顔を良く見せてごらん」


老婆が康太の顔を覗き込もうとする中、小百合は顔を良く見せようと首根っこを掴んで康太の顔を前に突き出した。


老婆は康太の顔を仮面越しによく見た後で少しだけ仮面をずらしてその額を露出させると指で触れ、水晶に向かって何やら手をかざし始める。


まさに占い師の動作そのものだと思いながら康太がそのまま静かにしていると老婆は小さく笑い始める。


「レンズのようなものが見えるの・・・何かをのぞき込むような形をしておる・・・透明で澄んだ色をしておるの・・・だが覗くだけではない・・・お前さんとは違う意味で面白い」


「・・・そうか、助かった」


小百合はそれだけ言うと何かを置いて康太を引きずって部屋を出ていく。


今のだけで何の鑑定が済んだのだろうかと思いながら康太はとりあえず聞いてみることにした。


「あの師匠・・・今のって何の意味があるんですか?」


「・・・今の婆さんは姿見と言う魔術が得意でな。その人間の起源・・・根本的なものを見ることができる。お前は澄んだレンズというわけだ」


「起源というのはその人そのものを表したもので得意な魔術の属性なども分かったりするんですよ」


小百合のよくわからない説明をジョアが引き継いでくれる。つまり先ほどの行為は康太が一体どのような魔術に向いているかを調べるためだったようだ。


自らの起源がレンズのようなものと言われてもはっきり言って何を意味しているのかよくわからない。


一体なんの属性が得意なのかさえ今の康太はわからずにいた。


「えと・・・結局俺はどの属性が得意なんですか?」


「お前の得意な属性は無属性だろうな。起源に現れる透明という表現は無属性の特徴だ。私もそうだった」


小百合も無属性の魔術が得意というのは喜ぶべきところなのかは微妙なところだが、そもそも無属性の魔術と言われてもイメージが難しい。


魔術というと炎を出したり雷を出したりと派手なイメージが大きい。無属性というとどうしても地味な印象を持ってしまうのである。


某モンスターを育成するゲームでもノーマルタイプは総じて地味だ。無論強いモンスターもいるのだが他の多種多様な属性に比べると見劣りするようなところがあるように感じてしまう。


「無属性って・・・なんか地味な印象があるんですけど・・・」


「まぁ間違ってはいない。だが地味という事は逆に言えば隠密性に長けているという事だ。お前がすでに修得している分解の魔術も無属性だぞ」


無属性の魔術。他の属性に比べて地味ではあるが隠密性に長けている。


確かにそうかもしれないが素直に喜べない何かがある。なんというか小百合と同じ系統というのが不安をあおるのだ。


「ちなみに姉さんは何属性なんですか?」


「こいつは主に四つの属性が得意だな。四大属性と言えばわかりやすいか?」


四大属性と言えばゲームなどでもよく出てくる地水火風の四つが挙げられる。四つの属性を全部使えるのかと自らの兄弟子に尊敬の目を向けながらも康太は少しがっかりしていた。


無属性しか使えないというのは本当に地味なような気がしたのだ。


「あの・・・師匠たちはどんな起源なんですか?」


「私は亀裂の入った水晶だったな。お前と同じく透明というのがついてきた」


「私は山を背景にした空でした」


小百合の亀裂の入った水晶というのは以前言っていた破壊の象徴のようなものだろうか。


彼女自身破壊専門のような事を言っていたし間違ってもいない気がする。


ジョアの起源は空という事だったが、山というのが地、雲は水、太陽が火、空そのものが風を表しているのであれば頷ける話である。


なるほど四つの属性を持つような人間はそんな風に見ることができるのかと納得してしまう。


自分の場合は透明なレンズ。それものぞくためだけではないというようなことをあの老婆は言っていた。


どのような意味があるのかは知らないが自分の起源に一体どれほどの意味があり、どのような魔術が向いているのか今は無属性ということ以外はわかっていない。



評価者人数が25、30人超えたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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