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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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ふたりの動き

だが一回の攻撃が外れたくらいで攻撃の手を止める康太ではない。空中に投げ出されていた体が着地すると同時に再び接近しようと勢いよく走り出す。


今度は蹴りは来ない。その代りに軽い左ジャブが康太めがけて放たれていた。


突進を止めるためのものであることは容易に理解できた。なにせまったく力が込められていないのだから。康太は両腕を使いジャブを軽く払っていくが、これがまた速い。腕を出すのもそうだがしまうのも早い。幸彦は左しか使っていないというのに両腕を使わなければ満足に捌くこともできなかった。


丁寧に距離を測り、その右手はしっかりと康太に狙いを定めている。まるでボクシングのようだと思いながら康太は体を揺らして少しでも的を絞らせないようにする。


が、次の瞬間幸彦は大きく身を乗り出してこちらに右拳を振り上げてくる。大振り過ぎてさすがの康太もそれを避けるのは容易いと感じてしまった。このまま拳を避けながら懐に入っても問題ないと感じるほどのテレフォンパンチ、だが同時に強い悪寒も感じた。


小百合と手合わせしている時によく感じる悪寒に、康太はとっさにバックステップした。


瞬間、康太の目の前にあった空気を幸彦の蹴りが吹き飛ばしていた。


右拳はフェイント、大振りの攻撃に拳に意識を集め視界の外である足での攻撃。明らかに狙いすました動きだ。接近しようとすれば膝を使っての攻撃を、どちらかに避けようとしても蹴りで薙ぎ払う。遠くに逃げるしか対処法のない攻撃だ。


蹴りの風圧で髪が揺れる中、康太は僅かに生まれた好機を逃すつもりはなかった。


蹴りという攻撃は当然ながら、体を支えている足のどちらかを使う事で放たれる。足は腕よりも数倍筋力があるが、足を使えば当然不安定になる。


先程は回し蹴りを使いその隙を可能な限り減らそうとしていたようだが今度はそうはいかない。間髪入れずに接近した先程と違い康太は一度離れている。体が完全に泳いだ瞬間に接近することで隙を生み出していた。


体が泳いだところに低く接近することで完全な体勢で懐に入ることができた。康太は両腕両足の位置を確認したところで思い切りその腹部めがけて拳を叩き付ける。


拳から伝わる感触を受けて最初に覚えたのは違和感、いやそれよりも大きな驚愕だった。


康太は思い切り殴った、師匠の兄弟子だろうと自分の実力を知ってもらうためなのだから仕方ないと全力で殴った。


確かにその拳は幸彦の腹部に命中したはずなのだ。なのに康太の拳が感じたのは『人間を殴った時の感触』とは圧倒的に異なるものだった。


もっと重く、固く、車のタイヤでも殴ったかのような鈍い感触。殴った拳を痛めそうな強固さに康太は顔をしかめて振りぬいた拳を確認するよりも早く幸彦の足に向けて水面蹴りを放つ。


少しでもバランスを崩して一旦呼吸を置きたい。そう考えての蹴り技だった。だが康太の蹴りが放たれた先に幸彦の足はなかった。


先程まで一本足で立っていたのだ。もう片方の足は蹴りをした反動でまだ地面にすら戻っていなかったはずなのだ。なのに康太の足は幸彦の足を捉えることなく空を切っていた。


そして自分の体に影が落ちることで、康太は幸彦がどのような行動をとったのかを理解する。片足一本で体を強引に後方へと運んだのだ。先程康太が行ったのと同じバックステップ。片足でもそれができるだけの筋力は十分にあったのだろう。康太の水面蹴りを受けることなく軽々と距離をとっていた。


「いやぁなかなかどうしてやるものだね。さすがさーちゃんのお弟子さんだ。さっきのフェイントは初見の人は結構引っかかるんだけどなぁ」


「・・・師匠との訓練の感覚に似てて・・・なんか避けなきゃいけないってのがわかるんです。さっきもピリピリ来ました・・・避けても防いでも攻撃されるって・・・」


「・・・なかなかいい感性だ・・・それじゃちょっとだけ本気出そうかな。肉体強化は使えるかい?これからはそれを使っていこう」


肉体強化を使う。その言葉に康太は嫌な予感が止まらなかった。


文字通り肉体強化は自らの身体能力を向上させる魔術だ。当然ながら純粋に筋力を増やすトレーニングなどとはわけが違う。


筋肉をつければつけるほどに重くなる体、その為筋力が上がればその分速力は落ちるのだ。


だが肉体強化は魔術の力によって一時的に身体能力を高める。その為体重の変動はない。


つまり先ほどまでは康太の方が身軽さという点において速度で上回っていたが、そのアドバンテージが無くなるという事でもある。


そして相手の速度も攻撃力も段違いに上がるという事でもあった。


「幸彦、手合わせの段階なのだからきちんと加減はしてあげなさい?」


「わかっています。でもせっかくなんですからある程度はきちんとやってあげないと」


幸彦は別に怒っているわけではない。むしろ喜んでいる節さえある。小百合に鍛え上げられた康太の実力はそれなり以上だ。少なくとも強化を使わない自分にまともに攻撃を当てられる程度には。


その事実が嬉しいのか、それとも康太とならある程度力を使っても問題ないと思っているのか、幸彦はゆっくり深呼吸をした後で魔術を発動している。


肉体強化を使った魔術師は今までもいた。そして今目の前にいるのは徒手空拳において小百合をしのぐほどの相手。これはいい経験になるだろう。


きっと自分はボコボコにやられるだろうなと思いながら、康太もゆっくりと集中して魔術を発動する。


無属性の肉体強化、今康太ができる最高出力で発動したそれを確認すると幸彦と小百合は頬を緩めながら何度か頷いて見せた。


「わかりました。よろしくお願いします」


「よろしい、それじゃあ行こうか」


合図があったわけではなかった。だが康太と幸彦はほぼ同時に動き出し、同時に互いの動きに反応しようとしていた。


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