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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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手合わせ

「それにしてもさっきさーちゃんと康太君は何をしていたんだい?いきなりボディに一撃入れてたけど」


先程まで訓練をしていたのだが、幸彦は丁度康太が攻撃される瞬間しか目にしていないためになにをしていたのかほとんど理解していないのだ。


ただ単に殴りあっていたようには見えなかったため、一方的な暴力ではないかと若干不安そうにしていたのである。


「あぁ、あれは師匠と徒手空拳の稽古をしてたんですよ。あっさりのされましたけど」


「へぇ・・・康太君は近接戦も鍛えるのかい?」


「えっと・・・まぁそれが師匠の方針みたいなので」


康太がちらりと見ると小百合は当たり前だという表情のまま茶と茶菓子を口に放り込んでいた。


魔術師として近接戦闘が必要かと聞かれれば正直近接戦闘は必要はないのだ。魔術の腕を磨いた方がよほど有意義というものである。


だが小百合はそれだけでは済まさない。むしろ普通の魔術師がそう言った近接戦を行わないからこそ鍛え上げようとしている節がある。


どのような状況にも対処できるようにするために必要なことであるというのは理解できる。何より康太も魔術を使って戦うのと同じくらい近接戦闘が大事であることは理解できていた。


「そこで幸兄さん、来たばかりで悪いのですが是非康太の奴に稽古をつけてやってくれませんか?貴方に鍛えられればそれなりにいい経験になるでしょう」


「もちろん構わないよ。いやぁ思えば訓練で男の子と組むなんて何時振りだろうな」


「うちの弟子やらはみんな女ばかりだからね。幸彦が肩身の狭い思いをしていたのは知っているけれど・・・こればかりはねぇ・・・」


男女という性別で弟子を選ぶわけにはいかない。素質や能力を見てから智代は弟子にするタイプの様で、今までの長い間女性ばかりに囲まれた幸彦はなかなか息苦しい生活を送っていたようだった。


「じゃあ康太君、早速やってみるかい?僕の方は何時でも構わないけど」


「はい、お願いします!幸彦さんは徒手空拳専門ですか?」


「まぁ武器の類も一応使えるけど・・・奏姉さん程じゃないなぁ・・・あの人の武器の扱いは神がかり的なものがあったからね。真似はできるけど再現はできないよ」


どうやら幸彦は徒手空拳を、奏は武器の扱いを得意としているようだった。


智代の弟子三人それぞれが近接戦闘に長けているというのも小百合が康太に近接戦闘を教える理由の一つなのだろう。


それが役に立ったという経験だけではなさそうだった。


康太はとりあえず運動靴を履いてすぐに庭先に出ると準備運動を始めた。同じように幸彦も準備運動を始めるとゆっくりと集中を深めていく。


ただ準備運動をしているだけなのに肌にピリピリと威圧感を感じる。小百合と本気で対峙した時と似たような感覚だ。さすが兄弟弟子だけあって肌で感じる感覚はかなり似ている。


小百合のそれよりも若干やわらかいが上から押し付けるような圧力に康太は僅かに汗をにじませていた。


この汗は暑さからくるものではないことはすでに承知していた。


技術も経験も何もかも上の魔術師相手に手合わせできるのだ。この機を逃すことはできない。


康太がゆっくりと構えを作ると、それに合わせて幸彦も拳を軽く握りこちらへと向けてくる。


非常に柔らかい構えだ。どこにも無駄な力がかかっていないのが傍目からでもわかる。


純粋な筋力では勝負にならない。体格でも体重でも相手の方が圧倒的に上。ならばスピードで攪乱するしかないと康太は体を揺らして独特のリズムを作っていく。


康太の意図を察したのか、幸彦は逆に腰を落とし翻弄されまいと重心を下げた状態で迎え撃つ構えをとっていた。


互いにできることがはっきりしている以上手の内を隠す必要はない。


いつの間にか縁側にやってきてその様子を観戦している小百合たちを尻目に、康太はゆっくりと深呼吸した後で足に力を込め一気に接近していた。


康太の間合いに入る寸前、下から勢いよく幸彦の右足が振りぬかれる。


接近した康太の顔めがけて放たれた上段蹴り、康太はその初動を見抜いてさらに低い姿勢で幸彦へと接近していく。


だがどうやら相手もその程度の事は予想済みだったらしい。空振りした勢いをそのままに軸足を回してそのまま回し蹴りを康太めがけて放っていた。


だが康太だってこの程度のことができないわけがないと予想していた。


想像していたよりもずっと身軽な攻撃に若干驚いていたがそれでも姿勢を低くした状態で康太めがけて蹴りを放つというのは当然の選択だ。


リーチが腕より長い代わりに動きの軸となる足を使うあたり、康太の腕を測りかねているというところだろう。


対格差からして防御しても蹴り飛ばされるのは目に見えている。そこで康太は地面を蹴り幸彦の足を自分の足場にするようにぶつけ、その大きな体躯に向けて逆に蹴りかかる。


回し蹴りの勢いは完全には消せず、体が若干浮いてしまうがそれでいい。康太はそのまま体を逸らせて幸彦の顔面めがけてサマーソルトに似た軌道で蹴りを放っていた。


結果は空振り、康太の足は幸彦の顔から数センチ横を通り過ぎた。意図的に外したわけではない、幸彦がギリギリのところで回避したのだ。


回避というよりは完全に見切られたと言ったほうがいいだろう。一瞬の攻防のはずなのに相手の方が二手三手先を読んでいるのか、それとも反応速度が桁違いなのか、康太の攻撃に対して未だ幸彦は両腕も使っていなかった。


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