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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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危惧と兄弟子

「この子は二月まで普通の学生だったのよね?」


「はい、二月に師匠が見つけて来てそのまま弟子に・・・私が初めて会ったのは協会に登録しに行くときでした」


二月から魔術師になりそれからまだ半年と経過していない。その短い期間でいくつもの魔術を修得し、すでに実戦も何度か経験し、しかも属性魔術まで使えるようになっている。それは普通の魔術師よりも数倍修得速度が高いということになる。


康太なりのコツをつかむまで時間を要するようだが、それでも普通の魔術師よりもずっと早い。康太は自分の体の中の感覚を掴むのが早いのだ。


「真理ちゃんから見て康太君はどんな子?」


「どんな・・・と言っても普通の子です。普通の男の子。ちょっとネジがいくつか飛んでるところがありますけど・・・」


真理の目から見ても康太の頭のネジはいくつか抜けているところがある。だがそれ以外は普通の男子高校生なのだ。


ファンタジーというか特殊な能力に憧れに近いものを持っているし、そのせいもあってか康太は魔術の修業というものを楽しんでやっている。


楽しんでいるからこそ修得が早いというのもあるだろう。人間つまらない状態でやることよりも楽しんでやった方が身につくのも早いのである。


「あの子は康太君をどんな魔術師にすると?」


「・・・普通とは違う魔術師にすると・・・自分よりも優れた魔術師にすると」


「・・・・なるほど・・・確かに康太君ならそれもできそうね・・・あの子がもつ破壊の魔術、そして康太君が覚えられるのはそれだけじゃない」


小百合はその起源のせいで破壊系統の魔術しか覚えることができなかったが、康太は特にこれと言って修得に制限のかかっている魔術はない。その為小百合の持つ破壊の技術をすべて修めれば必然的に康太は小百合の性能向上版魔術師になることだろう。


弟子が師を超える。ありきたりかもしれないがそういうことだ。


「スタートが遅い分苦労はしていますが、それでも康太君は着実に強くなっていますよ。少なくとも年度初めよりずっと」


「そうでしょうね。この子は魔術を楽しんでいる。それはとてもいいことなのだけれど、同時に恐ろしいことでもあるわ」


「・・・そうですね・・・その通りだと思います」


魔術を楽しむ。


魔術というのは一つの技術でしかない。その技術をどのように使うかはその人次第だしどのような行動を起こすかも人によりけりだ。


だが魔術というのは一種の力でもある。その力を楽しむことができるのはまだ魔術という力の真の恐ろしさを理解していないからに他ならない。


力というのは総じて危険なものだ。一つ間違えば大きな事故を起こしかねない。特に康太の覚えている魔術は破壊に精通している。


自らがもつ魔術が一体どれほどの力を持つのか、康太はまだその片鱗程度しか理解していないのだ。


「あの子はこういうことに気付くのに疎いわ。真理ちゃん、康太君を上手く導いてあげるのよ?」


「わかっています。大切な弟弟子ですから」


真理の言葉に智代は薄く笑みを浮かべて見せる。康太がどのような魔術師になるかはさておき、その道を外すようなことになってはいけない。


魔術師としてではなく、人として道を外すようなことはあってはならないのだ。

魔術師は人間であり、人間とはかけ離れた場所に向かおうとしているものでもある。だからこそ最低限の人としての認識や感情、常識と良識を持ち合わせなければならない。


人としての道を踏み外した魔術師が向かう先は破滅だけだ。せっかく良い弟子に恵まれたのだ、そんなことはさせたくないと智代も思っているようだった。


「・・・ぶはぁ・・・!あぁ・・・限界です・・・!」


いつの間にか汗だくになっている康太は大きく息を吐いて項垂れてしまう。今まで真理と智代が話している間ずっと微風の魔術を発動させ続けていたためにかなり消耗しているようだった。


「上出来ですよ康太君。今までで一番長い発動でしたね」


「あ、姉さん・・・ありがとうございます・・・でもやっぱ風起こすだけじゃちょっと地味ですよね・・」


「そんなことはありません。ようやく覚えた風魔術じゃないですか。誇っていいですよ。これならもう少しでマスターできるでしょう」


思っていたよりもずっと早い上達に真理は素直に喜んでいるようだった。康太は着実に属性魔術をものにしつつある。その上達速度は目を見張るものがある。


魔術を覚えるという事のコツを覚えたのか、康太は発動するだけならすでにかなりの魔術を覚えている。


「真理ちゃんのいう通りですよ。属性魔術を扱えるようになっているだけで十分成長の程は確認できました。あの子はよい弟子を持ちましたね」


「あ・・・ありがとうございます。これからも頑張ります」


まだまだ未熟であるという自覚を持っているからか、康太はゆっくり頭を下げてから大きく深呼吸をして先程までの感覚を反芻していた。


風の魔術を多く修得したらやりたいことがいくつもあるのだ。まだまだ空想の域を出ないがそれでも可能性があるというだけで試す価値があるというものである。


智代に今の自分の実力を見せることもできた。そして新しい魔術も教えてもらった。康太は着実に成長している。去年までの自分に今の自分の成長っぷりを見せたいくらいである。もっともそんなことはできないわけだが。
















康太たちが智代に呼び出されてから一時間程、その家のインターフォンを鳴らす人物がいた。


大きな体躯に大きな旅行鞄。そしてどこかで買ってきたであろう土産物を両手に抱えて智代の家の門の前に仁王立ちしていた。


『はい、どちら様かしら?』


「お久しぶりです師匠、幸彦です。ご挨拶に伺いました」


『あぁいらっしゃい。今開けるからちょっと待っててね』


智代の声と共に再び門の扉が魔術により自動で開いていく。荷物を全く苦にもせずに堂々と敷地の中に入っていくと、庭で何かをしている二人の人物に目が行く。


その片方をこの人物は知っていた。十年以上の付き合いなのだ、成長したってすぐわかってしまうのである。


「さーちゃんじゃないか!久しぶりだなぁ!」


そう、庭で訓練していたのは康太とその師匠である小百合だった。大声で呼ばれたことで急遽康太にボディブローを叩き込み悶絶させて強制的に訓練を終了させると眉間にしわを寄せながら小さくため息をついてゆっくりと振り返る。


「お久しぶりです幸兄さん。もう私もいい歳なのでいい加減その呼び方は遠慮してほしいのですが」


「何言ってるんだい、僕にとっちゃいつまで経ってもさーちゃんさ。大きくても小さくても変わらないよ!」


「・・・さすがに弟子の手前恥ずかしいのですが・・・」


幸彦は今まで気付かなかったが、近くの縁側で真理が康太と小百合の訓練の様子をお茶を飲みながら眺めていたことに気付く。


真理の姿を目に入れたからか幸彦は目を丸くして大げさに驚いて見せた。


「おぉ、真理ちゃん、また美人さんになったねぇ!前より背も伸びたんじゃないかい?」


「ははは・・・ご無沙汰してます幸彦さん。少しだけですけどね・・・」


相変わらず元気だなぁと思いながら真理は苦笑しながら悶絶し続けている康太に視線を送る。その動作でようやく康太に意識が向いたのか、幸彦は悶絶している康太の方を見てきょとんとしていた。


「ところでさーちゃん、この子は?さっきから痙攣してるけども・・・」


「あぁそうでした・・・起きろ康太。私に恥をかかせるな」


悶絶している康太を蹴りあげて無理やり立たせると、康太はふらふらしながらも立ち上がり現状を把握しようと周囲を見渡していた。


ようやく顔を見れたことで幸彦は安心したのか、それとも康太のことを心配しているのか若干困ったような表情をしながら康太の方を見下ろしていた。


「幸兄さん、こいつは私の二番目の弟子です。康太、この人が私の兄弟子の片割れ、小野瀬幸彦さんだ。挨拶しろ」


「あ・・・は・・・初めまして・・・『ブライトビー』・・・こと・・・八篠康太です・・・よろしくお願いしま・・・す」


一度姿勢を正してゆっくりお辞儀をすると康太との体格差がよくわかる。康太は百七十前半程度の身長でなおかつ細身だ。だが幸彦は少なくとも百八十後半はあるだろう。しかも屈強な肉体をしている。分厚い筋肉によっておおわれているため一瞬ラグビーか何かの選手かと見間違えたほどだ。康太とは圧倒的に違う。直接の殴り合いをしたら間違いなく負けること請け合いである。


「あ・・・アハハ・・・休んでからでもいいよ?初めまして『クレイド・R・ルィバズ』こと小野瀬幸彦だ・・・さーちゃん、さすがに扱いが厳しすぎないかい?」


「い・・・いえ・・・いつもに比べれば優しい方です」


康太のフォローに普段は一体どんなことをしているんだと幸彦は驚くが、そんな会話をしていると奥の方から智代が現れる。


「幸彦、よく来たわね」


「師匠、お久しぶりです。その後お変わりないようで何よりです。あとこれつまらないものですがどうぞ。最近暑いので涼しげなものをチョイスしておきました」


持っていた荷物の一つから菓子折りを取り出すと縁側にやってきた智代に渡す。大きな体の割に気づかいが行き届いている。


人は見かけによらないとはまさにこのことだ。


「ありがとう。とりあえず上がりなさい。小百合と康太君も、一度上がって休憩にしなさい。冷たいお茶を入れるから」


「あ、智代さん、お手伝いします。康太君は幸彦さんの荷物を運んであげてください」


「りょ、了解です!幸彦さん、荷物預かります」


「あはは、至れり尽せりだね。じゃあお願いしようかな」


さすがに康太の師匠である小百合が見ている前で断るわけにもいかないという事はわかっているのか、幸彦は困った顔をしながら康太に一番軽い荷物を預けていた。


「そうか・・・君が話に聞いていた『ブライトビー』だったんだね。協会の方で何度か名前を聞いていたよ。まさかさーちゃんのお弟子さんだったとは」


「あはは・・・まぁいろいろありまして・・・それよりさーちゃんっていうのは・・・もしかしなくても師匠の事ですよね?」


「そうだよ?君からするとちょっとイメージできないかもだけど昔は可愛らしい子でね。さーちゃんって呼ぶと昔は喜んでたんだけどなぁ」


先程のやり取りを聞いている限り小百合がさーちゃんと呼ばれて喜ぶとは考えにくかった。というより昔からその呼び方なのかと康太は軽く戦慄する。


もし自分がそんな風に呼んだら顔が変形するまで殴られるだろうなと思いながら康太は苦笑してしまっていた。


そして荷物を運びながらまじまじと観察する。この人が小百合の兄弟子かと。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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