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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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智代の評価

「さぁお昼御飯ですよ。しっかり食べてね」


智代が作った料理を運ぶのを手伝いながらテーブルの上に乗せていくとそこにはかなりの量の料理が並んでいた。


康太がいるというのもあるだろうがそれにしたってかなり多い気がする。和食メインの料理の数々は明らかに昼食というには多すぎる量であることは康太の目にも明らかだった。


「康太、失礼などなかっただろうな?」


「たぶん大丈夫だと・・・あと一つ魔術教えてもらいました」


「ほう・・・?どんな魔術だ?」


「解析の魔術です。目をこうやって使うといい感じで」


まだ慣れていないものの、とりあえず発動自体は比較的できるようになってきている。集中状態を維持しなければ発動そのものも危ういのだが、とりあえずこれを実戦投入するのにはまだまだ時間も練習も足りなさそうだった。


指で輪を作り視界を制限するようにして使うこの動作が解析の魔術を使う時の良い合図になりそうだった。


呪文というのは何も言語だけではなく動作によっても効果的に作用する。魔術の発動を容易にする動作、言葉、認識を行うことによって体は自然と魔術を使えるだけの状態へと変化する。


今まで呪文や動作に関しては康太が行いやすいものが多かったが、今回の場合解析の魔術を使用する際に必要な動作として行えそうだった。


「時に師匠、あの人は何時頃こちらに?」


「三時くらいという風に連絡があったわね。お昼を食べて少しのんびりした辺りに顔を出すでしょう。それまではいろいろと確認したいこともあるからお話でもしていましょう」


四人でテーブルを囲んで昼食を取る中、康太はその食事を食べながら小百合の方を気にかけていた。


解析の魔術を発動するときに時折見える女の子の姿。智代曰く昔の、幼少時の小百合の姿らしいのだが今の面影はほとんどないと言ってもいい。


鋭い目つきに整った顔立ち、今の小百合から昔の姿を想像するのは難しい。康太の頭の中にある少女の外見とは似ても似つかない。


もしかしたら別人なのではないかと思えるほどだ。


「師匠、実際にこいつと話してみてどうでしたか?」


「ん・・・骨はありそうね。筋もよさそうだしこれからが楽しみといったところかしら」


これからが楽しみ。それは今の時点ではまだまだ未熟であるという事だ。だが同時に康太の未来に期待しているという事でもある。


「実際に魔術を使うところを見せてもらったけれど、自分でもかなり練習しているんでしょうね、飲みこみは早いし理解も早い。貴方の弟子は二人とも優秀でうらやましいわ」


素直に褒められているのは非常に嬉しいのだが同時にこそばゆくもある。なにせ小百合は直接褒めるという事をしない人間だ。康太も真理も褒められるということに慣れていないのである。


「貴女の事だからだいぶ荒い修業を付けているのでしょう?幸彦が来たら一緒にちょっと運動でもしましょうか。あの子ならきちんといろいろ教えてくれるでしょうし」


「私の指導では不足ですか?」


「いいえ、この子たちは貴女の弟子、口出しするつもりはないわ。でも経験として多くの人と手合わせしておいた方がいいと思うの。貴女の指導は何も間違ってはいないわ」


小百合の指導が荒いというのは大いに同意できることだった。


荒いというのは言ってしまえば雑だという事でもある。だが言葉を返せばそれは実戦的であるという事でもある。


教科書を読むだけでは決して得られない実際の体験。それは実戦に限りなく近いものであるからこそ、痛みを伴った経験だからこそ身につくものだ。


小百合の指導は間違ってはいない。だがそれだけでは学べないものがあるのも確かだ。恐らく智代はそのあたりのことをよく理解しているのだろう。


「幸彦さんってどんな方なんですか?まだ話しか聞いたことないですけど」


昼食を口に含みながらそう聞く康太に真理は微妙に困りながら小百合の方に視線を向ける。


真理としても自分の口からどう説明したらいいのかわからないのだろうか、小百合に助け舟を求めているようだった。


「あの人は凄いぞ、私が使う徒手空拳はあの人のものを参考にしたんだ。近接戦闘、特に徒手空拳であの人の右に出るものはそういないだろうな」


「へぇ・・・師匠よりすごいんですか?」


「私なんて目じゃないだろうな。何よりあの人は教えるのもうまい。そう言う意味ではあの人と手合わせをするというのも悪いことではないだろう」


小百合の指導が実戦形式であり、叩きのめして伝えるものであるのに対して幸彦の指導はしっかりと型を教え、そこから実際に使ってみることで教えるのだとか。


いわば喧嘩的な教え方と武術的な教え方の違いである。


その両者は似ているようで圧倒的に違う。今の小百合があれほどの実力を持っているのも兄弟子である幸彦の力が大きいのかもしれない。


「あの子はちょっと優しすぎるきらいがあってね・・・もう少し厳しくなってもいいと思うのだけれど・・・」


「いいんですよ、奏姉さんが厳しい分あの人が優しいくらいでちょうどいいです。むしろそれでもまだ厳しさの方が勝っていますよ」


「奏ももう少し丸くなればいいのだけれど・・・そのあたりは指導していても変わらなかったわね・・・三つ子の魂百までとはよく言ったものだわ」


今目の前にいる智代はかなり丸くなったらしいが昔はすさまじい性格だったらしい。それを考えると小百合の二人の兄弟子が極端な性格をしているのも頷ける話である。


弟子は師に似るもの。いってしまえばそう言う事だ。


昼食を終えた後康太と真理は智代に呼び出されていた。


普段の彼女の私室なのだろう、そこには机やライト、そして本などが入った棚などが取りやすい位置に置かれていた。


「それで・・・私達に一体どのようなご用件でしょうか・・・?」


智代に呼び出されたという事もあって真理は若干緊張しているようだったが、座椅子に座りながら微笑む智代はその反応に少しだけ困った様子だった。


「そうかしこまらなくていいのよ?今日は二人に渡すものがあってね・・・渡すというよりあげると言ったほうがいいかもしれないけれど」


智代は近くにあった本棚の中から一冊取り出すとそれを真理に渡す。真理はそれを受け取った後軽く内容を読もうと本を開いて見せた。


すると彼女は内容を理解するよりも早くあることに気付いていた。それが何なのか横から見ている康太が理解できていない時点で気づくべきだったかもしれない。


「これ・・・いいんですか?」


「えぇ、きっとあなたの必要なものになるでしょうから。とっておきなさい。康太君はこっちにおいでなさい、これを手に持ってね」


「は、はい」


康太はバラバラになった何かの模型を渡されながら智代に近づいていく。智代が康太の体に触れると同時にそれは起こった。


魔力と術式が流れ込み、どこか異国の光景。レンガ造りの家の中で目に入ったのは人形細工だった。


バラバラになっているそれらが見えたと同時に、康太の手の中にある模型が一瞬で組みあがっていく。康太はその光景を確認すると今発動したのが『構築』の魔術であることに気付く。


「いきなり二つの魔術を教えるというのはあまりしたくないのだけれど、あの子に教えられないのなら仕方がないわ。しっかり使いこなすのよ?」


「あ、ありがとうございます。これで槍を早く組み立てられます」


今まで康太は分解しかできなかったためにいざという時切り離すことしかできなかったが、これでまた選択肢が増えた。構築を使う事で康太の行う作業はまた一つ減ったことになる。主に槍を構築するうえでこの魔術は役に立つだろう。康太に魔導書がないのも純粋にただ康太がまだそれらを見ることができないからである。


自分の中に新たに増えた二つの魔術。これから練習が大変そうになりそうだと思いながら康太は意気揚々としていた。


なにせやることがないよりはやることがあったほうがいいのだ。最近はやややることが多すぎる気もするが、それでもやる気は十分満ち溢れている。このままいけば魔術もかなり増えていくだろう。


実際に攻撃魔術は少なく、サポート系の魔術が増えているのはありがたいことだ。なにせ小百合が教える魔術は基本的に攻撃系ばかり、あまり攻撃に偏りすぎても面倒なことになるのである。


「そう言えば康太君はつい先日風属性の魔術も使えるようになったとか?一度見せてくれないかしら?」


「うぇ・・・まだちょっと自信はないんですけど・・・」


自信はないと言ったが智代が見せろと言ったのだ、見せないという選択肢は康太の中にはなかった。


康太は胡坐をかき、リラックスした状態で目を閉じて集中する。


風属性の魔力の生成は高い集中を要する。まだそれだけ康太が未熟であるという事なのだが今はそんなことはいい。


康太はゆっくりと深呼吸して集中を高めていく。体の中に夏の香りをイメージし魔力を撹拌させていく。


徐々に作り出された風の魔力を一点に集め、康太はゆっくりと体の中に術式を作り出していく。


康太が使う魔術は微風、ただ僅かに流れる風を作るだけの魔術だ。実戦的ではないし扇風機以上の効果を持つものですらない。


だがそれでも風属性の魔術の一つだ。非常に小さな効果しか持たないこの魔術は康太にとっては非常に大きな意味を持っていた。


ゆっくりと、本当にゆっくりと作り出した魔力で康太は魔術を発動する。全身から汗がにじむ中それは起こった。


康太を中心にゆっくりと流れ始めた風は髪を揺らし、肌を撫で部屋の中を巡っていく。


それらを真理と智代も感じたのだろう、薄く微笑みながら康太の方を見ていた。


「・・・優しい風・・・こういう風は久しぶりだわ」


「康太君、しっかり発動できていますよ」


真理が褒めるためにゆっくりと手を伸ばそうとしたが康太の状態を見てその手を収めていた。


康太は非常に深い集中状態にある。今ここでそれを止めるのは無粋であると判断したのだ。


せっかくいい集中状態を維持できているのだからそれを止めるべきではない。これからもっと風属性の魔術を覚えるためにも一日も早く魔力の生成をマスターしなければならないのだ。


「康太君が風属性の魔術を覚えたのはついこの間だったはずね?」


「はい。まだ一か月程度しか経っていないです」


「・・・ふふ・・・あの子が康太君を弟子にした意味が少しだけわかったわ」


この子は勤勉なのねと薄く笑みを浮かべながら深い集中を維持している康太を智代は勤勉と評価した。


その評価さえ康太は耳に届いていなかった。聞きもらしたのは惜しかったと思うべきか、それともこの時間を有意義に感じるべきか。あとで教えてあげようと真理は笑みを浮かべてその様子を見守っていた。


二百話突破したんでお祝いで二回分投稿


今更感ありますがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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