表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

204/1515

康太の起源

「それにしても、どうして師匠は破壊の魔術しか覚えられなかったんですかね?あれだけ技術があるのに・・・」


康太は片目を閉じて解析の魔術の訓練を行いながら智代の料理の手伝いをしていた。と言っても食材を切ったり取り出したりするだけなのだが、それでも今こうして智代と話ができる空間というのは貴重だ。


特に他に誰もいないような空間なんてそうあるものではない。その為この機会を逃すまいとしていた。


小百合の師匠であり、他ならぬ魔術師の中でもトップクラスに入る実力者、聞けることは何でも聞いておきたいのである。


「私も昔何度か考えたことがあるんだけどもね・・・やはりそのあたりはあの子の起源にあるんじゃないかと思うのよ」


「起源・・・ですか?」


起源という言葉は今までにも聞いたことがあった。特に康太が魔術師として登録しに行ったとき、実際に康太は自分の起源について話をされている。


それがどういう意味を持つのかは康太はあまり理解していないが。


「あの子の起源は『亀裂の入った水晶』あの子は完成したものを壊すということに特化している存在なんでしょうね。ところで康太君の起源は?」


「俺のは・・・確か『透明で澄んだレンズ』だった気がします・・・ただなんかそれだけじゃないとか言ってたような・・・」


あの魔術師、日本支部の中でも古株だというあの老婆らしき人物に出会ったのもだいぶ前だ。しかも今まで自分の起源がどのようなものだなどと考えたこともなかった。


そもそも起源の意味さえ理解できないのだ。理解できないものを理解しようとしても意味のないことである。


「そもそも起源って何なんですか?魔術を使う上で今のところ支障はないですけど」


「・・・康太君は魔術を使う時に何か変わったことがあるの?」


「・・・はい、さっきの解析もそうですけど、魔術を使う時になんかこう・・・変な景色が見えることがあります」


「・・・景色?」


「はい・・・魔術によって見える光景は違うんですけど、魔術の練度を高めれば高める程より鮮明に見えるんです・・・それが何なのかはわかりませんけど・・・」


練度を高めれば高めるほど見える光景。智代はその現象をほぼ正確に理解しつつあった。だがだからこそ康太に一つ聞くことにした。


「ちなみに康太君、さっきの解析は何が見えたの?」


「えと・・・女の子がいてその子を見下ろしてる景色でした・・・一瞬過ぎてそこにいるのが女の子くらいにしか判別できませんでしたけど」


康太の言葉に智代は薄く笑って見せる。なるほどそう言う事ねと呟きながら。


「何かわかったんですか?」


「えぇ・・・たぶん康太君が見えているものはその魔術の根源、あるいはそれに近しい何かなのね」


「・・・根源・・・?」


「そう・・・あくまで仮説だけどその魔術の誕生のきっかけ・・・あるいは完成までに至った何かを見ることができる。それが康太君の魔術師としての特性なんでしょう」


今まで魔術の根源など考えたこともなかったが、考えてみれば今この世界に存在している魔術はすべて人間、魔術師が作り出したものだ。


魔術を作る、技術を作るという事はつまりそれだけの理由があるという事だ。今まで見えた光景はすべて魔術を作ることになったきっかけ、あるいは魔術の誕生の光景ではないかと智代は考えていた。


「でもなんでそんなことがわかるんです?ただ女の子の姿が見えたってだけで・・・」


「ふふ・・・その見えた女の子、髪の毛を一つ縛りにしていたでしょう?あとこっちをまっすぐ見上げていた」


「え・・・?は、はい・・・そうですけど・・・何でわかるんですか?」


「やっぱり・・・実はね、さっきの解析の魔術は私が作った魔術なのよ。そしてその見えた女の子っていうのは間違いなく小百合の昔の姿ね」


「え・・・?えぇぇぇぇえぇええ!?あれが師匠!?」


康太はすぐに解析の魔術を発動して先程の姿を確認しようとするが、驚いて集中を乱している状態で練度の低い魔術を発動できるはずもなく何度やっても先程見えた光景は見ることができなかった。


「もともとあの魔術は分解が上手く発動できないあの子のために作った魔術なのよ。少しでも発動しやすくなればと思ってね・・・でも結局あの子はこの魔術を覚えられなかった」


解析の魔術は物体の構造を理解する魔術だ。それ以外の用途はないために単純、難易度もそこまで高くはないように感じられた。だがそんな魔術でさえ小百合は修得することができなかったのだ。


「康太君のいうように、確かにあの子には才能があった。魔術を覚えるのも扱うのもそしてその性質も、だからこそ私はあの子を弟子にして一流の魔術師にしようとした。でも幸か不幸か、あの子は破壊以外の魔術を覚えることができなかった」


幸か不幸か


破壊以外の魔術を覚えられないことは果たして不幸なのか、幸福なのか。どちらかはわからないが小百合は確かに今名を上げている。少なくとも魔術協会の中でも多くの敵を作り注目を集めている。そのせいで康太たちは若干迷惑しているわけだが。


「だから私は私が覚えている破壊の魔術と技術をすべてあの子に教え込んだ。もともと真面目な性格もあってかあの子はすぐにそれらをものにしたわ。だからこそ今の立場にある。結果論かも知れないけどあの子はあれでいいと思ってるの」


師匠としては複雑だけどねと付け足しながら智代は笑って見せた。破壊しか覚えることのできない魔術師、彼女の言う通り今の小百合があるのは結果でしかない。大成しない可能性だって十分にあり得たのだ。指導する立場としては複雑な心境であることは変わりないだろう。


「話を戻すけど、起源というのはその魔術師が生まれ持った特性のようなもの。自動で発動するようなタイプもあれば意図的に使えるものもある。貴方は魔術の根源を覗き込むことができるんでしょうね」


魔術師が生まれ持った特性。それは属性への適合であり、康太のような別の特性でもある。その為魔術師の特性は似たものはあっても同じものはなく、その特性を把握し利用する魔術師もいるのだとか。


当然その特性というのは何もプラス面だけではない。小百合のように『破壊につながる魔術しか習得できない』といったマイナス効果の強い特性も当然含まれてしまうのである。


魔術師にとって起源というものはどのような魔術師になるのかを決定する一つの指標でもあるようだ。


そう言う意味では康太の起源である『透明なレンズ』というのはまだましな方なのではないかと思える。


特にこれと言ってマイナス効果もなく、ただ『その魔術の根源を知覚する』というだけの事ならばそれほど特筆するべきことでもない。


むしろ覚えている魔術の作成理由を知ることができるのだ。マイナスよりもプラスの面の方が大きいだろう。


もっとも康太の場合魔術の作成理由を知ることができたところでどうしようもないしどうするつもりもないのだが。


「じゃあ起源っていうのは魔術師そのものがもってる特性で、師匠みたいなのもあれば俺みたいなのもあるってことですか」


「そう、それこそ十人十色じゃないけど魔術師がいれば必ずその人特有の起源がある。起源はその人の魂とでもいうべき深い場所によって決められているから意図的に変更することもできない。一生その起源と向き合っていくしかないの」


自分の起源がどのようなものであるのか、康太は理解できているがそれがどうしてそうなったのかまでは理解できない。


だがそれは他の魔術師も同様なのだ。本人の望む望まないにかかわらず、起源というのは生まれた時からほとんど決まってしまっている。それこそ別人になるほどの強烈な事件でもない限り起源というのは変わることはないのだ。


「それと覚えておいてほしいのは、起源はその人自身を表すものだから、その起源の相性によっては非常に危険なことにもなるかもしれないから気を付けて」


「起源の相性?そんなものあるんですか?」


「えぇありますよ。例えば蛇と蛙などを思い浮かべるとわかりやすいかもしれないわね。捕食する者される者のように、起源にも優劣のようなものがあるわ。そうなると取得している魔術の系列というか特色も優劣の違いに影響しやすいのよ」


要するに、特定の起源は同じく特定の起源の持つ性質に弱い可能性があるという事だ。


起源は小百合のように魔術を覚えられるか否かにも直結する。つまり起源は所有している魔術の種類に直結する可能性があるという事でもある。


それは時に優位性を引き出すこともあれば逆に状況を不利にする可能性だってある。


なにせ相手が自分にとって不利な魔術ばかりを覚えている可能性だってあるのだ。康太にとっては基本デメリットはほとんどない起源ではあるが、相手にとってはそうではないかもしれないのである。


「康太君の場合は起源によって魔術の修得云々に関わることはないと思うけど、何かしらの影響がある時点で頭に入れておいて損はないと思うわ。起源というものも意識するべきであり、あまり他人に起源を教えることはしないようにすること」


「わかりました。って言っても俺の場合本当に意味があるのかもわからない起源ですけどね・・・」


レンズと言われても正直どうすればいいのかわかったものではない。魔術の根源を知覚することができるとはいえ逆に言えばそれだけなのだ。


特定の強い魔術を覚えやすくなるとかそう言うわけでもなく、何かの魔術を覚えられないというわけでもない。良くも悪くも特徴のない起源である。


まだ駆け出しの康太としてはそう言うのはありがたいと思えるのだが。


「でも私は康太君の起源はとても面白いものだと思うわ。どんな魔術にも始まりがある。貴方はそれを知ることができるんだもの。可能ならそれがどんなものなのか見てみたいものだわ」


「俺以外にそう言う特性を持った魔術師っていなかったんですか?」


「少なくとも私はあったことがないわね。他人に起源を知らせるような魔術師がいないというのもそうだけれど、そう言う特性を持った魔術師は貴重よ」


きっと何かしらの意味を持って貴方がそれを持っているのでしょうねと智代は笑って見せた。


何かしらの意味。そんなことを言われても正直康太からすれば疑問符を飛ばす以外にできない。


物事には必ず理由がある。原因があり過程があり結果がある。康太がレンズという起源を有しているのにもきっと何か意味があるのだろう。


その意味を探すこと自体に意味はないかもしれない。だがそれを意識しておいた方がいいのも確かだ。


何か意味がある。少なくとも康太の知らない何かが自分の起源にはあるのだ。


「とりあえずまずは自分のできることを増やしていくといいわ。まだまだ駆け出しのひよっこ魔術師なんだから、成長はいくらでもできるでしょう?」


「はい、頑張ります」


康太は食材を切りながら自分の体に目を向け僅かに微笑む。


智代のいう通り成長ならいくらでもできるのだ。肉体的な意味でも、魔術的な意味でも康太はまだまだ未発達。これからできることなどいくらでも増えていくことだろう。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ