表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

202/1515

アマリアヤメ

車で揺られること二時間程、康太たちは目的の場所にやってきていた。


一見すると普通の一般家屋のように思える。多少敷地が広く、庭や門、そして家と敷地を覆い隠すように高い塀が作られた、小さな武家屋敷のように見えなくもなかった。


ここが小百合の師匠の家であるという事で康太は若干緊張していた。


門柱に書かれた『岩下』という苗字が康太の目に入る。小百合の師匠の本名なのだろうがこうしてみるとただの一軒家にしか見えない。


周囲にあるのは田畑が目立つ。もとより郊外の方に向かっているという認識はあったが今回は特に田舎の方にやってきているようだ。


七月の半ばという事で周辺では蝉が大声を上げながら自らの生を謳歌している。日差しも強くこれだけ暑いと流石に少し動いただけで汗をかきそうだった。


「ここに来るのも久しぶりだな・・・真理、康太、くれぐれも失礼のないようにな」


「もちろんですよ」


「・・・気を付けます」


小百合の表情が強張っているところなどなかなか見れるものではない。それが緊張と恐怖からくるものであるということに気付くのに時間は必要なかった。


なにせ康太も似たような感情を抱いているのだ。これから会う人物がどれだけ危険で恐ろしい人なのかわからない康太ではない。


小百合が代表してインターフォンを押すと、数秒してから応答がある。


『はい、どちら様ですか?』


女性の声だった。若い声ではなく少しかすれたような年配の方独特の声である。声質は上品のように聞こえ、この対応から穏やかな性格であるように受け取れたが小百合の表情はこわばったままだった。


「お久しぶりです師匠。小百合です。弟子二人を連れてまいりました」


『・・・あら、思ったより早かったわね・・・入ってらっしゃい。鍵は空けておくから』


インターフォンでの応答が終わると同時にその近くにあった門から金属音がするのと同時にしまっていた木の門がゆっくりと開いていく。


門の向こう側には誰もいない。そして玄関まで続く石畳の通路が作られていた。


小百合が車に乗り、車を敷地の中に入れる間に康太たちは先に敷地の中に入り込んでいた。


大きな庭だ。そこかしこにある木々はよく手入れされており、雑草も可能な限り除去されているようだ。


小百合が敷地の中に車を入れると同時に、先程自動で開いた木の門はゆっくりと閉まっていった。


今の解錠と門の開閉が魔術によるものであると気づくのに時間は必要なかった。なにせ敷地の中に、特に門の所には誰もいなかったのだから。


もし事情を知らない人がこの光景を見たらお化け屋敷の類ではないかと思うだろう。康太たちは魔術師であるためにこの状況を正しく理解できているが、それでも今の行程が魔術によって行われたという事しかわからない。


それ以上の事は康太にはまだわからなかった。


「さぁいくぞ・・・くれぐれもいうが失礼のないようにな」


小百合は特に康太に向けてこの言葉を放っていた。無理もない、康太は今日初めて小百合の師匠に会うのだ。その言葉に康太は緊張を強めていた。


今まで恐ろしい人であるという事は聞き及んでいたがそれ以上の情報をほとんど知らないのだ。緊張するなという方が無理な話である。


お邪魔しますと小百合が常套句を言ったところで玄関の扉をゆっくり開き、中に入ろうとすると康太はようやくその内観を確認することができた。


建物の中も基本的に木造で作られているらしく、木で作られた廊下が奥まで続いている。夏で日中だというのに屋内はそこまで明るくなく、どこか涼しげな印象を持った。


近くにはタンスや棚、そして電話なども置かれておりこの廊下がよく使う場所であるというのがよくわかる。


小百合は靴をそろえて中に入っていく。康太と真理もそれに続き、一つ一つの動作で不敬がないように気を付けながら小百合の後に続いていた。


小百合は一つの部屋の前で止まると小さく深呼吸をして見せた。ふすまで閉じられたその向こう側に誰かがいるというのを理解しているようだった。


その緊張感は近くにいる康太と真理にも伝わってくる。


「師匠、小百合です」


「入りなさい」


「はい・・・失礼します」


先程と同じ穏やかな、だが先ほどよりも凛とした声に自然と康太は背筋を伸ばしていた。そしてそれは真理も同様の様でその頬には僅かに汗がにじんでいる。


小百合が正座になりその場に座ると康太も真理もそれに続く。二人が正座になったのを確認すると小百合はゆっくりとふすまを開けその中にいる人物を確認するようなしぐさをした。


「お久しぶりです師匠。藤堂小百合、ただいま参りました」


小百合がゆっくりと正座のまま頭を下げると康太と真理はゆっくりとそれに続いた。


顔を下げているせいで奥にいる人物の顔も姿も見ることはできていない。だがそこにいるというのは康太も感じていた。


圧力というには弱いが、どこか存在感があるのだ。実際にまだ見てもいないのにそこに誰かがいるというのが感じられるなど初めての経験だった。


敵意でも悪意でもなく、こちらを見られている、観察されているとこれほど強く感じたのは康太の記憶の中にもない。


「久しぶりね小百合。少し髪が伸びたかしら?真理ちゃんもよく来たわね、また綺麗になったんじゃないかしら?」


澄んだ声を康太は耳で聞きながら額から出る汗が止まらなかった。どういうわけかひどく緊張しているのだ。それが先入観からくるものなのか、今目の前にいるだろう存在が与えているプレッシャーのせいなのかは康太には判断できなかった。


「・・・そして・・・そこにいるのが小百合の新しい弟子ね?」


「はい、康太、挨拶しろ」


「は・・・はい・・・」


康太は一度顔を上げ小百合の陰から体を出し相手にも見えるようにしたところで初めてその人物を目にした。


畳の敷かれた和室、その部屋のほぼ中心にあるテーブルを挟んで向こう側に座っている女性。年の頃は六十後半、あるいは七十代にも見える。白髪を蓄え朗らかに笑っている姿は近所のただのおばあちゃんのような印象を受ける。


綺麗な和服を着たその人物は、どこか花のような可憐さも持ち合わせていた。恐らく若いころは非常に美人だったのだろう、髪も肌も手入れが行き届いている。何より年老いてもその気品を全く失っていないように思えた。


だがその人物の目が康太の第一印象を即座に否定させた。じっとこちらを見ているその瞳は自分を見ているようで見ていない。何かもっと別なものを見ているのではないかと思えるほどに深い瞳だったのだ。


少なくともただの老婆にできる目ではない。


康太は緊張を解かずにゆっくりと息を吸い、真っ直ぐに目の前の人物へと視線を注いだ。


「初めまして。この二月から師匠の・・・デブリス・クラリスの弟子になりました。ブライトビーこと八篠康太です。どうかよろしくお願いします」


ゆっくりと、端的に、はっきりとそう口にして康太はゆっくりと頭を下げる。


数秒間の沈黙がこれほど長く感じたのは初めてだった。いつ顔を上げていいのか、何か粗相をしてしまったのではないかと康太の頭は軽くパニックになっている。


だがそれを破ったのは他でもない小百合の師匠だった。


「まったく・・・小百合、貴女またお弟子さんにあることないこと吹き込んだでしょう。こんなに怯えてしまって可哀想に」


「いえ師匠、私は事実を伝えただけです。恐らく康太は師匠の本質をわずかながらに感じ取ったからこそこういった反応をしているのだと思います」


「それじゃあ私が非常に恐ろしい化物か何かの様じゃない・・・まったくもう・・・」


小百合との会話には怒気は全く含まれていないように思える。少なくとも自分は何も粗相はしていなかったのだという事実に康太は僅かに安堵する。


「顔を上げなさい康太君。それじゃあ顔が見えないわ」


「は・・・はい・・・」


康太はゆっくりと顔を上げると再び奥底まで見抜くのではないかと思えるような瞳で康太を見つめていた。


ここで目を逸らすのは失礼だなと感じた康太はまっすぐに視線を返し、自分の顔を彼女に見せていた。


「ふふ・・・なかなかいい顔をするわね・・・改めまして、デブリス・クラリスの師匠、アマリアヤメこと岩下智代と言います。貴方の事は小百合から聞いていますよ」


「ど・・・どんな内容を話しているのか・・・ちょっと気になりますね・・・」


自分がどれだけ未熟なのかという事を話されているのであれば康太としては非常に困るというか情けないというか、この場でどんな反応をしていいか迷ってしまう。


もし小百合があることないこと吹き込んでいたら最初から印象は最悪になってしまうのだから。


「そう怖がらなくていいわよ。なかなか優秀な魔術師になると小百合は言っていたわ。まだ魔術師になりたてで未熟な面もあるだろうけれど、それは誰もが通る道。胸を張って修練に励みなさい」


「は・・・はい。ありがとうございます」


小百合が自分のことを優秀な魔術師になると思っていたことも驚いたが、目の前にいる岩下智代という人物にも驚きを隠せなかった。


真理から穏やかな人とは聞いていたが、それまでの小百合の評価からもっとおっかない人物を想像していたのだ。


「ところで、康太君は今どれくらい魔術を使えるのかしら?」


「えっと・・・それは・・・」


康太は小百合の方を見て話していいかの確認をしようとした。一応康太の師匠は小百合なのだ。師匠の師匠であるとはいえ一応直系の師匠である小百合を無視するわけにはいかない。


康太の視線に小百合も気づいたのか、無言で首をゆっくり縦に振っていた。

許しは出た。康太は今自分が使える魔術を正直に話すことにした。


「分解、再現、蓄積、肉体強化、炸裂障壁の魔術を扱えます。まだ練習中のものが二つ三つほど・・・」


「・・・二月から魔術師になった割になかなかの数の魔術が使えるのね・・・なるほど、小百合が褒めるのも頷けるわ・・・ちなみに修得中の魔術というのは?」


「つまずいてるのは暗示と風属性の魔術です。もう一つの方は命中率を上げるだけでいいんですけど、それがなかなかうまくいかなくて」


「命中率・・・あぁなるほどあの魔術ね。相変わらず小百合の魔術は攻撃的なものばかりね・・・でも肉体強化を覚えたという事は、真理さんが教えたのかしら?」


小百合の使える魔術の中に肉体強化はないのか、それとも基礎的な肉体強化とは違い教えられるようなレベルではないと判断したのか、智代は真理の方に視線を向ける。


「いえ、私は何も。康太君は向上心のある子でして、同盟を組んでいる魔術師に教えてもらっているんです」


「あらそうなの?頭の固い小百合の弟子とは思えない柔軟さだこと」


「師匠・・・話はそれくらいに・・・今回私達を呼んだ理由をお聞かせください」


これ以上自分のあらを探されるのは困るのか、小百合は若干困ったような顔をしながらゆっくりと前に出て机の近くに位置する。今回なぜ呼ばれたのか。小百合のいうように顔見せだけなのかそれとも他に目的があるのか、それは康太たちも気になっていたところだ。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


ちょっと最近誤字が多めかも・・・頑張って直さねば


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ