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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」
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小百合の師匠と兄弟子

連休というのは学生にとっては嬉しいものだ。


三連休、四連休、五連休。学生にとって、いやほとんどの人にとって連休というのは長ければ長いほどうれしいものだろう。


社会人、学生、またはそれらとは関係のない人にとっても連休とは心躍る日であることに変わりはない。


それは普通と違った道を歩み始めた康太も同じだった。たとえその身に異能の力を得ようとも、魔術を扱える普通とはかけ離れた存在になろうとも連休が嬉しいことには変わりないはずだった。


だがその日、康太は連休が来なければよいのにと思ってしまっていた。


「よし、忘れ物はないな?」


「大丈夫です・・・全部持ってます」


その日、康太は駅前に集合し小百合の車がやってくるのを確認するとそれに乗り込んでいた。


そこにはすでに真理の姿もあった。康太たちは全員魔術師として活動するための道具や装備を持って小百合の師匠の下へと向かうのだ。


康太にとっては初めて小百合の師匠に会うことになる。どのような人物なのか、そしてどんな魔術を使うのか、康太にとってはいろいろと勉強になるだろう。その結果ボロボロになるかもしれないが。


過去の偉業を聞く限りかなり恐ろしい人だというのは聞いている。さらに小百合の証言によれば小百合以上に傍若無人な人物であるという事も聞き及んでいる。


それがどういう意味を持つのか康太にだってわかる。小百合を師匠にしている自分だって相当に苦労しているのだ。恐らく小百合はだいぶ苦労しただろう。


「ここからどれくらいかかるんですか?」


「大体二時間ほどだ。すでに師匠には話を通してあるから自宅にそのまま向かうぞ」


「自宅にそのままって・・・ちょっと待ってください、今日お泊りセットとかも持ってきてますけど・・・ひょっとして自宅に御厄介になるんですか?」


「そうですよ、あの方の自宅はかなり広いですから。私も何度か泊まったことがあります。なかなか立地もよくて落ち着ける場所ですよ」


落ち着ける場所なのはよいのだが小百合の師匠がいるという時点で落ち着ける気がしなかった。なにせそれだけ恐ろしい人物であるというのを聞いてしまっているのだ。その先入観はそう易々と消えるものではない。


「そう言えばこの三連休の内に私の兄弟子が片方来るそうだ。どっちが来るかまでは聞けなかったが・・・」


「え・・・そ・・・そうですか・・・」


小百合の兄弟子と聞いた時点で真理の顔が曇ったのを康太は見逃さなかった。先日の話では小百合には二人の兄弟子がいるようなことを言っていた。


一人は女性、小百合の師匠の魔術をほとんど受け継いだ正式な後継者と言ってもいい魔術師。


一人は男性、小百合とは対照的に温厚な性格であるという事だったが実際に会ってみないことにはそれだってあてにはならない。


「・・・姉さんがこんな反応する時点でお察しですけど・・・どっちに来てほしいです?」


「正直なところ・・・バズ・・・男の方の兄弟子に来てほしいものだ。女の方はどうも苦手でな・・・」


「同じくです・・・悪い人ではないのはわかっているんですけど・・・あの人は我が強いですから・・・」


バズといいかけたところで小百合は康太にもわかるように男の方と言い直したが、この反応を見る限りどうやら彼の魔術師名の中にバズという言葉が入っているのだろう。


魔術師名を聞くまでもなく二人は男性の方に来てほしいと思っているようだが、女性の方はどれだけ恐ろしい人なのか少し想像してしまう。


「ちなみに師匠とその女性の兄弟子の方ってどっちが怖いですか?」


「んんん・・・比較しにくいですけど・・・たぶんあの方の方が怖いかと・・・師匠を手玉に取るような方ですからね・・・」


「・・・うわぁ・・・可能な限り接触したくない」


小百合よりも怖くてなおかつ小百合を手玉に取るという時点で康太はその人物に会うのを拒絶しそうだった。


二人とも一人前の魔術師であることは間違いないのだろうが、恐らくその女の魔術師の方は一流をさらに超えた魔術師なのだろう。はっきり言って近づくのも忌避するレベルである。


「そう言えば師匠のお師匠様って今一人暮らしなんですか?それとも旦那さんと一緒に?」


「いや、夫は私が弟子になった時にはすでに亡くなっていたらしい。私は写真でしかその姿を見たことがないな・・・とても仲の良い夫婦だったんだとか」


「へぇ・・・お子さんとかは?」


「一応いるらしいが会ったことはないな。同じように私が弟子になった時には既に自立していた。写真も見たことがあるがあまり覚えていない」


三人も弟子をとってなおかつ子供もいるのでは恐らく後継者は大勢いるのだろう。


もしかしたら子供たちは何の関係もない一般人かも知れない。だがその可能性は限りなく低いだろう。


なにせ魔術師界隈で敵に回してはいけないとまで言われている人物だ。そこまでの功績と実績を上げた人物が日常を壊さずに日々を過ごせたとは考えにくいのである。


康太だって毎日のように出かけるのはだいぶ苦労しているのだ。魔術師として活動すればその分一般人との関わりは薄くなってしまう。特に夜に関しては。


夜に怪しい行動をとっていれば当然不仲を呼ぶだろう。そんな人物が大成できるとも思えなかった。


「ところでその二人の兄弟子の術師名って何なんです?まだ聞いてないですけど・・・」


「あぁ教えていなかったか・・・女の方・・・つまり師匠にとっての一番弟子は『サリエラ・ディコル』師匠からはサリーと呼ばれていた。男の方は『クレイド・R・ルィバズ』バズと呼ばれていたな」


ようやく術師名がわかったことで康太はようやく二人を認識する共通の名を知ることになるがここで康太はふと思う。


小百合の術師名は『デブリス・クラリス』だ。二人の愛称がサリーとバズならばきっと小百合にも愛称があったのだろう。


「師匠はなんて呼ばれてたんです?術師名の愛称」


「・・・私はクララと呼ばれていた。この呼び方はあまり好きではないのだがな・・・」


クララ、その名前を聞いたときに康太は真っ先に某『立ち上がる少女』を思い浮かべた。


アルプスで立ち上がったその少女の名前。その名前と姿が思い浮かんだときに康太は小百合の術師名の意味を思い出していた。


『瓦礫の上に立つ女』


デブリスはそのまま瓦礫という意味だ。それに対してクラリスの愛称はクララ。なるほどそう言う意味があったのかと康太は納得していた。


「名は体を表すという言葉もある。そう言う意味では私の術師名は非常に理に適っているし納得できるものでもあるがな・・・」


「確かに師匠って瓦礫ってイメージありますよね・・・ものを壊すっていうか・・・なんかそう言う感じがします」


「・・・一応褒め言葉として受け取っておこうか・・・ここが車の中でなければ頭を握り潰しているところだがな」


「師匠が運転しててよかったですよ。ていうか今回はその・・・バズさんの方がいいんですよね?」


あぁその通りだと小百合はハンドルを握りながらしみじみと呟いていた。それに合わせるように真理も何度も頷いている。


小百合はまだしも真理がここまで露骨な反応をするのも珍しい。それだけ恐ろしく会いたくない人なのだろう。


会ってみたいような会いたくないような、康太は奇妙な感覚に襲われていた。


「ちなみに師匠のお師匠様の術師名は?今まで聞いたことなかったですけど」


「あぁそういえば言っていなかったか・・・師匠の術師名は『アマリアヤメ』だな」


「『アマリアヤメ』・・・日本名っぽい感じですね」


「今でも日本名の術師名はあるぞ。この術師名の意味は『危険な魔術を操る女』だったか」


名前にそもそも危険という言葉が入っている時点でなるほど小百合の師匠だなと納得してしまう。


日本名の術師には今までまだあったことがないが実はそう言うのもありなのだろう。名前の感じからして日本の神を彷彿とさせる。


もしかしたら実際にそう言う神様もいるのかもしれない。


「今回お師匠様に会いに行くのって、俺の顔見せみたいなものもあるんですよね?やっぱダメ出しとかされますかね・・・?」


「どうだろうな・・・正直わからん。あの人の考えることはどうにもわかりにくい。お前を鍛えてやるつもりなのかもしれんが、ただ単に会いたかっただけかもしれん。そのあたりは深く考えるな、ただ怒らせないようにだけはしておけ」


「りょ、了解です」


怒らせると一体どういうことになるのかわからないが、康太はとりあえず怒らせないようにしようとかなり気を使うつもりだった。


それこそ自分の祖父母よりも気を使って対応するつもりだ。万が一にも失礼があっては何が原因で怒られるかわかったものではない。


「とりあえず心がけておくことだけ教えておこう。というよりこれはこれから心がけることだ、覚えておけ・・・『年寄りを大事にしない奴は死ね』だ」


「なんつー攻撃的な敬老ですか・・・死ねってもはや改善させるつもりゼロじゃないですか」


「実際年寄りを大事にしない奴に改善しろと言っても無駄なことだ。はっきり言ってそう言う連中は性根が腐っているものだからな。さっさとくたばったほうが世の為というものだ」


小百合の圧倒的暴論に康太は眉をひそめていたが、横にいる真理は薄く笑みを浮かべたまま康太の方を見ていた。


「師匠私にも同じことを言ってたんですよ?お年寄りは大事にしなければいけないって」


「大事にする代わりに若者が死ぬような格言ってどうなんですか・・・?」


恐らく真理を初めて小百合の師匠の下に連れていく際も同じような忠告をしたのだろう。


ぶれないというかなんというか、小百合の独自性が見え隠れする一瞬である。


「ですがお年寄りを大事にするというのは大切なことですよ?実際ちょっと乱暴ですけどしっかりお年寄りを大事にしようという気持ちは伝わってくる言葉でしょう?」


「いやまぁそうですけど・・・ただ単に師匠がお師匠様を怖がっているだけなんじゃ・・・」


「身もふたもないことを言うな。たまにちゃんとした助言をくれてやったらこれだ・・・お前はもう少し師匠の言葉を素直に受け取ることができんのか」


「素直じゃない師匠にそんな事言われても・・・弟子は師匠に似るものですよ」


「ふふ・・・確かに一理ありますね。師匠、今回ばかりは康太君の方が正論ですよ」


「・・・まったくこのバカ弟子どもが・・・」


弟子二人のタッグに小百合は眉間にしわを寄せてため息をついてしまっていた。

こういう時に兄弟子がいるというのは心強い。真理のことは大事にしなければならないなと康太はしみじみ思っていた。


件の小百合の師匠の家に到着するまで、あと二時間程。康太たちは小百合の昔話などに花を咲かせながら車で移動していった。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


そういえば二百回超えてたな・・・今更ですがようやくです。お祝いはまた今度


これからもお楽しみいただければ幸いです

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