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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
一話「幸か不幸か」
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八篠康太のその日

時期は二月の頭、まだまだ寒さが続く中明日あたり雪でも降るのではないかという寒気の満ちる街を彼は歩いていた。


彼の名前は八篠康太(やしのこうた)。中学三年生でつい先日高校受験を終えたばかりの受験生である。


幸運にも助けられて推薦を貰うことができた彼は無事に推薦入試を終え、その合格発表を受けたことで今まで通っていた塾に行くついでにその報告に行ったのである。


塾の講師たちは勿論喜んでくれた。推薦という事もあってそこまで危機感はなかったかもしれないがそれでもいろいろ教えてくれたものとしては非常に思い入れがある。


康太は中学に入ってから塾に通い始めた。そのおかげというべきかそれとも本人の努力を誉めるべきか、比較的教えられれば覚えるのも応用するのも早く成績を伸ばしていた。


部活動との両立はなかなかに厳しかったがしっかりと中学時代を終えることができたと言ってもいいだろう。


もっともまだ中学を卒業したわけではないが。


いつものように家に帰る途中、ふとこんなことを思い出した。


普段使う道の近くに美味いラーメン屋ができたらしい。せっかくなのだからそのラーメン屋とやらを探すために少しの間より道をすることにしたのである。


今にして思えばこの時また別の日にすればよかったのではないかと思えてしまう。


ラーメン屋を探し出すまでそれから約三十分ほどかかった。携帯で調べても妙に入り組んだ道のせいで非常にわかりにくく、たどり着いたころには空腹は限界だった。


とりあえず空腹を満たすために味噌ラーメンを注文し、ラーメン屋の内装を軽く確認してみる。新しくオープンしたという事もあってなかなかに綺麗だ。噂が噂を呼んでいるのか客入りも良好、なかなかに繁盛しているようである。


康太の頼んだ味噌ラーメンが目の前に置かれると、ようやく食べることができるのだなと箸を掴んでまずはスープを堪能する。


中々美味い、噂になるだけはあると思いながら康太はしっかりとラーメンを味わうことにした。


空腹を満たしこのラーメン屋はあたりだったなと思いながらとりあえず帰路に着こうとしたのだが、今この場所からどのように帰ればいいのかほんの少し迷ってしまった。


なにせあちらこちらへさまようように動き続けたのだ、どのようにこの場にたどり着いたのかも覚えていなかったのである。


だがそのあたりは問題ない、康太の手元には文明の利器である携帯電話があるのだ。最近の携帯は地図も見れるしネットもできるしゲームもできるしメールもできる、さらには電話を掛けることだってできるのだ。


携帯電話としての機能として正しいのかどうかはさておいてこの状況において有難いのは確かである。


現在位置から少し奥の道に行けばいつも使っている大きな通りに出ることができる。そのことを理解した康太はとりあえず大通りへと出るために歩き出した。


携帯で逐一現在位置を確認しながら歩いていると、ビルの工事現場から何やら異音が響いてくる。


こんな時間に工事でもしているのだろうかと上を見上げると、唐突に骨組みのビルから火が噴き出たのである。


ひょっとして火事だろうかとビルの中を注視すると、先程まで吹き出ていた炎はすぐに消えてしまった。


自分の見間違いだろうか、いやそんなはずはないと自問自答しながら康太はさらに骨組みのビルの中身を見ようと背伸びしてみる。


当然ながらビルを建設する場合その周囲は壁に覆われており、万が一にも周囲の建物に傷などをつけないように防護ネットを付けてある。見ようとして見えるものではないのだ。


だが逆に言えばその防護ネットこそ、先程炎が出たのが見間違いではないことを決定づけていた。


ネットの一部が焼け焦げているのである。


やはり火事だろうか、それとも不良たちがたむろしていて何か悪戯でもしているのだろうか。


前者なら消防に、後者なら警察に連絡するところなのだが、確証もないのにそんなことをしたら迷惑がかかる可能性がある。


ここはこのまま立ち去ったほうがいいのかもしれない。むしろ面倒事に巻き込まれたくないのならここからすぐに立ち去るべきだと康太の中の何かが警鐘を鳴らしている。


この場に自分がいたところでできることなどない。警察か消防に連絡するのは他の人がやってくれるだろうという他力本願な気持ちから、康太はその場を後にしようとする。


そして歩き出した瞬間、康太は骨組みのビルの中に誰かがいるのを見た。


どんな外見だったかはわからない、だが誰かがいる、人影が見えたのだ。


そしてその人影が一瞬こちらを見た、そして目が合った。そのことに康太は気づけなかった。


自分が見た人影がこちらを見ているということまで頭が回らなかったのだ。


こちらから見えている以上、相手からもこちらが見えていると考えるのが自然だ。だがそこまで緊急性は高くないだろうという憶測が康太の判断を幾重にも遅らせた。


ここで走って逃げるべきだったのかもしれない。のろのろと普通に歩いているその速度のせいで、顔や特徴を覚えられたのかもしれない。


ビルの中にいたその人物はじっと康太を観察していた。そして康太が見えなくなると同時に行動を開始していた。


康太はそれに気づくこともできない、できるはずがない。


ただの中学生が気配を読めと言われても無理な話なのである。


康太はただの中学三年生だ。運動もそれなり、勉強は少しできる程度。特に悪いことなどしない普通の中学生だ。妙な気配を感じろという方が無茶である。


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