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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」
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魔術師とは言え

康太が属性魔術を発動できるようになってから数日、康太は魔術の発動よりも魔力の変換の修業ばかり行っていた。


体の中に魔力を一定量溜めこんでそれを変換していく作業。一度その感覚を掴んだからか時間はかかるが康太はしっかりと魔力の変換ができるようになっていた。


問題はその時間だ。今のところ風の魔力に変換するのにかなりかかってしまうのだ。


具体的には供給するときと同じかそれ以上に時間がかかる。文に言わせると慣れていくうちに徐々に早くなっていくそうだ。


魔術師にとって必要な三つの才能のそれと違い、この変換の作業は完全に術師のセンスと努力によってその速度を変えるらしい。


つまり一瞬で大量の魔力を変換することも可能という事である。


もちろんこの前ようやく魔力の変換を覚えた康太からすればそんなのは夢のまた夢だ。だがそれでも今康太はスタートラインに立っている。その事実が何より康太のやる気を上昇させていた。


とはいっても康太は高校生だ。一日中暇というわけでもない。普通の魔力の補給と違ってまだ康太は風の魔力の生成には高い集中力が必要だった。


授業などがある日中は魔力変換に生じる感覚の反芻、放課後にゆっくりできる状態でしっかりと魔力の変換を行うという生活のサイクルに切り替えていた。


もちろんその中には小百合との修業も含まれる。適度にボコボコにされ修業しながら無属性の魔術の修業もし、康太が風魔術用の魔力装填の修業ができるのは家に帰ってからだった。


幸いにして魔力の装填や無属性の魔術に関しては今まで同じようなことをずっとやってきたためにそこまで苦労はしない。その為家に帰って集中できる時には徹底的に風属性の魔力への変換に打ち込むことができた。


もちろん、数日程度では感覚を記憶する程度しかできておらず、まだまだ練度は足りない。風属性の魔術、文から教わった『微風』の魔術も成功率は四割にも満たない。あの時発動できたのは高い集中力を維持できていたからこそだったのだ。


せめて三連休までにまともに発動できるくらいにはしておきたい。微風などというわずかな風を起こす程度の魔術を見せたところで何が変わるわけでもないが自分が今どれくらいのことができるのかくらいは見せたい。


二月から魔術師になって約五か月。夏休みも間近に控えた今この時自分がどれだけ成長できたのかを示すいい機会でもある。


通常の魔術の修業もいつも以上に身が入るというものだ。試験を前に一夜漬けをしている学生の気分に似ている。


「・・・あんたさ・・・さすがにこれはダメでしょ・・・」


そう、今こうして文に勉強を教わってさえいなければひたむきに努力をしている青年のように見えたのだろう。


そう、学生である以上テストというものからは逃れられない。七月の期末試験を前に康太は勉強をしていたのである。


放課後は部活に魔術の修業。土日は一日かけて魔術の修業。最近勉強している時間はかなり減っていたのである。


「そうは言うがな文ちゃんよ・・・ほとんどやってなくてこれだけできるってのはまだましな方じゃないのか?」


「勉学をおろそかにしておいていうセリフじゃないわよ。まぁあんたの場合元々の頭はそれなりにいいから取り戻せるレベルだけど・・・それにしたって勉強しなさすぎ」


「はい・・・おっしゃる通りです・・・」


最近できる事というかやることが多くなってきたせいで勉強時間がかなり削減されてしまっているのだ。


そもそも康太は県内でもそれなりにレベルの高い学校に推薦で入れるレベルで頭はいい。というより勉強のコツを掴むのが上手いのだ。


だが当たり前だが勉強をしていなければコツも何もあったものではない。文に何とはなしに『あんた期末試験大丈夫?』と聞かれて試しにテストをやってみたら赤点とまではいわないまでも酷い点を取ったのである。


そしてこうして試験勉強に打ち込んでいるのだ。場所は小百合の店。適度に空調も効いておりなおかつ小百合や時々真理も見に来るために勉強する場所としてはなかなか良い場所なのである。


「この際だから言っておくけどね、私達はあくまで学生よ?学生の本分は勉強、そのあたり分かってるの?」


「はい・・・すいませんでした」


「そもそも魔術師としての技術を磨いたってそれで一生食べていけるわけじゃないのよ?魔術師としての活動はあくまで趣味とか特技の範疇なんだから、勉強より優先してどうするのよ」


「まったくもってその通りです・・・」


文のいうように、魔術師として活動していたってそれで生活できるわけではない。ある程度協会に貢献すれば一時金のような形で報酬を受け取れるがそれだって常に受けられるわけではない。


現代社会に生きる以上ある程度きちんと勉強し、それなりの所に就職しなければいろいろ苦労する羽目になるだろう。


実際康太だって大学に行きたいし少しでもいいところに就職したい。魔術師として過ごすだけでいられるような能力は康太にはないのだ。


そうなると魔術だけではなくきちんと勉強もしておかなければならない。文はそんな生活を何年も続けてきたために当たり前のようにできるが、魔術師歴半年にも満たない康太にはなかなかに難しいことだった。


「現代文とかはよくできてるわね・・・問題は英語と現代社会・・・あんたって理系なの?」


「まぁ数学とかの方が考えやすいわな。英語は少し苦手だ。現社とかほとんど暗記じゃんか・・・あんなの覚える時間なきゃ無理だっての」


「まぁそれもそうかもね・・・じゃあなんでコツコツやらなかったの?って聞きたいところだけど・・・まぁそのあたりは察してあげるわ」


「お察しの通りです・・・だって部活に修業に勉強なんて三つもできないっての。二つだけでも結構両立するの大変なのに」


「それをするのが魔術師なの。ほらそこ文法間違えてるわよ」


得意な箇所は何も勉強しなくてもそれなりに点数が取れるが苦手なところに関しては全力で勉強しないと最悪赤点もあり得るという事で文は徹底的に英語や社会科を教えていた。


文にとって勉学は当たり前のようにすることだが、康太は受験というものをほぼ経験していないために最近完全に怠けていたのである。


特に推薦受験が終わってからはほとんどと言って良いほど勉強していない。日々の宿題などをやるために教科書を見るくらいのものだ。


それでもある程度の点が取れるあたり康太の頭の回転やコツの掴み方が早いというのがうかがえるが、同盟を組んでいる以上赤点回避という低い目標だけは許せなかった。


「とりあえず社会とかの科目はテストまでに頭に詰め込みなさい。それまでに解き方とか考え方とか教えるわ。あんたならそれで何とかするでしょ」


「高く評価してくれるのは嬉しいんだけどさ・・・俺そこまで頭良くないんだけど・・・」


「うちの学校を推薦で入れる時点で普通に頭がいい部類よ。今あんたが勉強できなくなってるのはやってなかったから。次からは日々コツコツとやりなさい」


まったくもってその通りであるために反論のしようがない。毎日コツコツとやっていれば唐突に困るようなこともないのだ。文の真向からの正論はしっかりと康太に突き刺さっていた。


「ていうかあんた中間試験の点数とかどうだったわけ?そこまでひどいことにはなってなかったように思うけど」


「あぁ・・・あの時のテストはぶっちゃけ中学の延長みたいなもんだったからな、そこまで苦労はしなかった」


「ふぅん・・・さすがに七月になってやることも増えてきたしね・・・勉強が追いつかなくなるのも無理ないか・・・」


実際康太は七月に入ってやることがかなり増えた。大会を目前にし、なおかつ日が長くなったことで部活はさらに盛んになり、高校に入って数か月経過しているために勉強は徐々に難しくなり、魔術師としての新しい技術を身に着けたことで修業にも熱が入り、これでは満足に息抜きもできない。


だがそれでも康太の日々は充実していた。


忙しくて目が回りそうな時もあるし、普通とは口が裂けても言えないがそれでも楽しい日々を送れている。


これで何もせずに勉強ができるようになればどれだけよいだろうか。


ないものねだりなどしたところで何も始まらないのは百も承知だ。そもそも勉強など何の役に立つのだろうかと思ったこともある。


実際今でも半分くらいは思っている。特に社会の分野に関してはこんなものを覚えてもどうなるというのだという気はしている。


特に日本史や世界史など、社会に出て何の役に立つのだと思うのだ。数学などの理系の科目はまだその必要性を理解できるが社会関係の科目は一般常識程度の知識さえ入れておけば後は必要ないように思えるのだ。


「はいそこ、勉強なんて必要ないんじゃないかみたいな顔しないの」


「うぇ・・・顔に出てたか?」


「または勉強嫌だなって顔してたわ。しょうがないじゃないの、学生の本分は学業、勉強が私たちの仕事みたいなものなんだから」


「・・・魔術師でもか?」


「私達は魔術師である前に一学生よ。その逆もまた然り。私たちがこれからどんな存在になるかわからないからこそ広く浅く教えてくれてるんじゃない」


そう、学校の教育というのは子供の未来を考えた教育を行うものなのだ。未来を考えるというのはつまりあらゆる可能性を視野に入れるという事である。


大人になってから日本で暮らすうえで困ることがないように現代における国語を、海外に行ってもある程度の対応ができるように英語を、計算などに困らないように数学を、技術師や研究者になった時の基礎を固めるために理系科目を、社会に関するあらゆることを知識として修得するために社会科目を、他にも体力をつけるために体育を、音楽の道に進んでもいいように音楽を、一人暮らししても大丈夫なように家庭科、等々様々な分野において幅広くそして大まかに教えていくのが学校教育だ。


そしてこれの目的は将来を見越して行われる選別作業の一環でもある。


人間にはあらゆる意味で向き不向きがある。社会に出る前に自分がどの道に行きたいのか、そしてどの道が向いているのかを大まかに決める指標として今こうして勉強をしているという意味もあるのだ。


勉強する者しない者、得意な科目の有無、総合的な実力に加え学校という一種の共同施設に入れることで社会性とコミュニケーション能力を培う。


そう言う意味では学校というのは非常に効率がいい社会人育成施設だ。もちろん多くの人間がそこに通う以上例外は存在するし面倒も発生してくるが、基本的に普通の生活を送っていれば大抵の人間は普通に過ごせるし普通に勉強できるだろう。


問題は康太たちがすでに普通の枠組みから外れているという点である。


だが普通という枠組みから外れているという事実を言い訳にするほど文は甘くない。だからこそ今康太に教鞭を振るっているのだ。


評価者人数が115人突破したので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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