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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」
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三連休の予定

「ところで康太君、あの魔術はそろそろものにできそうですか?」


「あー・・・まだ難しくて・・・成功率八割ってところです・・・どうもうまくできなくて・・・」


康太の言葉に八割ほどあれば十分ですよと真理は笑って見せる。そんな二人を見て文は首をかしげていた。


「なに?また新しい魔術練習してるの?」


「あー・・・いや・・・実は結構前から練習してる奴なんだけどな・・・どうにもうまくいかなくてまだ師匠から実戦使用の許可が下りないんだよ・・・」


「師匠は成功率十割にならないと使用を許可してくれませんからね。あぁみえてしっかりしているところはしっかりしているんです」


酷いところはひどいですけどねと付け足しながら真理は康太の成功率の上昇に喜んでいるようだった。


「ふぅん・・・どんな魔術なの?発動すら難しいわけ?」


「いやいや、発動自体はもう完璧。問題は狙いを定める作業でな・・・どうにもうまく目標に当たらないんだよ」


だいぶ命中率上がってきたんだけどなと付け足しながら康太はため息をついて近くの的のようなものに視線を向ける。


どうやら康太は射撃系に近い魔術を覚えようとしているらしい。所謂遠距離攻撃だ。


そう言ったものを覚えることは無駄ではない。小百合もそのあたりは理解しているのだろう。


だが遠距離攻撃というのは発動率と同じくらい命中率が重要なのだ。発動できても当たらなければ意味はない。発動そのものが重要だというのは言わずもがなではあるが、それと同じくらい当たるかどうかというのも大事なことなのだ。


銃弾に例えるとわかりやすいだろうか。拳銃は撃てなければ意味がない。だがそれと同じくらい当たらなければ意味がないのだ。


中には威嚇射撃としてわざと攻撃を外すといった手法もあるが、康太の場合は当てなければ意味がないのである。


「例によって例のごとく、また攻撃魔術?」


「一応な。攻撃力はほどほどだけどそれなりに便利な魔術だよ。ただ操作が難しくてなぁ・・・難易度は今までで最高ランクだ」


今までで最高ランクと言われても今まで康太が覚えてきた魔術のほとんどは難易度が非常に低い基礎的な魔術のようなものだ。


もっともその破壊性能はかなり高く、最初に覚える魔術としては破格の利便性を持っていると言っても過言ではない。


「あんたの事だから大雑把な発動してるんじゃないの?今覚えてる魔術だって割と結構適当に発動してるでしょ?」


「いやいや何をおっしゃる。適当に使ったらうまいこと利用できないだろうが。これでも結構頑張って使ってるんだぞ」


康太の扱う魔術は基本的に対象や選択が必要になるものが多い。分解であれば分解する物を選択し、再現であれば再現する動作とその方向を選択する。蓄積は蓄積する物体を選択し、炸裂障壁ならその座標を選択する。


当然かもしれないが康太の魔術に適当に発動して利用できるものは一つとして存在しないのである。


だからこそある程度考えて使わなければいけないし、その利用法も決めたうえで使わなければ意味がないのである。


逆に言えばそうやって考えているからこそ多くの利用法を思いつくのかもしれないが、康太にとっては考えながら戦うという行為は半ば当然のことになりつつあるのである。


「ふふ・・・康太君はこう見えて策士ですからね。利用できるものなら相手の魔術だって利用しますから。それは文さんも重々承知しているのでは?」


「・・・ん・・・まぁ・・・それはそうですけど・・・」


実際康太とは時々手合わせをするが、その時ほぼ必ずと言って良い程康太は相手の魔術を利用する。


それが本来魔術がもつ効果であっても、また本来は持っていない効果であっても全く気にせず利用してくるのだ。


良く言えば利用できるものは利用するという戦い方だ。そこに魔術師としてのプライドなど一切ない。勝てればいいというただそれだけの戦い方だ。


そう言う意味ではこの戦い方は非常に小百合のそれに近しいものがある。

なにせ彼女もまた勝てれば問題ないと思っている節があるからである。


「なんか康太・・・あんたどんどん小百合さんに似ていってない?」


「なんだと?俺はそこまで敵を作りたくないぞ?ていうか似てきてる?」


「・・・なんとなく行動がね・・・っていうか仕方ないところもあるんだけどさ・・・」


康太は魔術師になって日が浅い。その為魔術師としてのプライドを求めたところでそんなものは犬に食わせろと言いかねないほどだ。


そもそも康太に魔術師としての自覚がないのだ。いや自覚はあるのだがそれを誇ろうとする気持ちも、魔術師である自分を肯定しようという気持ちもないのだ。


むしろ康太は若干ではあるが魔術師に対して否定的な考えを持っている。どちらかというと魔術師という存在に対するあこがれが強すぎて現実のそれに対して落胆していると言ったほうが正しいだろう。


箒で空を飛んだり何もないところから何かを出したり何かに変身したり簡単にできると思っていただけにその落胆は大きいのだ。


物語のそれと比べるのはナンセンスだと言われても仕方がないところだが、康太だって男の子なのだ。そう言った憧れを持ってしまうのは仕方のないことだろう。


もし文が男の子だったら同じようなことを考えたかもなとそう思わなくもないのだ。だからこそ文はそこまで康太を非難するつもりはなかった。


「俺だってさぁ・・・とれる手段が多ければそれなりにまともに戦おうとするっての。師匠の真似とかただでさえ危険なんだからさ・・・」


「まぁそれもそうかもね・・・今度ある三連休はみっちり修業しましょ」


七月には一応三連休がある。海の日と土日の連なる三日の休みだ。康太たちはそのあたりで修業して少しでも実力を付けようと画策していた。


「そう言えば康太、三連休の予定を空けておけ。お前には私の付き添いをしてもらう」


「え・・・!?」


画策したとしてもその計画が思惑通りに行くとは限らない。今回のこれはそのいい例だろう。


小百合のまさかのお誘いに康太は嫌な予感が止まらなかった。面倒事の匂いがする。そしてその予感は正しく、文も真理も感じ取っているようだった。


「・・・とりあえず師匠、なんかあるんですか?てかどこに行くんですか?」


「あぁ・・・師匠から呼び出しを受けてな。久しぶりに顔を見せに来いと」


小百合が師匠と呼ぶ人物。その人物のことを康太は知っていた。いや正確に言えばどのような存在であるかを知っていた。


小百合に魔術を教えた張本人。小百合をして自分以上の暴君であると言わしめる人間。その人物からの呼び出しという事もあって康太の嫌な予感センサーは正確に反応していた。


「・・・ひょっとしてそれに俺がついていくんですか・・・?


「あぁ、そろそろお前を私の師匠に会わせようと思ってな。先方にもすでに話を通してある」


「・・・師匠の・・・師匠・・・」


既にアポイントメントをとっているというのはなかなか手際がいいと思えるが、同時に先に自分の予定を聞いてほしかったなと眉をひそめる。


普通康太の予定を聞いてから決めるものではないだろうかと思えてならないが、どうやら小百合にそう言った常識の類を求めるのは間違いらしい。


弟子の予定は師匠が決める。一体いつの時代の人間の考え方だろうかと辟易するが小百合はこういう人間なのだ。今さら文句を言ったところでどうしようもない。


「姉さんは師匠のお師匠様に会ったことありますか?」


「えぇ、私も年に一回は必ず会いに行っていますよ。師匠よりはまともな人だと思います・・・たぶん」


真理がたぶんと付ける当たり、恐らく確証はないのだろう。小百合からの今までの話を聞いている限りかなり破天荒な人物であると思うのだが真理はそう言った感想を抱かなかったようだ。


「ちなみにどういう人なんですか?男?女?」


「女性の方です。今年で確か六十後半程になる方でとても穏やかそうに見えます・・・師匠曰く非常に丸くなったのだそうで」


「へぇ・・・師匠って兄弟弟子っているんですか?」


「いるぞ、私は弟子の中でも一番年下だったな。上に二人ほど兄弟子がいる。たぶん会いに行くときもどちらかがいるだろうな」


「へぇ・・・師匠の兄弟子・・・」


康太の中ではすでに小百合以上に破天荒な性格をした魔術師が約二名ほど思い浮かべられている。


小百合の身内、あるいはその関係者は皆等しく危険人物、あるいは面倒を持ってくるようなタイプの人間であるという考えが康太の中にはあるのだ。


そしてその考えは大体合っているから性質が悪い。


「その二人ってやっぱりすごい魔術師なんですか?」


「すごい・・・という言い方が正確かはわからんが、片方は私の師匠の正統な後継者だ。師匠の持っていた魔術の全てを継ぎ、師匠と同じく敵に回してはいけない魔術師としても認識されている」


敵に回してはいけない魔術師それはつまり『敵にすること自体が危険』であるという事だ。


小百合の場合破天荒な性格もあって敵も多い。だが逆に言えば小百合は敵にしてもいいと思える程度の魔術師なのだ。


程度という言葉を使うとまるで小百合のレベルが低いように思えるかもしれないが実際はそんなことはない。厄介さの段階で言えば小百合は災害レベルだ。


そしてつまりそれは小百合以上の恐ろしい魔術師が少なくとも二人はいるという事である。


一人は小百合の師匠。もう一人は小百合の兄弟子。あってみたいような会ってみたくないような、複雑な気分だった。


「その正統な後継者って・・・姉さん会ったことあります?」


「・・・ありますよ・・・あの方は何というか・・・そうですね、だいぶ恐ろしい方です」


「・・・師匠とどっちが恐ろしいです?」


「・・・甲乙つけがたいですが、私はあの方の方が恐ろしく感じましたね。なんと言いましょうか・・・師匠をよりひどくした感じです。その方も女性なのですがなかなかすごい方ですよ」


「・・・うわ・・・それはひどいな・・・」


「お前らそう言う話をするならせめて私に聞こえないようにしろ。すべて聞こえてると若干傷つくぞ」


康太と真理は基本的に小百合に対して悪口を隠すことをしない。その方が誠実であると思うし何より隠すような事でもないと思っているからである。


「じゃあもう一人の兄弟子の人は?」


「あの方は非常に温和な方ですよ。師匠の兄弟子とは思えないほどです。気の良いおじさんといった感じでしょうか」


小百合の兄弟子は片方は女性、片方は男性であるらしい。その中でも小百合は一番年下なのだというが、実際会ってみないことには何とも言えない。


会ってよかったと思えるのか、はたまた会わなければよかったと思うのか。


「・・・その話私聞いてもよかったんですか・・・?思い切り部外者なんですけど」


この場にいてその話を聞いていた文はどうしたものかと悩んでいた。今まで康太と行動を共にしてきた文だがさすがに今回ばかりは一緒に行くことは難しそうなのである。


なにせ今回は小百合の師匠からの直々の招集なのだ。部外者である文が一緒に行くという事は無理そうなのである。


「あぁ・・・そうだな・・・今回はお前は康太との行動は控えてもらいたい。正直お前達の同盟関係に関してはあまり口を出したくなかったが・・・今回ばかりは自粛してくれると助かる」


小百合としては康太が自分で結んだ魔術師としての関係には口を出したくなかったらしいが今回ばかりは師弟関係に直結する内容だ。その為に部外者がいる事自体が好ましくないのである。


そうなると文が行動を共にすることはほぼ絶望的と思っていいだろう。


「まぁ構いませんけど・・・康太、あんた平気なの?そんなおっかない人と会うなんて」


「ぶっちゃけすごく不安だけどな・・・師匠も一緒だし・・・姉さんも一緒に来てくれますよね?」


「それは構いませんが・・・師匠、呼び出しを受けたのはいいんですけど康太君の事はどれくらい話してあるんです?」


どれくらい。それがどのような意味を持っているのかさすがの康太でも理解できた。


康太は小百合の弟子として魔術を学んでいる。恐らく小百合も自らの師匠に二人目の弟子をとったということくらいは教えているだろう。だからこそ今こうして呼び出しがかかっていると思ってもいい。


問題なのは康太がどのような人物であるか、そしてどの程度魔術師として素質を持ち成長しているかという事である。


厳しい人物という事もあればもしかしたら今の康太の成長では物足りないと思うかもしれない。もし万が一にも鍛えられることがあれば康太は生きてこの三連休を乗り越えることができなくなるかもしれないのである。


「ある程度のことまでは話してある。魔術師になった経緯は省いたがある程度センスのある奴程度の言い回しでな」


「・・・あの、妙にハードル上げるのやめてもらっていいですか?普段全然褒めてくれないのに何でこんな時だけ!」


「安心しろ、別にスケープゴートにしようとか思ってるわけではない。師匠の相手を少しの間してほしいだけだ」


「完全に囮扱いするつもりじゃないですか!俺センスなんてありませんよ!」


センスがあるかないかで言えば康太は確かに一部センスがあり一部センスがない。


魔術の修得と使用という観点から言えば康太は一定以上のものを持っている。その修得速度も、そしてその使用方法も普通の魔術師よりは機転が利く方だろう。


逆に康太の持つ素質自体は平均よりだいぶ劣るものばかりだ。その為口が裂けても才能があるとは言えないのである。


小百合は自分が師匠の相手をしたくないばかりに康太を差し出したのだ。もとより今回顔を見せに行くのは康太を引き合わせるという事が目的なのだろうが、康太からすればそんなことは知ったことではないのである。


「安心しろ、あの人もだいぶ丸くなった。昔のような無茶はしないだろう」


「昔どんな無茶してたのか知らないですけど安心できませんよ・・・ていうかそのお師匠様はどこに住んでるんです?」


「師匠は茨城に住んでいる。ここからならそう遠くないからすぐに行けるぞ」


案外近くに住んでいるという事実に康太は嬉しいやら悲しいやら苦笑いしてしまっていた。


普通師匠の師匠に会うとなればそれなりに楽しみだったり緊張したりするものなのだが、康太は今から脂汗が止まらなかった。


一体どんな無茶苦茶をやらされるのだろうかと気が気でない。


「そう言えばそのお師匠様ってまだ魔術師として現役なんですか?」


「まだまだ現役と言っていたが、実際体の方はどうだろうな・・・?魔術は基本的に意識さえはっきりしていれば問題なく使えるが・・・体力の方がもたないんじゃないか?少なくとも全盛期の頃に比べるとだいぶ落ちただろう」


全盛期の頃。魔術師として敵に回してはいけない存在の全盛期となると一体どれくらいの実力があったのか想像もできない。


少なくとも康太よりも真理よりも、そして小百合よりもずっと強かったのだろうということは容易に想像がつく。


現時点での戦闘能力がどれほどのものかは不明だが、六十代の女性ともなればだいぶ体力も筋力も衰えているだろう。


肉弾戦に持ち込めば何とか勝てるかもしれないなと康太は考えながらその考えが意味がないことを悟り首を横に振る。


何も戦いに行くわけではないのだ。真理の話を聞く限り非常にまともそうな人物であるらしい。仮に面倒が起きた場合は小百合に丸投げして何とかしてもらうのが一番の対処法だろう。


「まぁあれね・・・とりあえず生きて帰ってきなさい。それさえしてくれれば私は満足だから」


「おう・・・帰ってこられるといいな・・・」


「戦場に行くわけでもあるまいし、何をそんなに心配することがあるか」


「さんざん煽っておいてそれはないですよ・・・てかぶっちゃけすごく不安です・・・」


今まで武勇伝ではないがそう言った話を聞いていただけに小百合の師匠に関しては多少イメージが先行してしまっている感がある。


そのせいでまともな思考ができていないというのも今こうして緊張している理由の一つなのだろう。


土曜日、そして評価者人数が110人超えたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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