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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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未熟さの表れ

「・・・何をどうしたらこうなるわけ?」


「聞くな・・・俺だってかなりショックなんだ・・・」


結果的に言えば康太は小百合に一撃も入れることができなかった。それどころか簡単に懐にはいられ適度に殴られるを繰り返し、その体はボロボロになっていた。


槍という武器の特性上、リーチは長いがその分懐に入られればかなり無防備になってしまうのだ。


康太も小百合もそのあたりは熟知しているためとにかく自分の得意な距離で戦おうとするのだが、康太はそうしているのに対して小百合は余裕で康太の槍を素手で捌いていた。


全力で振り回しているというのにその攻撃は完全に見切られてしまっていた。


槍と素手では確かにその実力差が拮抗している場合槍の方が圧倒的に有利ではある。それは槍が剣に変わっても同じことだ。


だが康太と小百合の場合圧倒的に小百合の方が実力が上なのである。剣道三倍段という言葉があるように、リーチの違うものが同時に戦えば三倍の実力がなければそのリーチの差を覆せないというほどだ。


その差を小百合は易々と覆して見せたのである。


康太の槍に対して小百合は拳と足だけ。それなのに康太の攻撃は当たらず一方的に小百合が攻撃できる。


つまりはそれだけの実力差があるという事だ。ただ単に康太が未熟であると言われればその通りなのかもしれないが。


攻撃を当てられず、なのに一方的に殴られ蹴られ、康太は今まで積み重ねてきた自信のほとんどを失ってしまっていた。


今までの努力がすべて無駄、とまではいわないが、ある程度戦えるようになっていただけにここまで実力差があるとなると落胆の色は強かった。


分かっていたことではあるのだがこうして突きつけられるといろいろきついものがあるのである。


正直なところ、文も康太が槍を持ち小百合が素手だった場合ある程度小百合が本気を出しても多少は相手になると考えていたのである。


いくら小百合でも素手の状態で武器を持った相手に対して楽に勝つことはできないだろうと考えていただけにその予想は大きく裏切られた。


「ほら、いじけてないで立ちなさいよ・・・くよくよしてたってしょうがないでしょ?」


「・・・わかってるよ・・・ちくしょう・・・!」


康太だって今の自分が未熟であることくらい百も承知だ。そして今こうして膝を抱えていても何にもならないという事は千も承知だ。それでもたまには膝を抱えたくなるときくらいあるのだ。


いや康太の場合割と頻繁に膝を抱えている気がするがその点はまたおいておこう。


「あんたなんてまだいいじゃないの。比較的まともに戦えてるんだから・・・私なんてほとんど一方的にやられたのよ?」


「そりゃ師匠相手に距離取ろうとすればそうなるだろ・・・あの人そう言う戦いの方が圧倒的に得意なんだから」


康太にその戦い方を教えただけはあって小百合は距離を詰める作業が非常に上手い。


相手が魔術を使おうとして距離を取ろうとすればそれ以上の速度と勢いで相手に詰め寄りその思考を攪乱する。


逃げようと思えば思うほど、遠ざかれば遠ざかるほど小百合の術中にはまっているのだ。


だからと言って康太の様に接近戦を挑んでもその実力の高さ故に大抵一方的にやられるのだが。


「私もいっそ武器なんか覚えようかしら・・・でもなんかそれ負けた気がするのよね・・・」


「負けるってそもそも勝ち負けなんてないだろ・・・これ以上お前になんかで負けるの嫌なんだけど」


ただでさえ魔術の技量で負けてるんだからさぁと康太は唇を尖らせている。要するに魔術では文が、武器では康太がというすみわけをしたいのだろう。文が武器を覚えようとしたら自分が抜かされるとでも思っているのだろうか。


「武器ならあんたの方が扱い上手いでしょ?運動部なんだから」


「お前だって運動部だろうが・・・なんかすぐに抜かされそうで嫌なんだよなぁ・・・」


こんなにいじけてまるで子供だなと思う康太を見ながら文は自分の中にある悔しさと向き合っていた。


康太が今感じているものはなにも康太だけが抱いているものではない。文もまた自分の未熟さに腹が立っているところなのだ。


康太が戦っている間、文は気絶していた。いつの間にか気絶していたのだ。


どのように攻撃されたのかも、どのように追い詰められたのかも記憶があいまいで思い出せずにいる。


康太はまだどのようにやられたのかも覚えているし一矢報いたという事もあるが自分はそれさえできていないのだ。


つまり実戦に限りなく近い状況では文は康太以下の実力しか持ち合わせていないという事でもある。


もちろん相手が小百合のような例外的な魔術師が相手だった場合の想定ということになるが。


だがそれでも康太に劣っているという事実は変わらない。康太が十数分戦える相手に対して、文は数分しか戦うことができないのだ。


団栗の背比べと言われればそこまでだが文にだってプライドがある。康太より上に、いや誰よりも上に位置したいという欲くらいあるのだ。


いつまでも負けっぱなしは嫌なのである。


例えそれが熟練の魔術師であったとしても。


「おや二人とも・・・その様子を見るに随分と絞られたようですね・・・」


康太と文が話しているとゆっくりと真理がこちらに歩いてきていた。ボロボロの二人の様子を見て苦笑しながら二人に手をかざしていた。


「姉さん・・・俺の自信は先程粉々に砕け散りましたよ・・・」


「どうやらこっぴどくやられたようですね。この痣から察するに拳や蹴りで徹底的にやられたと言ったところですか」


「そうなんですよ・・・こっちは槍使ってるのにほぼ一方的にボコられました・・・」


「ふふ、師匠を近接戦闘で負かすことができるのは本当にごく一部ですから仕方有りませんよ」


小百合は接近戦を専門分野にしているわけではないだろうが、彼女の性格からして直接殴ったほうが性に合っているというのはよくわかる。


というかむしろ小百合の場合殴っている方が絵的に非常にマッチしている。実際小百合はその戦い方を好んでいる節さえある。


本来の彼女の戦いがどのようなものであるのかは不明だが。


「文さんは・・・距離を取ろうとして追いつめられたというところですか。傷が随分とまばらにありますね」


「その通りです・・・あっさり掴まりました」


文は逃げようとして小百合に背中を見せたり対応しようとして前を向いたりした状態で攻撃を受けたために全身に攻撃がまんべんなく当たっていたのだ。その傾向を正確に読み取ったあたりもしかしたら真理もある程度そういった経験があるのかもしれない。


「あの・・・真理さんだったら小百合さん相手にどう戦います?」


「私ですか?」


「はい、真理さんはまともな魔術師だと思ってるので参考にしたくて・・・」


真理は比較的まともな魔術師に見える。だが比較的にそう見えるというだけあって実際には小百合の弟子であるという系譜はしっかり受け継いでいる。


破壊に関してというわけでもなく、実力的なものでもなく、取る手段がどこかしら物騒なのは小百合の弟子ならではというべきだろう。


それでもまだ真理は魔術師として当然の行動ができるあたりましな方だ。その為文は真理の対応を参考にしようと思っていたのである。


「そうですねぇ・・・私が修業時代にやっていたのは相手の行動の裏をかくってことくらいですか」


「裏?」


「逃げようとすれば師匠は追ってきます。逆に近づいて攻撃すれば応戦します。なので徹底的にその逆を突いていくんです」


「えっと・・・つまり・・・?」


そもそも逃げれば追われ立ち向かえば叩きのめされるという現状を打開したいのだが、距離を取るか近づくか以外の手があるという考えそのものが二人にはなかったのである。


もしかしたら別の手を使うのかと考えていたのだが、真理の考えていたのは予想以上にシンプルな答えだった。


「つまり師匠が追おうとした瞬間に接近して攻撃します。そして攻撃を受けて師匠が反撃をしようとした時点で逃げます。つまりヒット&アウェイを繰り返すことになりますね」


「あー・・・でも結局相手の攻撃の射程内に入るんじゃ・・・」


「それくらいのことをしないと師匠は切り崩せませんよ。安全圏で戦おうと考えるその思考がまず間違いです。貴女は将棋で一つも駒を消費することなく勝つことができますか?」


「それは・・・難しいです・・・」


文はあえて難しいという言葉を使ったが実際には無理に等しい。特に相手との実力が拮抗していればいる程その難易度は跳ね上がる。


相手の方が実力が上であればなおさらだ。文にとって小百合に対して安全圏で戦おうと逃げる事自体が悪手であるらしい。


「近距離攻撃と遠距離攻撃、それを交互に、あるいは相手の動きを読みながら繰り出していけば必ずどこかしらで相手が崩れます。それが耐久力的な問題なのか、精神的な問題なのかは人によるでしょうが」


「・・・なるほど・・・確かにそれは一つの手ですね・・・」


「文さんの場合遠距離攻撃は優秀の一言です。ですが近距離攻撃となると難がありますね。そのあたりを補強してもいいと思います。もっともまだその段階には至っていないと判断しますが」


「え?どうしてですか?」


遠距離攻撃が優秀であるのなら近距離攻撃ができるように訓練したほうがいいのではないかと思えるのだが、どうやら真理はそれはまだするべきではないと考えているようだ。


その理由がわからずに康太も文も首をかしげていた。


「確かに文さんの遠距離魔術は優秀ですがまだそれを実戦で扱うのに適した形にできていないように思います。近距離攻撃を学ぶのはそれを終えてからでも遅くありませんよ」


「ん・・・そう・・・でしょうか・・・」


真理の言っていることを文はなんとなく理解しているのだろう。納得はしていない、いやできていないようだが


「あと少し実戦を積めばそのあたりを理解できるようになると思いますよ。まだ矢面に立っているのが康太君ばかりなのでその感覚を得にくいでしょうが」


「・・・はい・・・わかりました」


今までは康太が主に戦闘を行っていた。まだ文が主戦力になって戦ったことはほとんどなく、文が主戦力になって戦ったのは康太との戦闘だけである。


そう、文はまだ実戦経験が足りないのだ。そのあたりをもう少し埋めてから必要な訓練をして行っても遅くはない。真理はそう判断したのである。そしてその判断は文の師匠であるエアリスのものと同じだった。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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