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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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本気と手加減

「で、結局何もつかめなかったと」


「あともうちょっとなんだよ・・・!なんかもうちょっとで掴めそうなんだよ・・・」


文と康太は土日という事で小百合の修業場へとやってきていた。やっている内容はいつもと同じ、実際に戦闘に限りなく近い訓練である。


分かりやすくいえば何でもありの戦闘だ。康太はすでに小百合に叩きのめされた後で今は文が準備運動を始めている。


自分の中にあったあの感覚を思い出そうとしているのだがどうにもうまくいかない。どのようなことをしていたかはわかっているのだがあの感覚をもう一度味わおうと康太も必死になっているのだがどうにもうまくいかないのである。


「まぁなんでもいいけど、随分と戦えるようになったわね。クラリスさん相手に十分もったじゃない」


「十分で負けてるんじゃ足止めにもならないけどな・・・しかもあれで結構手加減してくれてるし・・・」


「へぇ・・・そうなの?パッと見全力でやってたように見えるけど」


「いや・・・あの人本気になるとかなりえげつないからな・・・たぶん今本気出されたら瞬殺される」


康太と小百合の戦いは傍から見ればいい勝負のように見えた。康太は槍と再現の魔術を主流にして小百合の攻撃を受け止めたり反撃したりと槍での戦いもだいぶ馴染んできているようでその実力はかなり上がっている。


反射的な魔術の使用や同時発動にはまだ難があるようだがそれでも十分以上に戦えるレベルになっている。


十分の間は小百合とまともに対峙できていたのだ、その実力は今年度の初めから比べると目を見張るほどの成長と言えるだろう。


だが実際に対峙している康太は全く違う感想を抱いていた。


康太は実際に小百合の本気と思われる戦いを何度か経験している。その時は本当に相手にすらならなかったのだ。


文が最初に経験したのと同じように『何をされたのかすらわからなかった』のである。


気がついたら視界は暗転し、次に光を見たと思ったら天井を見上げていた。


近くには真理がいて康太の方を心配そうに眺めていたのを思い出す。あれが小百合の本気であったということにしたが実際本気を出しているのかは定かではない。


今も時折その状態になってくれるが、それでも康太はほとんど反応できない。


数秒間その状態を維持することはできる。だがそれを超えるとすぐに何が何だか分からなくなりいつの間にかやられているのだ。


先程の様に戦えていただけでどれだけ小百合が加減をしてくれているかがわかる。そして自分がいかに未熟であるかがわかる。


小百合は基本的に康太の実力に合わせて戦っている。真理もまた同様だ。康太の持つ実力よりも少し上の力を使ってその実力を伸ばそうとしている。


やっていることは非常に無茶苦茶だし説明もないし雑な師匠であり指導でもあるが、それでも康太を育てようという熱意だけは伝わってくる。


「ふぅん・・・じゃあ私は手加減されてるわけ?」


「間違いなくされてるだろうな。ていうか師匠が俺たち相手に本気を出すとは思えん」


「・・・それは私が・・・エアリス・ロゥの弟子だから?」


「いいや、本気を出すほどの相手じゃないからだろ」


相手がどんな魔術師だろうと、小百合ならその必要があれば本気を出すだろう。つまり自分たちは本気を出すに値しない存在だという事だ。


要するに舐められている。簡単に言えばそう言う事である。


いくら小百合とはいえ軽んじられるのはあまりいい気がしないのか文はふぅんと笑みを浮かべながら準備運動を進めその表情をひきつらせていた。なんというかわかりやすいやつだと思いながら康太はゆっくりと体を起こす。


「なんなら本気を出すように頼んでみるか?たぶん瞬殺されるぞ?」


「いいわ、そんなのされても嬉しくないもの。どうせならびっくりした顔位させてみせるわ」


文もまだ自分の実力では小百合の全力を出すに値しないという事は理解しているのだろう。自分の実力と相手の実力を秤にかけて正確な戦況分析をできるあたり彼女は優秀だ。


自分と小百合の実力差を理解してなお、相手に一矢報いようとしているのだ。向上心も康太よりずっと現実的である分頭の回転の速さがうかがえる。


「びっくりって、どうやって?」


「それはどうにかするわよ。とれる手段も増えて来たし攻撃も見えるようになってきた。少なくとも前みたいに瞬殺はされないわ」


以前の文ならその手加減された状態の小百合でさえも瞬殺されていた。なにせ彼女のようなタイプの魔術師は小百合のようなまともな魔術師戦をしないようなタイプが大の苦手なのだ。


ラフファイトに弱いとでもいえばいいだろうか、正規の戦闘では高い戦闘能力を発揮するのに対して例外的な動きや想定外の動きが入った場合処理能力が一気に落ちる。


最近ではその予想外の対応もだいぶできるようになってきてはいるがやはりまだ動きがぎこちない。


最初から不意打ちや予想外の動きに慣れさせられた康太と違って文は慣れる事自体に時間がかかる。そのあたりの差が出ていると言って良いだろう。


「いつまで待てばいいんだ?準備運動にいつまでかけている!」


「今行きます!それじゃ康太、またあとでね」


「おう、頑張って来いよ」


「任せて、少しはびっくりさせるから!」


そう言って文は小百合に挑んでいく。その数分後に気絶させられた文が運ばれてくることになるのだが、それはまた別の話である。当然小百合は全く驚いたような表情はしていなかった。


「こいつはもう少しかかりそうだな・・・まだこの程度で対応できなくなるか」


「文は正攻法が得意ですからね。師匠みたいな戦い方は苦手なんでしょ」


「いつまで経っても苦手では困る。まぁ最初に比べると対応できるようになってきてはいるがな」


小百合は文の足を引きずった状態で康太の近くに転がすと、そのまま康太の方に視線を向ける。


「さぁ立て。次はお前の番だ」


「俺さっきコテンパンにされたばっかなんですけど・・・」


「お前の相方が不甲斐ないのが悪い。さっさとしろ、あまり私を待たせるな」


相変わらずスパルタだなと思いながら康太はゆっくりと立ち上がり槍を手にしながら体の調子を整えていた。


若干体に痛みは残っているものの各部位は問題なく動いてくれる。これなら問題なく戦闘を行えるだろう。


「師匠としては文にどうなってほしいんです?割と熱心に指導してますけど」


そう言いながら康太は訓練用の槍を振り回しながら体の動きを確認していた。小百合は康太とは違うタイプの槍を持っている。いや矛先がないという事もあって打擊専門の棍といったほうが正確だろう。


要するにただの棒だ。長さ自体は康太の槍と同じ。打撃に特化した武器であるという事はすぐに理解できる。


「あいつはエアリスの弟子だ。あいつがどうなるかはエアリスが決めるだろう。私はただあのバカにできないことを教えてやっているだけだ」


「そうですか・・・でも結構手塩にかけて」


指導してあげてるじゃないですかといいかけた瞬間康太の顔面めがけて棍が襲い掛かる。


康太は寸でのところでその打突を躱すと臨戦態勢を整えた。


「私が手塩にかけて育てるのは私の弟子だけだ。他の奴は敵か否かの関係程度でしかないのを忘れるな」


「それ・・・は!なんとなくわかってましたけど・・・も!」


康太は繰り出される小百合の攻撃を槍で捌きながら小百合と会話を続けようとする。康太と小百合は最初の準備運動とでもいうべきだろうか、最初はエンジンをかけるという意味もあって会話をしながら互いの武器で戦う。


康太は小百合が少し本気になられると対応できなくなってしまうのだが会話を途切れさせると小百合は不機嫌になる。どうすればいいのかと叫びたくなるがそれでも康太はとにかく攻撃を受け止め躱し続けていた。


「それは相手にとっても同じだろう。今はお前に良くしてくれているが相手にとって利がないと判断されれば敵になることもある。そのあたりの見極めをできるようにしておけ」


「それは・・・そう、ですね!そうなりたいですけど・・・少なくとも文は、大丈夫だと思いますよ!」


「今はそうだろうな。それがいつまでも続くという保証はない・・・ほら足元が留守だ」


小百合は会話の中でも康太の甘いところを的確に攻撃してくる。この辺りはさすがというほかない。会話をするか戦うかどちらかにしてほしいところだがこれはこれで訓練になる。当たり前に戦うことができるようになるまでの必須事項だと思って我慢するしかない。


「ところで、属性魔術の方はどうだ?」


「え?あ・・・あぁ・・・魔力の生成に苦労してます・・・!まだ感覚がつかめなくて!」


「だろうな・・・大抵の魔術師は別の属性を使おうとすると苦労する。真理も最初はそうだった、何も恥じることはない」


「そりゃ喜んでいいのか悪いのかわかりませんね!おら隙ありぃ!」


小百合の体がほんのわずかに流れたところに康太は槍の一撃を繰り出すが、小百合はその一撃を軽く受け流しながら持っていた棍を康太の腹部に叩き込んで見せた。


「隙というのは今のようなお前の動きのことを言うんだ。まんまと釣られたな・・・ん?」


先程の動きが誘いのものであったというかのように小百合は振る舞って見せ、なんとも余裕だったその表情がわずかに変化する。


腹部に打撃を加えられたと同時に、康太はその武器を掴んでいた。


相手が誘う動きをしてきたのは理解している。だからこそそれに釣られた振りをして相手の武器を掴んで動けなくする。相手の釣りを利用した行動の誘導。自分がまんまと誘い込まれたという事実を知ってか小百合は薄く笑みを浮かべて見せた。


「一発受け止めた代わりに相手の武器を封じる・・・なるほどいい手だ。今の私の武器だからこそできる手だな」


「ふはは・・・!文の代わりに顔色変えてやりましたよ・・・!でもまだこれから!」


康太はもう片方の手に持っている槍を繰り出そうとするが、槍を振り回そうとした瞬間康太の掴んでいた棍を軸に小百合は回転し空中回し蹴りを放ってくる。


康太は槍と棍を掴んだ状態で体を後方へと運ばれてしまうが、今小百合は武器を手放した状態、つまりは完全な素手になっている。


武器を失ったというのに小百合は全く動揺していない。


それもそのはずだ。そもそも彼女は武器を使うのと同じくらい徒手空拳を得意としているのだから。


「どうした?武器はお前が奪って見せた。私は今見ての通り丸腰。お前の方が圧倒的に有利だぞ?」


「よくもまぁそんな事言えますね・・・殴る方が好きなくせに」


「ふふふ・・・だが武器を奪ったのはお前の功績だ。さぁかかって来い。せっかくの機会だ。これもまた勉強と思え」


それはつまり思う存分殴られろという事なのだろうが、康太としても相手の武器が無くなったことでリーチの優位性が生まれたのも事実。


文の方に棍を投げ捨て康太は槍を構えて突進する。せめて掠らせるくらいはしたいところだと後ろ向きな目標を立てながら康太は小百合に立ち向かっていった。


誤字報告五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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