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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」
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夏の風

夏の匂い。康太が風の属性の魔力を感じた時に真っ先に思いついたのは夕暮れ頃にふく風だった。


なにせそれ以外に表現のしようがない独特の香りだったのである。


もっと正確に言えば夏の夕暮れ時の匂いが近いだろうか。湿気と何か別なものが混じっているような独特なにおいだ。


康太はこの匂いを別なところで嗅いだことなどなかった。それ以外に表現もできない。だからこそ夏の匂いといったのだ。


部活の終わり、丁度夕暮れ時、康太はグラウンドを抜け出して文と一緒に屋上にやってきていた。


ここが一番風を感じることができるからでもある。風を感じるなどというと何を中二のような事を言っているのだと思えるかもしれないが、香りからくる感覚のトレースもまた何かしらのコツをつかむきっかけになると思ったのだ。


文はその訓練に快く協力してくれた。意味があるかどうかは本人次第。意味などないかもしれないし劇的に何かが変化するかもしれない。


だが文にとってはそのどちらでもいいのだ。自ら模索して解決への糸口を探る。これこそ魔術師に必要なことなのだから。


誰かから教えられたこと、学んだことでは身につくことのない何か、それが今の康太の行動には含まれているのである。


風の吹き抜ける屋上のちょうど真ん中あたりで康太は直立不動の体勢で目を瞑りその香りを深呼吸の要領で体の中に取り入れながら魔力の補給の訓練を行っていた。


香り、文から流れて来た風属性の魔力。


丁度今の時間の匂いにそっくりだった。体内の中に廻るその香りを康太は今も覚えている。そしてその香りと今の風の匂いは酷似していた。


とはいっても匂いを嗅いだところであの魔力を再現できるとは思えない。体に感じる風の吹き抜ける感触とこれから取り込むマナの感触。いや正確にはマナに物理的な触感などはないのだからマナの感覚というべきなのだろう。


その二つを感じながら康太は延々と魔力を練り続けた。


自らの中に取り込む魔力はいつまで経っても無属性のままだ。その中に風属性の香りが欠片でも入ることはなかった。


もしかしたら風を吸い込むのと一緒に偶然入り込んでくれないものかと期待したのだが、やはりそう簡単ではないようだ。


「・・・収穫はなさそうね」


「え?・・・あぁ・・・もうこんな時間か・・・」


目をつむって集中していたために今の周囲の光景も全く把握できていなかった。

康太が目を開けるとそこにはいつの間にか夜空が広がっていた。先程まで夕方だったというのにいつの間にか日が暮れてしまっている。自分はこれほど長く集中していたのかと思いながらしまったなとため息をつく。


「集中しすぎた・・・悪かったな、こんなことに付き合わせて」


「気にしなくていいわよ。こうしてみてるのも面白かったわよ?いろいろ試そうとしてるのがわかったから」


「見ててわかるもんなのか?ってかそうか、お前には見えてるんだもんな」


見えている。それが物理的なものではなく魔術的なものであるということに気付くのに時間は必要なかった。


今文には康太が見えていないものがたくさん見えているのだ。


精霊然り、もしかしたらマナそのものも見えているのかもしれない。康太にとって見えていないものが見えている。それはつまり康太には知覚できないものが知覚できるという事でもある。


それが一体どういうことなのか康太も理解できた。


「ちなみにさっきの俺の努力はどうだ?的外れか?それとも何か意味があるか?」


「それはあんた次第よ。ていうか魔力の補給に正解なんてないもの。自分でいろいろやって見るのも必要な事よ。さっきみたいに鼻からマナを取り込もうとするのだって十分有りよ?」


「・・・まぁうまくいかなかったけどな・・・」


康太は今回いろんなところからマナを取り込もうとしたのだ。匂いに関係しているという事から鼻から、そして口から、あるいは肺に近い部位から取り込もうと苦労していた。だが結局そのあたりは全く関係なかったのである。


他人から間抜けに見えるような行為でも康太からすればかなり真面目にやった結果だ。もちろん文はそれをバカにしなかったしその行為そのものにも意味があると捉えているようだった。


だが結果的にはうまくいっていないのだから失敗したと同じ事である。


「なんだかなぁ・・・ずっといろいろやってみたけどなんかおかしいんだよなぁ・・・ちゃんと掴めてるのに掴めてない感じ」


「妙な表現ね・・・でもそうね・・・案外的を射てるかも」


「ん?ひょっとしてアドバイスか?」


「アドバイスじゃなくて個人的な感想よ。あんたはなんというか・・・勘が鋭いっていうか正解にたどり着く力は十分にあると思う。実際にあんたは今までそうだったし」


だからたぶん今の感想も的外れじゃないわと言いながら文は屋上の扉を開く。


正解にたどり着く力。そんなものがあるかと聞かれると正直康太自身はそんなものはないと思っていた。


学校などでも結構ミスをするし普通に問題を解いていても間違えることは多い。何度も何度も間違えて康太は解き方を覚えていくのだ。


「魔力の補給に正解なんてないって言ってたのにその励ましはどうなんだよ」


「あ、それもそうか。まぁとにかく気を落さないの。あんたは絶対コツを掴めるから」


あっけらかんとした言葉に康太は苦笑しながら彼女の後に続いて屋上から降りていく。


風の属性を扱えるようになるのは一体いつの日か。康太は頭を悩ませていた。


とりあえず今日で予約投稿は終わりだと思います


これからもお楽しみいただければ幸いです

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