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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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ゲシュタルト崩壊

時期は七月。梅雨明けももうすぐという季節になり徐々に暑くなってきている中、すでに周囲には蝉の声が響き渡り、教室にいる康太の耳にも聞こえてきていた。


雨が降ったりやんだり、晴れたと思えばまた雨が降ったり、そして雨が続いたかと思えばまるで真夏なのではないかと思えるほどに雲一つない日があったりする。


非常に不安定かつ夏らしいと言えば夏らしく梅雨らしいと言えば梅雨らしい時期。湿気がまし気温が上がり徐々に不快指数が高まっていく中、康太たちは一高校生として日々の生活を送っていた。


少し動くだけで汗がにじむような日が続く中、康太は授業中でありながら魔術の修業を行っていた。


やっているのは魔力の生成だ。特に属性用の魔力を作り出すことに集中している。


魔術師としての壁の一つ、属性魔術用の魔力の生成。康太は早い段階でその特性を理解し、自分なりの感覚を見つけたもののそれを自分で生み出すということに非常に苦労していた。


なにせ今までほぼ無意識下で行っていた魔力の生成を意識的に行わなければならないのだ。


魔力生成を覚えた時も、魔力を作ることに集中していたためにその細かい過程などははっきり言って完全に無視していた。ほぼ感覚のみで行っていた無意識的な作業を意識的に行うという事は非常に難易度が高かった。


何度魔力を生成しても、以前康太が感じた『匂い』がつかないのだ。魔力を作ってもいつも通りの魔力しか生成されず康太は文字通り行き詰っていた。


幸いにして康太の供給口は非常に貧弱で、自分の貯蔵庫をいっぱいにするまで時間がかかる。魔力生成においての修業は非常に長い時間をかけて行えるというのはあるのだがどうしても何かがおかしいのだ。いや何かがおかしいというよりは何かが足りないと言ったほうがいいかもしれない。


自分が魔力を作る上で段階を一つ飛ばしているような気がしてならないのだ。


文に言わせると康太の作る魔力は無属性の魔術を使う上では最適とは言えないまでもなかなか適しているものらしく、このまま無属性魔術を使っていくうえでは問題はないのだとか。


師匠である小百合も真理も、これに関しては自分なりの感覚を掴むしかないという事であまり助言してくれなかった。


普段の魔術の修業に加えて属性魔術用の魔力の生成という課題が一つ加わっただけなのに魔術のそれに比べて難易度が跳ね上がったように思えてしまう。


それだけ康太が魔術の修業に慣れてきたという事でもあるのだが、まだまだ魔術師としての未熟さがうかがえる。


恐らくこれからもっと難易度の高い魔術はあるだろう。だからこそ康太はこうして苦戦しているわけなのだが。


授業終了のチャイムが鳴ると同時に康太は机に突っ伏していた。今日もまた収穫なし。結局丸一日魔力の生成をしていたのにその成果は全く得られなかった。


普通に魔力を生成するだけなら息を吸うごとく簡単にできるというのにどうしてこう難しいのだろうか。


そう考えた時に思い出す。最初魔力の生成を行ったときは自分の感覚をトレースする形でイメージを作っていた。その為自分の感覚をそのまま再現すればよかった。


だが今回の魔力の生成は既に魔力が出来上がった状態で文から注がれたものだ。その為その過程や段階を全く知らないのだ。


所謂完成品だけを与えられてそれを作れと言われているようなものである。もちろん協力してもらっている手前これ以上迷惑をかけるわけにもいかない。感覚を同調できるような魔術でもあればその生成過程を確認できるのだろうが康太はそんな魔術を覚えていない。


どうしたものかなと悩みながら突っ伏したままでいると近くに同級生たちがやってくる。


「おい八篠、どうした?腹でも下したか?」


「んあ・・・いやちょっと考え事・・・どうにもうまくいかなくてな・・・」


「どうしたの?なんか悩み事?」


「悩み事っていうか・・・今難易度の高いクエストやっててな・・・どうにも攻略法がわからんのよ・・・」


実際に魔力の生成が上手くいかないなどというわけにもいかず康太は上手くはぐらかしながらそう言うと青山と島村はなんだよと笑いながら康太の頭を軽く叩く。


「授業中なのにそんなこと考えてるとは不真面目君だな。先生にどやされるぞ?」


「さっき寝てた青山が言っても説得力皆無だね。でも実際どんなクエストなの?」


「完成品だけ見せられてそれを再現しろって感じ。パーツとかそう言うのも全部自作する必要がある」


康太の言葉に二人はうっわと声を上げた。設計図もなし、構造も理解できない、完成品を見せられただけでそれを再現しろというのはだいぶ難しいのが理解できたのだろう。


「3Dプリンタとか使っちゃだめなのか?」


「あれじゃ外見は真似られるけど中身がないだろ?そう言うのじゃダメなんだよなぁ・・・今のやり方だとなんか工程が足りない気がして上手くできないんだよ」


「なかなか難しそうだね・・・パズル・・・いやその組み立ての所を見せてくれるのが一番楽なんだろうけど・・・」


「それなんだよなぁ・・・でもそう言うのは見せてくれないし・・・どうしたもんか・・・」


実際島村のいう通りそれをやっているところを感じ取ることができればそれを自分の感覚とトレースして似たようなことはできるだろう。だがそんなことは康太にはできない。感覚同調の魔術などがあればよかったのだがと康太は項垂れてしまっていた。


「まぁなんでもいいけど、授業中はちゃんと先生の話聞いてたほうがいいよ?一応ね」


「一応っていうあたりお前もあんまり聞いてないな?一人だけいい子ぶりやがって」


「はは、要領がいいって言ってよ」


同級生との話をしていると次の授業の始まりのチャイムが鳴り響く。また授業の開始だと思いながら康太は自分の魔力の感覚を一から思い出していた。










「あー・・・ダメだ・・・なんかゲシュタルト崩壊しそうだ・・・」


「なによそんな弱音はいて・・・しゃんとしなさいよ」


康太は部活中、先輩たちの目を盗んでいつも通り文と話し合っていた。放課後になっても暑さは変わらず、相変わらず蝉の声がどこにでも届く中康太は自分の魔力の感覚さえも曖昧になっていた。


意識すればするほどその詳細から大まかな感覚までも分からなくなりそうなのだ。ゲシュタルト崩壊というのとはまた違うような気がしたが、意味合い的にはそう間違ったものでもない。


そして文もその感覚を味わったことがあるためかそこまで茶化す気も、そしてバカにするつもりもないようだった。


「でもそれだけぐらついてるってことはそれだけ訓練してるってことね・・・何かきっかけでもあればたぶんすぐにできるようになるわ」


「・・・そう言うもんか?」


「そうよ、自転車に乗ったり泳いだりするのと一緒。どこかでコツをつかむともうあとはずっと簡単にできるようになるわ。問題はそのコツをいつ掴めるかってことね」


自転車や泳ぎと同じ。確かに康太も昔その両方を練習したことはある。


何度も何度も転んだり溺れかけたりしながら練習して失敗してを繰り返し、そしていつの間にか当たり前にできるようになっていた。


本当に何故かはわからない。どういう理屈かもわからないがなぜか不意にできるようになったのだ。


文曰く魔力の生成も同じようなものだという。


「一応聞いておくけど・・・コツみたいなものを教えてくれたりは?」


「私が教えても意味がないわね。小百合さんたちだって教えてくれなかったでしょ?これはそう言うものなの。勉強とかと違って自分で学ぶしかないんだから」


「やっぱそうだよなぁ・・・」


こればかりは個人の感覚次第だ。それこそ魔術的な何かを使わない限りは恐らく他人の感覚を理解するなんてことはできないだろう。


「ちなみにさ、他人と感覚を共有するって魔術はないのか?そう言うのがあれば話は早いんだけど」


「んー・・・あるにはあるけどあまりお勧めはしないわね。そう言う魔術って同調できる感覚はあくまで一部だったりされて限定的過ぎるのよ。今回みたいな何度も使うようなものだと自分で見つけたほうが後々楽になると思うわ」


やはりそう都合のいい魔術は存在しないのかと康太は再度項垂れてしまう。


半ば分かっていたことだ。基本的に魔術というのはできることとできないことがはっきりと分かれてしまう。どんな力も持っているという術などなければある程度用途が限定されているものがほとんどだ。


同調の魔術というものがあるというのは良いことなのだろうが恐らくそれを利用して魔力生成の感覚を同調して得ることは難しいだろう。


余計な情報が入るか、欲しい情報が入らないか、あるいはその両方があり得てしまうのだ。余計な先入観を与えるよりは自分で感覚を覚えていくほかない。


「でもそうね・・・あんたがそんなにゲシュタルト崩壊しそうなくらい訓練してるってことは多分魔力の生成方法を一から見直してるってところかしら?」


「良くお分かりで・・・釜にいれられたときの事から思い出してるんだけど、どうにもうまくいかなくてな」


「その方法は正しいわ。自分の感覚を見つめなおして自分に必要なことを理解してそれを行おうとする。あとはあんたの感覚に近づけていけばいいのよ。確か匂いが違うような感じがしたんだったわね?」


「あぁ・・・なんかこう・・・夏っぽい匂いだった」


「それならその匂いがどこで感じるのか、どんな状況で感じるのか、それを思い出しながら自分の中にある魔力をそれに近づけていけばいいわ。難しいだろうけどね」


夏の匂いと言ってもあくまで康太の主観的なものだ。夕方、丁度康太が放課後の部活を終えてクールダウンしている時に時折吹く風、康太の中での風の属性の魔力はそんな感じの匂いだった。


その感覚、というより匂いが正しいのかは分からないが、確かにその匂いに近づけるためにはその匂いを実際に嗅ぐしかないだろう。


魔力の感覚が匂い頼りというのも妙な感じだがそれ以外に康太にとれる手段はないのだ。


「今の時期が夏だったのは好都合だったかもしれないわね。少しすればきっと魔力の生成はできるようになるわ」


「そうかなぁ・・・」


「なるわよ。今はできなくてもできるようになる。今までだってそうだったでしょ?」


文のいう通り、康太は今まで無理だと思ってきたこともできるようになってきている。


魔力の生成も、魔術の修得も、本来ならできないだろう空中の歩行だってできるのだ。恐らく今回のことだってできないことではないのだろう。


魔術師にとって存在する壁の一つ。康太が覚えようとしている属性魔術というのはそれだけ難易度の高いものなのだろう。


子供のころからそれをやっていたのならまた違ったのだろうが、康太はもう高校一年生。ある程度成熟した状態でこれをやるとなるとなかなか難しい。


「ちなみに文はどれくらいで属性魔術覚えた?」


「私?私はどれくらいだったかな・・・小学校の三年生くらいだったかな・・・?結構苦労した覚えがあるけど」


「三年生かぁ・・・」


つまり康太と文にはそれだけのレベルの差があるという事である。彼女にとって息を吸うようにできることが自分にはできない。やはり魔術師として過ごした年月の違いは絶対的なものだなと思いながら康太は肌に感じる風の匂いを嗅いでいた。


日曜日なので二回分投稿、そして予約投稿中。


今回から七話が始まります。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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