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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二話「魔術師としての第一歩」
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視線と狼狽

康太が気が付いたのは視線だ。周囲の視線が自分と小百合に集中し始めているのだ。中には小声で何か話をしている者もいる。こちらに聞こえないような小声で話されるのが妙に気になった。


そして視線が集まっていくにつれて周囲がざわついていくのがわかる。自分は何か悪いことをしてしまったのだろうかという謎の感覚に襲われる中、小百合は意に介すこともなく進み続けている。


「あの・・・ここって・・・」


「魔術師の巣窟・・・魔術と魔術師を管理している魔術協会という機関だ・・・ここはその日本支部だな」


小百合の言葉に康太は息をのむ。日本支部という事は恐らく海外にもあるだろうとかここにいる人間は全員魔術師なのかとかいろいろ考えてしまう中、自分がここにいる事がまず信じられなかった。


本当に自分は魔術師の一員になってしまうのだなという実感がわいてくる。良い意味でも悪い意味でも。


そして小百合があるカウンターの前に立つと、そこに座っていた男性がやや驚いた様な仕草をして見せた。


「・・・君がこんなところに何の用かな?瓦礫の」


「こんなところに来る用などたかが知れている。今日は私の用じゃないから安心しろ」


二人が話すだけで周囲の緊張感が一気に増しているのがわかる。明らかに自分は場違いな存在だなと思いながら康太は小百合の後ろでただ佇んでいた。


二人の間だけでなく周囲にも沈黙が流れている中、康太は息をすることさえ躊躇ってしまっていた。


こんな状況を何時まで耐えればいいのか。仮面が無駄に蒸れるせいで変な汗さえ出始めている。


この人は敵が多いのだろうかと思っている中、カウンターに座っている男性は小さくため息をつく。


「・・・わかった、分かったよ瓦礫の・・・それで?君は何をお望みかな?」


「ジョアを呼べ。その方が話が早い。この時間だ、どこかにいるだろう」


ジョア、恐らくは名前だろうことはわかるのだが一体どんな存在なのだろうかと訝しんでいる中カウンターに座っていた男性が何やら操作するとこの空間にハウリング音が短く響いた後に機械的なアナウンスの音が聞こえてくる。


『ジョア・T・アモン、至急三番カウンターまで来なさい。君のお師匠様がお呼びだ。繰り返す、ジョア・T・アモン、三番カウンターまで』


何回かその口上を繰り返す中、康太は僅かにその言葉に驚いていた。


目の前にいる人物をお師匠様と言っているという事は、小百合にはもう一人弟子がいたということになる。


一体どういうことだろうかと不思議になり、康太はとりあえず聞いてみることにした。


「師匠・・・師匠って俺以外に弟子がいたんですか?」


「そういえば言っていなかったな・・・お前は二番目の弟子になる、今呼び出しているのが私の一番弟子・・・お前にとっては兄弟子になる。それなりに優秀なやつだ、仲良くしておけ」


二人とも小声でそんなことを話しているが、兄弟子というものに正直あまりいい印象は持たなかった。


この人の弟子という時点であまりいい予感はしない。きっとこの人と同じ傍若無人な性格なのだろうなと思いながら待っていると、階段の上から息を荒くしながらこちらを見ている人物がいる。


短髪にスーツを着ている人物だ。その体のラインから女性であることがわかる。


仮面をつけているがその全体が四つに分けられそれぞれ模様が異なる特徴的なものを着けている。


どうやら魔術師は個人によって仮面のデザインを変えるようだった。自分の仮面がまだ何の特徴もないのはまだ自分が魔術師として認められていないからなのだろう。


「し・・・師匠!?今日は一体何しに来たんですか!?」


「何をしに来たとは御挨拶だな!今日はれっきとした用事があってきただけだ。別に面倒を起こすつもりはない!」


今日はという事は別の日に何か面倒事を起こしたことがあるのだなと康太はその面倒が一体どんなことなのだろうかと考えてしまう。


周囲の視線がやたらと向いているのも今のやり取りでなんとなく理解してしまった。恐らくこの藤堂小百合という人物は魔術協会という組織の中でもかなり問題視されているのだろう。


彼女がやってくるだけでこれだけの視線が集まることやその弟子であるあのジョアと呼ばれた女性があれほど慌てているという事からもそれがよくわかる。


「じゃあ一体何しに来たっていうんですか?この前の後始末だって全部私に押し付けて!今日は一体何を・・・」


階段を下りながら小百合との距離を詰めていくジョアはそこまで言って小百合の後ろにいる康太の存在に気が付いたのだろう。数秒間動きを止めて康太の方を眺めていた。


そして康太と小百合のことを見比べて数秒間停止した後小百合に掴みかかる。


「なんですかこの人は?師匠まさかとは思いますけど・・・」


ジョアの顔を近づけさせると小百合は小声で話しかける


「あぁ、私の新しい弟子だ。お前の弟弟子になる、仲良くしてやれ。」


その言葉を聞いてしまった瞬間、ジョアは一瞬めまいを起こしたと思ったら次に康太に掴みかかった。


可能な限り小さな声で康太以外に聞こえないように懇願するような声を出す。


「君!何を考えてるのか知らないけど早まるのはやめなさい・・・!こんな人と一緒にいてもいいことなんて一つもないですよ・・・!」


「いや・・・まぁそうかもしれませんけど・・・なっちゃったもんはしょうがないかと・・・」


「・・・お前ら仮にも自分の師匠を目の前にしてそういうことを言うか・・・」


康太とジョアの物言いに小百合としてはいろいろと言いたいこともあるだろうが、それよりもさっさと事を済ませたいようだった。


こんな所に長居をするつもりはないというかのようにジョアを康太から引きはがすとさっさと済ませるぞとすごんで見せる。


ジョアも小百合には逆らえないのか渋々わかりましたよと承諾していた。


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