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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
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手土産の効果

「・・・なんというか・・・君は術師には不向きなほどに真っ直ぐな・・・いや考えなしの性格をしているようだな・・・なるほど・・・どうしたものか・・・」


エアリスとしてもこんなに単純かつ分かりやすい対価を与えられてどうすればいいのかわからなくなっているようだった。


はっきり言ってしまえば人手なんてものは足りているのだ。というか魔術師として生きてきて人手が足りないと思ったことなどない。大抵の事ならできるし何より人の力を借りる必要などほとんどない。


もしあるとすれば強力な敵との交戦だろうが、その時に目の前にいる精霊術師が戦力になるとも考えられなかった。


なにせ康太に負ける程度の実力なのだ。鍛えれば変わるだろうがそのあたりは限度というものがある。どうしたって自分たちの戦いについていけるとは考えにくかった。


「一つ聞くが、君の師匠は何を?師匠からある程度の術式は教わったのだろう?」


「師匠は今はどっかに行ってて・・・俺に最低限の術式教えたら『あとは自分で勝手にやれ』って・・・もう五、六年くらい会ってないです」


「・・・典型的とまではいわないがそのあたりは精霊術師か・・・なんというか・・・という事は今使っている術式は君が開発したものか?」


「はい・・・でもやっぱ一人だと限界があって・・・」


五、六年会っていないという事は小学生の最後の歳あたりで師匠と出会い、その時にある程度の術式を教わってあとは自力で鍛錬してきたのだろう。


そう言う意味では努力家というにふさわしいだけの性格をしているのだろうがそれでもやはり限界があるようだった。


「師匠・・・どうしますか?」


「ふむ・・・今回君がブライトビーに挑んだのもその術式などが目当てだったんだろう?そうなるとここで断るとまた彼に迷惑がかかりそうだな」


「え?あー・・・まぁ俺の事は気にしなくていいですよ?そうなったら次は再起不能にするだけですから」


「さらっと怖いこと言わないでよ」


倉敷が術式の閲覧を目的にしている以上他の魔術師に利用される可能性は高い。倉敷は良くも悪くも単純だ。その為利用できる人間からすれば利用し放題だろう。


今回のような事が二度三度ないとも限らないのだ。だからこそ康太たちは自分たちの身内に引き入れようとしているのである。


エアリスもその目的とその意味を理解している。アドバイスをした手前ここで断るというのは正直心苦しかった。


とはいえそこはやはり魔術師としての勘定をしているのだろう。自分が差し出すものに対して相手が差し出すものが釣り合っていないというのは傍から見ても明らかなのは重々承知していた。


だからこそ迷うのだ。どうしたものかと。


「ベル、お前はどう思う?」


「私は見せてあげてもいいんじゃないかなって思います。でもしっかりと背後関係を洗い出しておくべきだとも思います。そのあたりを警戒したから師匠もここを集合場所にしたんでしょう?」


文の言葉に康太はどういう事だ?と首をかしげてしまっていた。


その様子を見て文は小さくため息を吐いた後で指を立ててその指を倉敷に向ける。


「こいつが追跡の魔術をかけられてないとも限らないのよ。昨日は私がチェックしたけど学校終わりじゃいつ仕込まれてもおかしくなかったんだから」


「・・・え?そんなの何時したんだよ」


「昨日あんたが気付かない間に。全く警戒してないんだもん・・・」


つまり、今回倉敷にいろいろと依頼した魔術師が彼の体に追跡の魔術をかけている可能性を危惧したからこそエアリスはあの修業場ではなくここのような喫茶店を会合の場としたのだ。


まだ信用はされていないという事だろう。当然かもしれないが必要な手順でもあるのだ。


相手がスパイまがいのような事をしないとも限らない。最低限の警戒はむしろマナーのようなものだろう。


「確かに、あの場所は私の拠点ともいえる場所だ。しっかりと綺麗な状態で来てほしいものだね。たとえ過去の契約であったとしてもしっかりと清算してから足を運んでほしいところだ」


「はい、それはもう!バッチリ縁を切ってきます!」


「・・・そんなに簡単に言われても困るんだが・・・まぁ意欲だけは伝わっている・・・ビー君、君の意見を聞かせてくれるかな?」


「え?俺ですか?・・・俺は今回お願いする立場なんで正直何とも言い難いですけど・・・見せてやってもいいんじゃないかと思います。その対価として本当に心身尽き果てるまでこき使うくらいでいいんじゃないですかね?」


他人事だと思って康太は考えたことをそのまま口に出していた。エアリスもそのことを理解しているのか複雑そうな顔をしていたが小さくため息を吐いた後目の前にいる倉敷の方を見る。


「あ・・・それとこれ・・・つまらないものですけどよかったらどうぞ」


このタイミングで出すのかと康太と文は眉をひそめていたが、それを見てエアリスは眉をピクリと動かす。


「・・・二人の入れ知恵か・・・まったくこんなものでつられると思ったのか?」


「あはは・・・少しでも印象を良くしておこうと思いまして・・・」


例え自分が甘いものが、特に洋菓子が好きだったとしても契約となれば話は別だ。ある程度損得勘定をしなければ一人前の魔術師とは言えない。ケーキはあくまで援護射撃でしかないのだ。本当にあればまし程度のものなのである。


「・・・はぁ・・・わかった。ただしその代わりに本当にこき使うからそのつもりでいなさい。少なくとも一回の閲覧に対してかなりの労働を強いると思うからそのつもりで」


「は・・・はい!よろしくお願いします!」


渋々ながら許可したエアリスの近くには駅前で購入したケーキがおかれている。

こんなものでは釣られないようなことを言っていたが、実際あのケーキがどれほどの判断材料になったのかは本人しか、いや本人も分かっていないかもしれない。


やはり土産物としてケーキを買っておいて正解だったなと思いながら康太は倉敷の方へと視線を向ける。


どんな労働が来ようとも術式を見れることに比べれば大したことではない。倉敷はそう考えているのだろう、頭を下げながら思い切り握り拳を作ってガッツポーズしていた。


そんな様子を見て康太は文の近くに顔を寄せる。


「よかったのか?少なくとも精霊術師がお前の所に駐在することになるけど」


「いいんじゃない?そもそも今回はこいつを味方に引き入れることが目的だったし。こうしておけばさすがに私達に敵対するようなことはないでしょ・・・それより問題はあんたの方じゃない?」


「あぁ・・・先輩魔術師のほうな・・・どうしたもんかな・・・」


倉敷の問題が解決し一応勢力としては強力になったものの実際相手がどのように動くかは全く分かっていないのだ。


特に先輩魔術師がこれからどのような対応を康太に対して取るのか、今一番気にするべきはそこだった。


幸いにも倉敷を味方に引き入れたことで相手も手を出しにくくなったはずだが、今後さらに厄介な手段を用いてくる可能性も否めない。


「そもそもなんで俺ってこんなに敵視されてんだよ・・・特になんか悪いことした覚えないんだけど」


「私を勢力に入れるためにあんたが邪魔なのよ・・・ただでさえ私達を除けば学校内の同盟勢力は二つに分かれてるんだから。その均衡を破りたいのか、それともただ単にコネが欲しいのか・・・どちらにせよ相手の都合よ」


こっちからしたらいい迷惑よねと言いながら文は薄く笑って見せる。自分の力を求められているというのは悪い気はしないらしい。


もっとも個人的には先輩魔術師のことを好きにはなれないようだが、実力が評価されるのは誰でも嬉しいものだ。それは文でも例外ではない。


「正式な契約書はまたあとで書いてもらう。とりあえず今日は帰りなさい。ベル、ビー君、二人はこの後見せたいものがある。いいかな?」


「あ、はい。大丈夫です」


「見せたいもの・・・?」


見せたいものとは一体何だろうかと思いながら康太たちはとりあえず注文した料理がやってきたのを確認してそれぞれ舌鼓を打ち始める。


それぞれの料理や飲み物を口に含みながら倉敷は康太と文に感謝の視線を送っていた。


今まで魔術師というのは頭でっかちで精霊術師を見下すような人種ばかりだと思っていた。実際今まであってきた魔術師はそうだったし今も大多数の魔術師がそうだと思っている。


だが康太と文に出会って、そして話してみて自分と何ら変わらない存在だということを思い知らされた。


何より精霊術師の自分に対して特に何も気にしないただの友人の様に接してくれる。それが嬉しかった。


こんな魔術師もいるのだと感心すると同時に、この出会いに感謝していた。


始まりこそ敵対していたが康太も文も良い人物だ。出会い方さえ違えば普通に友人になれるだろうことは容易に想像できる。


倉敷はまだ康太の特異性に気付いていない。康太も文もただの魔術師であると思っているのだ。


実際康太はこの歳の二月に魔術師になったばかりの新米どころかまだ魔術師の卵にも等しい存在なのだが、そのことはまだ知らない。恐らくこのままの関係を貫くのであれば教えられることはないだろう。


そのことを知っているのは身内のごく一部なのだ。


「トゥトゥエル・バーツ、私の拠点にはベルを介して移動してもらう。場所に関しては秘密にするからそのつもりでいてくれ」


「わかりました。よろしくお願いします」


一応契約を結ぶと言ってもまだ信用したわけではないらしい。少なくとも毎回文の仲介を入れるあたり徹底している。


康太は普通に顔パス状態で入ることができているのだが、それでもいいのだろうかと少しだけ不安になる警戒っぷりである。


「とりあえず今日の要件はそれで終わりだな・・・まったく・・・ここ最近妙に忙しくて困る・・・」


「何かあったんですか?」


「ん・・・まぁなんてことはないんだがね・・・四月辺りから妙にいろいろ起こっているなと思って・・・前はこんなことはなかったんだが・・・」


四月というとちょうど康太と文が出会ってからだろうか。あのあたりからいろいろと起り始めたというと康太はどうしても自分の運の悪さを疑ってしまう。


もしかしたら自分を介して文が面倒に巻き込まれているからその関係なのではないかとそう思ってしまうのだ。


もしかしたら完全に別件なのかもしれない。だがこの二月から魔術師になった康太はどうしても自分が何かしらの悪い運気を呼び寄せているのではないかと思えてならなかった。



誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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