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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
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契約関係

「ビー、それって結構きついと思うわよ?一時的な同盟でも組むつもり?」


「ん?あぁそうか、一応お前にも意見聞いておいた方がいいか・・・こいつを引きずり回すことになるけど・・・ダメか?」


「・・・ダメじゃないけど・・・なんか複雑だわ・・・」


文としては倉敷が同盟に加わること自体はさして問題視はしないようだったが複雑な心境らしい。


元々の目的から考えると精霊術師である倉敷を味方に引き入れるというのはむしろ賛成するべきことのはずだったのだが、その時になって初めて微妙に心変わりでもしたのか妙な顔をしていた。


「なんかあんたばっかりいろいろ決めてるじゃない?もうちょっと私もなんかあんたを振り回すようなことしたいわ」


「んなこと言ってもなぁ・・・お前基本何かしようとか言わないじゃん」


「そうなのよね・・・そこまで不満があるわけでもあんたみたいにトラブルに巻き込まれるってわけでもないし・・・」


康太はトラブルに愛されているために比較的文を振り回すかのように行動している。良くも悪くも康太は文をコントロールしていると言って良いだろう。もっともそのコントロールはやや暴走気味でもあるのだが。


「お前らって同盟組んでるんだろ?どっちの方が上なんだ?」


「序列はベルの方が上だ」


「でもこの前戦って私はビーに負けたわ」


負けたほうが序列が上という奇妙な関係に倉敷は不思議そうに眉をひそめていた。康太の戦闘能力が高いというのは実際に戦った倉敷は理解できていた。


いや、戦闘能力が高いというのは正確な表現ではない。正しく表現するならば攻撃力が高いのだ。


なにせ康太の覚えている魔術はほとんどが攻撃魔術なのだから。


分解は直接攻撃ではなく攻撃につなげるための魔術だ。建築物の中であれば部品などを外すことで相手に攻撃ができる補助魔術だ。


再現は拳の届く距離から槍の射程距離まである程度の近距離から中距離、そして空中の移動までこなす応用性の高い魔術である。


蓄積は汎用性が高いがその性能はほとんどが攻撃に振られている。物理エネルギーを蓄積することによって得られる攻撃の威力の高さは折り紙付きである。


特に鉄球を用いた攻撃は殺傷能力が高すぎると言ってもいい。下手すれば人間を一撃で葬れるだけの威力を持っている。


そして康太が新しくものにした炸裂障壁。これは防御魔術でありながら同時に攻撃魔術でもある。


今までの魔術は分解以外はある程度事前準備の必要なものだったが、この魔術は条件さえそろえば相手にすぐに攻撃することができる。


その特性から自らの近くでの発動ではなく相手の近くで発動することが好ましい。上手く使えば足場にもなるだろうが自分が切り刻まれるリスクを考えるとあまり本来の用途以外では使いたくない魔術でもある。


四つの魔術のほとんどが攻撃に関係しているだけで康太がどれだけ攻撃的な魔術師かがわかる。もっとも本人からすればもっと平和的な魔術も覚えたいと思っているのだが小百合の教えてくれる魔術が基本的に破壊に関係しているものであるためにこのような特殊なタイプになるのは半ば必然だろう。


「なんていうか複雑なんだな。あんまりかかわらない方がいいか?」


「いやいや、君は我が同盟のピンチヒッターとしてしっかり働いてもらおうじゃないか。馬車馬のごとくこき使ってやるから覚悟したまえ」


「逃がすわけないでしょ?せめてあんたも巻き込まれなさい」


康太としては戦力は多い方がいい。文としても巻き込まれる人間は多いに越したことはないと思っているらしく倉敷の肩を強くつかんでいた。


お前はもう逃げられないと二人の手から伝わってくる。


「というわけで師匠、こいつは一年間俺とベルの協力者的なものにしようと思います。いいっすか?」


「・・・お前がそれでいいのならな。せいぜいこき使ってやれ」


「了解です!ぼろ雑巾になるまで使ってやりますよ」


「・・・あれ?俺また使い捨てにされる感じ?」


「安心しなさい。使い捨てにするようなもったいないことはしないから。ちゃんとボロボロになっても直してあげるわ」


ボロボロになるまで使うというのは変わらないのかと倉敷は僅かに顔をひきつらせていた。


いくら契約の為だったとはいえ康太に手を出したのは間違いだったのではないかと思い始める倉敷に対して、康太と文は意気揚々と小百合の店を出ようとしていた。


もはやここに用はないと言わんばかりに挨拶をして康太たちは帰り支度をしている。


今日の目的はすでに達成したのだ。康太としても文としても、そして小百合も真理もすでにこの場に留まる意味はない。


その中で唯一倉敷だけが真理の方を向いていた。


「あの・・・傷治してくれてありがとうございました」


あの時、組み伏せられたとはいえ真理は倉敷の体の傷を治し続けていた。その為康太から受けた傷はほとんど完治していた。


多少痛みは伴ったがしっかり礼は言っておくべきだと思ったのだ。


「構いませんよ。それよりもビーとベルさんをよろしくお願いします。二人とも危なっかしいところがあるので」


柔らかい声でそう言うのを聞き届けると倉敷は康太と文の後を追って店を出た。真理の事だけはまともな人種だと思いながら。









「おい、ブライトビー」


小百合の店を出て家に帰る途中、倉敷は康太を呼び止めた。


その理由は一つだ。彼自身が康太に伝えなければいけないことがあったからである。


「あ?もう八篠でいいぞ、今日の魔術師としての活動はおしまいだから」


「そうか?じゃあ八篠・・・今回はその・・・悪かったな」


「・・・?何が?」


唐突な倉敷の謝罪の言葉に康太は首をかしげていた。いきなり謝罪をされ、そしてその謝罪の意味が本当にわからなかったのだ。


今回の事というのが倉敷が喧嘩を売ってきたことであるというのは理解できるのだがそれで何故謝罪をするのかが分からなかったのである。


「何がって・・・お前にケンカ売っただろ?迷惑だっただろが」


「いやそれはわかるよ。ものすごく迷惑だったけどさ、それでなんで謝るんだ?」


「は?いやだって迷惑かけたし・・・」


悪いことをしたと思っているから謝罪をする。それは当然のことだ、そこに理由があるとすれば自己満足かあるいは清算したいからということに他ならない。


だからこそ康太は首をかしげたままけげんな表情をしていた。そもそも謝罪することに意味がないとでもいうかのように。


「お前が術師としてそうしようと思ったからそうしただけだろ?俺はちゃんとおまえを倒した。それでいいんじゃねえの?わざわざ謝ってくるなんて変なやつだな・・・」


既に小百合の言いつけによってけじめはつけている。その時点で倉敷が術師として康太に謝る必要性はないのだ。


今まで出会って来た術師が強烈かつ破天荒な存在ばかりだったために偶に誠実な術師が現れると変な目で見てしまうあたり康太はだいぶ毒されてきている。


「・・・おい、お前の相方だいぶおかしいんじゃないのか?」


「あー・・・そのあたりは言わないであげて。こいつの場合こいつがおかしいんじゃなくてこいつの周りがおかしいのよ。っていうか約一名だけど・・・」


約一名、それが康太の師匠であるデブリス・クラリスのことを指していることは倉敷でもすぐに理解できた。


魔術師の中でも特筆すべき異端者。破壊を司り面倒事の中心地には常に彼女がいると言っても過言ではないほどのトラブルメーカーだ。


そのせいもあって康太もマイナス方面に鍛えられてきているのである。それこそ普通の対応をすると目を見開いて驚く程度には。


「失礼な奴らだな。むしろ俺は一般人としてはまともな方だぞ?」


「あんたみたいなのがまともだったらこの世の中すべてが異常に包まれるっての。もう少し自分を客観的に見なさい」


「酷いな!そんなことを言うお前はどうなんだよ?普通だって胸を張って言えるか?」


「いえるわ。私は普通を演じることができるもの。いたって普通の一般人Aよ」


「演じてる時点で普通じゃないじゃんか!」


康太と文はそんな言い合いをしながらゆっくりと小百合の店から遠のいていく。まるで痴話喧嘩だなと思いながら倉敷はその後についていった。


なんというかお似合いの二人だと思いながらも倉敷は今後のことについて考えていた。


先輩魔術師と契約を交わしたものの、その契約は果たせなかった。そしてその代わりというわけではないがブライトビーこと八篠康太、そしてライリーベルこと鐘子文の両名と知り合うことができたのだ。


これは運がいいと思うべきか、それともいろいろと面倒を巻き込まれるという意味では運が悪いと思うべきか。


少なくとも術師として戦いを挑んで敗北しておいて五体満足でいられたことを喜ぶべきだろう。


特に康太の魔術は下手すれば体のどこかしらが欠損していても不思議はなかった。それだけの威力と効果を持ったものを康太は持っているのだ。


まだ底が知れない康太の実力。倉敷は康太のことを一目置いていた。自分に勝っただけではなくエアリス・ロゥの弟子である文にも勝利した魔術師。その実力の程はまだ正確に判断できる段階ではない。


実際は今回もほとんど自分の使える魔術を使い切った状態だったのは言うまでもない。


分解、再現、蓄積、肉体強化、炸裂障壁。今康太がまともに使える魔術をすべて使ってようやく勝利できる相手だった。相性もあるだろうが康太からすれば文と同じかそれ以上に苦戦した相手である。


康太の実力のことに関しては倉敷には言わない方がいいだろうなと文は何とはなしに感じていた。


なにせ康太の手伝いをするのは一年限定だ。いつまでも味方であるとは限らないのである。自分の手の内をさらすようなことはしない方がいいと思ったところで文はふと思う。


自分はいつまでも康太の味方でいるつもりだったのかと。


本当に今なんとなく気づいたことだ。文は康太のことを敵に回すという選択肢がすでに消滅しているのだ。


この同盟関係だっていつかは解消するかもしれない。少なくともこの高校にいる間は同盟関係を続けているかもしれないが卒業後はわかったものではない。


一年だけの相手を半ば敵と認識し、自分は味方とカウントしているあたり、自分がどれだけ康太のことを信頼しているかということを思い知る。


「だってそうだろ?俳優だって演技が本物じゃなくて本人が本物なんだからさ・・・ってどうした?変な顔して」


「・・・何でもないわよ」


こいつがこういうやつだからきっと自分はこいつを敵にしたくないんだなと思いながら文は顔を逸らせながら薄く笑う。


敵にすると怖いからではなく、敵になってしまうのが惜しいから敵にしたくないのだ。そう結論付けて文は康太との口論を続けることにした。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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