目的と話の流れ
文もその視線を受け取りその意味を理解したのだろう、小さくため息を吐いた後で首を横に振ってから倉敷の下に歩み寄っていた。
「とりあえず、クラリスさんが言いたいことを要約するとあんたは才能あるんだからあんな連中の手下みたいになる必要はないって言ってるのよ」
「・・・え?」
「・・・ん?いやべつうぐ・・・!」
「いや全く師匠は口が悪いからな。ある程度こっちで察してやらないといつも暴言を吐く」
文の言葉に倉敷は目を見開き、小百合は別にそんなことはないといいかけたが、その言葉を最後まで言う前に康太がその仮面を強引に抑え込んでしゃべれなくしてしまう。
せっかくマイナス方向からプラスに持っていけるかもしれないというのに小百合に余計なことを言われてはまた敵が増えてしまう。
そんな面倒な状況にするくらいなら後で説教でも何でもされた方がましである。
「実際、あんたの術は使い方さえ間違えなきゃ結構強力よ?使い方が効率的じゃなかったってだけでしっかりそのあたり考えれば魔術師にだって勝てる素質はあるわ。だからこそもったいないのよ」
「・・・でも勝てなかった・・・結局負けた」
「そりゃ今のあんたじゃ勝てないわよ。ただ単に術を使ってるだけなんだもの。ビーはこれでも結構いろいろ考えて工夫して術を使ってるのよ?考えなしで使ってるあんたとは違って当たり前」
術をただ術単体として使うのではなく、術を応用し、なおかつ状況を理解して正しく使う事が高度な魔術師戦では求められる。
本来は戦いの中で工夫したり経験と思考を重ねることで会得するものだが、康太の場合圧倒的に会得している魔術が少なすぎるために工夫しなければ普通の魔術師どころか精霊術師にも劣る実力になってしまうから工夫しているに過ぎない。
「今回の戦いであんたが得たものは敗北による成長への道、後は魔術師とのコネね」
「コネ?むしろ契約を果たせなかったんだからコネを失くしたって言ったほうがいいんじゃないのか?」
「そうか?俺らと知り合いになったじゃんか」
先程まで敵同士だった存在に対して普通に知り合いだと言える康太の懐深さというか基本的なおおらかさというか、そう言う点で文は呆れると同時に感心していた。
だが考えてみれば当然かもしれない。別に康太は倉敷に恨みがあるわけではないのだ。
ただ単に戦わなければいけない状況だったからそうしただけであって戦いたくて戦ったわけではない。
そもそもそこまで好戦的ではない康太にとって戦いたい相手などほとんど存在しないのである。
「このコネをどう使うかはあんた次第ね。ビーの所はマジックアイテム系統が、私の所には術式の収められた魔導書がたくさんあるわ」
まぁプライドが邪魔するっていうなら別に無理強いはしないわと言いながら文は立ち上がって康太の横につく。
小百合の仮面から手を離した康太は後で怒られることを覚悟しながらその隣へ座り込む。
もう抑えなくても大丈夫と判断したのか、それともただ単に治療が終わっただけか、真理も締め上げていた倉敷の腕を解放しその上からどいていく。
ようやく体が解放され倉敷はその場にいる全員の顔を見渡していた。
これからどうするのかはお前次第だと言われているかのようだった。
実際小百合はこれ以上何も言う気はないらしく腕を組んだ状態で倉敷を見ている。それは文と真理も同じだった。
負けた相手に頼みごとをするという事が倉敷にとって許せないことだというのなら、プライドが邪魔するというのならこれ以上何も言うつもりはない。
少なくとも敵だった状態から中立の状態には変化させられたのだ。これからどのようにするかは本人の意思に任せるほかない。
「でも・・・さっきまで戦ってたやつに頼むのはさすがに・・・その・・・なんつーか・・・」
「・・・ていうかさ、お前は魔術師と仲良くなったら何してほしいんだ?特権っていうか援助の何を使いたいんだよ?」
こういう時に特に何も考えずにはっきりものが言える康太の性格はありがたい。相手が求めていることをすぐに聞けるのだ。
普通はためらったりするところだが康太は魔術師としての常識がない分そう言ったところが非常に突発的だ。その方が話の流れが早いのはありがたいが。
「・・・俺は術式を見たい。今覚えてるのだけじゃなくて水属性の術をとにかく調べたい・・・でも協会にあるのは使えないから・・・」
「それならベルの所にたくさんあるぞ?頼んどけって、なんなら一緒にエアリスさんにお願いしてやるから」
「あ?あ、そっかお前そっちの師匠とも知り合いなのか・・・いやでもなぁ・・・」
「グダグダ言うなっての、お前がそんなんじゃ話が先に進まねえだろうが。術式見たいの?見たくないの?」
「そりゃ・・・見たい・・・けど・・・」
「じゃあいいじゃん。てことでベル、いろいろ頼む」
「・・・あんたねぇ・・・」
なんという強引な誘い込み。男子のノリというのはこういうものなのだろうかと文と真理は若干呆れを含みながらも苦笑してしまっていた。
だがこの強引なノリは自分たちにはない。なんというか体育会系の無茶苦茶な話の持っていき方だ。相手の了承を受ける前に話を先に進めてしまうために相手が口をはさむ暇がない。
話が早くて助かるのだが倉敷もまだ納得していないのか複雑そうな顔をしている。