戦いの後
「・・・お疲れ様・・・っていうべきかしら?」
文は康太の戦いが終わるのを見届けた後で二人の前に姿を現していた。
息も絶え絶えな精霊術師とほぼ無傷の康太を見比べてその勝者がどちらかであるかは文の目から見ても明らかだった。
「まぁな・・・水属性の対策もしておいてよかったよ。前の経験も活かせたな」
「そうね、あんた水属性は二回目なんだっけ?」
「あぁ、ただの物理攻撃じゃ止められるの目に見えてたからな」
康太は以前戦った水属性の魔術を使う魔術師との戦闘の時の糧をしっかりと活かしていた。
康太の持つ最大攻撃ともいえる鉄球を用いた無差別攻撃。物理的な威力を持った攻撃は水属性の防壁の前にほとんど無力化されてしまう。ならば防壁の内側に至るまでその効果を発動せず、相手の懐に入ってから発動したほうがいいと思ったのだ。
校舎の中にあった道具を使ったのは足元や直上から落ちてくる鉄球に意識を向けさせないためでもある。その甲斐あって康太はトゥトゥエル・バーツを仕留めることができたのである。
結果的に止めを刺したのは炸裂障壁の魔術だったが、その過程に至るまでが重要なのである。
「そっちはどうだった?先輩魔術師でてきたか?」
「えぇ、二年生の方がね。ちゃんと追っ払っておいたわよ」
「ありがたいわ・・・それよりこいつ何とかならないか?さすがにこのままじゃ不憫だろ」
康太の視線の先には全身切り刻まれた精霊術師が横たわっている。自らの水属性の魔術のおかげで出血自体は止められているのだろうがその体には今激痛が駆け巡っていることだろう。このままの状態で放置するのはあまりにも非人道的すぎる気がしたのだ。
「治癒の魔術はなぁ・・・まぁ大雑把でいいならある程度傷を塞ぐくらいはするけど・・・そこまで得意じゃないのよね」
文は真理と違って治癒の魔術をそこまで得意としていない。その為できるのは本当に最低限の応急処置だけなのだ。
もし自分たちだけで対応できないようなら真理の下へ向かい治療してもらうことも考えなければならないだろう。
「ていうかこの惨状どうすんだ?さすがに暴れすぎたかな・・・?」
「前もこんな感じだったけどね・・・こっちがこの様子じゃ片づけは期待できないか・・・仕方ないわ、こっちは私がやっておく。費用やらなんやらは全部こいつに付けてやるわ」
片付をするにしろ証拠を隠滅するにしろ必ず費用というものは発生してしまうものだ。その金を誰が払うかはすでに決まっている。要するに敗者が負担するのだ。今回の場合でいえばトゥトゥエル・バーツがすべてを負担することになる。
窓ガラスが大量に康太が使った道具の修繕費。恐らく数万では足りないレベルの出費になるだろう。
もし康太が負けていたらと思うとぞっとするだけの費用だ。少なくとも数年単位で払うのにかかるだろう金額である。
「はいオッケー。最低限の応急処置はしたわよ。これで歩くくらいはできるはずだから」
「さすがベル、オラ立て、お前には聞きたいことが山ほどあるんだ」
康太は慈悲も何もなく先程まで対峙していた精霊術師を無理やりに立たせてみせる。傷が無くなったことでかなりましになったとはいえそのダメージは完全に回復しているわけではない。
相手からすればもう少し休ませてほしいだろうがこの状況ではその言葉に従うほかなかった。
「なんだよ・・・お前にケンカ売った理由か?」
「そんなもん大体見当がついてるけどな。魔術師としての権利を使わせてくれる代わりの条件だったんだろ?」
「・・・あぁそうだよ、魔術師のお前らにはわかんないだろうけどな」
「あぁ全然わかんないわ。少なくともそんなことで喧嘩売られたこっちとしては堪ったもんじゃないけどな」
康太は既に話を聞いていたためにある程度想像はできる。だがこの場ではあえて理解できないという事を口にした。
売り言葉に買い言葉ではないがある程度言いたいことはすべて言ったほうがいろいろと後のためになるのである。
「ビー、とりあえずクラリスさんの所に行かない?その方がいろいろ話もできるし」
「それもそうだな・・・よし、トゥトゥ・・・何とかバーツ、お前にはついてきてもらうぞ」
「トゥトゥエル・バーツだ」
「長いからトゥトゥでいいよ。改めまして初めまして。ブライトビーだ。こっちはライリーベル。積もる話もあるだろうからとにかく行くぞ」
「・・・何でそんなになれなれしいんだよ・・・」
「だってタメじゃん。気を使う必要なんてないだろ?」
同い年の術師というのは康太にとって文以外に知り合いはいない。相手が自分のことを敵視していたとしてもある程度は引き入れておきたいのだ。
知り合いが増えると同時にこれから行動しやすくなるためには味方を増やす必要がある。
もし相手が魔術師としての権限を利用したいというのであればなおさらだ。普通に自分の権限を利用させてやればいいだけの話である。
「・・・俺はお前の敵だったんだぞ?それなのに随分と気安いんだな」
「ベルだって最初は敵対してたぞ?術師の関係なんてそんなもんだろ?グダグダ言ってないで歩け。誰かに見つかるといろいろ厄介なんだから。ベル、片付任せていいのか?」
「えぇ、もう頼んでおいたわ。あとはやっておいてくれるはずだから」
一体誰に頼んだのか。それを専門にしている魔術師か業者でもいるのだろうか。どちらにせよ今の康太にとってはありがたい話だ。校舎もそうだがこの辺りもだいぶ傷つけてしまった。
やりすぎたかなと思いながら康太たちはとりあえず小百合のいる店へと戻っていった。