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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
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それぞれの戦い

発動した魔術は分解。その対象は三階にある窓ガラスだった。


分解によって外されたガラスは丁度康太たちの真上に倒れるように外されゆっくりと落下しようとしていた。


そして再現の魔術を発動しそのガラス群に槍の投擲を当てていく。その結果ガラスは割れ砕け、分散しながら中庭に降り注ごうとしていた。


周囲に降り注ぐ雨と混じりながらガラスの破片は中庭一帯にふりまかれつつある。そして康太が頭上に意識を向けたことで目の前の精霊術師も同じように頭上のガラスの破片に気付いていた。


周囲に展開されていた水の触手を自らの上に集めることで水の防壁を作って見せる。これによりほとんどのガラスは防ぐことができるようだった。ただ水を空中に配置するだけではなく水流を作ることでガラスの破片を自分とは違う座標に落下させることで康太の攻撃を完璧に防いで見せた。


当然、自分の真上の方向に意識が向いているために康太からほんの一瞬目を逸らせた。その隙を康太は見逃さなかった。


相手の防御である水の傘の恩恵を自らも受け、ガラスから身を守りながら槍を構えて突進しふたたび距離をつめようとするが相手もそのことを予想していたのだろう、自分と康太の間に厚い水の壁を作り出していた。


頭上には水の傘、真横には水の壁、自分の周りになにも入ることができないようにした完全な防御態勢だ。この状態に入られると康太としても正直つらいものがある。


鉄球のお手玉などを投げようにもしっかりと水の防壁を張られている以上簡単に防がれてしまうだろう。


そうなってくると康太ができるのは槍の投擲くらいしか相手に届く攻撃がない。


眉をひそめた後康太は一度一階にあるガラス窓を分解して外して見せる。そして一気に距離をとって校舎の中に侵入した。


相手は恐らくこのまま中庭の中に居続けるだろう。自分が待ち構える校舎の中には絶対入ってこないはずだ。


相手にとって外のフィールドというのは放棄するにはもったいないレベルの好条件だ。雨のおかげで水の魔術はいつも以上に良い状態で使うことができるだろう。そんな状態を放棄するほど相手がバカとも思えない。


逆に言えばこの校舎の中はセーフゾーンだ。いろいろと仕込みをする時間は十分にあるという事でもある。


康太が準備を進めようとしていると唐突に窓ガラスが砕ける音が響き渡った。


一体何が起こったのかを確認しようとその音の方向を見ると先程までトゥトゥエル・バーツが展開していた水の触手が窓ガラスを砕いて中に侵入してきているのだ。


康太はこの時点で自分の考えの甘さを思い知っていた。今やこの空間そのものが相手にとって優位なものになりつつあるのだ。そんな中で悠長に準備をしているだけの余裕があると考えた時点で康太はまだ考えが足りない。


とにかく逃げなければ、康太が考えたのはそこだった。


すぐにでもこの場から離れなければ危険だ。窓ガラスを水圧で割ること自体はそこまで難しくはない。威力自体は危惧するべきではないがこれから起こることを予想するとこの場から離れることが第一にするべきことだった。


そして康太がその場から走り抜けると同時に周囲のガラス窓が一気に割れていく。それぞれ水の触手が伸び廊下の中や教室の中まで侵食して康太を追い詰めようとしていた。


まるで沈没しつつある船に乗っている気分だった。外に繋がる窓という窓から水の触手がなだれ込んでくる。逃げ惑う時はきっとこんな気分なのだなと康太は走りながらこれからどうするべきかを考えていた。


相手の水の防壁はなかなかに厄介だ。不意打ちに近い形でない限り破ることはできないだろう。


康太の攻撃はほとんどが物理攻撃に依存している。再現によって得られる攻撃も、もともとの動作分の力しか持ち合わせていない。


つまりナイフの投擲を再現したならオリジナルと同じ威力を有しており、同時にオリジナルが止められてしまう方法で相手が防御をとった場合当然再現した攻撃も防がれてしまうのだ。


再現の魔術はあくまで再現をするものだ、オリジナルを超えるような攻撃ができるわけではない。


かといって蓄積の魔術によって用意した鉄球の無差別炸裂も水の防壁の前ではほとんど無力化されてしまうだろう。


本当に水属性の魔術は厄介だなと康太は眉をひそめていた。


一階から二階へ駆け上がり、中庭を確認するとそこには大きな水の塊とそこから伸びる水の触手が大量に展開されていた。


まるで怪獣映画のワンシーンを見ているようだと康太はため息をついていた。


恐らくあの魔術、最初から発動していたあの魔術がトゥトゥエル・バーツの最大威力を持った術なのだろう。


時間経過とともに巨大化していく水の塊、操作できるだけの上限までは延々と増やしておけるのだろう。


だがどうやら水の塊自体は大きくできても触手の数には限界があるようだった。先程から触手が出ては引っ込んでを繰り返している。


その数を数えるとおおよそ二十ほどだろうか。それなりに数が多いが何とかできないレベルではない。


多少こちらも手の内を明かすことになるだろうがそれも仕方のないことだ。


康太はとりあえず自分ができることをするべく校舎の中を走り出した。あれを破るには準備が必要だ。相手の触手から逃げながらそれをするのは苦労するだろうがやる以外に手はない。




康太が戦いを始めたあたりから文はその近くの建物からその様子を窺いながら魔術を発動していた。


それは外部から内部を見えなくする光属性の魔術だ。康太の戦いを誰にも見えなくするためにすでに周囲は完全に覆ってある。もし誰かが入ってくるようならそれも確認できるように索敵の魔術も発動していた。


今のところ康太がやや劣勢というところだろうか。水属性の対応策はすでに考えていただろうがあれだけの大きさの水の塊を用意できるとなるとまた別の策が必要になる。康太もそのあたりは考えていたようだがそれを実行に移すには時間がかかるようだった。


康太が感じていた視線の正体を文はすでに把握していた。その相手は文が警戒し目を付けていた先輩魔術師だった。


文が周囲でにらみを利かせているのを知ってかこちらをしきりに気にするようなそぶりを見せているがそれもまた見え見えだ。


康太の戦いを見るつもりで来たのだろうが、文が完全に覆い隠してしまっているために物理的にそれを把握することはまだできていない。


しかも文が見た限り康太が発動した魔術は二つだけ。威力偵察にしろ捨て石にしろ試金石にしろ、あの程度しか魔術を確認できないのであればはっきり言って採算が合わないだろう。


だからこそ文は次の行動を予測できていた。


「ライリーベルだな?こんなところで何をしている」


「見ての通り、相棒の戦いを見守っているんですよ。どこかの誰かが余計な茶々を入れることがないように」


先程まで周囲から視覚的に見える場所がないかを確認していたようだったがそれがないのを理解したのか、先輩魔術師は偶然を装って文に話しかけて来た。


文は最初からその存在を確認していたというのに、相手はどうやらそう言ったことをあまり気にしないタイプの人間らしい。


文はその存在の方に目を向けると彼には絶対に康太たちのいる校舎内部が見えないように術を操作する。


「彼は一体誰と戦っているんだ?魔術師か?」


「いいえ、今戦っているのは精霊術師ですよ。ちょっと喧嘩を売られたのでしっかりお灸をすえてくるそうです」


「精霊術師か、デブリス・クラリスの弟子ならそのくらい楽勝だろうな」


相手が精霊術師であるという事はすでに承知しているだろうがさもいまはじめて聞いたというような反応をしていた。


しかも康太がさも当然に勝利することを前提としている。いや、勝利を前提とすることで逆に落胆させようとしているのかもしれない。


康太への威力偵察、そして康太と文の同盟関係にひびを入れる。二つのことを同時に行うのがこの先輩魔術師の策なのだろうか。


どちらにせよその二つは役に立たない。なにせ文は康太以外と組むつもりは今のところないのだ。


「それとも苦戦するのかな?精霊術師相手にそんな醜態は晒さないだろうが、どうだろうな?だとしたら情けない限りだ」


「どうでしょうね・・・まぁどちらにせよこんな小細工をするような人達よりもビーの方がよほど頼りになりますよ。精霊術師相手に取引をしなければいけないような魔術師よりはずっと」


文は憶測も踏まえてそのセリフを投げかけたが、どうやら相手にとっては多少の嫌味のように聞こえたのだろう。先程まで悠々と話してた口が急に止まる。


この反応の時点で文は確信していた。この人物が精霊術師に取引を申し出て康太と戦うように指示した人間であると。


二年の魔術師、一人の三年生の魔術師と派閥を組んでいる魔術師だ。名前まではまだ把握していないがその仮面の形だけは覚えていた。


こいつをここで足止めする、それが自分の役目だなと文は僅かに息を吐きながら視線を魔術師に向けていた。


「それで?先輩こそこんなところに一体何をしに?この辺りは危険なので離れていた方がいいですよ?」


「・・・それは君が気にすることじゃない。それとも気にするようなことがあるのかな?」


「えぇ、非常に目障りなのでいなくなってくれると助かります」


こちらに、正確には康太に対して敵意を向けている相手に対して文は全く容赦のない言葉を放った。


いくら敵対関係になりつつあってもここまで露骨な発言は康太ならしない。だから自分が言う必要があるのだ。


序列では一応自分の方が上になっている。それならしっかりと牽制もしておかなければならない。


また自分たちに牙をむくようなことがないように。


康太と組んでいる以上こういうことは増えるだろう。それならば一度に面倒は片づけたいと思っていた。


相手がどのように考えているかは知らないが文は康太の敵は自分の敵とみなす。だからこそはっきりさせておく必要があった。


「私も先輩みたいに暇じゃないので、あまり言う事を聞いてくれないと実力行使に出ます。そのあたりはわかっていてくださいね」


「・・・ほう?実力行使ね・・・一体何をするつもりだ・・・?」


「何をするつもり?何言ってるんですか、もうやってますよ」


やるつもりではなくもうやっている。文の言葉に寒気を覚えたのか二年生の魔術師は周囲を警戒し始める。


その体の周りには黒い靄のようなものが形成されていた。


そして靄が晴れていくとそこには光り輝く小さな球体が大量に張り巡らされている。それは彼女が設置した攻撃魔術だった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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