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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
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魔術師の恋愛事情

「てなわけで姉さんはどうですか?彼氏とかいないんですか?」


「・・・どういうわけなのかわかりませんが・・・とりあえずお付き合いしている方はいませんよ?」


康太は小百合の店につくと同時にその場に偶然居合わせた真理に対しても先程と同じ質問を投げかけていた。


女性に会っていきなりこんなことを聞くのは失礼に当たるだろうが、真理はこれを聞くことには何かしら理由があるのだろうなという事でそこまで不快には思っていないようだった。


何より康太の後ろには申し訳なさそうに、そしてあきれた様子でその光景を眺めている文がいたのだ。この時点で真理は大まかな事情を察していた。


「なるほど・・・魔術師がどのような方とお付き合いするかどうかを話していたという事ですか」


「すごいですね姉さん!話の内容全く言ってないのに何でわかったんですか?」


「まぁこのくらいはわかりますよ。というより康太君、女性にいきなりそういうことを聞いてはいけませんよ。私や文さんだったからよかったものの他の方に対しては失礼に当たるかもしれませんからね」


文に対しても同様の問いを投げかけたという事も見抜いているあたりさすが我が兄弟子と康太は僅かに感動すら覚えていた。


読心術というわけではないだろうが、恐らく康太の行動や言動などを予測して今までの会話や行動をトレースしていったのだろう。ここまで来るともはや超能力ではないかとさえ疑ってしまうほどだ。


もっとも彼女の場合は何らかの魔術を発動しているのではないかと疑う方が先かもしれないが。


「まぁそれは置いておいて・・・文の奴は魔術師じゃないと付き合うことはできないって言ってるんですけど、姉さんもそうなんですか?」


「んー・・・やっぱり私も魔術師ですからね。同じ魔術師の方がお付き合いしていくうえで摩擦は少ないと思いますよ?もし一般人の方とお付き合いした場合隠さなければいけないことが多すぎますからね」


「・・・いっそのこと付き合った人を魔術師にしちゃうってのは無しなんですか?」


「それは・・・さすがにこちらの都合で相手を茨の道に引き込めませんよ。相手にも失礼ですし何よりその関係が終わってしまった後が非常に面倒になってしまいます」


一般人が相手では隠し事は多くなってしまう。好きな相手に、そして好かれる相手に隠し事をするというのは両者にとって良い影響は起こさない。


魔術師なら暗示などで記憶などを操作できるかもしれないがそう言う関係は結果的に不和を呼ぶ。あまり推奨できるとは言えないだろう。


そして康太のいうように付き合う相手を魔術師にしてしまうというのも可能性としては十分有りなのだ。


もし才能がなかった場合は精霊術師になってもらうことになるだろうが、どちらにせよ超常的な術が使えさえすれば術師として認められる。


一般人を無理やりに魔術師に変えるという意味では康太がそれに近いかもしれないが、あれと同じようなことを第三者にやるというのは少々気が引けた。


無理矢理一般人の道から外れるような立場にしてしまうのだ。それは相手の為にも自分の為にもならない。


特に真理の言ったようにもし将来その人と別れてしまえば面倒な関係だけが残ってしまう。


相手を魔術師にしたのに勝手に見放すようにさえ見えるだろう。これでは明らかに相手が不憫だ。


そう考えると相手を魔術師にするという事も避けたほうがいいだろう。


「だから言ったでしょ?魔術師が付き合ったり結婚したりする場合必然的に相手は魔術師になるんだって」


「そう言うもんかなぁ・・・じゃあもし婚活とかしてたら魔術師同士のお見合いとかになるのかよ」


「・・・それは・・・魔術師同士のお見合いとかってあるんですか?」


「私は聞いたことありませんね・・・そもそも魔術師は婚活というものをするんでしょうか・・・?」


魔術師の結婚事情にまで関わる疑問を投げかけるも、文も真理もこの疑問に正確に答えることができないようだった。


無理もないだろう、なにせまだ興味も経験もないような事柄なのだ。そんなことを考えるのは恐らくこれからもっと後、少なくとも数年は後の話である。


「そう言えば気になってたんですけど、師匠って今付き合ってる人とかいるんですか?そもそも結婚適齢期なんじゃ・・・」


今まで言っていいものか悩んでいた事柄でもあるのだが、小百合の恋人事情というのは康太も、そして文も気になっていたことだ。


非常にデリケートな問題であるために聞くべきかどうか迷っていたのだが、これもいい機会だ。本人がいないのは丁度いい、今のうちに真理に聞いておいた方が精神衛生上よいと康太は考えていた。


「あぁ、師匠でしたら・・・っていうかこれは私が言うべきではないかもしれませんね・・・最悪師匠に怒られそうですし・・・」


「えー・・・今師匠もいないんですし少し位ならいいじゃないですか。鬼の居ぬ間になんとやらですよ」


「ほう?誰が鬼だって?」


康太が小百合の恋人事情を真理から聞きだそうとしていると不意に康太の後頭部が何かに掴まれる。


それが小百合のものであるという事はすぐに理解できたが小百合の声はかなり遠くから聞こえてきていた。明らかに彼女の腕では届かないだけの遠さだ。


小百合が魔術を使っていると気づくのに時間はかからなかった。そして折檻如きに魔術を使うとはと真理と文はその光景を呆れながら眺めていた。


その後康太が徹底的に小百合に締め上げられたのは言うまでもない。


「まったく、若いうちはそういう話が気になるのはわかるがせめて本人の了承を取ってからしろ。そしてもう少しデリカシーというものを学べ」


どの口がデリカシーなどという言葉を口にするのかと突っ込みたくなったがそこは自分の師匠だ。これ以上下手に逆らうと面倒なことになるだろうなと康太は床に倒れ伏しながら先程まで与えられていた痛みに耐えていた。


「でも実際問題彼女とか欲しいですし・・・そう言う事が気になるじゃないですか・・・魔術師相手の方がいいとか悪いとか」


「ふむ・・・まぁお前達の年頃でそう言う話をするなという方が無理というものか・・・確かに魔術師同士での結婚や恋愛は多いが、一般人相手に対してそういうことを全くやっていないという事もないぞ?」


「え?一般人相手に魔術師が恋愛してるとかあるんですか?」


「あぁ・・・まぁいろいろと歪んだ関係であるのは認めるが」


歪んだ関係というのは何やら聞いただけで穏やかではないというのがすぐに理解できる。というかそもそも歪んだ関係というのがまともな恋愛などにカテゴリーできるのかという疑問が残る。


「ちなみにどんな関係なんですか?なんとなく予想できますけど」


「恐らくその予想通りだ。魔術で相手をいいように操っている感じだな。都合の悪いことは魔術で認識できなくして都合のいいことだけを記憶させる。認識だけではなく考え方、感情や欲求まで操作している。はっきり言って真っ当な恋愛とは程遠い」


「うっわ・・・それって明らかに問題じゃないんですか?」


「いや・・・相手もそいつのことを好いているから一応の所は問題なしらしい。魔術というものを認識していないだけましというものだろう」


いつまで続くかはわからないがなと付け足して小百合はため息をつく。一体誰の話なのか非常に気になるところだが小百合の話を聞いて文もかなり複雑そうな顔をしていた。


やはり一般人と恋愛をしようと思うとそう言う風になってしまうのだなというのを今のを聞いて確信したらしい。やはり魔術師相手に恋愛をするしかないのだなとある意味諦めを含めたため息をついていた。


「ちなみにその人って男ですか?女ですか?」


「魔術師の方が女だ・・・なんというか強烈なやつでな・・・そいつのことを盲目的に好いているらしい。共依存に近い状態になっているらしいが・・・今どうなっているかは私も知らん」


女性が魔術師で男の方をいいように操っているという事なのだろうがその光景を見るとかなり異様だ。


悪女というより魔女につかまってしまった哀れな男というのが一番しっくりくる表現だろう。


どのような相手なのか少し気になるがそう言うのは知らない方がいいのだろうなと康太は自己完結させていた。


その男に自由意思があるかどうかはさておいて、互いに幸せならそれでいい。その関係が永遠に続くとは思えないが。


「でも魔術師ってそんなに簡単に一般人を操れるものですか?俺の知ってる魔術じゃ難しいと思うんですけど・・・」


「あんたが知ってるのって暗示と記憶操作くらいでしょ?無属性でも一般人を操る魔術なんていくらでもあるわよ?」


「そうなのか?たとえばどんなの?」


「さっきも小百合さんが言ったけど考えだとか感情やら欲求まで操れるわ。正確に言えばその気にさせるってよりもそんな気分にさせるっていったほうが正しいかもね」


無意識を操る魔術の応用らしく、その解釈が広い分そこまで効果の見込めないものから特定の何かに対してのみの効果を持つ分高い効果を得られるものもある。感情、欲求、思考、それぞれに分類分けすることで高い効果を得られるらしい。


それがどのような意味を持つのか康太だってわかる。感情を操れば相手を気分良くさせられる。考えを操れば行動を操れる。欲求を操れば相手をコントロールできる。はっきり言って相手を思うがままに操れるのと同義だ。


「それってそのまま操り人形じゃんか・・・付き合ってるって言えるのかそれ・・・?」


「まぁ本人がいいならいいんじゃないの?それが空しいって考える人と、それが充実してるって思う人がいるわけだし。たぶんだけどその魔術師、その恋人を満足させるためだけに魔術を使ってるんじゃないかしら?」


「ほう、よくわかったな。正解だ」


小百合の言葉にやっぱりねと文は小さくため息をつく。相手に満足感を与えればその分自分を大事にしてくれる。自分の相手をしている時だけ相手に快楽を与えれば相手は自分の方を向いてくれる。


なるほど、確かに歪んだ関係だ。相手が本当に自分のことを想っているかどうかはさておきその魔術師はその関係で満足しているのだろう。


それが本当に正しいかどうかはさておいて。


「よくわかったな・・・ひょっとして文もそう言うのに憧れたりすんのか?」


「バカ言わないでよ。魔術に頼って何が楽しいの?そう言うのはなんていうかこう・・・もどかしかったり気恥ずかしかったりするのを楽しむものじゃない・・・」


恋人いたことないから全部想像だけどさと付け足しながら文は少し顔を赤らめている。


恐らくは恋愛漫画などをの受け売りなのだろう。彼女はいろいろとスペックが高いのに今まで誰とも付き合ったことがないために多少耳年増になっているのかもしれない。


「なんにせよ、そんな歪んだ関係は推奨できませんね・・・康太君も文さんもそんな風になってはいけませんよ?」


分かってますよと康太と文が答えると真理は少しだけ安心した様だった。魔術を使えるものとして最低限のラインは守らなければならない。人の心を操るというのはあまりしたい行為ではないのはこの場にいる全員が感じていることだったようだ。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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