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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二話「魔術師としての第一歩」
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修業の成果

小百合が康太の育成プランを考えている中、康太は悩んでいた。なぜうまく発動できないのか、なぜ小百合のように発動できないのか。そこが今の康太の悩みだった。


発動率は約五割。半分は発動できると言えば聞こえはいいが小百合から言えば半分しか発動しない魔術など使い物にならないという事らしい。


当然だ、集中状態を作っているのにもかかわらず半分しか発動できないのだから問題が起こったら恐らく一割も発動できないだろう。


小百合が発動するときに見えるあの車輪の光景は康太が発動するときにはほとんど見えないのである。


本当に時々見ることができるのだが、それもかなりぼやけてしまっている。あの光景が見えるという事が術の再現率、というより術の完成度に依存しているのであれば自分の発動はまだかなり拙いものであるということがわかる。


どうにかして完成度を高められないものかと自分なりにいろいろと工夫をしているのだが、どうしてもうまくいかないのである。


小百合にアドバイスを求めても感覚頼りになってしまうために結局のところ自分で何とかする以外に方法がないのである。


小百合に言わせるとこういうものは繰り返しやっていくしか方法がないそうだ。

当然と言えば当然だろう。どんなものだって練習しない限りは上達しない。いかに天才だろうと努力しなければ身につかないのだ。


しかも自分の魔術師としての才能ははっきり言って平均以下。それで努力もせずに満足に魔術を発動しようということそのものがナンセンスであることくらい理解できる。


とにかく練習するしかないのだ。徹底的に。


頭の中で思い浮かべる魔術の発動方式をもう一度おさらいしながら何度も何度もプラモめがけて魔術を発動する。


そうして一体どれくらい経っただろうか。


魔術を初めて発動できるようになった日から、康太は小百合に自宅でも魔術の訓練をすることを認められていた。


そのおかげもあってか魔術の成功率は日に日に上がっている。


初めて魔術を発動できた日から一週間、そのころには康太の魔術の発動率は九割を超えていた。


だがそれでも小百合は満足していないようだった。


十割発動できなければ意味がない、それが彼女の信条なのだ。


それに関しては康太も同意する。どのような状況でも発動できるようにするためには平時における発動率は十割にしておかなければ意味がないのだ。


だからこそ日々鍛錬を重ねているのだが、その変化は唐突に訪れた。


それは家で魔術の鍛錬をしていた時のことだ。いつものように魔術を発動した瞬間、康太にあの光景が鮮明に映ったのである。


それは小百合が自分の体を介して発動した時に見えた車輪の光景。


木でできた車輪に、自分が手を伸ばしているあの光景だった。


その時の感覚を、康太は明確に記憶した。その時の光景を、康太は目に焼き付けた。


実際に目に見えていた訳ではないために目に焼き付けるというのもおかしな表現かもしれないが、それでも康太の頭の中にはその光景がしっかりと記憶されていた。


小百合は康太が何かが見えたのならその光景には意味があると言っていた。もしこの光景を鮮明に見ることが術の完成度などに依存しているのであれば。


そう思って康太は魔術に幾つかの改良を施していくことにした


毎回毎回少しずつ条件を変えてより鮮明にあの光景が見えるように。


そしてその模索が功を奏したのか、康太の魔術の発動率は十割に限りなく近づくようになっていた。


無論高い集中を維持した状態に限られるが、それでも小百合の目標にしていた百発百中という条件はクリアしたに等しい。


そしてさらに言えば魔術を発動した時に見えるあの光景も、小百合が発動した時よりも鮮明に、より長く見ることができるようになっていた。


初めて魔術を発動して二週間、もうすぐ二月も終わろうという頃に康太は再びある試験を受けていた。


それは単純なもので魔術の発動率を確認するものだった。


学校が休みの日に朝から小百合の下に向かい、一日中魔術を発動し続けるというものだ。


あらかじめ小百合が用意してくれたプラモ数十体を次々とバラバラにしていく中、康太の魔術の発動率は百%であるということが証明された。


「・・・予想よりずっと早かったな・・・私の弟子にしては上出来だ」


小百合のお褒めの言葉を受けたことで康太はガッツポーズをすると同時に、あるものを受け取っていた。


それは仮面だった。白い素材でできた仮面で、激しい凹凸などは無いシンプルなものだ。きちんと向こう側が見えるように目の部分に穴が開いている。逆に言えばそれだけの仮面。


一体この仮面に何の意味があるのかと康太は疑問符を飛ばしていた。


「これは?」


「今からお前を魔術師として登録しに行く。それが終わればお前は一人前の魔術師として認められることになる」


それから先お前が魔術を学ぶかどうかはお前次第だと付け足して小百合は出かける準備を始めていた。


そこでようやく康太は思い出す。自分は死ぬか魔術師になるかという選択肢を与えられ、こうして修業していただけなのだ。


魔術を会得し、魔術師となった今これ以上魔術に深く首を突っ込む必要はない。確かにその通りなのだ。実際これ以上魔術を学んだところでどうなるのかという気持ちもある。


「これから先の事は帰ってから決めろ。まずは登録に行く。ついて来い」


小百合の言葉に従い、康太はとりあえず仮面を持ったまま小百合の後についていくことにした。


これからどうするか、改めて考える必要があるのだろう。魔術師となる今だからこそ。


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