表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
169/1515

久しぶりの

「というわけでだいぶ準備は整ったぞ、こっちは何時でも始められるくらいには」


『あっそ・・・まぁ相手が動くかどうかも分からないんだしそこまで急ぐ必要はなかったと思うけどね・・・』


その日の夜、康太は自室で文と電話していた。小百合への報告に加えてこちらの準備がほぼ整ったことも伝えると文は興味なさそうに生返事していた。


『ていうか、あんたの場合ほとんど身一つでどうにかなるわけじゃないんだし、もうちょっと学校の方にも仕込みとかしなくてもいいの?』


「そうしたいのはやまやまなんだけどな・・・さすがに学校の中だといろいろ怖くてな。万が一暴発するとあれだろ?」


『・・・まぁあんたの場合そうかもね。ていうかそこまで暴発を心配する必要あるの?さすがにそんなことがないレベルには使えるんでしょ?』


「そりゃな。でも物事に絶対はないだろ?寝ぼけて発動ってこともあり得るしさ」


物事に絶対はない。それは康太が魔術師になってから学んだことでもある。それは今まで抱いていた常識を覆すための新たな法則でもある。


この世界では何でも起きる。あり得ないなんて言葉はただそれを知らない人間が使う言葉だ。


『寝ぼけて発動ねぇ・・・そんなおもらしみたいなことはしたことないけど・・・まぁ警戒するのはいいことだわ。あんたの場合特にね』


「だろ?それに仕込みをすると逆に利用されそうでなぁ・・・仕込んであったものが次の日には片付けられてたりするかもだし」


『守衛さんとかが急に頑張って探し出したりとかは割とよくあるわね。そう言う人に見つからないように仕込むのがベストなのよ。それができれば苦労はしないだろうけどね』


魔術的な仕掛けというのは自らの所有物に仕込む方法もあるが建物や物体といった外部に仕込む方法もある。この場合問題なのは常にその仕込みの管理ができないという点にある。


毎日常にその仕掛けに目を光らせているわけにもいかない。その為にそこにあると高をくくって行動すると痛い目を見るのだ。


仕掛けがあると思って行動するよりはないと思って行動したほうがよほど気が楽というものである。


「文の方はどうなんだ?準備とかできてるのか?」


『私はそもそも事前準備とかはほとんどしないわよ。方陣術の準備だってそんな急ごしらえじゃ間に合わないんだから。常にストックは満タンにしておくものなの』


「そのあたりはさすが魔術師って感じだよな。自己管理完璧」


『あんただって一応魔術師でしょうが・・・』


康太自身も確かに魔術師なのだがそのあたりは本職というか経験の違う文の方がまともな魔術師に見えるのは仕方のないことだろう。実際文は確かに普通の魔術師なのだ。康太のような半端ものと違って。


「あ・・・ていうか夜遅くまで電話して大丈夫か?親とかに怒られたりする?」


『あぁ、そう言うのは気にしなくていいわ。私だって一応魔術師の端くれだしそれぞれコミュニティがあるってことくらいうちの両親も理解してるしね』


「あそっか、お前んちの親両方とも魔術師だっけか」


両親が魔術師である以上、文が魔術師として会話しているのを止めるようなつもりはないのだろう、そう言う意味では理解のある家庭でいいなと思ってしまうが同時に面倒くさそうだなとも思ってしまう。


一般家庭しか知らない康太にとっては複雑な心境だった。


「ところでさ、お前ん所の両親って俺が師匠の・・・デブリス・クラリスの弟子だってこと知ってるのか?」


『どうかしら?調べてるかもしれないけど特に何も言われてないわね。でも知ってたら何かしら言ってくるかな・・・?』


「さすがにあの人だからなぁ・・・親としては心配なんじゃないのか?」


『自分の師匠に酷い言いぐさね・・・でも真理さんとかだって小百合さんの弟子なんだからそこまで警戒はされてないんじゃない?あの人比較的まともっぽく見えるし』


まともっぽく見えるという事は少なくとも文の中では真理はまともというカテゴリーの中には入っていないということになる。


康太としては真理ほど常識人はいないと思っているのだが、どうやら文の中では彼女はアウト判定のようだった。


だが確かに真理は一見すればまともだ。協会に顔を出しても嫌な顔をされることもなく普通にしていられる。


そう言う意味では小百合の弟子だからという理由で忌避されるということはないのだろうか。


『少なくともあんたと行動を共にしてるってことは伝えてあるけど、そこまで悪い印象は持ってないみたいよ?特にあんた最近協会で取り上げられてるしね』


「あぁなるほど・・・俺の評価ポイントがこういうところで効いてくるのか・・・やはり評価を上げておいて損はないな」


『その分知名度が上がるからいろいろ面倒ではあるだろうけどね。少なくともあんたと同盟ってのは悪いことではないから安心しなさい。面倒事に巻き込まなければね』


「そればっかりは俺に言われてもなぁ・・・面倒事がよそからやってくるのが悪い。俺は何も悪くない」


『主に小百合さん経由でやってきてる気もするけどね』


同盟を組む魔術師としても面倒事は避けたいところなのはよくわかる。だが小百合が面倒事を持ってくる以上自分たちは関わらなければいけない。


なんとも難しい問題だと康太と文は頭を抱えていた。


少なくとも自分達ではどうしようもないことであるのは確かである。


翌日、手紙を渡した効果があったのか康太は先日まで感じていた視線を全く感じなくなっていた。


康太への干渉をやめる気になったのかそれともただ単に手紙の事もありさらに慎重になっているのか、どちらにせよ康太からすれば余計な視線を感じないというのは非常にありがたかった。


なにせ今までずっと誰かから見られているという事を意識させられていたために変に警戒を強いられていたのだ。


警戒を解けるような状況ではないにせよ見られているという感覚がなくなっただけでも随分と気が楽になるものである。


「八篠今日はなんか機嫌よさそうだな?なんかあったか?」


「ん?そうか?いや今日は妙に晴々した天気だからな」


「そう?普通に雲とかあるけど・・・?」


雲があろうとなかろうと康太にとっては非常にいい天気に見えてしまう。それだけ今まで絡みついていた視線は強い不快感を与えていたのだ。


誰かに見られて興奮するような性癖でもあれば別だが康太は別にそんな性癖を持ち合わせているわけではない。


そもそも見られている理由が監視や敵対行為である以上みられていい気など欠片も起きないのである。


「そういや最近どっかで飯食うこと多かったけどどこ行ってたんだ?」


「ん・・・ちょっと呼び出し受けてな。適当な場所で食ってたんだよ」


「呼び出しって・・・鐘子さん?」


「そうそう、面倒な話が多くてさ・・・」


「あぁ親戚関係の話か。不憫だよな、普通だったら鐘子に呼び出されたらテンション上がりまくりだろうに」


「いや・・・あいつに会うのでテンションが上がることはあんまりないかな・・・」


康太は別に文と親戚関係というわけではない。設定上そうしたほうが簡単にあったり話したりすることができるというだけの理由でそのように演じているのだ。


そして康太は文に会うと言ってもそこまでテンションは上がらない。なにせ文と会って話すときは大抵が魔術的に何か問題があった時だけなのだ。


「お前はいいよな・・・今度俺たちも一緒に食事に誘え」


「いいね、ぜひそうしてよ。こっちとしてもその方がありがたいし嬉しいし」


「お前らなぁ・・・まぁでも普通に飯食うくらいならいいかな?今度頼んでおくよ。あいつがどんな顔するのかはわかんないけど」


実際文が康太と青山、そして島村と一緒に食事をすることになったとして一体どのような対応を取るのか全く分からないのだ。


本性を見せるようなことはしないだろうが明らかにめんどくさそうな顔はするかもしれない。


「でも男三人に女一人で食事とかさすがにあれだな・・・どうせなら鐘子の友達とかも誘ってもらおうぜ。旅行の時に一緒に回った子たちでいいだろ」


「お、なんかそれっぽくなってきたね。人数は合わせたほうがいいよね。確かあっちの方が一人多かったでしょ」


「なんだよその合コンみたいなノリ・・・まぁ嫌いじゃないけどさ」


健全な男子高校生であれば彼女の一人でも欲しいところだ。少しでも出会いの場を増やすために可能な限り交流を持っておきたいのである。


「でもさ、お前らって部活の先輩とか興味ねえの?あの人達も結構いい人だし可愛いじゃん」


「もちろん先輩たちも結構いいけどさ・・・俺年上ダメなんだよ・・・やっぱ年下かな」


「あー、青山ってそっちの人だったんだ。別に年上ダメとかはないけど・・・やっぱ部活内だといろいろあれでしょ?」


「まぁいざこざあるとその後に響くしな。気持ちはわかる」


部活動の中で恋愛話に発展するとその後の人間関係に直接響いてくるためにあまり推奨できないのだ。


もちろんそのままうまくいくのであれば人間恋愛関係の話は必ず不和を生むのが常、どのように話が転んでもある程度は部内の空気を変えるだろう。


社会人などが社内結婚や社内恋愛を可能な限り禁止しているのはそう言う一面もあるのだ。もし付き合っていても別れたらその後が非常に気まずくなる。そう言う事がないようにするために同じ職場や環境で多く顔を合わせるような人間を対象に恋愛をしない方がいいのである。


もちろん本当に好きになってしまったのであればそう言った条件を無視してでもアタックするべきなのかもしれないが、自分の背景を考えたうえで行動することが大事なのは言うまでもない。


「ところで鐘子って今フリーなのか?そもそもあれだけかわいきゃ誰かしらと付き合ってても不思議はないけど」


「それ!それ大事だよ!八篠なんか聞いてないの?」


「えー?そもそもあいつとそう言う話しないからな・・・何聞いておいた方がいいの?」


「「是非聞いておいて」」


二人が同時に声を出したことで康太は若干呆れてものも言えなくなってしまうが、この疑問はある程度すぐに返すことができる。


なにせ彼女は魔術師だ。相当な理由でもない限り一般人と付き合ったりはしないだろう。


少なくとも今まで恋人がいたかどうかはさておき今恋人がいないのは間違いないと見ていい。


もっともその予想が正しいかどうかもはっきり言って未知数なのだが。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ