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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
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兄弟子の考え

「なるほど、確かに文さんのいうように実際に動くのは明日以降になるでしょうね」


康太が小百合の店にやってくるとまず偶然その場にいた兄弟子の真理に今回の話をすることにした。


そして反応としては文と同じようなものである。考えとしても理屈としても大抵が文と同じなのかうんうんとうなずきながら文の考えの正しさを肯定していた。


「まず第一にその手紙が送られてきたということに強い動揺を覚えるか、あるいはその内容をすぐに確認しようとするでしょう。大抵は自分の部屋が安全な領域ですからそこでするでしょうね。その時点で今日がつぶれます」


確かにいきなり魔術的な要素を含んだ手紙が届いたとなればすぐその場で読むという事はしない。まずは安心できる場所に移動してから確認しようとするだろう。


康太が実際にこの店に手紙ごと持ってきたのがいい例である。


「その後今回の件を依頼してきた魔術師にこの事を話すでしょう。連絡先などを交換しているのであればすぐにできるでしょうが・・・恐らく今回の背後にいる魔術師は件の彼を使い捨て要員にするつもりでしょうからそんなものは渡していないでしょうね・・・」


その為話をするために明日一日を費やす可能性が高いですねと結び文の言っていた猶予を理屈で説明してくれる。


こういうところは小百合と違うところだなと感心していた。


小百合ならきっと理由を聞いたところで『なんとなく』とか『勘だ』とかいう言葉を言いそうである。理屈になっていないがそれが当たるのがまた恐ろしいところだが今はそう言う事を聞きたいのではない。


「そして明後日、恐らくは康太君へのアプローチをするはずです。ですがこの時が大きな転機でしょうね。その日に戦いを挑まれるか、それとも一日猶予を置くか、それによって相手の力量を測ることができます」


「一日待つかどうかで力量を測るって・・・どういうことです?」


「わかりやすくいえばどれだけ冷静に、かつ慎重になれるかという事です。恐らく明日、件の相手は背後にいる魔術師から意見やアドバイスを貰うでしょう。それを鵜呑みにするか否かを測るのです」


「なるほど・・・言われたことをそのままやるような人間か、俺と文が個人まで特定していたってことを考慮に入れて、なおかつ手紙の文章の意味も理解できて躊躇できる人間かどうかをテストするってことですね?」


その通りですと真理は嬉しそうに手を合わせて見せる。実際に言われたことをやるだけならば人間ではなく機械にだってできる。


だが相手は精霊術師、魔術師よりも劣っていると言われている存在だ。そんな人間が魔術師の意見を聞いてそのままの行動をするようであれば所詮はそこまでの存在だったという事である。


警戒して警戒して、油断の一遍も排除してようやく対等に立てるくらいの条件で戦うのが自然な中で『言われたから戦いを挑む』などという愚行を犯すのであればそれは大した術師ではない。


逆に康太と文の書いた紙の内容を理解し、その行動を確認してから行動を起こすくらいのものであれば康太も十分以上に警戒するに値する、きちんとものを考えるタイプの術師であるという事だ。


「正直言って康太君的には明後日戦いを挑んでくれる相手の方がありがたいでしょうね。考えなしの相手ならすぐにからめとれますから」


「そうですね・・・今までの感じからして明々後日だろうと文は睨んでるみたいですけど」


この数日間ずっと康太を観察し続けるほどに慎重な相手だ。他人からあれこれと意見を言われたところでそれを変えるとは思えない。


康太の意見も文と同じく、明々後日頃に相手が仕掛けてくると考えていた。

無論明後日に間に合うように準備はするつもりだが、そこまで頭の足りないような相手には思えなかったのだ。


「師匠はどう思います?相手がどう動くか、っていうか何時頃動くか」


「あ?そんなものいつ来てもいいように準備しておくものだろうが。そんなことを今さら言わせるな」


「あーはいはい・・・師匠はそう言う人でしたね・・・」


周囲が敵だらけの小百合にとっていつも誰かが宣言して攻撃してきてくれるわけではない。中には不意打ち交じりで襲い掛かってくるものもいるだろう。そう言った連中を倒していくために小百合は常に戦えるだけの準備をしているのだ。


常に戦いに身を置くと表現すると非常に恰好よく思えるかもしれないがそれがどれだけ過酷な事か康太も少しではあるが理解できる。


「でも師匠、いつでも装備常備するって結構きついですよ?そもそもどこに仕込むんですか」


「そんなものいくらでも仕込めるだろう?特にお前がよく使う小型の鉄球なんて服のどこにでも仕込める。ベルトだの靴の裏だの襟の内側だの、仕込もうと思えばいくらでも仕込める、後はやるかやらないかだけだ」


もちろん暴発した時は大変なことになるだろうがなと付け足した時点で康太は衣服に対する装備の仕込みを半ばあきらめた。


やはりきちんとした状態で装備を装着しなければ危険だ。特に康太の場合一つ間違えれば周囲は大惨事だ。間違いなく面倒の原因になるだろう。


しかも康太が使う武器は一応刃物も含まれている。万が一見つかったらそれだけで面倒事に発展するだろう。


早いところ暗示などの隠匿系の魔術を修得したいところだと康太はため息をついていた。


だが今いくらため息をついても何も変わらない。康太はとりあえず自分の持っている武器や装備などを整理整頓し、いつでも使える状態にすることにした。


康太が使う武器には一つ追加されているものがあった。


槍に数珠、そしてお手玉、そこに二つ小型のナイフが追加されているのだ。


なんの変哲もないというとやや語弊があるだろうが一見特に何の仕掛けもしていないように見えるただのナイフである。


あえて何かを言うとすれば両刃であるという事だろうか。投擲用のナイフらしくそこまで重くなく容易に持ち運びができるようになっている作りだ。


左右のベルトに取り付ける形でホルスターが取り付けられすぐに取り出せるようになっている。


この二つのナイフは既に康太が使い込んでいる武器だ。それなり以上に役に立ってもらうための装備でもある。


もちろんナイフの投擲もそれなり以上にできるようになっていた。そもそもこのナイフは康太が槍の扱いをある程度修得したからこそ所有が許されたのだ。扱えない武器を渡すよりはずっと良かったかもしれないが些か順序を間違えているような気がするのはきっと気のせいではないだろう。


手でナイフを遊びながら近くにある的に投げていくとその的に大抵当たってくれる。中心に当たるかは微妙なところだが大まかな狙いだけは正確になっている。


きちんと狙えるだけの射程距離は大体二十メートルに届くか届かない程度だろうか。投擲系の射程距離はやはり通常の攻撃のそれに比べればましになるなと思いながらもその威力の低さは康太も理解していた。


的に当たったところで少し刺さる程度だ。これでは人間の体にも高いダメージは望めないだろう。


もっともこのナイフ自体は牽制であってそこまで高い効果は求めていないのだ。


「康太君もずいぶんとナイフの扱いが上手くなってきましたね」


「結構練習しましたからね。まぁこれがどれくらい実戦で扱えるかは微妙ですけど」


「まぁこういったものは無駄にはなりません。特に康太君の再現の魔術のストックにできますから。どんな小さな攻撃も確実に相手への嫌がらせにはなります」


「まぁ投擲系だとパンチとかに比べて再現は魔力消費がちょっと多いんですけどね」


康太の扱う再現の魔術は再現する現象の時間的長さによって消費魔力が増減する。


再現するものが時間的に短く瞬間的であればあるほど魔力消費は少なく、逆に長ければ長い程に消費魔力は多くなる。


その為康太が槍を振ったりパンチを繰り出したりするよりはずっと魔力消費が多いのだ。その分射程距離が長いのだからあまり文句は言えないかもしれないが。


「あと防具とか考えてるんですけど・・・盾とかってありますかね?」


「いくつかありますけど・・・持っていると機動力が下がりますよ?」


「いえ、本当に小さなやつでいいんです。使い捨てくらいのつもりで用意しておきたくて」


今回使うかどうかはわかりませんけどと言う康太に真理は口元に手を当てて地下へと向かっていく。康太もその後に続き小百合の武具置場ともいえる場所にやってくるとそこには幾つもの武器がそろっていた。


その中には当然多くの武具がそろっているだけあって多種多様、剣、槍、斧、刀、棍棒等々が並んでいる。


そしてその中には防具も存在していた。鎧に兜、盾に籠手などその種類も外見も統一性はないが防具だということくらいはわかる。


盾の場所には大小さまざまな形のものが置かれていた。


タワーシールドのような大型のものから小型のバックラーもどきのようなものまでそろえているあたりさすがというべきか。


これらすべてがマジックアイテムなのかそれとも特に何の仕掛けもされていないものなのか、一見しただけでは康太は判別できなかった。


そんな中で真理が一つの盾を持ってきてくれる。それは本当に薄く軽い、本当にただの鉄の板を張り付けただけのような形をしていた。


おおきさもそこまでなく、直径三十センチほどの円形の盾をしておりそこまで大きな範囲を守ることはできないだろうことが予想できる。


「あまり装備を増やしすぎても邪魔になりますからね。使い捨てにするのであればこの程度が一番いいと思いますよ。何をしたいのかなんとなくわかりましたから」


「ありがとうございます。あとはいろいろ細工をすればいいかな・・・ふふふ・・・楽しみになってきた・・・!」


「・・・頑張るのはいいですがきちんと扱えるだけの物を作ってくださいね?下手に細工して自滅なんてしたら目も当てられませんよ?」


「わかってますって。できる事だけやってきます。装備に関しては本当に慎重になりすぎるくらいがちょうどいいですからね・・・」


これで康太の装備は魔術師の外套と仮面、そして竹箒(槍)、鉄球の数珠とお手玉、そしてナイフ二本に小型の盾が一つということになる。


「そう言えば姉さん、この盾って特に魔術的な仕掛けとかはしてないですよね?」


「はい、万が一にも暴走しては困りますから何の細工もしていないものをチョイスしましたよ。その方がいいでしょう?」


「はい、まだ方陣術は俺には扱えませんからね・・・さすがに自滅とかはちょっと笑えないですし・・・」


康太が方陣術などの心得があればマジックアイテムを所有してもいいのだろうがそのあたりはまだ未熟であるために師匠である小百合から許可が下りないのだ。


将来的にはそう言うもので固めた装備を付けたいと思っているがまだまだ先は長そうである。


以前朝比奈からもらった方陣術も結局大事にしまってあるだけだ。あれを発動するのが一体いつの日になることか、康太は少しだけ心待ちにしているのである。



土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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