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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
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康太のできること

「結局さ・・・どうするのがいいんだろうな」


エアリスからアドバイスを貰った後、康太は魔術の練習をしながら、文は魔導書を読みながら互いに相談し合っていた。


「私はあんたが戦ってるところを他の人が見れないように細工するつもりだけど、余裕があれば援護するわ。威力偵察如きに時間をかけるのもあれだしね」


「威力偵察の時点で既に撃破されそうなんですがそれはどうすればいいんですかね?」


そもそも威力偵察とは本陣から見て消耗しても惜しくないだけの人員を派遣して相手がどれほどの実力を有しているかを確認するというものだ。そこには当然本陣がその様子を確認しておくという事が大前提として存在するわけだが、その失っても惜しくない実力の持ち主でさえ康太はかなり苦戦しそうな気がしてならなかった。


属性の相性によっては完封もあり得る。なにせ康太はまだ無属性魔術しか使えないのだから。


「これで相手が無属性の魔術使って来たらどうしようもないよなぁ・・・」


「精霊術に無属性はないわよ」


何言ってんだかという表情をする中康太は目を丸くしていた。


無属性魔術は自分が最も得意とする魔術だ。大抵の人間が扱えるものだしそもそもそこまでくせもなく扱いやすい属性のはずである。


なのに精霊術に無属性が存在しないというのはどういう事だろうかと疑問符を飛ばしていた。


「え?なんで?」


「だって考えてみなさいよ、精霊ってのは自然現象を元にした存在よ?無なんて現象がない以上無属性の精霊がいないんだから精霊術だって使えないでしょ?」


「・・・あー・・・!あー・・・!なんかそんなことを誰かが言ってたような・・・誰だっけ・・・?」


どこかで似たようなことを聞いたことがあるような気がした康太は頭を抱えて唸り始める。精霊術というのは自らの素質の欠けた部分を精霊に補ってもらう事で発動する術だ。その為に助けてもらった精霊の属性に魔力が変質しその属性の術しか使えなくなるのが特徴である。


複数の精霊を連れられれば複数の属性を扱えるようになるのはそのためだ。逆に言えばその属性の精霊が存在しなければそもそも術を発動することができないのである。


無属性の精霊がいない以上、精霊術師は無属性魔術を発動することができないのだ。


「とにかく理解してくれたようで何よりよ。あんたの場合今まで戦ったことがあるのは・・・雷風水光火氷くらい?」


「あと土属性もだな、姉さんが土属性使えるし。それに戦った経験っていっても訓練のだけどな」


康太が実際に相手にしたことがあるのは文の扱う雷と風と水と光、そして長野で出会った魔術師が使ってきた氷、そして静岡師で出会った魔術が使ってきた水と火の魔術である。


それ以外の属性というと土くらいしかないのだがその属性は兄弟子である真理が使っているためにある程度は対策もできているがそこまで得意というわけではない。


「ちなみに今まで戦った中で一番苦手な属性は?」


「一番か・・・防ぎようがないって意味じゃ火とか嫌だよな。水も結構厄介だ、俺の攻撃物理系だから簡単に止められる」


先日の静岡での戦いで康太の扱う鉄球を用いた攻撃は水の壁によって容易に防がれてしまっていた。


水の持つ抵抗力によるものなのだが厚さが五十センチもあればほぼ無力化できてしまうのだ。水の力とは恐ろしいものである。


「とりあえずそれぞれ今まで戦ってきた魔術師をイメージしながら各属性の対策をした方がいいわ。たぶんあんたが戦うことは避けられないでしょうからね・・・」


「だよなぁ・・・相手がやる気満々な時点で避けられないか・・・まぁある意味覚悟はしてたけどさ・・・しょうがないな」


康太は小さくため息を吐いた後目を細めてある種の覚悟を固めていた。そしてその瞳を文は何度か見たことがある。康太が本気で戦うと覚悟した時の目だ。


やりたくはない。可能ならば戦いたくない。だが戦う事が半ば決定してしまっているのだから仕方がない。


この考えの切り替えの早さはさすが小百合の弟子だなと文は舌を巻いていた。


思考の瞬発力とでもいえばいいだろうか、康太は気持ちや考えの切り替えが非常に早いのだ。


近接戦闘を学んでいる過程で身に着けたものなのか、それとも今までの人生経験からそれを身に着けているのかは不明だが戦いたくないという気持ちからすぐに戦いに挑むための覚悟を決められるというのはある種恐ろしい。


一般人的な考え方から魔術師としての考え方への切り替えがスムーズにできるようになってきているという意味では喜ぶべきことなのだろう。


だがそれはつまりまた一歩普通から外れた場所に歩んだという結果でもある。

徐々に康太は普通から外れつつある。世間一般のただの人々から、世界に認識されてはいけない異能の魔術師へと。


文に言わせれば普通の魔術師という部類からも康太は大きく外れているのだが、そのことを一体どれだけの人間が認識しているだろうか。


少なくとも文とエアリス、そして康太の師匠の小百合と兄弟子の真理くらいしか認識していないのではないかと思える。


魔術師としての知名度の低い康太の異常性、いったい何時頃それが衆目に晒されるのか。もしその時が来たらきっとこういわれるのだろう。


やはりあのデブリス・クラリスの弟子なだけはあると。


「ていうかさ、私あんたが戦ってるところって最近ほとんど見てないんだけど、まだ肉弾戦ばっかやってるの?」


「いやいや、最近は魔術師っぽい・・・?こともできてるぞ?」


「その妙な間は何なのよ」


康太としても自分のやっていることが魔術師っぽいとは思っていないのだ。やっていることと言えば手榴弾のような道具を投擲したり地雷のようにつかったりとどちらかというとゲリラ戦法の方が目立つ。


魔術師ってなんだっけ状態だが康太だって魔術師っぽく戦いたいのだ。


具体的に言えば炎を手から出したり氷を作ったり雷を出したりしてみたいのだ。だがそんなことができるような技量がない時点でお察しである。


「とりあえずどんな戦い方するのかだけ教えてくれない?それである程度対策してあげるからさ」


「えっと・・・とりあえずは・・・」


康太は自分の持っている魔術と装備、そして戦い方をそれぞれ文に教えると彼女は眉間にしわを寄せて複雑そうな表情をしていた。「うわぁ・・・」という言葉を表情にしたらこんな感じだろうなという絶妙な顔をしている。


「あんたのそれは間違いなく魔術師の戦い方じゃないわね。どっちかっていうと兵士とか軍人とかそう言う感じ?ちょっと見ないうちに何でそんな戦い方になってんのよ・・・」


「俺だってさ、魔術師らしく戦ってみたいよ。箒で空飛んだり炎出したり無限に剣を作ったりしてみたいよ。でもそんなんできないじゃん・・・できないなりにそれっぽくやろうとした結果がこれだよ・・・」


文は最近訓練の時も本気で戦う康太の姿というのを見ていない。正確に言えば魔術師として全力で戦う姿を見ていないのだ。


文の中の康太の戦うイメージは空中を跳躍しながら軽快に槍を扱うという感じである。これも魔術師のそれとは言い難いがまだ絵になっているからよかったのだ。


今の康太の戦い方は何というか一つ一つがえげつないのだ。正直に言って魔術師としての戦い方ではない。とにかく相手が倒せればそれでいいという結果重視の戦い方だ。


魔術師としての矜持も礼儀も全くない。しかも基本的に物理攻撃であるために同じように物理的に鉄球に干渉できる相手でなければ防ぐこともできないだろう。


例えば先にあげた属性の例で言えば康太の鉄球無差別炸裂の攻撃を防ぐことができるのは水、土、氷の三属性くらいのものだ。風の属性でも防ぐことができるかもしれないが高速で飛翔する鉄球を完全に防ぎきるには恐らくかなりの出力を要求されるだろう。


文の場合なら水の魔術で防げるが、今回の相手がどのような属性を使うかによっては苦戦するかそれとも楽勝で勝てるか大きく分かれそうなものだ。


「で?あんたとしては苦手な属性への対策とか考えてるわけ?」


「一応な・・・って言っても完全に不意打ちみたいなもんだけど」


「あんたの対策で正々堂々って文字はないわけ・・・?」


「んなもんあるに決まってるだろ。あるけどやらないだけだ」


正々堂々という言葉もその意味も知っていて康太はそれを使わない。正確には使えるだけの実力がないと言ったほうがいいだろう。


正々堂々と戦えば互いの実力を真っ向からぶつけることになる。康太の場合その実力が正直に言ってお世辞にも強いとは言えない。


だからこそ多少卑怯でも不意打ちに近くても勝ちを選び取る戦いをすることにしているのだ。


その戦い方が間違っているとは言えない。それもまた一つの選択として間違っていないからである。


「まぁいいわ・・・とりあえず一つ一つ属性の対策を言ってみなさい、あんたなりの答えでいいわ。添削してあげるから」


「よし、じゃあ火属性から行くか。基本避けて鉄球をブチ込みまくる。以上」


「・・・それだけ?」


「それだけ、っていうかそれ以外できない。先手必勝だな」


防御魔術を覚えたとはいえその魔術は障壁を顕現する魔術だ。つまり広範囲に炎をまき散らされた場合壁として役に立たないのである。


その為炎の攻撃に対してははっきり言って康太は全く防御手段がないに等しいのだ。その為攻撃されたら避ける以外の選択肢がない。


そして相手が炎の魔術を使ってくれば当然物理的な攻撃は防ぎきれない。炎そのものに物理的な干渉能力でも付与しない限りは康太の鉄球は火を突き破り相手へと向かっていくだろう。


「まぁ現状できる対策としては一番妥当なものなのかもしれないけど・・・あんたこのままじゃ本当に苦労するわよ?なんかもっと万能な魔術を覚えたほうが・・・」


「無属性魔術でそこまで万能なものなんてないっての。それならいっそ装備を増やした方がましなんじゃないかってくらいだ。あんまり殺傷能力が高いのはNGだけどな」


さすがに康太もいろいろ考えてはいるのだが殺傷能力が高すぎるのも考え物なのである。


康太だって殺人は犯したくない。その為ある程度殺傷能力を抑えたものを装備するべきだとわかっているのだがなかなか難しいのだ。


なにせ魔術師を無力化することを考えると必然的に殺傷能力が高いものになってしまうのだ。仕方のないこととはいえ難しいところである。


「装備ねぇ・・・いっそのこと防具でも作る?盾とか鎧とか」


「それも考えたんだけどな・・・動きが遅くなるのはちょっとなぁ・・・今考えてるのは小型の盾くらいか」


康太なりに考えている対策や装備の案を聞きながら文は何度も頷きながら複雑な表情をしていた。


ゲームで培った機転の利かせ方なのかそれともただ単にこういうことを考えるのが好きだったのか、康太の提案は魔術師としては間違ったものや、実用的過ぎて恐ろしくなってくるほどの危険性を秘めているものばかりだった。


誤字報告五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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― 新着の感想 ―
硬い材質の釘を板とかに立てて、数千回ハンマーで蓄積したら多分全員やれるもんな。
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