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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
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視線の先の目的

「・・・で・・・話を戻すけどさ・・・仮に一年に精霊術師がいたとして、何で俺を狙ってるんだ?今まであったこともないんだけど」


「理由は大体想像できるわ。大方先輩たちにそそのかされたってところじゃない?」


「そそのかされたって・・・どういうことだ?俺を倒すように命令したってことか?」


命令とはちょっと違うかもねと文はため息をついている。先程の話をそのまま鵜呑みにするのであればそもそも魔術師と精霊術師は仲が悪い。それこそ近くにいるのも嫌だというレベルで互いに反目しあっているように聞こえた。


命令したという事だとしてもおかしい。そもそも嫌っている相手の命令など絶対に聞きたくないはずだ。内情を話して納得したうえで手伝ってもらったのだとしても嫌っているような相手にわざわざ自分たちの都合を話したりするだろうか?少なくとも康太がその立場だったら嫌いな人間に内情を話すようなことはしないだろう。


「ひょっとしてなんか弱みを握ってるとか?脅しをかけたとかか?」


「そう言う単純な話だったらよかったんだけどね・・・たぶん先輩が提示したのは魔術師としての支援の話よ」


「・・・支援?」


魔術師にそもそも支援などあるのかという表情をした康太に文は本格的に呆れた顔をする。だが康太なら仕方がないなと小さく首を横に振ってから指を一つ立てて見せた。


「いい?魔術師っていうのは魔術協会からいくつもの支援を受けることができるの。その例の一つが各教会に配置されたゲートよ。あぁいった超常的なものを魔術師ならほとんどだれでも利用できるわ」


「あー・・・確かに便利だよなあれ。え?ちょっと待った、ひょっとしてそれって精霊術師は使えないのか・・・?」


「当たり前・・・って言ってもあんたにはわかんないか。あれは魔術協会の所有しているものだからね、魔術師は使えても精霊術師は使えないのよ」


魔術協会に入ることくらいは許可されるらしいが原則何かしらの事情がない限り精霊術師は魔術協会に足を踏み入れようとはしない。


何故なら彼らは魔術師ではないからだ。魔術師ではないものが魔術師の集まりである協会に顔を出すこと自体が半ばおかしいという考えなのだ。


「それ以外にも魔術師が協会から得られる支援はかなりあるわよ?マジックアイテムの通販的なこともやってるし依頼とかに必要なら物資の支給もある程度してくれるし・・・でも精霊術師はそう言う支援を受けられないのよ」


「・・・それってやっぱ精霊術師だからか?」


「まぁざっくばらんに言えばそういう事よ。思い切り差別的な考えかもしれないけどそう言う考え方が協会全域に根付いちゃってるの。こればっかりはしょうがないわ・・・」


しょうがないと言われても康太としては納得できないところもある。自分が多くの支援を受けられるというのは確かにありがたいし嬉しいのだが、自分より技術のある人間がそう言ったものを受けられないというのは間違っているように思えるのだ。


根本的な考えから否定するというのはなかなかできる事ではない。それがそもそもの基盤となってしまっているのだから。


基盤の上に多くの考えや法則を乗せすぎてその基盤を動かすことができなくなってしまっているのである。


「じゃあ先輩たちは今俺を狙ってる?精霊術師にその支援を受けられるようにする代わりに俺を倒せって言ってきたってわけか?」


「実際そんなコネがあるとも思えないからちょっと援助する程度の話かもしれないけどね・・・それでも精霊術師たちにとっては破格の条件のはずよ。まぁあんたを倒せって言われたかどうかはわからないけどね。もしかしたら別の条件かもしれないし」


先輩魔術師たちが一体何を考えているのかはわからない。そもそも一体どのような考えを持って康太を陥れようとするのかもわかっていないのだ。


物理的に倒してどうするのかという話でもある。相手は康太が基本的に邪魔だ。文を自らの派閥にいれたいと考えた時に最初に障害となるのは康太の存在だ。


となれば康太を排除したいというのは当然の考えだろうが仮に排除したところで文がその派閥に入るかも怪しいのである。


「別の条件って?」


「それはわからないけどね・・・一番単純なのはあんたを精霊術師に倒させて私に呆れさせるってことかしら?私が自主的にあんたとの同盟を解消するように仕向けるっていえばわかりやすい?」


「・・・あぁそうか、精霊術師なんかに負けてやんのー!的な流れに持ってこうとしてるってことか」


まぁそう言う事よと文は呆れ半分でため息をつく。そもそも康太の実力など最初から把握している文からすればそんな事自体が無意味なのだ。


実際康太は普通にやれば精霊術師にだって惨敗するだろう。だが文はそれを理解したうえで康太と同盟を組んでいるのだ。


実力だけではない何かが康太にはある。魔術師として日の浅い康太が自分と同じ場所に立てているのは何かしらの理由がある。


その理由ははっきりしない。師匠が小百合であるからというのもあるかもしれないがそれだけではないような気がするのだ。


何より文は康太のことが信頼できると思ったから同盟を組んでいるのだ。実力云々よりもむしろそっちの方が理由としては大きい。


例え実力があったとしても人間として信用できないような相手では文は組みたいとは思わないのだ。


ある意味康太は同盟を組むのはいい相手なのかもしれない。なにせほぼ常に主導権を握っている状態でなおかつ信頼できる相手なのだから。


「ていうか本当にそんな理由なのかな・・・?もしかして俺がまた気づかないうちにケンカ売ってたとかそういうの無いかな?」


「あり得なくはないけど・・・タイミング的に考えにくいわね。少なくともこのタイミングで付け回すってことはまず間違いなく先輩がらみだと思っていいわ。あんたが個人的に恨みを買ったとかいうのなら話は別だけど」


身に覚えはないんだけどなぁと康太は腕を組んで悩みだす。


康太としては本当に喧嘩を売ったようなつもりはない。そもそも所構わず喧嘩を吹っ掛ける程に康太は好戦的な性格をしていない。


だが問題は康太が魔術師としてかなりの常識しらずだという点だ。どんなに康太が好戦的ではなくても、まったく悪意がなかったとしても知らず知らずのうちに相手に不快感を与えていたという可能性は否定しきれない。


それが奇跡的に先輩たちが何か企んでいる時と重なっただけという可能性だって無きにしも非ずなのだ。


本人に悪意がないだけに余計性質が悪いのは言うまでもない。


「ていうか、あんたの場合は本当に魔術師としての常識を学んだ方がいいわよ?これからいろんな魔術師に会う事も増えるだろうしさ・・・小百合さんはおいといて、真理さんとかなら教えてくれるでしょ?」


「まぁ師匠はおいといて確かに姉さんなら教えてくれるだろうけど・・・姉さんも結構忙しいしさ・・・ただでさえ暗示系の世話になってるしこれ以上負担をかけるのもどうかと・・・」


康太は暗示の魔術をまだ完璧に扱えないために魔術師として行動する際は真理の世話になっているのだ。


毎度そんな面倒をかけているのにさらに魔術師として常識的なことを教えてくださいと正面から願い出ることができる程康太は厚顔無恥ではない。


そもそも何かを教わるのは本来師匠に願い出るのが普通なのだが、康太の場合は師匠が小百合という時点である意味お察しである。


「・・・はぁ・・・わかったわ・・・ある程度でよければ教えてあげる。でもある程度よ?私だってまだ学生なんだからそこまで魔術師界隈に詳しいってわけでもないんだからね?」


「よろしくお願いします文さん、マジ有難いっす」


「はいはい・・・まぁその話はおいといて、今はその精霊術師・・・って言っても見てるのが精霊術師かどうかもまだ確定してないけど・・・その視線の相手を何とかしましょ。私が休み時間にあんたの所に行けばわかるかもしれないわね・・・」


常識云々の話はさておいて今は康太に付きまとっている視線の正体を早く突き止めることを優先したほうが早いかもしれない。


なにせ相手が敵なのか味方なのかさえも分かっていないのだ。そもそも術師なのかどうかも定かではない。


「ていうか私達それが魔術関連だって決めつけてるけどさ、あんたがただ単に誰かに付きまとわれてるとかそう言う可能性はないの?一目ぼれとか」


「あいつらにもその話したら即否定された。ねーよだってさ」


「・・・うん・・・まぁそんな都合のいい話もないわよね・・・ごめん」


「謝んなよ・・・なんかみじめな気分になるだろ・・・!」


男として都合のいい恋愛話というのはつい妄想してしまうものだ。そして女子でもそう言ったことを考えるのはあることらしい。


もっとも文の場合、合理的ではなかった場合はすぐにその考えを否定する性質らしいが。


「実際さ、魔術とかじゃなくて女子に見られてるとかそう言うの無いわけ?あんた普通に見た目まともだしありそうなもんだけど」


「それって褒めてるのかそれとも貶してるのか?」


「一応褒めてるつもりよ。実際ないの?」


康太は褒められていると知って若干嬉しそうにしながら自分の記憶の中を呼び起こしていく。


実際部活の中に女子は確かに存在する。クラスにだって一定以上女子はいるし普通に日常的に話したりもする。


だがだからと言って視線を向けられているという事は非常に少ないのだ。というかそんなに見られていても気づかないと言ったほうが正しい。


「そう言うのはないな・・・先輩でもクラスメートでも普通に話すけど・・・そこまで見られるとか追いかけられるとかいうのは・・・」


「まぁ気付かれるような露骨なことはしてないでしょうけど・・・前にあった・・・えっと確か・・・青山君と島村君だっけ?あの二人から見てもそう言うのはないの?」


「あいつらが俺のことをつぶさに観察してると思うか?仮に見ててそう言うのがあったらあいつらなら邪魔するぞたぶん」


あんたの交友関係どうなってんのよと文は呆れているが実際男子の友情なんてそんなものだ。


本当に真剣な悩みなどを持っている相手に対してはそれ相応の対応をするが、そう言う重い悩みでない限り基本的に冗談交じりに事態を掻きまわしていく。もちろん相手だけではなく康太だってそうするだろう。


「まぁなんにせよ一般人の可能性は限りなくゼロに近いわけね。それなら後で休み時間にあんたの周りを観察してみるわ。何か気付いたら合図送ってね」


「・・・合図って・・・どんな?」


「どんなでもいいわよ。少なくとも私はわかるけど相手にはわからないような合図にしなさいね」


「なかなかハードル高いな・・・くぐっていいか?」


「そこは飛び越えなさいよ陸上部」


物理的なハードルは超えられてもあらかじめあげられた条件の高さはどうしようもない。康太は頭を捻りながら合図を考えていた。


土曜日なので二回分投稿


この週末はちょっと予定があって予約投稿します。反応が遅れるかもしれませんがどうかご容赦ください。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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