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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二話「魔術師としての第一歩」

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初めての魔術

八篠康太はつい一週間ほど前までただの中学生だった。そうただの中学生『だった』のだ。


過去形であるという事からわかる通り、彼はすでにただの中学生ではなくなってしまっている。


高校受験の推薦がもらえたことで同級生達よりも早めに受験が終わり、残った中学時代をのんびり、なおかつ有意義に過ごすつもりでいた。


遊んだりだらけたり無駄に時間を費やしたりとやりたいことは山ほどあると言っても過言ではなかった。


自分の好きなことをしてやりたいことをして行きたいところに行ってと、気ままな中学生生活を過ごすつもりでいたのだ。


だが今彼はそんな余裕はない状況にあった。


彼は幸か不幸か、受験が終わりを告げたその日の夜に日常とはかけ離れた超常と接触してしまった。


魔術


物語の中でしか使われることがないような不可思議かつ不明瞭なその存在に接触することで彼は選択を迫られた。


死ぬか、一生を病床の上で過ごすか、魔術師になるか。


この三つの選択肢を与えられたとき、彼はかなり混乱していた。頭の回転はそこまで悪い方ではなかったために状況を把握することはかろうじてではあるが可能だった。


そして彼は選択した、良くも悪くも選び取ってしまった。魔術師になることを。

そして康太は魔術師であり自らを殺そうとした藤堂小百合に弟子入りし、魔術師になるための修業を始めた。


幸いにして魔術師としての素養は何とか持ち合わせていたこともあり、今のところ順調に修業は進んでいると思われる。


まず修得したのは魔力の生成だ。マナを体の中に取り込み、魔力へと変換して体内に貯蓄する。そして貯蔵庫が一杯になったら魔力を放出する。


単純ではあるがもっとも重要なこの行程を康太は一週間行い続けた。


そして今、康太はその合否を見極められるための試験を行っている。これに合格すれば次の段階へと進むことができ、合格しなければまた魔力を練るだけの一週間が始まるという事だった。


魔力の補給に時間がかかりすぎる康太にとってはまさに時間を有意義に使えるか否かの分かれ目となる一瞬と言えるだろう。


そしてそんな彼が今何をしているかというと


「あ、師匠!そのアイテム俺がとるつもりだったのに!」


「バカを言うな、こういうものは早い者勝ちだ。それがいやなら別のラインに入れ」


康太と小百合はゲームをやっていた。一般的な家庭用のレーシングゲームだ。特に魔術的な細工がしてあるとかそう言う事もない。本当にただのゲームだ。


ネット通信などはせずに二人対戦で十回勝負。他のCPUもいる状態で小百合に引き分けるか勝ち越せば合格という条件である。


ただし両者ともに魔力の操作を行い続けることが条件に加わっている。


常に魔力を蓄え、満タンになったらすべて放出。そしてまた補充を始める。これを延々と行いながらさらにゲームで勝負する。これは実はかなり難易度が高い。


魔力を操作するにあたって明確なイメージを形作ることでそれを行っていた康太にとっては難関である。目を瞑り、その状況を頭の中でイメージすることで操作することをしているようではこの試験は絶対に合格できない。


なにせ目を開けなければレースゲームなど勝てるはずがない。仮にコースを覚えていてもプレイヤーにコンピューターまで入り混じるような状況で小百合に勝たなければいけないのだ。


つまりこの試験に求められることは、いかに魔力操作を当たり前に行うことができるかというものである。


呼吸をするのと同じように、ほぼ無意識でも行うことができるようにならなければこの試験はほぼ合格できない。小百合はそれほどの魔力操作能力を康太に求めているのだ。


康太ならそれができるだろうと希望的観測に基づいてこの条件を提示したのではなく、これはただ単に彼女の主義だった。


魔力操作も当たり前にできないものが魔術など扱えるはずがない。そしてそれは彼女自身が師匠から教えられていたことでもある。


「よっしゃここでショートカット!」


「ちっ!当たってくれよ甲羅」


白熱しているゲームの中でも、康太は魔力の操作を行い続けている。小百合の思惑がどうであろうとこの結果は少々予想外なものだった。


魔力の操作は一週間そこらでここまで体得できるものではない。少なくとも小百合はこの状態になるまで一か月近くかかった。


時々無口になったり操作が乱れたりすることはあれど、ほとんど普通の状態に近い程のゲームの成績を見せている。


案外才能があるのかと思いながらゲームは終了していく。


結果は六対四で康太の勝利。やり込みの違いをここで見せた結果となった。


「よっしゃ!このゲームならそうそう負けませんよ」


「ちっ!別のゲームにすればよかった・・・スポーツにすればまだ違っただろうか・・・」


そう言いながら小百合はゲームを片付けながら康太の方を向く。康太は確かに魔力の操作を行い続けていた。それは小百合自身が魔力やマナの流れを感じることで確認済みだ。


だがここまで早く魔力操作を修得するとは思っていなかったために少々驚いていた。


そう言う才能があるのかと小百合は康太の方をまじまじと眺めていると、康太は不思議そうに首をかしげていた。


「試験は合格だ・・・それにしても案外早く修得したな・・・こちらとしても予想外だ」


小百合に褒められたことで康太は嬉しいのか恥ずかしいのか、少し照れながら頬を掻いている。実際これ程の早さで魔力の操作を覚えるとは思わなかったために小百合は素直に康太をほめていた。


「だがどうやってこれほど早く?もう少し時間がかかるかと思ったが」


「えと・・・ほとんど延々と魔力を補充してるばっかりだったので・・・慣れたっていうか・・・なんて言うか・・・」


康太の言葉に小百合はあぁなるほどと納得してしまう。


康太の魔術師としての素質はかなりアンバランスだ。魔力の元となるマナを補給するための供給口はかなり弱く小さい。それに比べ魔力を溜めておく貯蔵庫や、魔力を体外に出すための放出口はかなり大きい。


その為に延々と魔力を補充する反面、魔力の放出は数秒から数十秒ほどで済むのだろう。


そのアンバランスさが功を奏し、魔力の補充という行為を長いこと続けていたせいか、補充に関してはほとんど呼吸と同じ程度に行うことができるようになっているようだった。


だがその反面、魔力の放出に関してはまだまだムラがあるらしい。それは先程のゲームでもわかるほどだ。


時々急に無口になったり操作が乱れたりと妙な間があったのを覚えている、恐らくその数秒の間に体の中の魔力を放出していたのだろう。


「魔力の放出に関してはまだお粗末だが・・・装填に関してだけは十分に鍛錬できたようだな。まぁ及第点といったところか」


「それじゃあ、次の段階ですか?」


「あぁ、とうとうお前に魔術を教える時が来たようだ・・・まさか一ヶ月も経たずに教えることになるとは本当に予想外だったが。」


小百合としては高校に入学するまでの間に魔術を教えることができればいいくらいの考えだったのだろう。康太の特異性に加えもともとの才能もあるのだろうか、修得の早さは目を見張るものがある。多少プランの変更も視野に入れ始めていた。


一方そんな考えがあるとも知らず、康太はようやく魔術を修得できるという事でかなり興奮していた。


なにせ小百合に弟子入りして一週間以上経っているにもかかわらず、自分自身では魔術というものに触れてこなかったのだ。


ようやく魔術に関わることができるということに喜び、同時に少しだけ不安にも思っていた。


「さて・・・ではお前にこれから魔術を教えていくわけだが・・・今回教えるのは『分解』と呼ばれる魔術だ」


分解


その言葉を康太は正座した状態で聞いていた。初めて魔術を教わるという事で多少なりとも姿勢をただした方がいいと思ったのだ。


小百合は奥に何かをとりに行き、その手に一つのプラモを持ってくる。


それはかなり古そうな初代量産型機だった。だいぶ前に発売されたものなのだろう、関節部などの可動範囲が狭く、現在のものに比べると装飾などもだいぶ雑なものに見える。


「これは?」


「これは私が修業時代中に使ったものだ・・・今回教える魔術を見せてやる。」


そう言って小百合は康太にプラモを手渡すと、軽く調べるように指示した。


プラモは一つ一つのパーツが接着剤で固定されているのがわかる。関節部分のグリップなどはさすがに固定されていないようだがちょっとやそっとでは外れないという事は理解できた。


康太がプラモを調べ終わりちゃぶ台の上に置くと、小百合は目を細めてプラモの方に手のひらを向ける。


そして次の瞬間、プラモがまるで崩れ落ちるかのようにバラバラになってしまった。


それぞれのパーツ一つ一つが分離し、接着剤などでしっかりと固定してあった部分も完全に外れてしまっている。


先程までの完成品の姿はどこへやら、まるで作る前の状態と同じになってしまったプラモを前に康太は開いた口がふさがらなかった。


「これが分解という魔術だ。文字通り人工的に作られたもの、組み立てられたものを分解する。私が最初に覚えた魔術でもある。」


「へぇ・・・なんかすごいですね・・・でもバラバラになっちゃいましたよ?」


「そこが面倒でな・・・バラバラにしたものを戻すにはまた組み立てなければならない・・・元に戻す魔術もあるんだが・・・生憎私は破壊系の魔術専門でな・・・」


さらっと物騒な発言が聞こえたが、とりあえず小百合がなぜ自分にプラモデルを買ってこさせたのかは理解した。要するにこの魔術の的にするためなのだ。


一度バラバラにしてしまったものをいちいち元に戻すのは面倒くさい上に時間がかかる。だからこそもう一つ自分専用のプラモを買ってこさせたのだ。


「この魔術って・・・難易度どれくらいなんですか?」


「そう高くない。術式などを理解してしまえば扱いやすくなるだろう。さらに言えば対象の構造を知っていれば必要な魔力の量も多少ではあるが軽減できる」


初心者の場合は必須と言っていいだろうなと小百合がつけたすのを聞いて康太は近くに置いてあった自分のプラモを持ってくる。


このプラモは自分で作ったものだ、その構造も大まかではあるが頭の中に入っている。きちんと意味があったのだなと康太は小さくうなずいてプラモを眺めていた。


「接着剤を使わせなかったのにも何か意味が?」


「発動を容易にするため・・・いやその結果を見やすくするためだ。接着剤などが使われている場合その分強く術を発動する必要がある。初心者には難易度が少々高い」


まずは魔術の発動を目的とすると言いながら小百合は自分がバラバラにしたプラモデルの修復作業に入っていた。


便利なんだか不便なんだかよくわからない魔術である。だが自分が習う初めての魔術だ。康太は意気込みながら集中を高めはじめた。


だがここであることに気付く。今まで康太は魔力の補充などの訓練をし、その間に魔術の基本的な知識は身に着けたが、それはあくまで概要でしかなかったのだ。


魔術の発動の仕方だとかは理論的には理解したが、それを実践できるかは疑問である。


魔術の発動は大まかに分けて三段階に分かれる。


まず第一に発動する魔術の術式を用意する。次にその術式に使用するだけの魔力を用意する。そして魔力を放出する際にその術式を魔力に混ぜ込む。たったそれだけだ。


だがこれはあくまで大まかな説明だ、実際にはもっと細かい理論などがあったようなのだが小百合はそのあたりの説明をほとんど省いていた。


三つめの術式を魔力に混ぜ込むというのも非常にわかりにくい説明だった。何より理論的ではない上にそれを操るのに必要なのが感覚だというのだから手におえない。


そう、術式を知っていても魔力を流すことができても、康太はまだ魔術の発動の仕方を知らないのだ。


「あの・・・魔術ってどうやって使えばいいんですか?」


「そうあわてるな・・・魔術は感覚で使うものだ、口で説明しても理解はできん・・・今からお前にその感覚を教え込む」


そう言って小百合は途中まで組み上げた量産型のプラモを康太の前において立ち上がり、康太の後ろに移動するとその背中に手を当てる。


一体何をするつもりなのかと内心びくついていたが、小百合が集中しているのを見て余計なことを言わない方がいいなと思い静かにしていることにした。


何かやろうとしているのはわかる、だが一体何をやろうとしているのか。


康太がおとなしくしていると体の中に妙な感覚が広がっていく。


体の中に何かが入り込んでいるような感覚がある。それは今まで感じていた熱い液体や自分の体温と同じ気体でもない。冷たい固体のような感覚だった。


まるで小さな氷の結晶が体内に侵入し、動き回っているような感覚である。


「目を閉じろ・・・始めるぞ」


小百合の言葉に逆らわずに目を閉じると、康太は自分の中の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じていた。


自分の意志ではない何かが自分の体の中を動かしている、そんな感じだ。

だが決して不快ではない。むしろこのまま身を任せておいた方が安全だという確信が康太にはあった。


先程体内に入り込んできた冷たい固体が、徐々に塊を作りつつある。だがそれは不恰好で、まるで何かの形を作ろうとしているかのようだった。


文字、いや一種の紋様の様にも見えるそれを感じ取った瞬間、康太の中に一つの光景が思い浮かぶ。


それは車輪だ。現代におけるタイヤなどの原形ともいわれる車輪。それも今使われるようなタイヤなどではなく、もっとはるか昔に使われていた木で作られたもの。


円形の枠組みに木の柱を通し、馬車などを動かす起点ともなったその車輪に自分が手を伸ばすようなイメージが浮かんだあと、自分の体内にある気体の感覚が、自分の中の魔力が急に動いているのを感じた。


かき回されるというより、どこかに穴が開いてそこから抜け出していくようなそんな感覚だ。一つの方向に向けて一斉に動いているのが感じられた。


「・・・目を開けろ」


体の中にあったはずの冷たい固体と、魔力のざわめきが無くなった瞬間、背後の小百合からそう声を掛けられる。


ゆっくりと目を開けるとそこには先程まで途中まで組み上げられていたはずのプラモデルが再びパーツ一つ一つになるまで分解されてしまっていた。


「・・・えと・・・これってどういう・・・?」


「お前の体を媒介にして魔術を使用した・・・まぁちょっとした応用技みたいなものだ。今の感覚、分かったか?」


「・・・今のが魔術を使う感覚ってことですか・・・?」


そう言う事だと告げた後で小百合は再びプラモデルを組み立てる作業に戻っていた。


唐突に訪れたあの感覚とあの光景。一体なんだったのだろうかと思えるほどのものだった。


だが康太はその感覚にある種の確信を持っていた。


熱い液体はマナ、自分の体温と同じ気体は魔力、そして先ほどの冷たい固体は術式だったのではないかと。


自分の感覚で術式を知覚した康太はすぐに目をつむって先程の感覚を呼び起こしていく。


術式、それをくみ上げるために必要な感覚のキーワードは『冷たい固体』

氷の結晶のように小さなものをくみ上げていって術式を作り上げていく。その作業が必要だった。


まずは氷の結晶を頭の中で作り出していく作業から。


小さく小さく、細かく細かく、周囲の温度に晒されて解けないようなイメージが必要だ。


そう言う意味では氷よりも鉄や石のようなイメージを持っていた方がいいかもしれない。


体の中にある魔力の中に異物があるのが感じられ始めた。


冷たい、それでいて硬い結晶のようなものだ。


小百合が作り出したと思われるそれとは違い少し無骨だ。小百合が作り出していたのは氷の結晶のような美しい形だったように感じられたが、康太が作り出したそれは石の欠片のような不恰好なものである。


だがそれでもイメージと感覚はできた。恐らく術式の元となるものは作り出せたのだ。


そして先ほど魔術が発動した瞬間にその結晶によって描かれた形をイメージしていく。


文字のような文様のような、普段一切見たことのないその形を思い浮かべて型を作る。


そしてそこに康太が作り出した欠片を少しずつ入れていく。


紋様に近い形に結晶を詰め込むと、康太はゆっくり深呼吸して見せた。


手を伸ばし、自分のプラモに触れ先程の魔力のざわめきを再現していく。


目を見開く瞬間、体の中からそれらが無くなる感覚があった。



康太が目を開けると、そこには変わらずにちゃぶ台の上で佇むプラモの姿があった。


小百合が使ったような分解の魔術は発動しなかった。それどころか魔術を発動できたのかさえ定かではない。


だが明確にわかる、自分は初めての魔術を失敗したのだと。


しかし、その程度の失敗で諦める康太ではない。小百合も言っていた、最初からできるはずがないと。失敗して当たり前なのだと。


ならばできるまで続けるまでである。


まず自分の中で固めたイメージの中で何が小百合と違っていたのかを思い返す。一番思い浮かぶのは作り出した術式だ。


小百合のそれは氷の結晶のように見えた。だが康太のそれは小石のそれに近かった。


術式と思われる紋様を描く際に、無駄の多い小石を使う事で歪みが発生したと考えるのが自然だ。


なら体の中で作り出す術式の欠片をもっと洗練していかなければならない。


魔術を操るのは感覚だと言っていた。つまり感覚さえ覚えてしまえば問題なく魔術は使えるという事である。


既に康太は魔力の供給などに関しての感覚はマスターした。放出に関してはやや不安が残るが集中すれば問題なく行える。


あと気を付けるのは術式のくみ上げとその放出の時の感覚だ。


あの時のざわめきの感覚。体内のどこかに穴が開いたかのようだった。イメージとしては結晶が体から抜け出す際に一緒に魔力が流れていったというのが正しいだろうか。


康太は徹底的にイメージを固めていく作業を続けた。


だがこの日、結局一度として正しく魔術を使うことはできず、目の前にあるプラモは一度として分解されることはなかった。


「あー・・・何でうまくできないんだ・・・」


ちゃぶ台に項垂れる康太を見て小百合は苦笑してしまっていた。自分の中でも何か思うところがあるのだろうか、再び完成させた量産型のプラモを立たせながら小さく息をついている。


「魔術を学ぶものが最初にぶつかる壁が魔力の生成、そして次にぶつかる壁が魔術の発動と言われている。お前はしっかりとその壁にぶつかっているだけのことだ」


「師匠からなんかアドバイスは無いんですか?これだけうまくいかないとなんか間違ってるような気がしてくるんですけど・・・」


康太の言葉に師匠として何か助言をしてやろうと思ったのか、小百合は少し悩んだ後康太の頭に手を触れる。


「さっきお前に触れて魔術を発動した時、どんな感覚があった?あの時私はお前の体を使って魔術を発動した。つまり同じことをすればお前は魔術を発動できるという事だ。異物感があっただろう?」


「・・・はい・・・なんかこう・・・冷たい結晶みたいなものが体の中に入ってきて、組みあがっていく感じでした」


その表現に小百合は興味深そうにしていた。


「なるほど、お前にはそう感じられたのか。魔術の感覚というのは似ているようで人によって全く違う。お前はお前の感覚を身に着けるべきだ。その感覚を忘れずに再現すれば魔術は使えるようになるだろうさ」


小百合の激励とも思える言葉を聞きながら康太は項垂れてしまう。どうにもうまくいかないのだ。結晶を作るという段階からしてうまくいかない。


氷の結晶を作り出したいのになぜかできるのは細かい小石ばかりだ。少しずつ洗練していって鋭くしているものの小百合が使って見せたそれとは全く別物である。


悩んでいる中、康太はあの光景を思い出していた。


「そう言えば、イメージの中で車輪が思い浮かんだんですけど、あれって何ですか?」


「車輪?なんだそれは?」


「なんか馬車とか引いてそうな感じの木でできた車輪です・・・なんかその結晶が組みあがった時に浮かんできて・・・」


康太の話に小百合は眉をひそめて首をかしげてしまう。小百合も心当たりがないのか意味が分からないといった表情をしていた。


あの時康太が見た光景。確かにあれは車輪だった。そしてそれに手を伸ばしている自分の手がはっきりと見えていた。


あの光景に何か意味があるのだろうかと、康太は疑問だった。


「お前がそれを見たという事は何かしら意味があるのだろう。お前の魔術発動に対するイメージなのかはわからないが、見えたからには何かある。イメージを頭から離さないようにしっかり覚えておけ」


反芻することで人間は学習するからなと、小百合は再び完成したプラモを奥の方へと仕舞いに行った。


反芻すること。頭の中で氷の結晶を思い浮かべていくのだが、どうにもうまくいかないのだ。


あの車輪の光景を思い浮かべ、何か参考になることがあるのだろうか。


とにかく反芻する、魔術を学ぶ中でやるべきことはすでに小百合が教えてくれている。あとは康太がどれだけそれをものにできるかという事なのだ。


「そう言えば・・・魔術ってこういう方法でしか修得できないんですか?なんか不便な気がするんですけど・・・」


「・・・ん?いやそうでもないぞ。正しい方法で残された魔術・・・まぁ一種の魔導書などだな、そう言うものから学ぶこともできる。ある程度魔術師として成長し感受性が高まれば自然とできるようになる。お前にはまだ無理だろうがいつかできるようになるだろう」


魔導書


つまりは人から教わるのではなく過去その魔術を身に付けた、あるいは作り出した人が残した書物から魔術を学ぶという事だ。


そんなことが本当にできるのだろうかと康太は半信半疑だったが、とりあえず魔術の発動さえ満足にできない康太が気にするような事ではないだろう。


今は徹底的にその感覚を思い浮かべ実践していく必要がありそうだった。












それから数日間、康太は全く成果も挙げられない日々が続いた。なんというか時間を無駄にしているような感覚さえある。


小百合に何度も魔術を発動してもらってその感覚を記憶していくのだが、その度にあの車輪の光景が脳裏に浮かぶのだ。


何度も何度も繰り返しやっていくうちに、ある変化が起こっていた。


そして魔術の訓練が始まってから五日目、康太が魔術の発動の訓練を行っているとプラモデルの片腕が外れているのが見て取れた。


康太はプラモデルには触れていない。なのにプラモの腕が外れているというのはどういうことか。


康太は反射的に小百合の方を見ると、彼女も同じようにプラモの方を見ていた。そしてゆっくりと康太の方に目を向ける。


「・・・できました・・・?」


「・・・随分と地味な発動だが・・・確認した」


小百合の言葉に康太はガッツポーズしてしまった。全くと言っていいほど自覚のない発動だったが、それでも十分だった。


初めて自分で魔術を発動した。この時自分が魔術という超常の力を発動したのだと意識すると喜びを抑えられなかった。


「それにしても・・・随分と無駄の多い発動をしたんだな・・・お前の魔力なら一回でバラバラにできても不思議はないはずだが・・・」


「え?そうなんですか?」


自分の中ではかなり頑張った方なのだが、小百合からするとあまり褒められたものではないのか眉間にしわを寄せて片腕だけとれたプラモを手に取って観察している。


無駄が多いというのはどういう事だろうかと康太が不思議がっていると、小百合は小さく息をついた。


「術式というのはある物事を行うための方式でしかない。その方式が不完全だったり無駄が多ければその分魔力が必要だし、本来の威力が発揮されなかったりする。まぁ効率が悪いという事だな」


要するに術式が不完全であるが故に、康太はこの魔術の本当の威力を発揮できなかったらしい。


確かにまだ小百合が使った魔術のそれには比べようもないほどに地味な発動な上にその範囲も効果も小さすぎる。


これが同じ魔術だと言っても信じられないほどだ。


「だが発動できたことに変わりはない。この感覚を忘れるな。そして最適な術式に磨きをかけていけ。百回中百回発動できるようになれば合格だ」


当たり前のことを当たり前にできるようになること。恐らくはそれが小百合の基本方針なのだろう。


自分のできることを当たり前にできるようになるまで次には進まない。わかりやすい上に単純だが康太にはありがたかった。


まだこの魔術は完成していない。康太は不完全な状態で魔術を発動させたに等しいのだ。


いうなれば掛け算を行わずに延々と足し算をして答えを導き出したようなものである。効率が悪い上に面倒だ。


魔力を使う効率が変わればそれだけ結果も変わる。今こうして目の前にある結果は偏に術の練度の違いという事だろう。


ならば康太が今やるべきことはこの魔術を完璧に扱えるようになることである。


目標は一つ、小百合が行っていたようにパーツごとにバラバラにするくらいの威力を持った魔術を発動すること。


実感はないが、今自分は魔術を確かに発動したのだ。その感覚を忘れる前にもう一度行う必要がある。


康太は片腕が取れたプラモをすぐに元の状態に戻すとまた集中を始めた。


少しでも感覚が残っているうちに再び魔術を発動するために。そして少しでも完成度を高めるために。


康太がそうしている中、小百合は内心驚いていた。


以前言ったとおり、魔術師においてはいくつか壁が存在する。


一つは魔力を生成し操作すること。一つは魔術を発動すること。


難易度が低いとはいえこれほど早く魔術を発動できるようになるとは小百合も思っていなかったのである。


最悪一ヶ月くらいかけるつもりで魔術を教え込むつもりだった。数週間かけて魔術の発動にこぎつければいい程度に思っていた。


だがまさか一週間もかからずに魔術を発動するとは思っていなかったのだ。

これは才能というものだろうか。素質自体はあまりないが、恐らく康太には魔術師になる才能がある。


魔術を扱うものとしての才能が。


それは恐らく本人も自覚していないだろう、だが小百合はその才能を見極めようとしていた。


自分と比べるのは少し意味合いが異なるが、少なくとも自分の時よりずっと早い。恐らく康太は自らの感覚を操るという事が得意な部類なのだろう。


これは運ではなく、康太自身の才能だ。


その才能がどのような意味を持っているのかはわからない。だからこそ悔やまれた。せめてもう少し供給口の性能が高ければと。


康太の魔術師としての素質は決して高いとは言えない。それが本当に悔やまれた。だがだからこそ小百合は意気込んでいた。


こいつを最強の魔術師にしてやると。


魔術師としての道を選ぶかどうかは康太次第だが、それでも康太が魔術師になろうと望むなら小百合は自らの技術の全てを叩き込むつもりでいた。


それでこそ私の弟子にふさわしい。


あの時自分が言った言葉を反芻しながら小百合は薄く笑っていた。目の前にいる不出来な弟子を見ながら、次のプランを考えなければならないなと頭の中でいろいろと考えを巡らせていた。


誤字報告を20件分受けたので五回分投稿


この複数投稿の感じがなんともいつもどおりで泣けてくる


これからもお楽しみいただければ幸いです

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