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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
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視線とその先にいる

何かを企んでいると言われても基本的に学校生活が変わるはずもなく、康太は授業も部活も注意しながらもほぼいつも通りに過ごしていた。


正直なところ誰かが何かを狙っているということがわかったところで康太にはどうしようもないのだ。


日々魔術の修業をし、部活に精を出すくらいしかできることはない。時折勉強をすることも忘れずにほぼ普通の魔術師高校生としての日常を満喫していた。


あえて変わったところを挙げるとするならば、妙に視線を感じるようになったという事だろうか。


もしかしたら誰かが何かを仕掛けてくるかもしれないという認識からくる勘違いかも知れないが、どうも誰かに見られているような気がしてならないのだ。


自意識過剰と言ってしまえばそこまでの話だが、特に休み時間などに見られていることが多い気がする。


これが女子からの視線なら素直に喜ぶところなのだが事情が事情なだけに素直に喜べないところがあるのが悲しいところだ。


「どうした八篠?さっきから妙にそわそわしてるけど」


「あ?あぁ・・・なんかちょっと落ち着かなくてな・・・誰かに見られてるというか・・・」


「ハハハ、気のせいじゃないの?誰もこっち見てないよ?」


今は昼食時、康太は青山と島村と席を囲んで昼食をとっている最中だった。


こういった休み時間には特に康太は強く視線を感じるのだ。どこかで自分を監視でもしているのではないかと思えるほどに。


「もしかしたら女子とかが見てくれてるとかないかな?普段頑張ってる俺を・・・!」


「ないな」


「ないだろうね」


「お前らもうちょっと乗ってくれてもいいんじゃねぇの・・・?」


友人二人に速攻で否定された康太はおかずを箸でつまみながら項垂れてしまうが二人からすれば嘲笑するべき内容だったのは言うまでもない。


「あのな、まだ入学して二カ月しか経ってないのに何でそんなことになるんだよ。別に誰かに積極的にアピールしたわけでもあるまいに」


「いやでもさ・・・わんちゃん一目ぼれとかさ・・・」


「八篠ってそこまで特徴的な顔してたっけ?いたって普通だよ。一目ぼれする要素ないよ」


ここぞとばかりにこき下ろす友人二人に康太は眉間にしわを寄せてしまっていた。なにせ反論できるはずもなくすべて正論ばかりだったからでもある。


返す言葉がないとはまさにこの事。康太としては反論したいというのが本音だったが反論できるだけの材料がない。


実際一番仲のいい女子と言えば文くらいのものだ。それ以外の女子とは普通に話す程度の仲でしかない。


そんな関係で誰かに好かれるなど無理の一言だ。それこそ劇的な何かでもない限り難しい。


「いや・・・!毎日頑張って部活に打ち込んでいるひたむきな姿にドキッとしてくれる女子がいるかもしれない・・・!」


「そうかそうか・・・そんなお前にちょっとした小芝居を見せてやろう・・・見てよ島子~あいつグラウンド延々と走ってるわよ~バカっぽくない?」


「ほんとだ~、何が楽しくて走ってるんだろうねーきゃはは!」


「やめろよ・・・!気持ち悪い上に心が折れるわ・・・!」


友人たちの女性演技など聞きたくも見たくもなかったと思いながらも康太はかなり精神に深い傷を負っていた。


実際その演技をした友人二人もさりげなく傷を負っただろうがそんなことは今はどうでもいい。


これはあくまで陸上をやっている康太たちの認識というより思い込みだが、第三者からすると自分たちの部活は物好きが行うようなものである気がするのだ。


ただ延々と走っていることが多い部活を誰が好んでやるものか。ぶっちゃけると物好きが多いような認識をされているような気がしてならない。


先程の演技のように気持ち悪がられていても不思議はないのだ。


なにせ汗だくで延々と走ったりしているだけなのだから。もっとも実際はもっといろいろな競技をやっているのだが、第三者から見ればそんなことわかりようがないのである。


「まぁまぁ・・・でもぶっちゃけ視線っていうのは気のせいだと思うよ?」


「そうそう、そんなこと気にしてても仕方ないって。もし女子に見られてるなら俺にも紹介してほしいけどな」


「相変わらず貪欲だよな・・・まぁ気持ちはわかるけどさ・・・」


健全な男子高校生として彼女が欲しいという気持ちはよく理解できる。その為康太としても青山の考えを否定するつもりはなかった。


彼女くらい欲しいと思うのが普通の考えなのだ。特に高校生になって一つ大人になった自分たちが次のステップに進むには必須と言ってもいい。


それを作るのはなかなかに困難を極めることになるが。


「でも女子にだったらどれくらい見られてもいいよな!そう言う考えは実際結構いいよな!プラス思考っていうか妄想が広がるっていうか」


「まぁわかるけどね。気になる女の子に目を向けられるとかそう言うの!なかなか夢があるよ。叶うかどうかはさておいて」


「言ってて悲しくなるからやめろよ・・・!泣きたくなってきたわ・・・良いじゃんか見られてるかもって考えたってさ!」


「悪いとは言ってないって」


「そうそう、悪いとは言ってない。ただ残念ではあるよねって話」


男子としてはそう言う事を話すのは別段おかしい話でもないのかもしれないがこうして話しているだけというのは非常に切なくなっている。


実際に見られているか否か、康太はそれすらも理解できていない。









「はぁ?見られてる気がする?」


「そうなんだよ・・・なんか誰かに見られてる気がしてな・・・」


何もないような日々を数日過ごしたある日、康太は昼休みに文を呼び出して相談を持ち掛けていた。


一日二日ならまだ自分の気のせいであるというのはわかるのだがどうもこの数日間ずっと見られているような気がしてならないのだ。


しかも絶妙に休み時間の時だけ感じる視線であるとなれば誰かしらが休みの時に自分に意識を向けていると考えていいだろう。


「ふぅん・・・それって気のせいじゃないのね?」


「んん・・・あいつらには自意識過剰って言われたけど・・・さすがにここ数日ずっとだぞ?なんか不気味じゃないか?」


「ちなみにその根拠は?何かあるんでしょ?」


「・・・不意打ち対策の訓練の時の感覚に似てる・・・なんて言うかぞわぞわするっていうか・・・いやな感じがするというか・・・」


康太は普段からして小百合や真理と一緒に戦闘の訓練を行っている。その中にはもちろん不意打ちに対応できるだけの訓練も含まれる。


普段使っている修業場と違って障害物の多い場所に康太が後から入り、先に入って待機、待ち伏せしていた二人が急襲するという内容の訓練だ。


康太は視認できていなくても向こうだけが認識できているような状況は康太はすでに慣れているのだ。


相手がいるということがわかっている状況から徐々に慣れさせて今ではいるかいないかもわからないような状況から訓練を始めている。


そのせいもあって康太は敵意のある、というより攻撃性の高い視線というものを感じ取れるようになっていた。


文にわざわざ話したのはそれを理解しているからでもある。今自分を見ているのは自分を敵として認識している者であると確証はないものの確信しているからである。


「勘とか言わないあたりあんたの方が信憑性はありそうね・・・その視線って今も感じてる?」


「いや、今はないな・・・教室にいる時に良く感じる・・・たぶんこういう人がいないところにいるとばれるかもしれないから見てこないんだろ」


康太と文がいるのはいつも通り密談のための屋上。いつもと同じように文が鍵を開けて中に侵入するのだが当然の様に屋上には誰もいない。


周囲にも人影どころか人の気配もしない。このような状況で視線を感じれば当然近くに誰かいることになる。そうなれば文の索敵に確実に引っかかるということを理解したうえでここを選んだのだが、どうやらそんな露骨な釣りに引っかかるほど相手もバカではなかったようだ。


「なるほどね・・・でも逆に言えば遠視とかそう言う系統の魔術を持っていないことは確定・・・それでいて私たちの校舎に近い・・・あるいは同じ校舎ってことは少なくとも二年生・・・あるいは同学年の可能性もあるわね・・・」


「同学年って・・・一年生に魔術師は俺らしかいないはずだろ?二人しか魔術師はいないって・・・」


「・・・ってあぁそうか・・・あんた知らないのか・・・確かに一年生には私とあんたしか魔術師はいないけどその代わりに精霊術師がいるわよ?」


「・・・は?精霊術師?」


精霊術師。康太も名前だけは聞いたことがある。


魔術師が自らの素質だけで術を行使できる存在に対して精霊術師は精霊の力を借りなければ術を発動することができないタイプの存在なのだ。


その為魔術師に比べると低く見られがちだが普通に術自体は発動できるのだ。

ただしその際発動できる術は自らが引き連れている精霊の属性に依存する形になる。つまり使える術の属性が限定されてしまうのだ。


「それマジかよ・・・何で今まで言ってくれなかったんだよ」


「だっていう必要ないじゃないの。そもそも精霊術師は基本的に魔術師と関わりを持ちたがらないし・・・」


「え?何で?」


「そりゃ見下してくる相手なんかと一緒になんていたくないでしょ?」


文の言葉に康太は思い出す。そう、精霊術師は魔術師から基本的に見下されがちになってしまっているのだ。


理由は至極単純。魔術師とは才能のある人間がなるもの。精霊術師は才能の欠落したものがなるものという認識があるからである。


いや、認識ではなく実際その通りなのだ。三つの才能があるからこそ魔術師になれ、そのいずれかが欠落しているからこそ魔術師になれない。


二つの術師は基本的に単純かつ明確な違いによって隔たりを作っている。そしてその理屈を理解したうえで康太は疑問視していた。


「それがわからないんだよ・・・何で魔術師は精霊術師を見下すんだ?別にいいじゃん精霊とか一緒にいたって」


「精霊と一緒にいることが悪いわけじゃなくて、精霊を連れていないと術を使えない半人前以下の存在って認識があるのよ・・・」


「えー・・・?だって普通の精霊術師の方が俺よりずっと技術は上だろ?半人前よりは上じゃん」


「じゃああんたは半人前以下よりも下ってことね・・・ていうか魔術師になりたてのあんたを比較対象にする時点でどうなのよって話なわけよ」


文としてはそこまで精霊術師に対して嫌悪感も優越感も抱いていないように見えた康太は彼女の顔をじっと見つめる。そしてその視線の意味を理解しているのか文は小さくため息をついてわかったわよと言葉をつづけた。


誤字報告五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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