文の駆け引き
「ひとまず今回の定時連絡会は終了とする。みんな御苦労だった」
その場は解散となるのかと康太と文は僅かに息を吐いたが周囲の魔術師は康太と文の方から視線を動かそうとはしなかった。
「いくわよビー、ここにもう用はないわ」
「・・・あぁ、さっさと帰るか」
その場にいる魔術師たちは他に何か用があるのかその場から動くことはなく康太と文は先にその教室から出ていくことにした。
明らかに自分たちが出るのを待っているかのような雰囲気、アウェーというのはあのような状況を言うのだろう。
「あそこまで言う必要あったのか?明らかに挑発してただろ?」
「よくわかったわね、まぁちょっと露骨にあおったわ」
あれだけ言って分からないわけないだろと康太は小さくため息をつく。別に上級生を敵に回すこと自体は康太は咎めるつもりはない。その気になれば彼女と組んで相手を押さえこむことくらいはするつもりだ。
文が正攻法で、康太が不意打ちで行動すれば大抵の相手は攻略できる。そう考えたのだ。
だが今回なぜわざわざ文があのような全員が集まっている場で挑発をしたのかが気がかりだった。
「で?わざわざ煽ったからには何か意味があるんだろ?何したかったんだよ?」
「んー・・・まぁ端的に言えば今回私達をターゲットにしてるのが誰かっていうのを確認したかったのが一番の理由かしら。それなりに収穫はあったわよ?」
「まぁあれだけ敵視されて収穫なかったらがっかりだわ・・・で?誰が面倒そうだった?」
敵を作るような行為をしていながら得られるものがないのでは挑発した意味がないというものだ。文はそのような無駄なことはしない。
収穫というのは恐らく何かを企んでいる先輩魔術師の事なのだろう。
「今のところ怪しいのは三年の魔術師ともう一人の魔術師が一人ずつね・・・三年は部屋の隅で立ってた方、二年はその近くに座ってた人ね」
「あぁ・・・あの二人か・・・」
康太たちがいた教室は派閥で立ち位置が別れていた。話を進める三年生の魔術師の中でも上に位置している魔術師はほぼ中央に位置し、それの取り巻き、というより同じ派閥に属している魔術師がそのやや後ろに立つか座るかしている。
そしてもう一人の三年生は出入り口を固めるかのように扉の近くに位置し、もう一人の二年生の魔術師がその近くにいる。
大抵がこのような配置であるために康太たちは教室のやや後ろ側に位置していることが多い。
その中で文は出入り口に位置している二人に注目したのだ。
「ちなみにその根拠は?」
「私が煽った時、二年生三人は私に敵意を向けたわ。それに対して三年生二人の反応はそれぞれ違った。進行役の人はちょっと呆れてる感じ、面倒を起こさないでほしいって感じだったかしら。でも出入り口にいた人は違ったのよ。せいぜい言わせとけって感じだった」
「・・・なるほど、出入り口にいた方はちょっと余裕がある感じだったわけだ」
まぁそういうことねと文は教室の方を一瞬振り返る。先程まで自分たちのいた教室で今何が行われているのか、何が話し合われているのかはわからない。
だが自分たちに関わる何かが話し合われているのは確かだ。
「ちなみにどんなことをしようとしてるかとかそう言うのは?」
「そんなのさっきのやり取りでわかったらエスパーよ。私たちは魔術師よ?超能力者じゃないわ」
「どっちも似たようなもんだと思うけどなぁ・・・」
第三者の一般人からすれば超能力者も魔術師も似たようなものだ。どちらも超常的な力を使うという意味では似通っている。
というか康太の中ではほとんど同じようなものだった。超能力者は先天的な、魔術師は後天的な異能の使い手という認識である。
実際超能力者という存在がいるかどうかはさておき、その両方の違いは康太にとってないに等しかった。
「とにかく、あっちの二人の派閥が何かしようとしてるのは間違いないわ。直接的にせよ間接的にせよアクションがあるはずよ、気を付けなさい」
「はいはい・・・狙われるのは間違いなく俺だもんな」
康太と文、どちらを敵に回すかといわれるとどちらも敵に回したくないというのが正直なところだろうがどちらを味方に引き入れたいかと聞かれると答えは決まっている。
文の方を味方にしたい以上攻撃するのであれば康太だ。そうなってくると必然的に何か厄介ごとがあった場合康太が狙われることになる。
どのような攻撃やアクションがかかるのかはまったくもって不明ではあるが現段階でできることはほとんどない。
康太としては日常的に警戒するというのは避けたい。どうせならわかりやすい果たし状でも来ればいいのだがなと康太は眉をひそめていた。
「どんな手使ってくるだろうな?不意打ちとか?」
「まず間違いなく直接手を出してくるようなことはないでしょうね・・・どうなるかは相手次第よ。ただしばれたくないだろうから結構姑息な手に出るかもね」
「姑息ねぇ・・・じゃあ姑息な手を使い返してもいいのか?」
「・・・まぁいいんじゃない?それができるならね」
姑息な手には姑息な手を。はっきり言ってあまり良策とは言えないだろうが目には目をという考えで言うのであればそこまで間違った手ではないだろう。
もっとも康太がそんなことができるのかは微妙なところだが。