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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
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蒸し暑さ

「ていうかそろそろ移動しそうね・・・話はここまでにしましょ。今日の定例会忘れないようにね」


「はいはい、どこで集合する?また師匠の店か?」


「んー・・・一度帰るんだし・・・駅前でいいでしょ。詳しいことは後でメールするわ。忘れ物しないようにしなさいよ?」


「お前は俺のお母さんか・・・わかったわかった、んじゃまたあとでな」


文が人避けの魔術を解除したのを確認すると康太はすぐに陸上部のグループに戻っていった。康太の後姿を確認すると文もテニス部のグループへと駆け足で戻っていく。


魔術師として人目につくわけにはいかない。もちろん校舎の中という事もあって最低限人の目があるわけだがそのあたりは魔術でどうとでもなるのだ。


「あれ?八篠どこにいたんだよ、探したぞ」


「あ?そのあたりで筋トレしてたけど?」


「ホント?全然気づかなかった・・・」


同級生の青山と島村が康太を見つけてやってくる。文の魔術のおかげで本当に康太を見つけることができなかったのだろう。先程までずっといたという事実に二人は不思議そうな顔をしていた。


こういうところで人避けの魔術は有用だ。暗示のそれと違いある一定区画を認識できなくなるのだから。


もちろんそれだけ制約も多いらしいが覚えておいて損はない魔術だろう。今度エアリスの所に行ったときにでも術式を教えてもらおうかなと考えている時、青山が別れていったテニス部グループに目を向けていた。


「あれ?鐘子もいたんだ、まったく見つけられなかったな」


「え?あいついたのか?なんだ声くらいかけてくれりゃいいのに」


「あ、ほんとだ。まぁでも女子のグループといたら話しかけにくいと思うよ?」


さも見つけられなかったかのように振る舞う康太に対して青山と島村の反応は特に変わったところはない。


本当に見つけられなかったという風に思っているのだろう。実際第三者視点からすれば康太と文を見つけることは困難だっただろう。少なくともこの場に魔術師がいなければ外的要因でもない限り見つけるのは不可能に近い。


なにせ魔術的な耐性が全くないのだからそこで何が起こっているのかもどのようなことがあったのかも認識できないのだ。


少し前は自分もこのような反応をしていたのだなと康太はしみじみと自分が魔術師になったのだなと実感する。


「ていうかお前まだあいつのこと狙ってるのか?さすがにもう諦めたほうがいいんじゃねえの?」


「いやいや、まだスタート地点にすら立っていないんだからまだやる価値はあるぜ。少なくともメアドの交換くらいまでは行きたい」


「いい友達レベルまでにはなりたいよね。そのあたりから先に関してはちょっと自信ないけど」


この二人が文をどのような立ち位置で見ているのかはさておき、今のところの目的は連絡先の交換のようだ。


康太はとっくに済ませているが基本的に連絡先を交換しても特にこれと言って話すことなどない。


一応定時連絡やちょっとした雑談程度ならするがあくまでその程度なのだ。浮いた話に発展しようもない。


そもそも彼女は魔術師だ。一般人とそう言う関係になるのは正直想像できない。


「その気概は買うけどな・・・その姿勢がいつまでもつか」


「いやいや、目的達成まであと少しだと踏んでるぜ?この学校の中で鐘子に名前覚えられてる男子って結構少ないし」


「そうだよ、しかも違うクラスなのに。もし来年クラスが一緒になったら可能性は残ってるよ」


「いやあいつ普通に名前くらい覚えてると思うけど・・・」


自分のクラスの男子の名前くらいは覚えているかもしれないがそのあたりは正直に言えばわからないとしか言いようがない。


もしかしたら本当に最低限の名前くらいしか覚えていないかもしれない。以前サッカー部の人間が撃沈された話は聞いているが実際そのような暴挙が他にも行われているとしたら康太が思っている以上に文は鉄壁ということになる。


康太の印象としては文はしっかり者だが少し抜けているところもあるように思えるのだ。比較的話しやすい良い友人だと思っている。


時々強引なところがあるがそれも彼女の良いところだ。理屈とは別のところで彼女に惹かれるのも納得できる。


もし康太が魔術師でなければ、実際に彼女と戦っていなければこの二人と同じ反応をしていたことだろう。


知ってよかったのか悪かったのか、その判断はできないが少なくとも意外な一面を知ることができているという意味ではよかったと判断するほかない。


「あー!ホントに彼女欲し!どっかから可愛い女の子とか落ちてこねえかな」


「さすがにそれはないわ。まぁ憧れるけどな。明らかに無茶苦茶すぎる」


「まぁわかるけどね。曲がり角でぶつかったりだとか」


「ベタだな!でもいいな!ベタに勝るものは無し!その時にパンツとか見えれば最高!」


「あっはっは、ていうかあまり大きな声でそう言う事言わない方がいいよ?思い切り聞かれてるし見られてるし」


青山の声はその場にいたほとんどの人間に聞かれていただろう。バカなことを話しているなという目が周囲から飛んできているのが傍目からでもわかる。


こういうことをしているから彼女ができないのではないかと思えてしまう。非常に残念な友人だなと康太は苦笑していた。












その日の夜、康太は文と待ち合わせて予定通り三鳥高校に向かっていた。


いつもどおり仮面と外套を着けて移動しているのだが、さすがに六月になりそうなこの時期、湿気も高くなっているために外套に仮面をつけるこの姿は非常に蒸れる。


これから夏になるにあたってこの服装を続けなければいけないとなるとかなりつらかった。


「なぁベル・・・魔術師の服に夏服ってないのか?」


「はぁ?また変なこと言い出したわね・・・中には仮面やら外套やら改造してる人もいるけど・・・暑いの?」


「暑い・・・ていうかすごくむあっとする」


まだ五月末という事もあってそこまで湿度も高くないが、それでも気温が上がってきたことで外套の保温効果が最大限に発揮されてしまっているため体温が上がりっぱなしである。


康太は暑そうにしているが文は涼しげな態度をとっている。実際彼女は全く暑く感じていないのかもしれない。


「・・・お前ひょっとして魔術で涼んでる?」


「当たり前じゃない、何のために魔術師やってると思ってんのよ。こういう時に有効活用しなきゃ」


「・・・その納涼を俺にも!ぜひ俺にも!お願いしますベルさん!」


「そんなに必死にならなくても・・・はい」


文が小さく指を振ると康太の外套の中に僅かに涼しい風が入り込んでくる。外套の隙間から内側へと浸透し、まるで徘徊するかのように風がその内部を駆け回っていた。


「おぉう・・・いい・・・!納涼の魔術は覚えておくべきだよなぁ・・・これはマジでありがたい・・・!」


「大げさねぇ・・・あんたって風の属性も適性はあるんだし、最初はこういう魔術から覚えていけばいいんじゃない?」


「あぁ・・・これはマジで覚えたほうがいい・・・夏場は重宝するよこれ」


ただ風を起こしているだけでもこのじめっとした季節はただ風があるだけでもありがたく感じてしまう。


風があるとないとでは大違いなのだ。顔まで仮面で覆っているとなればなおの事である。


「あんたたしか次の魔術覚えてるんでしょ?前覚えたのは・・・なんだっけ?」


「防御の魔術を教えてもらった。実戦でギリギリ使えるレベルだからまだ練度が足りないけどな。肉体強化も合わせてまともに発動できるようにはなったよ」


連休明け、康太は自分の未熟さを実感し魔術の修業に励んだ。その結果二つの魔術をまともに扱えるようになっていた。


一つは不完全だった肉体強化。


まだその出力は高くないしその練度の低さがうかがえるが五月の時までのような不完全な発動ではなくしっかりとした強化が可能になっており体の不調を抱くことも無くなっていた。


そしてもう一つは前々から小百合に教わっていた防御の魔術。障壁魔術なのだがこれがなかなかに曲者である。


まともに発動できるようにはなったものの、まだ反射的な発動はできないためにとっさの防御には使えない。だが防御するという手段が増えた時点で康太にとってはかなりの改善でもあった。


これで康太の覚えている魔術は分解、再現、蓄積、肉体強化、障壁の五つになったことになる。


分解、再現、蓄積の三つはかなり高い練度での発動が可能となりこれらを主力に置いた戦いをすることになる。


肉体強化と障壁はまだ高い練度は望めず、あくまで補助的な使用になるだろう。


「それならそろそろ属性魔術覚えてもいいかもね。今度師匠に伝えておくわ」


「ありがたいよ。今教えてもらってるのはなんていうか・・・ちょっと難易度高くてな・・・苦戦してるよ」


「へぇ・・・難易度的にはどれくらいだって言ってた?十段階評価で」


「えっと・・・たぶん五か六くらいかな?それでも俺にはハードル高いぜ?」


今まで覚えて来た魔術の難易度をそれぞれ十段階評価で表すと分解が一、再現が一以上二未満、蓄積が二、肉体強化が三、障壁が二といったレベルのものなのだ。


今までの中で一番の難易度を誇るだけあって少々特殊な効果を望める魔術なのだが、まだ修得には至っていないのである。


「お前はなんか新しい魔術とか覚えてないのか?もっと派手なやつ」


「派手って・・・まぁ一応私もいくつか新しい魔術の練習はしてるわ。威力はちょっとないかもだけど地味に嫌な魔術よ」


「おぉう・・・またお前との差が開いていく・・・でも俺だってお前と戦ったときに比べて倍以上の魔術を身に着けてるしな!」


「・・・二が五になった程度で何言ってんだか・・・まぁ努力は認めるけどさ・・・」


倍以上になったというと聞こえはいいが、実際は三つしか魔術は増えていないのだ。


それでも十分以上と言えるだろう。なにせ一つの魔術の修得に一ヶ月もかけていない計算になるのだから。


どうやら康太の魔術の修得スピードは常人のそれに比べると比較的早いらしい。もちろん教えられてすぐ覚えられるというものでもなく康太の努力のたまものなのだがそれでも十分早い部類だ。


未完成だったり未熟だったりする部分はどうしてもあるが、それでも扱える魔術が増えているというのは良い傾向である。


「じゃあその調子で暗示とかさっさと覚えなさいね」


「あれは人を対象にするからなぁ・・・ちょっと覚えにくくて・・・」


ただ魔術を発動すればいいのと違い、暗示の魔術は対象が一般人という事もあって練習そのものがやりにくい。その為まだ康太は暗示を確実に使うことができていなかった。


早いところ覚えて兄弟子に楽をさせてやらねばと思うのだが、なかなか難しいものである。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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