表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
六話「水と空の嘶き」
154/1515

休み明け

ゴールデンウィークが終わるというのは日本の中では大きな意味を持つ。特にそれは学生たちにとっては重大なものだった。


五月の連休を終えるとそこから七月に至るまで連休が全くなくなるのである。


五月病というものがあるがこれは新しい生活に慣れた後に来る精神的不安定さからくる疾患だと言われているが、この連休が無くなるというのもまた理由の一つに含まれるのではないかと思われる。


五月の連休を終えた康太たちは連休のない日々を憂鬱そうに過ごしていた。そして梅雨に入ろうとしている時期にはその憂鬱さはさらに厳しいものになる。


雨ばかりの天気というのは気分も憂鬱にさせる。そんな雨の日に康太はため息をついていた。


康太の所属する陸上部は雨の日になると基本的に部活動ができないのだ。その為やることと言えば筋トレくらいのものである。


そしてそれは文の所属するテニス部も同じようだった。


屋内での筋トレとなると必然的に場所も限られる。しかも屋内で活動している部活の邪魔をしないようにしなければいけないために渡り廊下などの校舎内で行う事がほとんどだった。


そんなところで活動していれば必然的に遭遇することになるわけで、康太と文は当然のように顔を合わせていた。


「やっぱそっちも筋トレなのね、いやになるわ・・・」


「仕方ないだろこればっかりは・・・まぁ最近雨が続いてるからな・・・そう思うのも仕方ないけど・・・」


まだ五月末、もうすぐ六月だというのに最近雨が続いている。部活でも授業でも雨が続くことによって得られるメリットなどないに等しい。気分が憂鬱になるくらいでそれ以外の効果などほとんど学生にはなかった。


康太と文は互いの部活に干渉しない位置で筋トレをしながら話をしていた。当然文による人払いの結界魔術を発動済みだ。もし万が一にも話を聞かれることがないように対策はしっかりしてある。


「それより今日会合よ?忘れてないでしょうね?」


「わかってるって、ちゃんと行く。雨だからちょっと面倒だけどな・・・」


会合というのはこの三鳥高校の魔術師同盟の定期報告会のようなものだ。一定期間内に必ず近況を報告し合い互いを牽制し合う。それがこの三鳥高校に所属する魔術師たちの少ないルールの一つだった。


「なんか最近先輩たちの動きが妙だし・・・そろそろ何らかのアクション仕掛けてきてもおかしくないんだけどね・・・」


「そんなに心配することか?わざわざ面倒を起こすようなことしないだろ・・・少なくとも俺ならしないな」


それはあんたの都合でしょと文はため息をつく。


確かにゴールデンウィークに旅行に行った後から先輩魔術師たちの動きが妙なのは康太も感じ取っていた。


いや、正確には康太と行動を共にすることが多い文が妙に先輩たちに動向に注意を払っているから気づかされたと言ったほうが正しい。


何かを仕掛けてくると言われても康太は何をするつもりなのかさっぱりわからないし何か変なことをしようとしているのかもわからない。だが文が警戒しているという事が康太の一種の判断基準になっていた。


とはいっても文もそこまで確証があるわけではないらしい。何故そんな感じがするのかと聞いてみたところ


『なんとなく嫌な感じがするのよね』


と彼女らしくない嫌に抽象的な理由だった。


小百合のように『勘』と言い放たないだけましだろうがそれでも康太からすれば気を付けておいて損はないな程度の認識でしかなかった。


そもそも自分たちに対して何かしらのアプローチをかける事自体が面倒事になる可能性があるのだ、相手だってむやみやたらと手を出したいと思わないだろう。


「ちなみにさ、文ならどんな手を使って俺らにちょっかい出す?」


「なんか妙な言い回しね・・・まぁそうね・・・私だったらばれないように嫌がらせするかな・・・それこそいじめとかじゃないけど悪質とまでは言えないような妨害はするかも。私たちがそもそも魔術師としての活動をあまりしてないからこれはあまり効果的じゃないけどね」


康太と文は基本的に日々日常的に修業をしているが魔術師的な活動はほとんどしていない。


もしすることがあった場合は小百合や真理がセットでついてくるためにその時に何かしらのアクションを仕掛けるとは考えにくい。


二人が魔術師としての活動をしているところはかなり少ないために文としてもあまり意味がないというのは理解しているようだった。


「あとは協会経由で面倒事を回したりするかな。それなりにコネが必要だけど私達に面倒事をぶつけるっていうのも立派な妨害よ?それだけ危険に首を突っ込ませることができるわけだし」


「なるほど・・・でも師匠がらみの面倒事の方がよっぽど面倒なんだけどそのあたりはどうしたらいい?」


「それはもう知らないわよ・・・ていうかこの前は私も巻き込まれたんだから・・・つくづくあの人は面倒だわ・・・」


小百合が面倒事の中心にいるというのは半ば仕方がないとして、それに巻き込まれる身にもなってほしいと文は大きくため息をついていた。


小百合と康太、どちらが面倒を引き寄せているのかはまだ判断できなかったが小百合の敵の多さがネックになっているのは間違いない。


「あとはそうねぇ・・・可能性は低いけどこの高校内の魔術師全員と結託して私達と戦うとかかしら?」


「そんなことあり得るか?確か上級生って二つの派閥に分かれてるんじゃなかったっけ?」


「確かそうだったはずよ。私も詳しくは知らないけど」


今のところ三鳥高校の魔術同盟の中で派閥は三つに分かれている。


康太と文の一年派閥と、上級生の二つの派閥だ。それぞれどの学年がどれくらいいるのか、またどの派閥に属しているのかはわからないが少なくとも互いににらみを利かせているという意味ではあまり仲が良いとは言えないのだろう。


だからこそ相手は文を自分の陣営に加えたいと考えていたのだ。もっとも康太の存在のせいでその計画は完全に潰えたが。


「相手からすれば私達・・・っていうか主に私を自分の派閥に引き込みたいでしょうから、あんたが標的になる可能性の方が大きいわね。あんた思い切り邪魔者扱いされるだろうし」


「あぁ、主に師匠のせいでな。全くいい迷惑だよ・・・」


康太もその兄弟子である真理も師匠が小百合という時点でかなりのハンデを背負っているに等しい。


敵を量産するが如き行動を続けている小百合についていくのは非常にしんどいだろう。もし文が同じ立場だったら少なくとももっと早い段階で音を上げていたかもしれない。


もっとも、最近はこの考えも少し変わりつつある。


「でも正直あの人の弟子二人・・・あんたと真理さんってやっぱり小百合さんの弟子なんだなって思う時あるわ」


「・・・それってひょっとして褒めてる?」


「褒めてない」


康太はもしかしたら褒められているのかもと思ったのかもしれないが、今の言葉は全く褒めていない。むしろ貶しているレベルだ。


小百合は傍若無人だ。基本的にやることなすことすべてが雑、なおかつ暴力的だ。そのせいもあって敵も多い。だからこそそれに振り回される弟子二人は何と不憫なのだろうかと思ったものだ。


だが実際には弟子二人は師匠である小百合の暴挙に順応し始めている。むしろ小百合とまではいわないもののそれなり以上に面倒くさいタイプの人間になっているような気がするのだ。


つい先日までは非常にまともな常識人だと思っていた真理も、ゴールデンウィークの一件で実はかなりの危険人物であるということが判明した。


小百合から破壊の技術を伝授され一人前になるまで育った一番弟子。思えばそんな存在がまともであるはずがないのだ。


そして今年から小百合の教えを乞うことになった不憫二号こと二番弟子。最近では康太の行動もなかなかに面倒なものが多い。


康太の場合はとれる手段の少なさから後先考えずに魔術を使っている節があるが、このまま進むと第二の小百合になりかねない。


「・・・ん?なんだ?なんかついてるか?」


「・・・何でもないわ・・・」


何とかしてこいつだけは普通の魔術師にしなければと文は意気込んでいた。なにせ康太とは今同盟を組んでいる最中なのだ。これ以上の危険人物になられては自分に面倒が降りかかりかねない。


師匠を変えることはできないが、康太の魔術的な知識や常識の少なさを利用してあらかじめ事前情報を教えることで小百合化を少しでも止められれば御の字である。


「康太、あんたがもし何か新しい事教わったら私にもそれ教えなさい」


「え?なんで?お前だったら大抵の事は知ってるだろ?」


「いいから!それがどういうものなのかも多角的に知っておく必要があるでしょ!逐一報告する!同盟なんだから『ほうれんそう』は基本よ」


「・・・わかった」


康太としてはまだ納得できていない部分もあるだろうがこれでいいと文は小さくうなずいていた。


物事というのは一つの視点から見るとどうしても印象が偏ってしまう傾向にある。一つの物事を一人の人から教われば、その教えた人間の印象に強く影響されてしまう。


人間の考えというのは良くも悪くも他者に影響されがちだ。そこで文は小百合から得られる知識を自ら見聞し、それが一体どのようなものであるかを康太にもう一度教えるという形をとったのだ。


一人の人間が教えるだけよりも二人の人間が教えた物事の方が比較的多角化されたものの考えができるようになる。


少なくとも小百合が教えるだけという危険な状態だけは避けられるだろう。

もっともそれでも師匠のいうことは絶対という最強の切り札を使われては文としてもそれ以上どうしようもないのだが。


「ならお前が教わったこととかも教えてくれよ。そうすれば互いにいろいろ分かるだろうし」


「え?・・・あ、あぁそうね、そうするわ・・・って言ってもあんた私が教わるような内容を理解できるの?」


「そこは理解できるように教えてくれると助かる」


「結局私が苦労することになるじゃない・・・」


文は康太の状況が知れればそれでよかったのだが、一応同盟だからという理由を名目にしているために断わるわけにもいかない。


もちろん康太普通化計画を考えれば文が得た情報なども教えておいて損はないだろう。それを理解できるように説明できるか否かが一番の問題なのは言うまでもないことだが。


土曜日なので二回分投稿


今回から六話スタート


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ