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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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火傷の痕と治療

協会専属の魔術師たちにその場を任せ、康太たちは小百合の運転する車で別荘に戻っていた。


そして戻ってきてから最初にやったのが康太の治療である。


なにせ軽度とはいえ全身にやけどを負っているのだ。衣服によってある程度は軽減されていたとはいえその原因は水蒸気、その全てを防ぐことはできなかった。その結果が今全身の火傷となって明確に残っている。


「とにかくすぐに治療を始めます。文さんは水をたくさん持ってきてください。康太君は今すぐ服を脱ぐ!」


「え?ここでですか?いやそのさすがに恥ずかしいんですが・・・」


「私の前で全裸になっておいて今さら恥ずかしいも何もないだろう。さっさと脱げ。せっかく立派なものを持ってるんだ、見せておいて損はないぞ」


「え?康太のってそんな立派なんですか・・・?」


「あの師匠そう言う事言うのやめてもらえませんか?」


小百合は確かに康太の全裸を見ている。康太の恥部も含めてすべて見ているためにそのあたりに関しては弱みを握られているに等しい。


妙に文が興味津々だったのはただ単に男性に興味があるからということにしておくとして康太としてはこの女性だらけの状況で裸になるという事自体が避けたい状況だった。


「別にパンツまで脱げとは言いません。ほらさっさと脱いでください、状態を見ておきたいんですから」


「分かりました!分かりましたから服引っ張らないでください!」


康太はとりあえず上下の服を脱いで下着のみの状態になる。そこに文が水を大量に運んでくるとその体をまじまじと観察していた。


男子の半裸など見たことがなかったのかその体を上から下に至るまでじっくりと食い入るように見つめている。


見られて興奮するような趣味は康太にはないが、こうやって見つめられるというのは正直くすぐったいような感覚だった。


「ふむ・・・背中の方にやけどが集中していますね・・・逃げようとして追いつかれたと言ったところでしょうか」


「はい・・・でもそこまで痛みはないんで・・・」


「痛みがないのはただ単に認識できていないからですよ。時間が経てばいやでも痛くなります。とりあえず軽く応急処置をしますのでそのあたりに寝転がってください」


傷というのはできてすぐにはなかなか認識できないものだ。実際に目で見て実感してようやく痛みがやってくることなど結構ある。こういうのは脳の勘違いというべきなのだろう。逆に言えばある程度の痛みがあっても多少はごまかしがきくという事でもある。


「結構鍛えてるのね・・・筋肉とかも結構あるし」


「そりゃ運動部だしな・・・必然的に鍛えられるんだよ・・・」


康太の体は文のいう通りかなり鍛えられている。細身でありながらしっかりと付いた筋肉はそれなり以上の運動性能があるという事を誇示しているようでもある。


実際これくらい筋肉がないといろいろと面倒であるのも確かだ。行動するうえで筋肉がないと困ることはいくらでもある。


「ていうか姉さん、何でいつもみたいに一気に治さなかったんですか?」


「私がやるのは基本的に自然治癒能力の向上と血液の流れなどを利用した治癒能力の向上です。これだけの広範囲の火傷を一気に治すと脱水症状を起こしてしまいますからね」


「・・・?火傷なのに脱水症状なんですか?」


「まぁいろいろあるんですよ、とにかく動かないでください」


康太は火傷を治療する際のメカニズムをほとんど知らないために疑問符を浮かべてしまっているが、真理のいう事はほぼ正しい。


大量の火傷を治す際、というより火傷そのものに対する効果というか被害として、火傷の部位の血管から多量に体液が流れ出てしまう。その為重度の火傷の際などは輸液などをして脱水症状にならないようにしてるのだ。


康太の場合火傷そのものは軽度のものだがその範囲が広く、一気に治療する場合適度に水を飲みその水分をコントロールすることで脱水症状を避ける目的があるのだ。


真理の精密な魔術によるコントロールがあって初めてなせる業だと言えるだろう。生物の知識は破壊によって得たものかもしれないが、それを利用して誰かを治すことができるというのは大きな強みでもある。


「それにしてもあんな相手に負傷とは・・・まだまだ鍛え方が足りんかな」


「あの師匠、そうは言いますけどね俺だって頑張りましたよ?きっちり十分足止めしましたし・・・まともな魔術師相手なら上出来でしょ」


「それでも私よりはまともだったでしょうに、何でそんなに苦戦してたのよ」


「あー・・・まぁそれは・・・」


今回の相手は素質だけで言えば比べるべくもなく文より下だっただろう。魔術的な攻撃も文よりは多少マイルドだった。あそこまでの攻撃性能と殺意がなかっただけましだと言えるだろう。


だがそれはあくまで康太が勝ちに行かなかったからこそ今回はまともな魔術師戦に近い形になってしまっただけの話だ。


文の時は徹底的に勝ちに行くためにとにかくまともな魔術師戦をしなかった。だが今回は時間を稼ぐという名目上勝ち急ぐわけにも短期決戦を仕掛けるというわけにもいかずあらゆる魔術を小出しにせざるを得なかったのだ。


その結果比較的まともな魔術師戦になってしまった康太はひどく苦戦する結果となったのである。


まともに戦えば長期戦は康太にとって不利であるという事がよくわかった。なにせ時間を稼げば稼ぐほどどんどんぼろが出てくるのだ。つくづく自分は魔術師として欠陥持ちであるということがわかる結果である。


結果だけを見れば今回の康太の足止め自体は成功したと言えるだろう。だが同時に康太に強い課題を残す結果となった。


なにせ康太の魔力の供給能力が低すぎるせいで戦いが長引けば長引くほどに不利になっていくのだ。


覚えている魔術の特性上、自分の中の引き出しを削りながら戦っていると言ってもいい。その為康太にとってこれからどのように長期戦を乗り越えていくのかという事が大きな課題となっていた。


どうにかして長期戦にも耐えられるだけの手段を考えなければならない。今の康太は自分が用意した装備が無くなれば肉弾戦に頼るほかないのだ。


事前準備が必要な時点で魔術師としては二流どころか三流もいいところだが、それでもできることをする以外に手がない時点である意味詰んでいると言ってもいいだろう。


「私がやってたら圧勝してたかもしれないのに・・・なんて言うかホントあんたってポンコツね」


「言ってくれるなよ・・・こっちだって今回しっかり理解しちゃったんだからさ・・・お前みたいなしっかりした魔術師になりたかったよ」


「ないものねだりは感心しないな。お前は私の弟子なんだぞ、こいつみたいな魔術師になってもらっては困る」


それは一体どういう事だろうかと聞き返したくなるが、康太としてはその答えはすでに理解できている。


小百合は康太にまともな魔術師になってもらうような気はさらさらないのだ。もちろんまともな魔術師になったところで康太が大成できないという事を理解したうえでの選択だ。それが間違っているとは口が裂けても言えないだろう。


「ですが師匠、ある程度長期戦にも対応できるだけの策を考えておかないと今後辛いですよ?ただでさえ面倒事に巻き込まれやすいんですし」


「それはそうだがこいつの素質そのものが貧相なんだ。どうしようもないというのが正直なところだろう。魔術を教えても結局のところ魔力がなければどうしようもない。方陣術を覚えればまた少し変わるのだろうがな・・・」


「なるほど・・・あらかじめ用意しておけば最低限の対処ができると・・・ですがそれも先が長そうですね・・・少なくともまだ方陣術は扱えそうにありませんし」


方陣術はあらかじめ魔力を蓄えておくということが可能だ。方陣術そのものに発動用のエネルギーである魔力をあらかじめ入れておいてもそれを発動するきっかけは術によって変わる。


何かしらの条件がそろう事で発動するような術式を組めばあらかじめ魔力を装填しておいて使用すれば長期戦にも対応できるようになるだろう。


もっとも問題は康太の技術が足りな過ぎて方陣術の発動すらできないような状況であるという点だろう。


「はい、終わりましたよ。ひとまず応急処置は済ませました。あとはまた明日にしましょう」


「え?もう終わったんですか?」


康太は自分の背中を見ることができないためにその状態を確認することはできないが最初に比べるとだいぶましになっているのがわかる。


と言っても完治と言えるほどではない。飽くまでこれが応急処置のそれであるというのはその場の全員が理解していた。


「一気に治すとそれだけ負担も大きいですからね。今日明日かけて治していきましょう。向こうに戻るころには完治させてみせます」


なので明日は別荘でゆっくりしてくださいと真理はいうが、せっかくのゴールデンウィークを別荘でただダラダラするというのも何かもったいないような気がしてしまう。


もちろん火傷を負った状態で動き回るのは康太としてもつらいところだが、何かしらしたいと思うのは当然だろう。


「出歩くのとかもダメってことですか?せっかくこの辺り来たんだし・・・」


「出歩く程度なら構いませんが、少なくともまだ痛みがあるという事は理解してくださいね。何よりゆっくり治療しないとそれだけ痕が残ってしまいますよ?」


別に痕が残っても康太は気にしないのだが真理はそう言うことを気にするようだ。


せっかく痕もなく完璧に治ると言っているのにわざわざ痕を残すこともない。ゆっくりじっくり治せば完治すると言っているのだ。康太としてもそれに逆らうのは憚られた。


「今日はあんたも大変だったんだしいいんじゃない?明日はゆっくり休みなさいよ。ただでさえボロボロになってたんだし」


休んでも罰は当たらないわよという文の言葉に康太はそれもそうかもしれないなと思いながら服を着始める。


真理のいうように肌がピリピリ来るような痛みがある。まだ完全には治っていないからこその痛みだろう。


何より一見すれば火傷以外は無傷のように思えるかもしれないが実際は康太はその体の中にかなりのダメージを抱えていたのだ。


そのダメージを回復させるにはある程度体を休めなければならない。そう言う意味では明日は良くも悪くも安息日になるだろう。


「確かにちょっと疲れてるしなぁ・・・さすがに休まないと休み明けきついかな・・・」


「その通りです。しっかり休んでください。まぁ遊びたいというのも理解できますけどね」


真理としても学生が遊びたいと思うのは当然だと理解しているのだろう。少し心苦しそうにしながら苦笑している。


とりあえず風呂に入って今日はもう寝ようと康太は欠伸をした後で小さくため息をつく。


今日は長い一日だった。本当にしみじみそう思う。


なにせずっと動きっぱなしだったのだ。疲れが出るのも無理もないというものだ。


康太はその後入浴し、半ば倒れ込むようにベッドに沈むことになる。


その背中にわずかな痛みを残しながらその日は深い眠りについた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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