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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」
1511/1515

理不尽の象徴たる所以

神加と文がそんなことを話していた頃、いや、それよりも少し前にさかのぼる。


とある場所に至る道を歩くものがいた。


その姿を見た瞬間、多くの者が目を見開き、道を開けた。


そのものが放つ気配を感じ取った瞬間、多くの者が寒気を催した。


そして、多くの者が、そのものに近づいてはいけないと、そう確信していた。


「今回は失敗だったな」


「あぁ。だが十分な成果は上げられたのではないか?少なくとも、あれの右腕を撃退するまでの力があることは確認できた」


「確かに。未熟な段階でそれだけの力を持っているんだ。十分すぎる。あと十年もすれば・・・きっと」


そこにいたのは本部の幹部たちだった。


その中には本部長と副本部長の姿もある。幹部の人間に混ざって、何人かの魔術師が話をしているのを聞きながら、本部長は沈黙を守り、副本部長は腕を組んだ状態で苛立ちを隠そうともしなかった。


「どうでしょう本部長、今回の件で、ブライトビーへの対策は大方固まりました。大規模なプロジェクトとして立ち上げるのは?」


「おぉ、確かに。今回はほぼ単騎に近い状態でした。ですが本部の人間と本当の意味で協力させれば、あの部隊といえど制圧できるのではないでしょうか?悪くはない案だと思います」


そんな言葉を、喜々として話すその魔術師を見て、そして幹部を見て、副本部長は目を伏せる。

話を振られた本部長は小さく首を振っていた。


「やめておいたほうがいいだろう・・・少なくとも、私はやめておいたほうがいいと、そう思う」


「なぜです?今回のことで、相手の戦力も大方把握できた。確かに彼女は敗れましたが、喉元まで迫ることができたのです。これは大きな功績ですよ」


「さすがはあれの弟弟子というべきか。次は本人かどうかも確認できないような状況にすれば、それこそ良いかもしれないな。本気で殺しあえばどうなるか。次を考えなければならないな」


そんな中、その人物だけがその音を聞いていた。


そして、もうここで話は終わりだなと確信し、口を開いた。


「次などない」


それは副本部長の声だった。


そしてその場にいた、本部長を除いたほとんどのものがその言葉の意味を理解できない中、不意に部屋の中に扉がノックされる音が響く。


「今は会議中だ。後にし」


後にしてくれ。そんな言葉を最後まで告げるよりも早く、轟音とともに扉が砕け散った。


「邪魔するぞ」


そこには、赤黒い鎧を着て、片手には刀を持ち、わずかに雷光を放つ魔術師がいた。


彼がもつ刀には『斬』の一文字が刻まれており、鍔の部分には甲殻のような装飾がなされている。


放たれる雷光は、彼の怒りを表しているかのように明滅していた。


そのような魔術師がほかにいるものか、他にいるはずがないと、その場の全員が理解していた。


魔術師ブライトビー。


その姿と、放たれる殺気を前に、話をしていた魔術師たちは完全に動きを止めてしまっていた。


「随分と、舐めたまねをしてくれたな・・・あろうことか・・・俺の身内を巻き込むとはな・・・」


そう言いながら、鎧を着た魔術師はゆっくりと刀を持ち上げると、その場にいた全員をなぞるように、その切っ先を向けていく。


そして、魔術師の中の一人に切っ先を向けた時、その切っ先が止まる。


それは、本部の幹部の一人だった。


「・・・お前か」


「え・・・?」


瞬間、一本の線が本部の部屋の一角に刻まれる。


そして何が起きたのかもわからないうちに、本部の床に、何かが落ちた。


それが、幹部の一人の左手だと気付くことができたものは、いったい何人いただろうか。


何の確証もなく、いきなり幹部の一人の手を斬り落とす。はっきり言って理不尽以外のなにものでもない。


だが、康太にはそういった勘が備わってしまっていた。


粛清部隊の隊長として、多くの魔術師を処断してきた康太は、後ろめたい何かを抱えている者が、すぐにわかってしまうのだ。


もっともそれが強かった幹部の人間が、今回のことを引き起こした首謀者が、証拠を出さないように気を配っていたその人物が、何の証拠も確証もなしに、斬り伏せられた。


吹き出る血と悲鳴が部屋の中に満ちる中、康太は我関せずといったように本部長と副本部長の前に立つ。


「今回は、あいつにとってもいい経験になったからこの程度で済ます。だが、次はない。次同じことが起きた時は、次に俺の身内に手を出した時は、その時が本部が終わる時だと思え」


「・・・肝に銘じておこう」


いうだけのことを言って、康太は踵を返す。悲鳴を聞きつけた本部の魔術師たちが部屋の前にいるが、康太が出ていこうとするのを見て即座に道を開けていた。


ここでもし逆らおうとすれば、殺される。それほどに、今の康太は殺気を振りまき続けていた。


「だから言ったのだ・・・次などないと」


副本部長は手を斬り落とされた幹部を見ながらため息をつく。これは大きな貸しになってしまったなと、そう思いながら。


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