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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」
1508/1515

今回の背景

「さて・・・どこから話したもんかな・・・」


「順序立てて話してもいいですし、結論から話してくださっても結構です。あの時、倉敷さんは本部の思い通りにさせるわけにはいかないって言ってましたよね・・・?どういうことなんですか?倉敷さんたちは・・・兄貴たちは、本部の依頼を受けたって・・・」


神加が支部長の依頼を受けていたように、康太たちは本部からの依頼を受けていた。


期間的な違いはあれど、ほぼ同時期に依頼を受けていた形となるため、明らかに作為的なものがあったのは間違いない。


問題は彼らが受けた依頼と、神加たちが受けた依頼の背景が異なることが最も重要なのだ。少なくとも、その背景を知らなければ今回の大筋を知ることはできない。


「そうだな・・・まずは結論から話そう。本部は、康太を殺す算段をつけようとしてるんだよ」


「・・・兄貴を・・・?」


それを聞いた瞬間、神加の奥底から強く、熱い殺意が湧き上がるのを感じていた。兄を殺す。康太を殺す。そんなことが許されるはずがない。何よりも、自分が許さない。


そして神加が放つ殺気を感じ取ったのか、倉敷は半開きになった神加の口に切り分けられたリンゴを突っ込んだ。


「落ち着け。そう殺気を振りまかれると話ができない」


「・・・ごめんなさい・・・」


「続けるぞ。依頼を受けるよりもだいぶ前・・・大体半年くらい前か、うちの情報部がある噂を掴んだ。本部の幹部の人間が、康太を敵に回そうとしているとな」


康太を敵に回す。それがどういう意味を持っているか、本部の人間はよくわかっているはずだ。


康太は強い。おそらく協会全体を見渡した状態でもその戦闘能力は五本指には入るだろうことは確実だ。


「兄貴を敵に回そうとするとか・・・正気とは思えませんね・・・」


「そうは言うがな、俺らからすれば納得のいくだけの理由がある。より正確に言えば、協会として康太を敵に回さざるを得ない状況になりつつあるってことだ」


「・・・どういうことです?」


倉敷の少しわかりにくい言い回しに、神加は正しくその意味を理解することができなかった。


それを察したのか、倉敷は頬を書きながら説明を続ける。


「前、康太が人間じゃなくなった時にな、康太が封印指定にされかけたって話は知ってるか?」


「・・・知ってます。その時は封印指定にならなかったって・・・」


「そう。その時はまぁ、別の組織との抗争が激しくなってたから、それを理由と材料にして封印指定になるのを条件付きで回避した。けど、最近になってまた封印指定にしたほうがいいんじゃないかって声が上がり始めてる」


「どうして?」


「理由は単純。あいつの寿命の話だ」


康太の寿命。それがどういう意味を持っているのか、神加にはわかる。そして先ほど言っていた倉敷のわかりにくい言い回しの意味が、ようやく理解できていた。


「兄貴が人じゃないから・・・寿命がなかったら、アリスと同じ立ち位置になる。だから、殺すための手段を探している・・・?」


「・・・理解が早いな。そこから、今回の依頼に繋がってくるわけだ。俺らは最初、俺らを依頼で引っ張り出してきた後、妊娠中の文を狙うんじゃないかと思っていた。一応今回の依頼の最中にも、文には内緒で護衛も付けてた」


神加は一度、康太たちが依頼の最中にこの病院に来て文に会っていた。だがその時には護衛がいるなどとは気づきもしなかった。


おそらく、康太の部隊の中でも精鋭を送り出したのだろう。


「いくら康太が無茶苦茶でも、妊娠中の嫁さんを人質に取られたらやばいなと思ってな、特に腕のいい奴を選抜して送り出した。だけど全くと言っていいほど変化がない。もう依頼も終わるなってタイミングで、お前らが来た」


「あたしたちが・・・待って・・・じゃあ、あの時、あたしたちが選ばれた理由って」


「・・・お前たち、いや、康太の弟弟子であるお前なら、康太を殺すことができるんじゃないかって考えたんだろうな。本部と支部が嫌な形でブッキングさせた理由、これは俺の想像も入ってるけどな。支部長の反応からして、間違いないだろ」


どうやら倉敷は自分でも支部長に軽く問い合わせをしたようだ。そしてその時の反応から、倉敷があの時気付いた考察が間違っていなかったということを確信したのだろう。


そして同時に、非常に不快感を抱いたのも、そしてその依頼を受けさせたくなかった支部長の気持ちも察してしまい、支部長を責めるつもりにはなれなかった。


つまり、今回の依頼は最初から康太と神加をぶつけることが目的だったのだ。未熟とはいえ康太の弟弟子である神加が、現状康太に対してどこまで拮抗できるか。それを本部は測りたかったのだろう。


勝てればそれでよし。負けてしまえばまた別の手段を考える。わざわざ回りくどい真似をして依頼をブッキングさせたのにはそういう理由があったのである。


「結果的に言えば、お前は康太に負けた。本部の考えに乗る形になったのは気に食わないが・・・今後似たようなことがあるかもしれないな」


「・・・どうしてあたしが・・・?姉さんや師匠だって・・・そういう依頼を受ける可能性があるんじゃ・・・」



「・・・ないな。あの二人はまず受けない。お前の師匠はそもそも受けないだろうし、真理さんは撤退するか否かの状況判断ができる。あの二人に依頼しても、前提からして成り立たない可能性がある。けど、お前は違う。経験が浅いが、戦闘能力は高い。判断能力に欠けている未熟な魔術師。本部からすれば、いいように操るには絶好のカモだ」


倉敷の歯に衣着せぬ物言いに、神加は衝撃を受けていた。だがこれこそが倉敷なりの優しさであるということも理解していた。


ここでそれを理解させなければ、きっと同じ思いをする。だからこそ今教える必要がある。それを理解できたからこそ、神加はその言葉をまっすぐに受け止めようとしていた。


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