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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」
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二番目と三番目

「あたしだって、あたしだって魔術師だ!一人の魔術師だ!いつまでも子ども扱いしないでよ!」


「・・・って言われてもなぁ・・・」


康太の反応は何も間違ったものではないだろう。


神加はまだ子供だ。高校生まで育ったことで背丈が高くなり、魔術師としてできることも増えている。


おそらく同世代の魔術師と比べるのなら十分以上に一人前といえるだけの実力を有しているであろうことも理解できる。


だが神加はまだまだ子供なのだ。少なくとも康太から見れば、神加はまだ子供だ。


いや、もっと小さなころ、小学校にも上がっていない頃の神加を知っている康太からすれば、いつまで経っても神加は子供なのだろう。


そんな神加を子ども扱いするなと言われても康太からすれば難しかった。


「子ども扱いしないでって言うのはいつだって子供のセリフだ。言わなくたってわかるだろうに」


「うっさい!見た目全然変わってないくせに!変に大人ぶらないでよ!」


「お前地味に気にしてることを!」


康太は人間ではなくなった時から外見は全く変わっていない。つまり高校生の時から全く変化していないのだ。


若作りといえば聞こえはいいが、そのうち誤魔化しきれなくなるのは間違いないだろう。


だがそんなことはいま二人にとってはどうでもよかった。特に、神加にとっては。


「兄貴がそうやって子ども扱いしたって、あたしはもう大人なんだ!もう、一人の女なんだ!いつまでも兄貴に守ってもらってるばっかじゃない!」


守ってもらっているという自覚は、ずっと前からあった。康太はずっと神加を見守ってきた。それこそ、彼にとっての一番である文と同じか、それ以上に手厚く守ってきた。


それを感じ取れない神加ではない。それを理解できない神加ではない。


だからこそ、それがわかってしまうからこそ、子供の扱いが嫌だった。


「で・・・守ってもらわなくてもいいっていうなら、どうする?」


神加は荒くなってしまった息を整えて、大きくゆっくりと深呼吸する。康太の雰囲気が変わっている。

いつでも戦えるのだぞということを教えてくれているのだと神加は理解していた。


こういう時でも、康太はまだ神加を子ども扱いしている。まだ神加を未熟であると判断している。


それは間違いではない。神加は才能と素質はあっても経験がまだまだ足りない。康太のような実力を有した魔術師に対抗するには、まだまだ足りないものが多すぎる。


「さっき、トゥトゥさんからばっちりアドバイスもらってるから、大丈夫」


「トゥトゥから?あいつ余計なことを・・・」


「今日はあたし、兄貴に勝つから!みんな!力を貸して!」


そう言って神加は魔力を高めていく、周囲の精霊たちが神加の体内に入っていき、魔力をさらに高め人間の限界を容易に超えていく。


「・・・ったく・・・あの野郎、神加に余計なこと吹き込みやがって・・・あとで殴ってやる」


「殴るのはあたしだ!バカ兄貴!」


神加が全力で突進し、刀を振り下ろそうとするとその体の動きが何故か止まる。自分が何かに引っかかっているということを理解して即座に体を見ると、その体に鎖が巻き付いて神加の動きを止めていた。


「反抗期になったのは嬉しいが、少し複雑だな。けどな」


康太が腕を振り上げると、神加に巻き付いていた鎖が勢いよく後方へと引っ張られ、神加を大きく投げ飛ばし、地面に叩きつけていく。


「兄貴に向かってバカとはなんだバカとは。これでもちゃんと大学は出たんだぞ」


「そういうこと・・・言ってるんじゃないの・・・!」


地面に叩きつけられ、地面を何度かバウンドした後で態勢を整え、神加は康太とその周りにあるものを視認していた。


それは鎖だ。正確には鎖鎌だ。


石突にも鉄の塊がついており、部分的に分解できるように鎖のところどころに接合部がある。


「・・・手加減?他の魔術師ならともかく、あたし相手に?」


「必要なら他の装備を出す。今のお前には、これで十分だ」


康太の装備の一つ、鎖鎌。それは所謂康太の手加減用の装備だった。


相手にダメージを与えることよりも、捕縛や阻害といったことを目的とした装備で、はっきり言って戦闘用の装備とは言えない。


今の神加にはこれで十分と言い張るだけの戦力があるとは思えなかった。


康太はウィルを手放し、一番得意な槍も、双剣も持っていないように見える。そんな状態で全力を出した自分に勝てるとは、神加にはどうしても思えなかった。


「あたしを甘く見るのもいい加減にして・・・!あたしは・・・!あたしは強くなったんだ・・・!」


「そうだな。お前は昔よりずっと強くなったよ。それは認める」


康太が手を振るたびに宙に鎖が舞う。そしてその動きはやがて康太の手から離れていった。


まるで自分で意思を持っているかのように鎖が自分で動き出す。どのような仕掛けをしているのか神加には理解できる。それを見ると同時に神加は警戒を強めていた。


「でもな、お前はまだまだ弱い。それがわからないなら、今から、それをしっかりと教えてやるよ」


康太の言葉が終わると同時に、康太の手から離れた鎖が一斉に襲い掛かる。


神加は自らの能力を最大限に高めながら康太の攻撃に備えていた。


康太の得意とする攻撃は基本的に物理系に偏っている。


炎や風、電撃といった現象系の攻撃ももちろん行うが、最も得意としているのは体術を基本とした武器等を用いた近接戦闘である。


当然だが、その攻撃力は高い。少なくとも神加は一度も康太に近接戦で勝てたことはない。


魔術を使った勝負などでは、何度か勝たせてもらったことはある。だがそれは文字通り、勝ったのではなく勝たせてもらったのだ。


康太は明らかに手を抜くときがある。さすがに神加もそれは理解できている。より正確に表現するならば、手を抜くのではなく康太が自分自身に何かしらの縛りを設定しているというべきだろう。


そういう状況であれば、神加も何度か勝たせてもらったことがある。だが康太が本気の時、康太が本気になった時、神加は一度も勝てたことはない。


近接戦では圧倒的に不利。神加はそれを判断し、刀を片手に持ちながらも自らの周りに射撃系魔術の弾丸を大量に展開していく。


だがその中に炎はない。この場所は一応地下だ。一応通気口のようなものが通っているものの、それも万全とはいいがたい。


電気などによって送風されているのではなく、単純な空気の動きによって換気されているような状態だ。

この場所で炎など使おうものなら、窒息死しても不思議はない。


もちろん風の魔術を用いて強引に換気してもいいのだが、康太ほどの相手を前に、余計な魔術に魔力を使っている余裕はない。


康太を攻略する際に重要なのは、まず近づけさせないことだ。これが最も大事で、最も難しいことでもある。


神加と同じように小百合から指導を受け、回避の技術を高めた康太に、射撃魔術は基本的に当たらない。


当たるとすれば広範囲の攻撃だが、それでは威力が低すぎて康太には簡単に突破されてしまう。


同じように、高密度の射撃系攻撃を放っても威力が低ければ当然弾かれたり無力化されてしまう。


となれば取れる手段は二つ。高威力かつ高密度の射撃系攻撃をぶつけるほかないのである。


だからこそ、神加は自らができる最大の密度の射撃を放つつもりだった。


「とりあえずは定石か。俺相手に戦うやつは大抵そうする」


「・・・逆に言えば、みんなができるようなことってことでしょ?兄貴の対策ってのはワンパターンかもしれないけど、それでも、対策がないわけじゃない」


康太はその攻撃性能と機動力が非常に高いために取れる手段がかなり限られる。だがその方法は多くの者ができるものだ。


多くの者が挑戦した。


何度も何度も、康太に勝とうとして、康太に挑んだのだ。


「そうだな。ワンパターンかもしれないけど、比較的簡単な対策だ。でもな、忘れてるんじゃないのか?それだけワンパターンな対策で、誰も俺に勝ててないんだぞ?」


そう。多くの者が挑んだのだ。そして、多くの者が失敗してきたのだ。


神加が知る限り、未だ康太が破れたところは見たことがない。まだ康太が未熟だったころ、何度か負けそうになったり、実際負けていたようなことはあったらしいが、神加にとってはそんなことはありえないというような感じだった。


神加にとっての康太は、いつだって強かった。誰にも負けない、師匠たち以外には誰にも負けないという確信すらあった。


そんな康太に、今自分が挑んでいる。


複雑な心境だったが、ここで康太に勝てたのであれば、その時は。


そういう思いが神加にはあった。決して褒められるような内容ではないが、それでも決めたことがあった。


「兄貴、降参するなら今の内だよ」


「その言葉そっくりそのまま返すぞ。このまま帰れば、うちの連中にはこれ以上の追撃はさせない。怪我する前に帰ったほうがいいぞ?」


「・・・怪我するのは、兄貴の方だ!」


放たれる大量の射撃系魔術を前に、康太は動かなかった。そしてゆっくりと息を吸い、その手を前に突き出すと腰を落とす。


すると神加が放った魔術はすべて、康太から避けるかのように軌道を変え壁や地面に激突していく。


高い威力を持っていた射撃系魔術たちは、壁や床などを傷つけていく。コンクリートの壁や床が砕かれていく中、康太は全く動かずにすべての射撃系魔術を防いで見せていた。


「どうした、こんな攻撃なら動くまでもないぞ。そんなものか?」


そう言いながら康太は一本だけナイフを取り出す。宙に浮く鎖と、その手に持ったナイフだけで相手をするという意思表示のようだった。


神加はそれを見て歯噛みしながら刀を構える。


「シノ。まだお兄ちゃんの方がずっと強いってところを見せてやる」


「・・・お兄ちゃんなんて誰が呼ぶか・・・バカ兄貴・・・!」


「そうか、そりゃ残念・・・」


康太が残念そうに笑う中、神加は腰を落とす。単純な射撃攻撃が通じないのなら、攻撃の手段を変えるほかない。神加は大きく息を吸って、覚悟を決める。


「デブリス・クラリスが三番弟子、シノ・ティアモ!」


「デブリス・クラリスが二番弟子、ブライトビー」


「行くぞ!」


「かかってこい!」


刀を振りかぶる神加を待ち構える康太。二人の兄弟弟子の戦いが始まろうとしていた。


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