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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
番外編「祝福された少女が望むもの」
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第三の弟子

「どうしよう・・・どうすれば・・・!」


精霊たちの魔力を使っての大火力を使っても、おそらくこの量の水を一気に蒸発させるのは難しい。


では風で吹き飛ばすのはどうだと考えたが、すでに神加の周りにある空気は少ない。風の力を万全に使えるとも限らないし、何よりこの妙に弾力のある水を風で吹き飛ばせるとも思えなかった。


狭まっていく水の牢の中で、神加がうろたえていると、神加の腰に下げている刀に手が当たる。


それは自分のものと、小百合がもたせたもう一本だった。


二本の刀を見て、神加は一瞬瞬きをしてからゆっくりと目を閉じて大きく深呼吸する。


身近な人が敵となって動揺していた。それを自覚して神加は大きく深く息を吸い、自分自身を落ち着かせていく。


できないことはない。自分はそれだけのことを教わってきた。


やれないことはない。自分はそれだけの訓練を行ってきた。


神加はゆっくりと刀を一本手にとって正眼に構える。目の前には水の壁。周りには水の牢獄。目指すべきは一点のみ。やることは一つのみ。


「あたしは・・・デブリス・クラリスの三番弟子・・・!あたしに、あたしたちに壊せないものなど、ありはしない!」


神加が刀を振るうと同時に、目の前に立ちふさがっていた水の壁が斬り裂かれる。


だがそれだけだ。水の壁が斬り裂かれ、弾力のある水が両断されただけで、その先にはまだ水が続いている。


だが道はわずかに開けた。


その隙間を神加は見逃さない。


神加は水の切れ目に鉄球を射出すると、熱蓄積と熱量転化の合わせ技によって衝撃波を生み出し、水を弾けさせていく。


大量の水の前には、あくまでわずかに水を退け、揺らがせる程度の意味合いしかなかったが、神加にとってはそれで十分だった。


「このまま!押し通る!」


一撃では水を押しのけられないのであれば、何度となく切り裂き、何度となく弾けさせ、ただ突き進むのみ。


その進行方向は一点のみ。トゥトゥのいるその場所だ。


大量の水が襲い掛かろうとも、神加は止まることをしなかった。とにかく前へ、とにかく前へ。


襲い掛かる水すべてを斬り裂き、吹き飛ばし、突き進む。


「・・・あぁ・・・お前ならそうくると思ったよ・・・変なところばっかりあいつに似やがって・・・」


トゥトゥは呆れたように、そして少しだけ嬉しそうに手を伸ばす。


瞬間、神加が押しのけ、通り過ぎて行った大量の水が一気にうねりだす。


神加の周囲を包んだまま高速回転していき、その回転はさらに加速していく。


爆散しようと、斬り裂かれようと、即座に修復する水の流れに、神加の進撃が一時的にではあるが止まる。


すでに誰かがやったことなのだろう。すでにどこかの誰かがやったことだからこそ、トゥトゥは即座に対策できたのだろう。


そのどこかの誰かが、いったい誰の事なのか、神加は見当がついた。


「さぁどうする。お前なら、どうする?」


「・・・あたしは・・・あたしなら・・・!」


神加は自らの体の中にいる精霊たちを総動員し、魔力を高めると、斬撃にある属性を乗せて回転し続ける水を斬った。


瞬間、斬り裂かれた水は割けると同時に凍り付く。


水属性に対しての対策のうちの一つ。それは水そのものを凍らせること。


多くの水属性の術は、水という液体の状態でしか操ることはできない。氷になってしまうと、その制御権から離れてしまうものが多いのだ。


神加は自らの斬撃に氷の術式を乗せることで、周囲にある水すべてを凍り着かせるつもりだった。


「それはあいつもやってこなかったな・・・くっそ、こうなってくるともう加減のしようがないじゃんか・・・」


トゥトゥは悔しそうに、嬉しそうに手をかざし、その手を合わせる。


周囲にあった水が急速に神加のもとに襲い掛かる。一気に神加を窒息させようとしているのだろうということが神加にも理解できた。


圧倒的有利な状況を作ったのであれば、一気に畳みかける。神加も同じ状況ならば同じ手を使うだろう。

だからこそ神加は、これを待っていた。


高速で回転する水の中、さらに自らを中心にして急速に狭まっていく水のうねり。神加はそれを直に感じ取り、そして剣の切っ先をゆっくりと前へとむける。


その刀には、神加の体に宿っている精霊の中で、水の力を宿している者の魔力が多く込められていた。


「トゥトゥさん、あなたの力をお借りします・・・!」


周囲に存在している大量の水、トゥトゥの制御下にあるこの水の力を、神加は利用していた。


流れに逆らうのではなく、むしろ流れを強めるために、神加は自らの起こせる最大の出力で水を操り、水の流れをコントロールしつつあった。


一人では突破できない。だが今はトゥトゥも同じように水を操っている。だからこそ、二人でこの水の牢を破る。それが仮にそれを作り出している本人の力であろうと。


僅かに乱れた水の動きを見逃さず、神加は刀を使って水の牢を斬り裂く。そして自らの最大威力ともいえる突破力を持つ噴出と、身に着けた羽衣の力を使って水の牢を強引に突破していた。


「・・・あぁ・・・教えた通りにできるじゃないか」


眼前に迫る神加を前に、トゥトゥは笑う。文句なしに、嬉しそうに。


水を突破した勢いのままの神加の蹴りがトゥトゥの顔面に吸い込まれ、トゥトゥは大きく弾き飛ばされた。


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